記憶にないバレンタイン

作:夏目彩香(2002年3月14日初公開)


 


カーテンの隙間から部屋の中に一筋の光が差し込む。新しい一日が始まる時はいつも気持ちがいい。こういう時は、ベッドの中から出ようと思ってもなかなかでられません。寝心地がよいからますますベッドの中に籠もろうとしてしまいます。

日差しが強く当たることによって、ようやく私は起きる気持ちになることができました。いつものように毛布をのけようとしたのですが、なんだかおかしいことに気づきました。どうやら下着を身に着けていないのです。裸のまま寝ていたみたいなんです。

昨日の夜は確かに下着はもちろん、パジャマも着ていたはずなのに、なぜか今の私は何も着けていませんでした。毛布に身体が直接触れるので、なんだか変な気分になってしまいます。

そんな状態なので、私はすぐに下着を身に着けようとして、少し寒い部屋の床に足をつけました。フローリングの床はいつもよりもひんやりと感じます。衣装だんすからさっと黒のショーツとブラを手に取ると、急いでそれを身に着けました。それから、いつも部屋着として使っているグレーのワンピースをさっと着込みました。

そこでまた自分に起きた奇妙なことに気づきました。肩に髪があたらないのです。昨日までは確かに肩に軽く触れるくらいだたのに、今は空中に浮いています。髪が少しだけ短くなっていたことに気づいたのです。なぜなのかはわかりません。

不思議に思って、姿見用の大きな鏡に全身を映してみました。するとどうでしょう、そこにはいつもよりも髪の短い私が立っていました。自分の姿なんだから自分が一番よくわかっているにも関わらずです。

鏡に近づいてみるとまた別のことがわかりました。どうやら化粧をしているみたいなのです。寝る前にクレンジングを使ってしっかりと洗ったはずなんですが、わかりません。しかも、自分がいつもするような化粧ではないのです。なんというか、ちょっとケバイ感じ。濃い目のリップに、濃い目のシャドウが入れられています。

なぜなのかはわかりませんが、今日の私は明らかに昨日までの私では無いようです。ここで、ふと化粧台の上に目線を移動しました。今日はバレンタインデーなので、彼氏にあげるとっておきのチョコレートを用意しておいたんですが、無かったんです。

それからしばらくチョコを探したのですが、見つかりません。あのチョコレートが見つからないと彼氏に渡すことができないので、必死になって探してみました。部屋の中を一通り見終わってから私の携帯が鳴りました。

いつもとは違う着信音でしたが、明らかに私の携帯から鳴っていました。着信音はすぐに切れ、折りたたみを開けてみるとメールが届いてるのがわかります。急いでメールチェックを読んで見ると、それは彼氏からのメッセージでした。

その文面は・・・昨日はチョコレートくれて、ありがとう。昨日のおまえはとっても色っぽかったよ。これからもよろしくな。・・・というメッセージ、もちろん驚きましたが、これって一体どういうことでしょう。私の部屋にあるわけが無いんです。彼氏に私(?)があげたんだから。。。

私が一体いつあげたっていうんだろう。頭の中で目覚めてからの出来事は信じられないできごとばかりです。ひとつひとつ整理しても昨日までとはまったく違うことが起きているのは事実でした。
寝ぼけているせいかも知れないと、しっかりと目を覚ますシャワーを浴びに行きました。短くなった髪を洗うたびに、不気味な化粧を落とすたびに、身体のあちこちに触るたびに、私に起きた不思議ことは事実としてしか認識できないようです。

シャワールームから自分の部屋に戻り、携帯電話を手にとってさっきのメッセージをよく読もうと思いました。その時に、初めてあることがわかったのです。なんと、彼氏から来たメールの送信日が2月15日だったのです。

私が寝る前に送ったメールの日時は2月13日23時04分、彼氏がくれたメールの日時は2月15日7時30分。この間は一切メールのやりとりがありません。

これってなぜなんだろう。。。これから彼氏にこのこと相談したらいいのかどうか迷っていたんだけど。このことを相談するためにも、私は送信ボタンを押すのでした。





 

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