仕組まれた合コン
作:夏目彩香(2009年 月 日初公開)
ここは合コン会場になっているイタリア料理の店、いわゆるイタ飯屋だ。目の前には3人の女性が座り、こちらには俺こと伊東直久(いとうなおひさ)も含め3人の男が座っていた。すっかり場も盛り上がって来て、そろそろ2次会に突入する運びだった。3対3の合コンは流から俺の取り仕切りとなっているが、この合コンは俺の親友である相川優介(あいかわゆうすけ)によって仕組まれたものだった。実は、その優介は男性陣の中に含まれていなかった。しかし、奴は目の前の3人のうち誰かに隠れて参加しているはずだった。 話は今日の昼頃まで遡る。大学の授業中にいきなり見知らぬメールが届いて来た。今、目の前に座っている彼女のアドレスだったが、3対3の合コンをして欲しいというメールの内容だった。メールの内容にはなぜか優介の文字が入っていて不思議に思ったが、速攻でメールの返事を出すと、俺はすぐさま行きたい奴を2人見つけた。授業が終わり待ち合わせ時刻の20分前には待ち合わせ場所に着いた。待ち合わせの場所にはいつも早めに行くことにしているからだ。 さっきから携帯に電話をしてもメールをしても返事が無かった優介から、待ち合わせ場所に着いた頃に優介からメールが届けられていた。開いて見るとこんなことが書いてあった。 --------------------------------------------------------- Subject: 今日の合コン to: 直久 from: 優介 直久、今日の合コンで3人の女性が行く筈だけど、そのうちの1人が俺だから。簡単に言うとネットの通販で見つけたこのカプセルを使うと、自分の姿をカプセルの中に入れた遺伝子情報をもとに変えてくれるんだ。でもって彼女はしっかり身動きを取れないようにしておいたから安心しな。お前が選んだ女性が俺だったらよろしくな。ということでこの携帯にメールしても電話してもしばらく繋がらないってことで。 --------------------------------------------------------- 優介からのメールはなんだかよくわからないが、添付されたカプセルの写真を見るとあながち嘘でも無いようにみえた。 メールを読み終わると、まずは男が2人やって来た。同じゼミに入っている2人で、合コンの話をするとすぐに一緒に来てくれることになった。待ち合わせ時間の10分前には男たちが揃っていた。あとは女性陣の到着を待つだけだったが、俺にとっては優介からの気になるメールが頭から離れることが無かった。 「なぁ、直久。優介の奴は誘わなかったのか?俺たちだけで大丈夫?あいつは何かとうるさいじゃん」 同じゼミに通う背の高い松本(まつもとひさし)が俺に話しかけて来た。 「優介から誘われたんだけど、今回は事情があって来られなくなったって、そんなこともあってお前たちを呼んだってわけ」 「それならいいけど、あとで優介の奴に焼きもちを焼かれるのが嫌だから」 「大丈夫だって、安心しな」 まさか、優介が女として現れるなんて久たちに言っても信じるわけが無かった。だから、ここは敢えて本当のことを言うのはやめようと思ったのだ。久は一緒に待ち合わせ場所に来た長井幸彦(ながいゆきひこ)としゃべっている。幸彦の奴が合コンに参加するのは珍しいことだったが、あまり疑うことも無く、3人の女性が現れるのを待っていた。 待ち合わせの時刻をちょっとだけ過ぎた頃、3人の女性たちが近づいて来た、いずれも美人で後で聞いた話によると学園祭でミスコンの決勝に残った際の3人らしい。3人ともそれぞれが別のタイプで美人なだけでなく気品のあるタイプのようだ。この中に優介がいるということを考えるだけで、俺はなぜかちょっと興奮してしまった。 3人が到着してメンバーが揃ったところで、俺の進言により知っているイタ飯屋にみんなを誘ってみた、女性陣の賛成を一同に受け、この時点から合コンのまとめ役になっていった。3人のうち1人が優介ということを気にしながらも俺は行きつけの店へと急いでいた。 俺が先頭を歩き、次に男2人組、最後に女性3人が連なって行く隊列でぞろぞろと歩いていた。俺は振り向きざま女性3人を時々見ながら誰が一番自分のタイプかを見比べるよりも、誰が優介なのかひたすら興味を持って見ていた。イタ飯屋までの数分がやけに長く感じてしまった。 俺の行きつけの店の一つである小さなイタ飯屋、6人が座るためには予約をしないと無いかと思っていたが、6人席の予約が突然キャンセルになったため、すぐに座ることができた。一人で来ても結構待たされるこの店。いつも以上に強運だった。 俺は一番奥の席に座り、俺の左隣には久が、そして、その左隣には幸彦が座った。飲み物を先に注文してしまうと、俺のリードによりまずは俺の向かいの女性から順番に自己紹介を始めることにした。 女性陣は芹沢南(せりざわみなみ)が自己紹介をして、隣の杉下愛花(すぎしたあいか)、更にその隣の野村百合枝(のむらゆりえ)と続いて行った。いずれも大学2年生でそれぞれの自己紹介を聞いた俺の第一印象は、次の通りだった。 芹沢南はおとなしめの女子大生で、大学のミスコンに出るのにかなり勇気が必要だったらしい、学業は優秀なタイプだが、男と付き合うのはちょっと抵抗があるように見える。次に杉下愛花だが芹沢南とはうって変わって活発なタイプ、3人の中では一番声が大きく、女性陣のまとめ役と言った感じだった。負けん気の強いタイプだけに将来はキャリアウーマンを目指しているらしい。最後に、野村百合枝だがお嬢様育ちで温室育ちの彼女はお金の感覚が麻痺しているようだった。ブランド品をさりげなく身に付けて、ファッション系の話になるとよくしゃべりそうな感じがした。 まずは食事をしながらゆっくりと場に溶け込む時間が用意されている。俺は食事をしながら優介が誰なのか考えていた。カプセルとやらがどんなものかわからないが、目の前の3人から優介のような動きや特徴を見つけることができないため、どうやら女性と全く同じ行動を取り、全く同じ考え方を持つことができるらしい。 最初の頃は、目の前に座っている芹沢南を疑っていた。優介の名前が入ったメールを送って来たのも彼女だし、おとなしい性格のため成りきるのには一番楽だと思ったからだ。色々と話をしているのはここ1時間で俺と杉下愛花が中心だった。そろそろ優介のことを聞いてみようと思って、芹沢南に対してさりげなく聞いてみた。 「俺の親友で相川優介って奴がいるんだけど、知ってるかな?」 芹沢南が答えようとした寸前で杉下愛花が横槍を入れて来た。 「あっ、学園祭で会った人のこと?確か、右耳のこのあたりに小さなホクロがあるよね。今日の合コンは彼の紹介だってのは知ってるよね。私たちも優介から誘われたんだ」 優介と彼女たちが意外なところで繋がった。この合コンを仕組んだのは優介なんだから、確かに繋がりが無いとおかしい。3人が優介の知り合いということを聞いて、ちょっと複雑な表情を俺の隣に座った2人が浮かべていた。この話を契機として学園祭で会った優介の話やミスコンの時のこぼれ話を色々と聞かされた。決勝まで残ったけど、ミスと準ミスに選ばれたのは3人にとって一番意外な娘だったという話もしっかり聞いた。この中にいる優介が自分で優介の話をしているのだから、そんなことを考えると俺だけが変な気持ちになっていた。 イタ飯屋に来てそろそろ3時間が経とうとしていた。普通は2次会へと移る展開になる頃、話の流れから俺の家で飲むことになって来た。今日はたまたま両親が旅行で家を出ているので、ちょっとぐらい騒いでも大丈夫なのだ。 と言うことで2次会は俺の家で行うことになった。優介の奴がよく知っているだろうから、家に向かう途中で何かボロを出すんじゃないかと思ったが、そうでも無かった。俺の家に向かうのは想定内ではあったが、これでもう少しゆっくり考えることができる。 そう思った俺は、家に向かうまでは二人ずつカップルになって行こうと提案した。提案はすぐに通って杉下愛花が俺の隣に、芹沢南は久の隣に、幸彦の隣には野村百合枝と一緒に歩くことにした。俺が杉下愛花を選らんだのは優介にとっては一番好みじゃ無いタイプだからだ。そして、杉下愛花が優介だとすれば、一緒に並んで歩けば何かわかると思ったのだ。 座っているときには気付かなかったが、杉下愛花は女性にしてはずいぶんと背丈があるようだ。ハイヒール姿の彼女の方が俺の身長よりも勝っていた。さっきまでは賑やかしい彼女も、どういうわけか道を歩くときはおとなしかった。一体何があったのかは知らないが、見過ごすこともできない俺の方から気遣うように話かけた。 「杉下さんって、見た目より意外とおとなしいんだね。さっきのテンションはどこに行ったの?」 紫のワンピースに身を包んだ杉下愛花、手の爪にはラメの入ったピンクのマニキュアが輝いている。もし、彼女が優介だったとしたら?そんなことを考えながら彼女の返事を待っていた。 「さっきは合コンの席じゃない、私ってああいう場所だと自然にテンションあがるけど、普段は地味に暮らしてるわ。普段は南の方がよっぽどすごいんだから」 杉下愛花は芹沢南の方をチラリと振り返りながら言った。 「あっ、そうそう。後ろの二人ってお似合いじゃない?」 「それって、野村さんと幸彦のこと?」 「そうじゃ無くて、南と松本くんよ。さっきっから意気投合してたみたいよ。あれだったら分かれた方がよく無い?」 どうやら芹沢南と久の奴はお互いにすっかり気に入ったらしい。俺の家に行っても二人には確かに悪いような雰囲気だ。俺たちは歩く速度を緩めて、新カップルに助言した。 「もしなんだったら、2人で別行動しちゃっても構わないよ」 俺の言葉に反応した2人は俺たちの集団とは別の方向へ向かうことになった。後で連絡が取れるように携帯番号とメールの交換はできているので、何かあったら連絡してくれることになった。 俺の住むマンションに到着した。オートロックを解除すると、エレベーターで10階まで上がり、俺の家に着いた。インターホンを押しても誰もでないことを確認してから、みんなを家に入れ居間に連れて来た。到着するやいなや突然音楽が聞こえ出した。幸彦の携帯の音だった。 俺は2人の女性をソファーに座らせて、何かあるか台所へと向かう。ちょうどいいところにボジョレー・ヌーボーのまだ開けてない奴が残っていた。他にも酒のつまみとお菓子を適当に見繕って居間に持って行った。幸彦は電話を切るとすぐに脱いだばかりのコートを身に纏った。 「直久。悪いけど今日はこれで帰るわ。うちの婆ちゃんが危篤状態だっていうから、さすがに行かなきゃなんないよ」 まぁ、事が事だけに仕方が無いが、俺にとっては2人の女性を自分の家に残したままという状況はさすがにまずかった。それにもしかするとこの2人のどちらかが優介の可能性があって、どうやって振る舞えばいいのかわからないのだ。 しかし、そんなこととはおかまいなしに彼女たちは、ワインを開けて、2人で飲みはじめていた。どうやらこの場を動く気配は無さそうだ。無理やり出て行けというのもおかしいので、しばらくは3人で過ごすしか無い。幸彦を玄関まで見送り、ゆっくりと彼女たちのいるリビングへと歩いて行った。 |
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