聖なる夜に

作:夏目彩香(2000年11月1日初公開)


 


いよいよ20世紀最後のクリスマスがやってくる、そして、その日こそ私にとって最良の時になるに違いない。それは、今つきあってる彼に食事に誘われているから、私の感じだとこの日に、彼から大事なことを決心するに違いないって思ってる。女の私からして男の考えを理解するのは私にとって難しいことだけど。彼はいつも記念日に気をつけてくれているし、それに20世紀中に大事な決断をするって約束してくれたから、きっと結婚の話をしてくれるんだろうな。それまでは彼は仕事で忙しくて、二人で一緒に写っている写真を見つめながらの日々が続くんだろうけどね。私はこの日が来るのを待っていたんだから、ちょっとくらい会えなくても全然平気なのね。

彼としばらく会ってないけど、次に会うのはあの日だと決めている。それにしても、一日が終わる時間ってこんなに短かったっけ?それに、大事な日が近づいてきて、緊張しているみたい。こんな時は彼に電話をかけてみる。メールだって毎日やりとりしてるから、全然会ってないって感じがしないのよね。メルトモにもこのことは話したんだけど、メルトモからはすごく応援されてるの、きっといい言葉が聞けるはずと期待は高まるの。

いよいよ明日に迫ったイブの日、私はいつもよりも落ち着き無く家で過ごしている。なんとなくそわそわとしているのが自分でもよくわかる。とりあえず、明日の準備をすることにして、着ていく服を選びながら、デートのイメージを膨らませていたの。さすがの彼だって、すぐに告白できることじゃないだろうから。私も彼が言いやすいような服装にしてあげなきゃと、なかなか必死なのよね。それに、最近買ったコスメがとってもいいので、試してみるつもり、彼とは2週間くらい会ってないから、きっとびっくりするはずよ。

そうして今日が聖なる夜。街の中はたくさんのカップルが歩いていて、どこもかしこも聖なる夜に酔いしれている感じ、おしゃれな店に吸い込まれていくカップルを見ながら、私は彼が来るのを待っている。しかし、約束の時間が来ても彼はなかなか現れない、しょうがないから私はメールを送ってみる。メールの返事はすぐに返ってきて、あと5分くらいで到着するとのこと、相変わらず遅刻ぐせは直ってないね。彼のルーズさには全然参ってないから、とりあえず待ってあげる。どうせ夜は長いんだからね。

さっきメールで約束した時間が5分過ぎた。周りを見渡しても彼の姿はどこにも見つからない。どうしたんだろうと、あごに指を当てていると、後ろから肩をたたかれた。彼だと期待して振り返ってみると、彼じゃなかった。そこに現れたのはなぜか彼の妹だったの。あれ〜?5分で着くってのは妹のことだったの?だいたい、私とのデートに妹を連れて来る人なんているの?ちょっと、呆れるようにして妹さんに彼のことを聞いてみたの。

すると、最初に口から出てきた言葉が俺とか言っちゃって、彼の話すような口調で話し始めたんだから、私も困りました。あなたって彼のものまねでもしてるの?って聞いてみると、彼女は口篭もってしまいます。彼の行き先を聞いても何も口を開かないし、それになぜか彼女は彼の携帯を持っていたんだよね。

それから、彼の妹はとにかく話を聞いて欲しいって言うので、彼と行くはずだったレストランに二人で入りました。せっかく楽しみにしていたのに女二人でこの店に入ることになるなんて……まぁ、彼が来れなくなったことも彼女が知っているみたいだから、つきあってあげるわね。そんな気持ちでいっぱいでした。

それにしてもこの子ってほんと女の子?って思うような行動をさっきからするんですよ〜。いくらなんでも大事な彼の妹、将来は私の義妹になる子なんだから、もっと女の子らしくなれないのかなって思ったりして、さっきから落ち着きがない様子なんだよね。姿格好はとっ〜ても可愛らしいのになぁ。

どんな風に可愛らしいかというとネ。上から説明すると、髪は超ストレートに毛先がシャギーのかかった純粋な黒髪で、長さは肩にかかるくらい。そして、目はクリッとしていていかにもコンタクトっぽい感じかな。それで〜、小さくすっとした鼻に、薄いピンクが塗られた口元、あごはきゅっとしまってるの。

それで、服装はというと〜、これが今風らしくて、首には茶色のマフラー、トップスはこげ茶のフリースに身を包んでいて、ボトムスにひざがすっぽり隠れるロングフレアを、スカートの裾からはそろそろ人気が下降気味の黒の厚底ブーツが突き出してるって状態で、背中には誰もが持ってるプ○ダのナップサックといういでたちはいかにも可愛いって叫びたくなるくらいなのよね。でも、がに股で歩いたり、足をつまづいたり、それに今落ち着きのない彼女は何かを我慢しているみたい。
私が聞いてみるとトイレだって言うから、じゃあ我慢しないで行って来なさいと言うと、恥ずかしいとか、言っちゃって見てられないのよね。あまりにもやせ我慢をしているようだから、私がついていくってことで一緒にトイレに行ってあげた。なんか、食事前だってのに感じ悪いのよね。私の王子様は一体どうしちゃったの?ようやく彼女に聞いてみたってわけ。

そしてたら、彼女が言うには自分がその王子様だとかって言うんだけどさっきも説明した通り、こんなに可愛い彼がいるはずがないって思うのよね。それで、もっと問い詰めてやったら、今日の朝に階段から落ちたらこんなことになっていたって言うのよね。なんだか信じられるような信じられないような話。

じゃあ、私の王子様には王子の妹が入ってるってわけなの?連れてきたら信じてもいいかなって思った私は、結局レストランで食事を取ったあと、彼だと主張する彼の妹に連れられて、一緒に彼の家へ行ったのね。するとそこには彼がいて、だらしが無いことに泣いてるのよ〜。みっともな〜い。

彼の両親は寝ちゃったみたいなので、途中で買ったクリスマスケーキを三人で一緒に食べながら、今朝起きたって言うできごとを二人に自供させたのね。もちろんケーキは彼のおごり。すると、お互いの心が入れ替わったみたいだって。ほんと変な兄弟なのね。彼のことを愛してなかったら、とっくにおさらばネ。

でも、これからどうしよっかな?彼と彼の妹が言っていることが本当ならば、私の人生にとって一番大切な日になるはずの聖なる日をどうやって過ごせって言うのよね。一体私どうしたらいいと思います?こんなことがあったらあなたはどうしますか?聖なる日だからって許せるってわけでもないですよね〜。一度考えてみてくださいね。




 

本作品の著作権等について

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