だいだい(その2)

作:夏目彩香(2003年8月1日初公開)




貴子と入れ替わった俺は結局、男を強引に貴子の家まで連れてきた。オレンジ色のスカートは空にある太陽より眩しいぐらいだ。ここまで来る途中、男は何も言わずに付いて来た。貴子となった俺が前をコツコツ歩きながら、後ろからついてくると言うなんとも情けない感じだ。どうやら後ろから俺の動きが女らしいものか確認しているらしい。俺はしょうがないのでたぶんモデルばりのウォーキングをしてやった。
貴子の家の前までは何度か来たことがあるけれど、家に入るのは初めてのことになる。貴子の家は10階建てくらいのマンション、ここの7階にあるのが貴子の家だ。連れてきた男は、エレベーターの中でも何もしゃべらずにいた。貴子のような美人が想像できないような行動をしていたのだから当たり前のことだろう。
駅で口づけをされたままただったので、男の唇にはまだキラキラとしたものが残っていた。貴子はバッグの中からティッシュを取り出すと、唇のキラキラを拭き取るように促した。
「これで唇の周り拭いてよ。キラキラしてるわよ」
エレベーターに二人きりとなっているこの間に貴子の方から、優しい心遣いを受けたその男はおとなしく唇周りを拭き始めた。
「お前って。本当に女みたいだな」
男は駅からずっと気にしていたらしいが、どうやら吹っ切れたようだ。
「当たり前じゃない。私は女性ですもの」
そう言うと、俺は男に見えるようにオレンジ色のスカートの上から自分の股間部を触った。
「ここに何もないでしょ」
すると男は、変な目で俺を見て来た。
「もしかして、手術したんじゃ」
「そんなことないわよ。あたしのうちに帰ったらちゃんとかわいがってあげるからね。女だってこと見せてあげるから」
すると男の股間部はものすごい大きさに変わっていたのを俺は見逃さなかった。
「もう大きくなってるわね。やっぱ、貴子のこと好きなのね」
そう言って、貴子のすらっとしたしなやかな白い腕で男の大きくなったものをちょっと触ってやると、男はエレベーターの壁まで逃げた。
「あんたって、それでも男?もっと大胆にしてよね」
エレベーターの扉が開くと、再び歩き始め5枚目のドアが貴子の家だった。俺はさすがに建物の中は知らなかったので、貴子の記憶を思いっきり呼び起こして、すぐに家の鍵を開けた。
家の中には誰もいない。そう、貴子はここで一人暮らしをしているのだ。俺にとってもこの男にとってもこれからがお楽しみのチャンス。俺になった貴子に気づかれないように、俺はこの機会を楽しみはじめていたのだ。






本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです
・本作品についての、あらゆる著作権は、すべて作者が有するものとします
・よって、本作品を無断で転載、公開することは御遠慮願います
・感想はメールフォーム掲示板でお待ちしています

copyright 2016 Ayaka Natsume.












inserted by FC2 system