BODY TRADE 第1話
作:嵐山GO


皆さん、こんにちは。
僕は広田浩一、大学生です。
実は先日、春休みを利用して友達連中と春スキーに
行ってきました。
今年は暖冬だと言われていましたが、雪はあるところには
あるもんで、たっぷりと堪能しました。
ただ最終日、調子に乗った僕はやったことのない
スノーボードに挑戦しコースを外れて谷底に転落。
足を骨折、全治一ヶ月。現在はだいぶ回復し、自宅で
療養中の身です。

「ゴールデンウィークまでには完治して、また皆と
遊びに行ければいいんだけど」
足の骨を折ったというのに全く懲りていない僕です。

今ではもう松葉杖を使う事もなく、何とか一人で歩けるようには
なりましたが、外出するにはまだ不安が付きまといます。
「寝てばかりいても飽きちゃうよなー。さてとテレビで
何か面白いものでもやってないかな?」

家族で、といっても父親は現在は出張中なので家には
母と妹そして僕の3人だけど・・・
さっきまで皆でリビングで夕飯を食べて、雑談をして
そしてまた自分の部屋に戻ってきました。

「今日は木曜日だから・・・」
足を気遣うようにしてベッドから起き上がると部屋が
ノックされた。
コンコンッ

「浩ちゃん、母さんよ。入っていい?」
「うん、いいよ」
いつからだろう?母が僕の部屋をノックするようになったのは。

「何してたの?」
「ううん、何も。今、テレビでも見ようかと思っていた
ところだよ。母さんこそ、どうしたの?」
「さっきリビングで渡し忘れちゃって。これ、浩ちゃん宛てに
荷物が届いていたのよ」
「荷物?何だろう・・・?」

僕は母が差し出した箱を受け取った。
「ああ、これ」
「なーに?何かまた通販で買ったの?」
「違うよ。これ最新のゲーム機なんだ。まだ発売は先なんだけど、モニターを募集していたから応募したんだよ」
「当たったの?じゃあタダって訳?」
「うーん、どうだろう・・・モニターだから遊んだ後は
返すんじゃないかなー」

「そう。じゃ、渡したから母さんは行くわね。あんまり夜更かししてゲームばかりやっちゃ駄目よ」
「僕は、もう子供じゃないんだから心配しなくても
大丈夫だよ」
「何言ってるの。ついこの間、二十歳になったばかりじゃないの。母さんから見ればまだまだ子供よ。じゃね、おやすみー」
バタン

母親はそういい残して部屋を出て行った。
(そうなんだよ。僕はもう成人になったんだ。でなきゃ、
このゲーム機のモニターにはなれないのさ)
僕は机の引き出しから鋏を取り出し、丁寧に紐を切って
包装を剥がしていった。

真っ白な箱が現われた。
まだ商品化はだいぶ先なので、何も印刷されていない。
味気ない真っ白な箱・・・

ドキドキしながらガムテープを剥がして箱を開けた。
エアークッションに包まれた折りたたみ式の本体と
ACアダプター、それに取り扱い説明書(マニュアル)、あと当選通知の用紙が出てきた。

「人転堂TS・・・そうさ、これが欲しかったんだ。遊び方は雑誌で読んだけど説明書には目を通さなくっちゃ」
簡素な説明書の表紙を開き、順を追って目を通す・・・

★このゲーム機は半径500m以内の任意の人物と身体の部位ごとに交換することが出来ます・・・。
「ワープロで打って、それをコピーしホッチキスで留めただけのマニュアルだ。文章もプロが書いたものじゃないんだろう、要点を記しているにすぎない・・・それにしてもたったの500m?試作品だから、仕方ないか・・・当初は5キロだったと思ったけど・・・」

★ユーザー名、及び住所を登録した後、任意の相手の名前を入力すれば検索が始まります。
ただし注意する点は、ユーザーの二親等以内の親族には効果がありません。
任意の相手は睡眠状態にあることが最大の条件です。
さらに任意の相手の近辺に睡眠状態ではない人間がいても、その効果を発揮出来ません。
「つまり目的の相手が部屋で一人で寝ていればいい、そういう事だな?」

★部位の交換は頭部以外全て可能です。ただし衣類、アクセサリーなど部位を覆うもの、それに属するものは転送されません。
「そりゃそうか。頭を含め身体全部入れ替えたら、ただ単に自分のいる場所が変わるだけだ。それじゃTSの意味が無い。えーとあとは・・・着ている服までは交換できないってことか。ま、これも当然と言えば当然だな」

★電源は家庭用コンセントのみです。必ず付属のアダプターを使用してください。バッテリーには対応しておりません。
「電源を入れたら電話線も繋ぐんだから、外へ持ち出すのは無理だろう。それにこんなもの持ち出して、外で身体交換して見つかった日には完璧に変質者だ・・・想像すると怖いよ」

★身長差は上限、下限共に20cm以内が目安です。
 それを超えると交換出来ない場合があります。
「僕の身長が170cmだから、上は・・・いや、自分より大きい人と交換することは無いな。とすると下は150cmくらいという事になるけど、年齢でいうと小学校高学年か中学生以上って事になるかな?」

他にも細々とした注意書きや説明,補足なども記されている。
一番強く書かれていたのは犯罪などに使用するなという事だ。
あくまでも趣味、ゲームの範疇で、という事。
ユーザー登録をしてあるから、僕の個人データはすべてこのゲーム機の会社に保存されている。
起動した時点で、誰が使い始めたか確認出来るわけだ。
何か事件を起こしても言い逃れは出来ない。そういう仕組みだ。

「さてと、こんなところかな・・・とはいえ、500m以内か。例え出来ても母さんや妹と身体を交換する気は、さらさらないし・・・でも僕の友達は今は大学の友人が多いから、近所には誰もいない・・・」

「子供の頃、一緒に遊んだ友達も会ってないから近くにいるかどうか分からない。それにどうせ交換するなら女の子だろ?あいにく近場の幼なじみに可愛い子がいたという記憶は無いぞ」

「おい、おい。どうすんだよ。これじゃせっかくの当選が無駄じゃないか」
僕はベッドの上で頭を抱えてしまった。
「駄目だ!近所というと回覧板を持ってくるオバさんくらいしか顔が浮かばない。その中には一人くらい娘がいてもおかしくないけど、名前も顔も分かんないしなー・・・」

「うーーーん・・・あっ!そうだ!千紗の友達が近所にいたな?あの子でいいや・・えーと、なんて名前だっけ・・・?」
千紗は僕の妹だ。まだ中学生になったばかりだが、この際そんな事は言ってられない。
なんとしても、このゲーム機を起動させなければ。
それは今の僕の義務であり、与えられた使命なのだから。

「苗字は佐藤だ・・よくある苗字だから覚えてるけど・・・下の名前が・・・駄目だー、思い出せない」
両手で髪を掻きむしる。
「えーと・・あいつ、いつも何て呼んでたっけ?み・・・み、みっちゃん?いや、待て・・・みなちゃんか!そうだ。思い出したぞ!みなちゃんだ」

僕はコンセントにアダプターを差し込み、パソコンに繋いである電話線を一旦抜いた。
こっちのゲーム機に差せばゲーム用の回線に繋がるのだ・・・
続いて、電源を入れる。
「よし、画面が出た。まずはユーザー登録か・・・」

「自分の名前→住所→生年月日→電話番号→・・」
『登録完了』
「これで僕以外には誰も使えなくなってしまった」

『ゲームスタート』
上下に付いた各液晶画面にシンプルな人体図が浮かび上がる。
付属のペンでスクロールさせると、画面が上半身から下半身へと移動する。

身体中の各部位がパーツごとに区切られている。
手首、腕、胸部、腹部、腰(なぜか陰部も単独で一つのパーツとして独立している)・・・などなど。

「さてと、では彼女の名前を入力するかな」
『名前→佐藤みな→登録→OK』
ペン先で次々と指示していく。

『検索中・・・検索中・・・』
『該当者が見当たりません』


「あれ?駄目なの?なんで?あ・・・名前を平仮名入力したからか・・・?」
一旦、画面をメニューに戻しやり直す。
「漢字までは、さすがに分からないなー。こんな時間じゃ千紗は寝てるだろうし・・・それに聞くのはちょっとまずいな・・・えーと・・みな、みな・・と。「み」は『見、実、美、未、三』くらいか・・「な」は『名、菜、奈、那』か・・・?

僕は思い出す漢字を紙に書き写し、何度も並び変えながら入力を試みた。
その動作を何回繰り返した時だっただろう・・・

『検索→終了→登録しました』

「やった!やったぞ!美菜ちゃんだったのか・・・よしよし次はいよいよパーツの交換だ」
僕はここにきて震え始めた指先で、ついにゲームを始めるに至った。
『人体部位交換→始める』


(第2話)


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