「何怖がってるんだよ。こっち向けよ」 何度も言ってるのに、あいつはこっちを向いてくれようとしなかった。 「だって、恥ずかしいんだって」 あいつはさっきから顔を背けていた。 「お前のためにせっかく協力してやったのに」 あいつのために俺がどれだけ苦労したのか知ってもくれないようだ。 「僕は、別に協力して欲しいなんてことは言ってもいないんだからね」 しょうがなくなった俺は、あいつに譲歩してやることにした。 「わかったよ。俺が悪かったって……あっ、頭が」 その場に、俺はバタッっと倒れてしまった。あいつはといえば、それでもこっちを向かずにいたようだ。 「あれっ?ここはどこ」 ゆっくりと起きあがりながら、その時、私はどこにいるのかわかりませんでした。目の前には島田(しまだ)君がいて、後ろ向きのまま何か怖がっているかのように見えます。 「島田君でしょ」 どういうことか、島田君はこっちを見てくれませんでした。 「ねぇ。島田君ったら、こっち向いてよ」 こんなに言っても島田君はこっちを見てくれません。 「もう、何なのよ。私がここにいることもわかんなければ、島田君がこっちを向いてくれないなんて」 そう私が言うと、島田君はちょっとずつこっちを振り向こうとしていました。 「だって、恥ずかしいよ。中島(なかじま)さんとここに二人っきりでいるってことだけで、僕は気を失っちゃいそうなんだって」 どういうことかわかりませんが、この際だからこっちから島田君に近づくことにしました。 「島田君。こっち向いて、事情を話してくれない?これってどういうことなの?」 私が近づくに連れて、島田君も気になっているみたいで、もうちょっとでこっちを見てくれそうでした。 「ねぇ。島田君たらぁ」 私がその言葉を発すると、一気に島田君は振り返りました。 中島さんの声にすっかりつられてしまい、一気に僕が振り返りました。 「な・か・じ・ま・さん………」 僕は中島さんを見ると気が動転してしまいました。 「どうしたの?やっと振り向いてくれたわね」 中島さんは平気な顔をして僕の方を向いていました。 「だって。は、は、はだかですよ」 驚いた僕は、いつも話すことの無い中島さんに話かけています。 「えっ?裸って?」 中島さんは自分の姿をきょろきょろ見回すと、軽く深呼吸をしているようでした。 「お前のためだって言ったろう」 その言葉を聞いた僕が再び、中島さんを見られなくなったのは言うまでも無いことでした。 |
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