就職課

作:夏目彩香(2003年1月19日初公開)

今の時代、就職と言いえば人生誰もが通らなければならない道の一つでしょう。それは女性にとっても同様のことになってきました。時代の変化と共に女性の就職率も上がっているのです。私はとある大学に通う女子大生だったのですが、うちの大学の就職課のおかげで就職を決めることができました。私はどちらかと言うと保守的な考えを持っている方なので、就職しなくてもいいかなって思っていました。家で家事手伝いでもやりながら結婚しちゃおうって思っていたんです。でも、友達は就職をしなさいってしつこいものだから、まずはしょうがなく大学の就職課に行ってみることにしました。

あれは、去年の春でした。就職課のある場所すら知らなかった私は、友達と一緒に就職課へ行ってきました。就職課の中には人がたくさんいるんでびっくり、ずらりと求人情報や会社のファイルが並んでいるんですが、私にはちんぷんかんぷんでした。方向感覚すら無い私に就職活動なんてことがそもそも無理だったのかもって。。。

友達はもうすでに幾つかファイルをかき集めて情報収集しているみたいだし、ある友達はパソコンを使って調べているし、私にはとてもできそうに無い世界でした。何か楽して見つける事でもできないかなぁ。就職活動が大変なことはわかっていましたが、いきなり壁にぶつかった私にとって、そこにいることはかなりの苦痛になりました。

途方に暮れていた私は事務の人に利用方法でも聞こうと、パーティションで区切られただけの事務室のカウンターに立ちました。事務員の人たちはずいぶんと忙しそうに動いていました。とりあえず適当な人に声をかけると、まずは女性の方が対応してくれました。その人から聞けたのは友達に聞いたことと全く同じ内容。楽して見つからないものでしょうかって聞くと笑われてしまって。私は思わず顔が赤くなったことを思い出しました。

変なことを聞く人だなって、対応してくれた女性が笑っている時に、奥の方からゆっくりと歩いてくる働き盛りの男性職員が近づいてきました。他にも事務員はいたのですが、その男性職員だけは私の方を見ても笑顔を浮かべることがありませんでした。あぁ、これってどうしたらいいものなのかって思いました。叱られちゃうんじゃないのかって。

でも、男性は私の目の前に出てきて話がしたいと言うのです。奥にある個室の中でなければどうしても話ができないと言うので私はその男性職員と一緒に就職課の面談室と言う小さな部屋に通されました。この部屋って窓が無くて、まるで監禁室みたいでした。まるで音楽室のような構造だったので、ここの音は外に漏れることが無いようになっていたのです。とにかく、秘密事を話すにはちょうどいい部屋なことは確かでした。

部屋の中に入ると彼は私の方を見て言います。どんな方法でもいいから楽して就職させて欲しいってことをしつこく確認するのです。私はその吸い込まれるような目で見つめてくる彼に対して、私も真剣な目でしつこくそうですって言い続けました。まるで二人が意地の張り合いをしているような感じでした。

すると、彼は突然1つの小瓶を机の上に置いたのです。昔、理科の実験の時に見たような焦げ茶色の瓶の中には錠剤が詰め込まれています。彼が言うにはこの薬はここの学校の教授の研究成果だと言うのです。そして、この薬を使った実験に参加してもらえば、私はその教授の秘書として採用すると言うことを提示されたのです。しかも、この実験に参加するのはとっても楽なことだって言うのです。私はちょっとだけ悩みましたがすぐに承諾することにしました。



就職課の男性職員と私は実験についての話をはじめました。
男性職員「この薬はこの学校のある先生が試作されたものです。これをあなたに使ってもらいたいのですがよろしいですか?」
男性職員はひっそりとした口調で話をしてきます。私はとにかく仕事を見つけるのが先決なので、そのことを聞いてみました。
私「先生の秘書ってのも悪い職場では無いですよね。何でもいいので私はとにかく就職したいんです。それを使ったら本当に先生の秘書になれるんですか?」
すると男性職員はゆっくりと私の目を見ながら話してきます。
男性職員「そうですよ。だから、心配しないでください。所詮は簡単な実験だそうですから」
私「そうですか」
どうやら本当のことのようです。その時、男性職員が付け加えて言いました。
男性職員「ただし。何があっても大丈夫な覚悟だけはしておいてくださいね」
そんなことを言われるとちょっと不安になってしまいます。
私「そんなに危険な薬なんですか?」
ちょっと怖がって聞いてみました。
男性職員「先生からは危険だという話は聞いていませんが、ある意味ではそうなると思います。自分の意志には反することもあるだろうし」
私「そうですか。ある意味ってのが気になりますね」
男性職員は実験についての細かいことはどうやらしらないようです。
男性職員「まぁ、私が先生から頼まれた時にもこの実験の話を聞いて驚きましたが、私もその実験の協力者になるんですよ。だから、安心してください」
ちょっと意味ありげな言い方でしたが、あっさりと流すように言って来ました。
私「わかりました。何があっても構いません。あっ。。。もしかして、死ぬこともあるんですか?」
私は念のためと言うことで、聞いてみました。
男性職員「死ぬこと。。。それは無いと思いますが、薬ですから確かにそこまでの危険性もあるかも知れません」
まぁ、そんなことは言ってもこれで仕事が決まるとなれば安いもんだと心を決めた私は、はっきりと覚悟を決めて言いました。
私「それでもいいです。覚悟を決めましたので説明を始めてください」

男性職員「わかりました。まずは単刀直入に言いますと、あなたにはこの薬を飲んでもらうだけでいいんです。それだけで実験に参加ができます」
それだけということで、私はきょとんとしてしまいました。なんてあっけない実験なんでしょう。そのどこが危険だって言うのか……
私「それだけなんですか?どこが危険なのかわかんないですね」
すっかりと安心した私に男性職員がゆっくりと説明を続けます。
男性職員「それは続きを聞いてもらうとわかります。先生が言うにはこの薬を飲むとですね」
ここまで言ったところで間が空いた、何かありげな発言です。
私「この薬を飲むと何が起こるんです?」
男性職員は観念したかのように話を続けてきました。
男性職員「見た目は何も起こりません。しかし、あなたの意識だけが失われることになります」
どういうこと?この薬は意識を無くす薬?
私「意識が無くなるってことですか?」
男性職員はおもむろに手を組み直しながら続きの話をしてきます。
男性職員「そうです。先生は強制的に意識を無くさせる薬の開発をしたのです」
意識を無くす薬だなんて、そんなのあっていい物なの?
私「ということは。私がこれを飲むと意識が無くなるんですね」
男性職員はよくわかってくれたという表情をしています。
男性職員「そうなんです。1粒の効果時間がどのくらいなのかわからないために、実験が必要だったんですよ」
効果時間の実験ってわけですか。
私「意識が戻れば終わりになるんですよね」
まぁ、それだけなら大丈夫か。
男性職員「もちろんです。先生の別宅でこの実験を行いますので安心してください」
ここまで話したところで、すっかり場は和んでいました。で、意識を無くす薬の効果時間を計る実験だと言うことは、どれくらいの時間がかかるのか気になるので聞いてみました。
私「わかりました。それだけですか。でも、何日続くのかわからないのは困ります。実験日数はわからないんですか?」
男性職員「そうですね。今のところ推測されている効果時間は24時間なので、1泊2日か長くても2泊3日で済みますよ」
私「じゃあ、親に学校で実験があるから2泊3日の外泊をするって言っておきますね」
うちは門限が午後11時なので外泊するときには必ず正当な理由がないと行けない。この説得が結構やっかいなんだけどなぁ。
男性職員「それは駄目です。この実験が周りに知られるのは大変なことになります。実験というのは伏せておいてください」
それじゃ、ちょっと難しいかも。何か理由は無いのかな?
私「そうですか、じゃあなんて伝えたらいいのですか?」
男性職員「実験の日にこちらから伝えるので何も言わないでください」
実験の日にって、まぁ、学校からなら心配いらないか。でも、この実験って秘密にしないといけないものなの?
私「えっ?あ〜ん。それって言ったら、例の約束が駄目になるってことですか?」
男性職員「しょうがないですが、そうなります。あくまでも極秘の実験ですので、誰にも言ってもいけません」
私「わかりました。それなら仕方がないです」
極秘の実験かぁ。私が選ばれたのも光栄かも。

男性職員「じゃあ、実験の日取りを決めたいのですが……」
私は、自分のスケジュール帳を開くと、適当に空いている日を探してみました。
私「そうですね。2泊3日だったら次の週末が空いています」
すると男性職員は何も見ずに予定の日時を言ってきました。
男性職員「わかりました。こちらの方は早ければその方がいいので、次の金曜日から日曜日はどうですか?」
よっぽど早くやりたい実験なんだろうなぁ。その間は大丈夫だからOKしちゃいましょう。
私「じゃあ、4日後ですね。何か準備するものはありますか?」
男性職員「2泊3日の小旅行をするような気分で準備してくれたらいいと思います。」
私「旅行の準備と同じなんですね」
この準備って親にばれないようにしないと行けないよね。なるべく少なく持って行くしかないみたい。
男性職員「じゃあ、この名刺を渡しておきます。金曜日の正午までに先生の別宅に来てください。私もここにいますから」

このあと彼は絶対に口外しないように念を押してから、私は家に帰ってきました。まだ実験まで日数があるけれど、数日間意識が無くなるんだから、とりあえずやりたいことをやって置かないとと思いつつ実験の当日を待つのでした。



そして、実験の当日の金曜日。男性職員の名刺の裏に書かれた地図を頼りに先生の別宅にやって来ました。思った以上の豪邸で、塀の向こう側に家があるのかもわからないくらいの大きな建物。インターホンを押しても反応が無いので、門の前で待っていることにしました。時計の針は正午を指しているところ。男性職員さんがここにいると言うからさっさとやってきたのに、まだ現れないなんてだまされちゃったのかと思いました。

まぁ、こんなことだと思ったけど……私が持ってきた荷物は3日分の着替えと洗面道具。背中に載せているからそれほどでも無いけれど、待っている間にずしりと重みを感じてきました。長針が1の数字を過ぎた当たりで、門が自動的に開き始めました。門の反対側の道路から1台の車がやって来ます。あれは、もしかして。

どうやらその車は先生のものと思われる車、家もそうだけど車もかなり高そうな感じがしました。私は車の種類に疎いので車種が何なのかは分かりませんでしたが、高い外国産の車だと言うことだけはわかりました。その車は門に入りかけたところで停車をして、中から人が出てきて、私を車の中へと迎えてくれました。

車の中にはこの前会った男性職員が前の座席に座っていて、後ろの座席には大学の教授らしき人が乗っていました。私は大学教授らしき人のそばに腰を落ち着けると、とりあえず軽く会釈をしました。大学教授らしき人から名刺を渡され、それにはうちの大学のマークが入っていました。その名刺には憑依学研究室教授金沢誠(かなざわまこと)と書かれ変わった名前の研究室があるものだとその時は思っていました。

ようやくのことでついたところは、金沢教授の別宅です。本宅と100mほど離れているところにこの建物はありました。本宅も立派なのですが、別宅すらあるなんて、私にはとても想像のつくような世界ではありませんでした。実験に準備されている部屋に通されると私の荷物が入ったカバンを部屋の隅に置き、ソファーに座って落ち着くことになりました。

これから実験の準備をすると言うことなので、もう少し時間が必要とのこと。私はここでゆっくりと休んでいて欲しいと金沢教授に言われました。それと、シャワーを浴びてきれいにしておいてと言うので、部屋に備え付けのシャワー室を使うことにしました。

 

シャワーを浴びてゆっくりとくつろいでいると時間はもうすぐ2時になろうとしていました。実験を行うというベッドにはよくわからない機械がたくさん並べられて、なんとなく実験のデータを取るような感じでなのしょう。

ベッドの上に横になるように言われ、私は言われるままにベッドの上に横になりました。このとき、部屋のドアが開いてもう一人の人物が入ってきたのです。その人物は例の小瓶をもっていました。これから実験に使う薬を持ってきたのは、住友大貴(だいき)と呼ばれる金沢教授の研究室にいる修士課程の学生でした。

この薬が運ばれてきたことで、実験の準備は全て整ったみたいです。私はベッドの上で上半身を起こした姿勢のままで、いよいよ実験が開始されようとしていました。この時の私の姿は黄色いワンピースパジャマ、楽な格好がいいと言われたので、いつも寝るときに使っている格好にしました。シャワーを浴びたときに化粧落としや肌の手入れも終えておきました。

金沢教授が説明を始めたのですが、説明の内容はこの薬を飲むと24時間ほど意識が無くなるはずだと言うこと、この薬を服用してからの様子を全部ビデオで撮影しておくと言うのです。私は諸注意を聞いてから、いよいよ薬を服用することとなりました。

そして、薬の入った小瓶を口に当てるとぐっと一息に飲み込みました。味は思ったよりも甘くておいしかったです。この時、住友大貴と言う学生がひそかな笑みをこぼしていたのを見逃しませんでしたが、すぐに眠気が襲ってきて更には意識が無くなるような朦朧状態となったのです。



私は金沢教授の別宅で実験に参加をしに来ました。実際に寝ていればいいような実験かと思いましたが、思ったよりも苦しかったです。小瓶に入った薬を飲み終わると、すぐに眠気が襲ってきて意識が無くなるような朦朧状態となったのですが、そのあと意識がはっきりする時は、まるで新しい私を始めるようなそんな気分でした。どうやら実験が終わったようです。

目を開けるとそこは金沢教授と住友大貴が一緒に立っていました。金沢教授が私の声を呼ぶのでそれに反応すると、実験が成功したのでお疲れ様とのことでした。私は自分の体を見てみましたが、何の変化もありませんでした。ある変化と言えばちょっと汗ばんでいたぐらい、それもベッドの上にずっといたのだから当たり前なのでしょうけれど。

シャワーを浴びてから肌の手入れ、メイクを入念にして浴室から出て行くと金沢教授と住友大貴がどうやら実験の論評をしているようでした。そういえば、おかしなことに男性職員の姿が見えません。彼はどうしたのでしょうか。そして、不思議なことに彼のことを考えると頭が痛くなるのです。

私「先生。結局のところ、実験はどうだったのですか?」
私は少し寝起きの状態で朦朧としながらも金沢教授の目を見ながら尋ねました。
金沢教授「成功したよ。実にいい結果が出てくれた」
ついでにさっきからきになっていることも聞いてみようと思って、聞いてみました。
私「それで、男性職員の方はどうしたんですか?」
金沢教授「あぁ。彼のことか。彼は実験に参加してもらったから、今は疲れて寝ているよ。隣の部屋にいると思うけどね」

なんで疲れてるんだろう?実験には私しか参加していないのに、とっても不思議な気持ちでいっぱいとなりました。
実際に隣の部屋を開けてみると男性職員がいびきをかきながら寝ていました。

私は先生に聞くのは諦めて、隣にいた住友大貴と言う学生に事情を聞いてみました。すると彼はこの実験で使ったビデオテープを貸してくれるとのことです。でも、このビデオテープを全部見るなんてのは大変です。もっと聞いてみるとダイジェスト版をつくったそうなので、そのテープが1本あれば事が足りると言ってくれました。

住友大貴「先生には内緒にしてくださいね。それと、就職おめでとう」
私「えっ。内緒にしておきますわ。えっ!?就職って、何?」
就職って言葉が出てきて本当にびっくりした。実験がうまくいったらってことだったので、あまりにも早すぎたからです。
住友大貴「だから、就職ですよ。うちの研究室の秘書に配属が決まりました」
私「それって、誰が決めるんです?」
住友大貴「先生が決めたことですから、ほぼ間違いありません。内々定と言うことですので、誰にも言わないように、お願いします」
私「はい」
そうやって、
私は納得の行くような行かないような返事をしていました。

なんだかあっけなかったが、私の就職はこうやって決まってしまった。もちろんこのあとで教授会や事務室の会議や、理事会で取り上げられて正式に決められるのですが、事実上は金沢教授の意向が反映されるとのこと、そりゃ秘書だから当たり前か〜。

ということで、そのあと家までは住友大貴が送ってくれました。家に帰ると門限に厳しい両親に無断外泊で怒られるかと思ったが、そんなことはいっさい無く普通に対応できました。男性職員はなんて言ったのか気になるのですが、そんなことは置いておいてさっきもらってきたビデオをデッキに差し込んだのでした。



家に帰ってくると実験の真相を確かめるために1本のビデオテープを見ることにしました。ビデオテープが回りはじめると、まずは私が小瓶の薬を飲み始めたところが映し出されています。このあとで意識が朦朧となるのですが、そのまま私はベッドに寝ているようにしか見えません。しばらくこの状態が続いて、金沢教授がなにやら、確認している様子。私の意識が無いのを確認しているのでしょう。

ここで映像が一旦切れて、違う場面が映し出されました。男性職員と住友大貴が話し合いをしているのです。手に持っているものと言えば、私が飲んだ薬と同じような小瓶。それをどうしようと言うのでしょうか?2人は口争いをしているような感じでした。結局、男性職員が飲むことになったようで、椅子に座って飲み始めました。

私の時のように意識を失うのかと思いきや、そうでは無くて、男性職員の方が2重になっているのに気づきました。しかも、片方は少し透明な状態ですが自由に動いていて、残る一方ははっきりとした実体があるのに全く動きません。これって何?すると、住友大貴が成功!と言いながら駆け回っているのです。金沢教授はビデオカメラに向かって、肉体と魂が別れる映像を分かりやすい形で撮影するのに成功したとコメントを入れているのです。

どうやら、はっきりと見える男性職員が肉体だけで透明な男性職員は魂だけ、しかもこれがビデオカメラでははっきりと見えるのが今回の薬の特徴だとか、金沢教授のコメントが続いていました。しかも、このあと更に実験が残っていて、この透明な男性職員がまずは住友大貴と重なったのですが、素通りします。物体は素通りできないのですが、人物は素通りしてしまうようなのです。

すると、透明な男性職員は私の体に向かって行きました。私の体も素通りするのかと思いきや、そうでは無かったのです。私の体の中に男性職員の魂が入っていくのが映像で捉えられていました。私は、思わず目に涙がたまってきました。終わったことなのだから仕方がないとはいえ、この映像はちょっと私が見るには残酷なものだったからです。ここで一度ビデオテープを停止してしまいました。このあとを見るのが怖くなったからです。

気を落ち着けようと冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、一気に奥まで流し込みました。お酒に弱い私はすぐに赤くなります。そして、さっきまでの不安な気持ちが和らいできて、再びデッキの再生ボタンを押しました。

男性職員の魂が私の体の中に入る映像はこうやってみると、とてもきれいなものに見えました。何か待ちこがれていたものを受け入れるような感じ、これは受精の映像に重なって見えました。

男性職員の魂が完全に入ると、全く身動きしていなかった私の体が動き始めました。わずかな動きですが、ベッドの上なので揺り動いているのがわかります。私は実験の間一度も起きていないので、これは一体?

そう思ってみていると、私の目が開き出すではありませんか。あれっ?私、無意識のうちに起きたのかなぁ?そんな記憶はありませんでした。じゃあ、どうしたのでしょうか?さっき入った男性職員の魂、もしかしてその影響ではと思うのでした。

相変わらず映像には実験の進展を見守る金沢教授と住友大貴の姿も映っているのですが、2人の表情がとてもいいのです。どうやらここまで予想通りの展開になっている。そんな感じに見えました。

そして、ついに私が起きあがったのです。私の顔は鏡でしか見ませんが、それでも私のつくる表情とはどことなく違って見えました。私の見る私の顔よりも目を大きく開け、口がにやっとさけ、そして、何よりもそれを見守る2人の姿はただのスケベ親父にしか見えなかったのです。

ビデオの中の私はベッドから起きあがると、2人の前に立ちました。しっかりとカメラ目線を取りながら、自分の体を軽くもみほぐすような感じで立っていたのです。そして、ついに私がしゃべりました。私の名前を言ってるのですが、なんか恥ずかしそうな顔をしています。頬が赤くなっているのを見ると私も思わず恥ずかしくなってきました。

こんな場面しか無いのかと、少し早送りをしてみました。2人の前に立った私はどうやら声を出したり、歌を歌ったり、踊ったりと、普段の私がまずやらないようなことをしているのです。カラオケへ行ったって、いつもソファーに座っているだけの私がなぜか歌って踊るなんて想像ができないのです。(しかも、その動きが様になってるから、ちょっと羨ましかったです。)

しばらく早送りをすると、気になる場面があったので、ちょっと戻してから再び再生をしました。だって、私の生着替えが始まっていたからです。黄色のワンピパジャマを脱ぎ初め、ブラもショーツ姿の私が現れました。なんか大胆な自分の姿を見ていると、変な興奮が沸いてきました。

そのあと、住友大貴が私のかばんを持ってくると、その中から薄手のブラウスとリクルート用の紺のボックススカート、それにブラックのパンストを出しているのです。勝手に私の着せ替えショーをやっていたのですから。見ていると本当に腹が立ちました。こんな風にされていたなんて思うと、ちょっと許せなくなりました。

それでも、私は真相が気になっているので、このビデオテープは全て見ることにしました。すっかりと着替えが終わった私が立っています。ピンクのブラウスにカーディガンをあてて、リクルート用のスカートを履いた私の姿、足にはパンストまで。普段だと鏡でしか見ないのに、さっきから腹立たしさとともに変な興奮状態に陥っているのです。

着替えが終わると、ビデオの中の私と、金沢教授と住友大貴は一緒に車に乗り込みました。どこへ行くというのでしょうか?そこにはうちの学校が映っていました。どうやらここの建物って理事長室とかがある建物。何をするのかしら?

ビデオテープに記録されている時刻は午後6時になっていました。6時になったとたん、建物の中の会議室から人がでてきて、中へ入るよう指示をされたみたいです。そして、会議室の下に書いてある文字を見て驚きました。ただいま面接中ですので、お静かにしてくださいと書いてあるのです。

金沢教授も一緒に入っていきました。ビデオの撮影許可が出ているみたいなので、会議室の中に入っても映像は続きます。それから始まった光景と言うのは学校の理事長を前にした私の姿に見えました。

理事長との面接。これって?もしかして、就職の面接なのかしら?私じゃない私が面接をしている。しかも、私が一番苦手とする就職の際の面接らしいのです。面接が無事に終了すると、金沢教授だけ中に残されて2人は外で待つことになりました。会議室のドアがゆっくりと開いて、そこから金沢教授と理事長が登場しました。

理事長の口からは「これからお願いします」と言う言葉がでてきて、ビデオの中にいる私と握手をしていました。ビデオの中にいる私はものすごく喜んだ顔をしていて、私が見ていてもとっても可愛く見えました。さっそく、携帯電話を使って家に電話をしたみたいで、就職決まったよって言うのです。

それに付け加えて、就職祝いのために先生に呼ばれるから帰るのはいつになるのかわからないと言ったのが聞こえてきました。どうやらこれで私の家族は私に笑顔で出迎えてくれたようです。

ビデオテープはここで終わってしまいました。私が金沢教授の秘書になるってことは住友大貴とも同じ研究室になるんだよね。
そう思った私の中には、あとで他のビデオテープも見せてもらって、3人がやってくれた私へのかわいい悪戯を見てみたいと言う気持ちが沸いていたのです。




本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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・本作品を無断で転載、公開することはご遠慮願いします。

copyright 2015 Ayaka Natsume.






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