三人換女

作:夏目彩香(2000年6月18日初公開)


 


登場人物
貢(みつぐ)(22) 葵の元彼
葵(あおい)(21) 長女
茜(あかね)(19) 次女
翠(みどり)(17) 三女




第1話 はじまりはプールから


「よし成功だ。奴の言ったとおりだな」

学校の更衣室で彼女はぽつりとつぶやいた。周りの人が聞けば、彼女は意味不明のことを言っているようにしか聞こえない。なぜなら彼女は、ブルーのチェック柄が入った短めのスカートを身にまとい、そして、胸元には同じくブルーのリボンをつけている、まさに女子高生だからだ。足にはいまだに流行しているルーズソックスを履いている。この姿からは想像のつかないような言葉が飛び出した。

「さすがに若いだけあって、肌がきれいだよな。ちょっとの間楽しませてくれよな」

彼女は胸ポケットの中から生徒手帳を出して、じっくりとそれを眺めていた。

「これが今の俺の姿、葵(あおい)の妹の翠(みどり)だよな。まぁ、こうなる前から会った事があるから、たぶん気づかれないだろう」

そういうと彼女は、目の前にある全身鏡の前で、いろいろとポーズを取り始めた。

「これなら大丈夫。誰もが俺のことを翠だと思うだろう。葵と別れるときはとても悔しかったからな。葵のやつ、みてろよ。翠はお姉ちゃんのせいで、こんなに悪い子になりました。だから、神様ぁ。十分お仕置きをしてください。このスカートがどこまでめくれるのか、ちょっと試してみます」

そういうと翠はスカートの裾を持ち上げ始めた、そして、ショーツが見えそうな所まで持っていく。

「翠の足ってきれいだよね。これから、この体を痛めつけちゃうからね。覚悟しておきなさいよ。三人姉妹ごと地獄に落としてやるから。まずは私からね」

どうやら彼女は彼女ではないらしい。どいうわけか、他人の意識が翠の体を支配しているようだ。しかも、それはどうやら翠の上の姉である葵の元彼であった貢(みつぐ)の意識らしいのだ。彼はたしか、三日前に交通事故で死んでしまったはずだ。それに、彼の体は荼毘にふされてしまって、もう世の中に存在しないはずである。しかし、これにはわけがあった。

あれは、三日前…

貢が葵と別れてからずっと、葵のことをつけまわしてきた。別れても未練がたっぷりと残っているため、つきあっている頃よりも葵のことを考えるようになったのだ。そして、その日俺は未練を無くす方法として友人から不思議な薬をもらった。言われたとおりに貢は薬を飲み、そして、車を運転すると妙に興奮していた。アクセルを無駄なくらいに踏みつけ、そして、貢は単独事故を起こしていた。友人からもらった薬はただの興奮剤のようなものではなかった。

死んだはずの貢は意識を持っていた。いや、意識だけが残ってると言った方が正しいのかも知れない。実はあの薬は人間の意識と肉体を分離させる効果があるのだ。そして、その薬の使用条件としては強いショックを肉体に与えなくてはならないのだ。そこで、貢は車での単独事故を起こすことで、薬の効果を試すことにしたのだ。もちろん葵と別れた彼にとっては、自殺すらする覚悟がついているため、薬の信憑性を恐れることなく実行に移すことができた。

薬の名前は「換体薬」と言って、そこらで滅多に手に入れることができないものだ。どうやら闇のブローカーから手に入れることになるらいしい。薬の効果は、ただ意識と肉体を分離させるだけではなく、肉体が消滅したときには自分の肉体とは別の肉体に入り込むことができるのだ。これが換体薬の本当の効果なのだ。貢はこの三日間は意識だけで世の中を浮遊していた。そして、肉体が焼かれるのを拝んでから。いよいよ換体を行った。というわけで貢はそのターゲットとして葵の末妹である翠の肉体に入り込んでいる。

「それにしてもあいつがこんな薬持ってるなんて知らなかったな。俺の身体はもう無くなってしまったけど、誰にでも入ることができるから簡単にあきらめがつくってもんだ。それじゃあ、俺はこれから翠を演じることにするかな」

翠となった貢は独り言を続けていた。更衣室には誰も入ってくる気配すら感じないため、翠(=貢)は今のうちに着替えをはじめることにした。これから水泳部の練習が始まるためだ。このまま勝手に休むのはもったいないし、せっかく手に入れた翠の身体を試すのにはいい機会だ。翠(=貢)はブレザーのジャケットを脱ぎ、スカートのホックに手をかけた。布を抑えていた手の力を抜くとバサッとスカートが更衣室の床に落ち、目の前の鏡の前にはいやらしそうな顔をした翠が立っていた。

「これが、俺の身体なんだ。なんてきれいなんだ」

そういうと今度はブラウスのボタンを取り始め、下着だけの姿になった。ブラジャーのホックを外すと、高校生の割には大きめの胸が開放された。そして、大事な部分を護っているショーツを脱ぐと、何もつけていない翠がそこにはいた。

「これが女子高生の真の姿。。。だよな。いい感じだ。楽しむのにはまだ時間が早すぎるか……しょうがないな。水着を着るか」

そういうと翠(=貢)は水着を手に取り、それに足を入れ、肩に紐をひっかけた。ピタっとした感触を感じながら。翠のスタイルのよさに見とれていた。水泳をやっているせいか、普通の女の子よりは肩幅が広いが、それでも、くびれたウエストや大きな腰は魅力的だった。とりあえず、翠(=貢)はプールへと向かうことにした。黙ってここにいるよりも、もっと楽しいことをはじめようと考えたからだ。

プールにつくとそこには部員らしき人は1人しかいなかった。彼女はこの学校の水泳部の部長で、黙々と泳いでいる。名前は確か恵美とかいったはずだ。

恵美はプールからあがってくるなり翠に向かって駆け寄ってきた。

「翠!やっと来たね。遅かったじゃない。今日はみんな帰っちゃって私一人だったから、一緒に泳ぎましょ」

髪からしたたり落ちる水滴が色っぽく感じていた。そして、貢は翠らしく話し始めた。

「遅れてごめんなさい、恵美先輩。今日は一緒にお願いします」

「今日は翠しかいないから、私の後を泳ぎで追っかけてみない?やってみる?」

「ええ、やらせてもらいます。先輩。それにしても、この水着きついですね」

「水に浸かったらゆるくなるから、早くプールに入りなさい、ほらっ!」

そう言って、恵美先輩は翠(=貢)の背中を押して、無理やりプールに飛び込ませた。
翠(=貢)は冷たい水に驚き、

「びっくりしたじゃないの、先輩だからって許さないですよ」
「ごめん、翠ちゃん、悪気はないから。許してね」
そういいながら、先輩もプールに入ってきた。
「その胸を触らせてくれたら許してあげますよ」
「そう?いつも触らせてあげてるじゃないの」
「えっ。そうでしったっけ?」

翠(=貢)はそういいながら、恵美の胸を触り始めた。

「ああっ、ん〜」

恵美の甘い声がプールに響いた。翠(=貢)の手は休むことなく恵美の胸を揉み続け、

「先輩のって大きいですね。翠もこれくらい、大きくなりたいです」

「んんん、やめって。もう気持ちよくなってきたじゃない」

「あのー先輩、直接触ってもいいですか?」

そういいながら翠(=貢)は水着の中に手を入れていた。

「私、恵美先輩のことが好きだったんです」

「ひゃん、ひゃん、ひゃん」

もう恵美に言葉はでなかった。翠(=貢)の攻撃を無抵抗に受け入れているしかないのだ。一旦胸を揉むのを休止してから、

「なんて、気持ちがいいんでしょう。水の浮力がまたいいですよね、先輩」

「翠ちゃん、こんなことしちゃいけないよ」

「そうですか先輩ったら、遠慮しなくてもいいんですよ」

そう言うと翠(=貢)は恵美に口付けをした。それはとっても甘い口付けだった。そう、翠(=貢)が男だったときに葵に与えた口付けのように。

「ねぇ、先輩。水の中でこういうことってどう思います?とっても気持ちいでしょ」

翠(=貢)が一旦動きをとめる恵美は話し始めた。

「今日の翠ちゃんおかしいよ。いつもはおとなしい子なのに……」

「普段はこういう性格を隠していただけだもの。それに……」

「それに何なの?翠ちゃん」

「教えな〜い。もう私、帰ります」

翠(=貢)はプールから上がり、そそくさと更衣室へと向かった。翠の不可解な行動を目の当たりにした恵美はそのままプールの中から動けないままでいた。そして、翠(=貢)は濡れた水着を脱ぎ捨て、再び制服に袖を通し、学校をあとにした。

学校からの帰り道はまた見違える道だった。たまに歩くところもこうも変わって見えるものかと感心しながら街の方へと向かった。

「まわりから見たら女子高生なんだろうな。次はどうしようかな、家に帰ってこいつの姉さんにでもなろうかな」

そんなことを考えながら、翠(=貢)はミニスカートというものが、こんなに恥ずかしいものと感じていた。誰かに見られている感じが常にしている、この人に見られるのが快感だということを初めて知った。そして、街の中を歩いている時に交差点をひとつ曲がったところで思わぬ人に出くわすことになるのだった。



第2話 一夜の出来事


交差点を曲がって向こうから歩いてくるのは、貢が葵と付き合っていた頃によく話をしたことのある、翠の姉の茜だった。茜は翠(=貢)を見つけるなり近づいてきた。

「翠ったら、何してるのよ。子供はさっさと帰りなさいよね。それと、これから私は合コンだから帰りはいつになるかわからないからね。覚えといてよ」

翠(=貢)はその時パッと閃いた。茜に乗り換えれば合コンを楽しめるからだ。確か……ショックを与えればよかったんだよな。そう思うなり、翠(=貢)は、

「うん、茜姉さん。わかったから〜ちょっとだけこっちに来て」

「何よ、急いでるんだけど」

「ちょっとだけだから」

というと翠(=貢)は無理やり茜の腕を引っ張って路地裏に連れ込んだ。

「ねぇ、お姉ちゃん。ちょっと目をつぶってくれないかな」

「何よぉ。そんなこと言って」

「いいから、つぶってよ」

「しょうがないなぁ、こう?」

翠(=貢)は目をつぶった姉に向かって頭をたたきつけた。路地裏にはゴチンという鈍い音が広がっていった。
そして、意識が戻り始め貢が目を開けると目の前には翠の身体があった。

「また、成功!っと」

まだ頭がくらくらとしているが、茜のバックから手鏡を取り出し中を覗くと思っていた通りに茜の姿がそこにはあった。そして、目の前にいる翠の意識が戻りかけていたため、とりあえず、近くの店の化粧室に入り込んだ。鏡をじっと見ると、さっきまでの翠よりも大人の雰囲気を持った茜の姿が見えてくる。

翠よりも若干大きめの目と、はっきりとした唇が特徴的だった。髪は肩までのセミロング。黒いワンピースを着ていた。スリットが妙に長くて足元を魅力的に見せていた。そして、足には黒のハイヒールを履いていた。そして、茜のバックの中から手帳を覗き見るとそこに、合コンのことが書いてあった。どうやら19時からこの先の角にある店で行われるらしい。茜(=貢)は化粧室の鏡の前でじっくりと自分の顔を観察し、それから、合コン先へと向かった。

合コン先へ到着すると、店の奥の部屋へと通された。そこには、2人の男がいる以外に誰も来ていなかった。席は4つ用意されているようなので、もう一人来るはずだ。そして、茜(=貢)は男の一人から話し掛けられた。

「茜さんですか?待っていました。どうぞ、おかけになってください。友達は来れなくなったんだってね。僕ら二人と君一人だけなんだけど、それでもいいなら一緒に食事でもしてください」

それに続くようにしてもう一人の男が話し始めた。

「はじめまして、茜さん。あなたのことはかねがねこいつから聞いてます。女子大生との合コンは初めてなので、どうやったらいいのか……よろしく」

茜(=貢)はとりあえず、席に座った。

「茜です。よろしく。あなた方のお名前は?」

「俺は隆史、そして、彼は裕二って言います。よろしく」

さっきの初めに話し掛けてきた彼がそう言った。

「まずは、何か飲みましょうか、茜さん。オーダー決まりました?」

裕二に注文を聞かれると「えっと、私。アルコール飲むと人変わっちゃうって言われてるんです。でも、今日はいいですよね。赤ワインでもいいですか?」と答えた。

「いきなりワインですか。茜さんて育ちがいいんじゃないのかな?俺たちなんていつもビールばっかりですよ。わかりました。今日は俺たちがおごりますよ」

「そんな悪いわ。おごってもらうなんて」

「いいですよ。裕二と俺はいつもこうなですよ。合コンは名ばかりで、今日は茜さんに来てもらうことが目的ってことだったですよ」

「それって、もしかして私はめられちゃったのかな?」

茜(=貢)がおどけた表情をすると、

「ごめんなさい!茜さんの友達に頼んで、こうやって集まるように仕組みました」

裕二は素直にそう答えた。

「そうなんだ。やっぱり……それなら、どっちが私のこと好きなの?」

そう言うと突然、隆史が立ち上がった。

「ごめん、俺用事を思い出したわ。あとは頼んだな」

「おい、もうちょっといてくれよ。二人っきりになったら何を話したらいいのか……」

「とにかく、俺は帰るからな、あとは頑張れって。大丈夫だから」

そう言って、隆史は店を出て行った。

「行っちゃったね」

二人きりになった席で茜(=貢)は切り出した。

「裕二君のほうが私のこと好きなんだ」

裕二はゆっくりと首を縦に振った。

「やーっぱり。でも、おとなしすぎるよ。茜を口説くにはまだ若いわね」

「じゃあ、駄目ですか?」

「駄目じゃないわよ。私の言うこと聞いてくれるなら、考えてもいいし」

「ってことは、俺次第ってこと?」

「まずは、お腹空いちゃったから、ご飯食べながら考えるわ」

「言うことならなんでも聞きますよ。だから、つきあってください」

「おおーっと。本気なのね。さすがにこの体つきじゃあ、無理ないよね」

裕二は少しづつ落ち着きはじめた。

「まずは、食事しましょ」

といことで、合コンだったはずが二人っきりでの食事に切り替わってしまった。
そして、食事が終わると裕二が話はじめた。

「次どこへ行きますか?」

すると茜(=貢)は「そうね、ホテルなんかいいんじゃない」と答えた。

この時、裕二は口に入れているものを噴出しそうになってしまったが、なんとかこらえた。

「それって、本気ですか?」

「言ったじゃない、言うこと聞いてくれないなら駄目だって。一緒に行ってくれる?」

「それはもちろん、行かしていただきます」

「それじゃあ、決まりね。そこで、何もかも話すから!」

意味ありげな茜(=貢)の言葉は裕二には届いていなかった。
二人はネオン街へと足を運んだ、人気が少ない時を見計らって、ホテルの部屋へと入り込んだ。

部屋に入るなり裕二は、

「いきなりこんなとこに来ちゃっていいのかな?俺は別にその気があるわけじゃ……」

「あるんでしょ、だから私をこんなところに誘ったんじゃないの」

「何でもお見通しだなぁ。茜さんて……もしかして俺のこと好きだったりする?」

そう裕二が言うと、茜(=貢)は甘い声で、

「ええ、好きよ。あなたになら私のことあ・げ・てもいいわよ」

裕二の耳元で囁いた。

「それ、とっても嬉しいよ。俺のこと好きだなんて言ってくれたの、茜さんがはじめてだから。今日は大丈夫なの?」

「ええ、たぶん大丈夫。安全日みたいだから」

「たぶんって、どういう意味?自分のことだから知ってるんじゃない」

そう言うと、茜(=貢)は薄気味悪い顔を浮かべながら、

「だって、本人じゃないんだもの。わかるわけないじゃん」

「本人じゃないってどういうこと?」

裕二の疑問に茜(=貢)は口を開いた。

「まぁ、無理もないよな。この体を動かしているのが茜じゃないってのに気づくわけないからな。俺のことを知ってるわけもないだろうから。なぁ、裕二!」

裕二にとっては最後は聞き覚えのある語調だった。

「もしかして、お前は貢か?まさか?そんなわけないだろう」

「そう、お前からもらった薬を試してみたんだ。自分の体を犠牲に他人の体に乗り移ることのできる薬のおかげだ」

「ってことは、あれは本物だった、ってことか?」

「そいうことだ。だから俺は、俺のことを捨てた葵の妹に乗り移ってみたんだ。次はいよいよ葵になろうと思ってる。その前にちょっと、お前と楽しんでもいいかなと思ってな。ここに連れてきてやったんだ。こんな娘は滅多にいないぞ」

「そうか、わかった。お前は確かに貢だな。お前の癖が俺にはわかる」

茜(=貢)は少し安心した表情で話を続けた。

「わかってくれたか。それじゃあ、俺の言うことを聞いてくれるか?友達だったろ」

「ああ、その体で貢だと言うんだから断ることはできない。何だ?」

「決まってるだろ。ここでやることって」

「そりゃそうだ。でもそれだけじゃないんだろ。きっと」

「よくわかるなぁ。お前、やっぱり俺の友達だっただけあるな」

「お前の言うことにはことごとく呆れたもの。何なんだ言って見ろ」

裕二は茜(=貢)の目を見つめながらそう言った。

「それは……茜だと思ってやって欲しいんだ。貢だと思うとやりにくいだろ」

「どういうことなんだ?詳しく教えてくれよ」

そいうと茜(=貢)は、全身を映し出す鏡の前に立ちながら、ゆっくりと振り向きこう言った。

「裕二さん、私のこと好きにしていいわよ?」

「貢!冗談はよせよ」

「貢って誰のこと?私は茜よ。間違えないでよ」

裕二は茜を受け入れる準備ができているのだった。



第3話 やりたい気持ち


「ねぇねぇ。何やってるのよ。今日は私のことを好きにしていいんだけどなぁ」

茜は裕二の目を見つめ、甘えるような口調で話しかけた。裕二の方は、やりたい気持ちを抑えこんでいた。

「そんなこと言ったって、俺はやる気はないからな。貢とやるなんて考えただけでぞっとするぜ」

そう言って裕二が部屋から出ようとするところを、茜が裕二の手を取って引きとめに入った。

「ねぇ、帰らないでよ。お・ね・が・い」

「そんなこと言ったって、お前は絶対に貢なんだから。茜になりすましたって駄目だ」

そう言った瞬間、茜の体が崩れるように寄りかかってきた。

「どうしたんだよ。貢!何があったんだ?」

ほんのわずかだったが、裕二に茜の体が重くのしかかってきた。そして、その重みが少しづつ軽くなっていた。

「あれっ?ここどこなの?あなた誰なのよ?」

手で頭を押さえたまま、ここがどこなのかわからない表情を茜は見せた。

「もしかして、茜さんですか?」

「よく知ってるねぇ。どうして私こんなとこに来てるの」

さっきまでの茜とは明らかに仕草が変わっていたため、裕二は本当の茜だと確信した。

「それは……俺が連れてきたんだけど。茜さんは誰かに乗り移られていたみたいなんだ」

すると茜は驚いた表情を見せ、

「それって、本当なの?いやっだあ。私が誰かに操られていたってわけ?」

「そうなんだ。さっきまでしつこく俺に迫ってきていた」

「そうなの?とにかく、私疲れてるからとりあえずシャワー浴びてきていい?」

「お前、怖くないのか?」

「怖いわよ。また誰からに乗り移られるかも知れないんだもの。でも、汗かいちゃってるからこのままじゃ、とりあえず、シャワー浴びたら帰るから」

「俺だって男だからな。早く帰るぞ。それまでは待ってやる」

「ありがと。じゃあ、浴びてくるね」

そう言うと茜はシャワー室へと入っていった。

裕二は一人ベッドの上でさっきのできごとを考えていた。思いすごしではないが、貢の奴はどうしてるのだろう。裕二には茜は本当に茜だと思えた。だから、貢はいるにしてもどこか別の場所へと行ってしまったに違いないと思うのだった。

裕二は茜がシャワーを浴びる音を聞きながら、これからのことを考えていた。いくらなんでもこのまま帰るわけにはいかない、そうと考えた彼は、改めて茜に告白を迫った。シャワー室の前まで行って、茜がそこから出てくるのを待った。

シャワーの音が止み、シャワー室の前にあるカーテンが開いた。そこには、バスタオルを羽織ったままの茜がいた。そこから茜がでてくるなり裕二は口を開き始めた。

「あのぉ、茜さん。もしよかったら……」

「もしよかったら何なんですか?」

裕二はそのまま茜を抱きしめ、そして、茜の唇を奪っていた。茜の方もそれを当然のことのように受け入れていた。

「私でいいの?」

「うん、いいんだ」

そう言ってから、二人はベッドの中へと場所を移した。洗いたての髪のいい香りをただよわせながら、茜はバスタオルを脱ぎ始めた。裕二は茜の長い髪に触れるくらいの距離で、茜に話かけた。

「ほんとに俺で構わないな?」

「ええ、だってここにいるのが運命みたいなんだもの。私の知らないうちにここで二人っきりなんて、シャワー浴びてるときに考えたんだけど。あなたのこと好きになった見たい」

「そっか。じゃあ、はじめるな」

そう言ってから、裕二は自分の服を脱ぎ捨てた、もちろん下着も床の下へと無造作に置き去った。それから、茜のバスタオルをめくるようにはがし、それも床下へ投げ捨てた。二人は長いキスをしながら、裕二の右手は茜の胸に、左手は茜の陰部へと伸びていた。

「あぁん」

ちょっと彼女の感じる所に指がいったのか、甲高い声を茜はあげた。

「もっとして。下のほうが気持ちいい・か・ら」

茜の命令を聞き入れるのごとく、裕二は茜の下腹部へと手を入れ、そこを激しく撫でるように誉めはじめた。彼女の陰部から少し愛らしい液体が出始め。裕二のものもどんどん大きくなっていた。

「んんん、あんあん。今度は私がお返ししてあげる」

そう茜は言うと、裕二の包茎を舐め始めた。茜に舐められるせいか、裕二のものは更に大きさを増して堅くなるっていった。

「なぁ、そろそろ準備できたか?」

茜のあそこはもうじっとりと濡れていた。裕二のあれも充分な堅さを持っていた。

「ああ。それじゃあ、そろそろいれていいかい?」

「茜をもうちょっと喜ばせてくれたら、いいわよ」

そう言うと、裕二は茜の形の整ったおっぱいに手を入れ、それを優しく揉み始めた。

「ふぁん、ふぁん、ふぁん。いいわ。もう入れて!」

茜の興奮は絶好の状態になっていた。そして、裕二は茜のあそこへ自分のあれを挿入し始めたのだ。

「ゆっくり入れてね。痛くしないでよ」

そういわれた通りに裕二はゆっくりと茜のあそこに挿入していった。そして、腰を縦に振りながら、なるべく奥にまで届くようにした。

「あーん。あーん。んっあーーん。もう駄目、私いっちゃいそう」

「俺もだよ。それじゃ、行くよ」

裕二は一生懸命になって溜めていたものをあそこの先から吐き出した。そして、裕二は精力尽き果て、目の前が真っ白になっていた。

「おぃ、大丈夫か」

茜の声でそういう言葉が聞こえた。

「おぃ、裕二ったら、だらしない奴だな」

茜はなんぼ呼んでも起きない裕二のために、取って置きの作戦に出た。

「ねぇ、裕二さん。起きてぇ。茜ね、淋しいの」

その声で裕二はようやく目を覚ました。

「ようやく起きたか、裕二。俺との初セックスは気にいってくれたようだな」

茜の口調に裕二は驚きを隠せなかった。

「お前、もしかして、貢だったのか?」

「そうに決まってるだろう。ああでもしなかったらお前に相手にされなかったよ。たまにはこういうのもいいものだろ?」

「わかったよ。とっても楽しかったよ。お前には参ったから、早く茜さんに体を返してあげなよ」

「そうねぇ。どうしよっかな?」

茜(=貢)は思いっきりはにかんで見せた。

「だから、それやめろって。早く出て行った、出て行った」

「どうしよっかな。このままで一生ってのもいいんだけどなぁ」

「お前はいいかも知れないけど、茜さんはどうするんだよ」

「それじゃあ、今度は葵になるつもりだけどいいの?」

「お前、それ正気か?元彼女に入り込むつもりなのか?」

「そのまさかなのね」

左眼で軽くウィンクを茜(=貢)はしてみせた。

「まぁ、俺はそれを知っていたからあんな薬をやったけど、そろそろ変な効果が出てこなきゃいいんだけどな。とりあえず、俺は気が済んだからな。また、悶々とした日々を過ごすよ。お前には確かに彼女のことを恨んでるだろうからな。せいぜい憂さ晴らしでもしてくれよ」

「ありがと!裕二くんって素敵なんだから。チュッ!」

裕二にとってはもう目の前にいるのが茜なのか貢なのかはどうでもよくなっていた。

「それじゃ、帰ろっか」

そう言って茜(=貢)と裕二はホテルをあとにした。



第4話 成功は成仏のはじまり


「なぁ、貢。お前、後悔してないか?」

ホテルからの帰り道二人は並んで歩きながら裕二が聞いてきた。

「そうねぇ。後悔なんてしてないわ」

「お前、その口調やめろよ」

とっさに裕二が言い返すと、

「だって、茜の姿で男口調なんてイメージ崩れるだろ。この顔で俺って言ったら、どう考えたっておかしいぜ」

「そうだ、そうだ。わかったよ。さっき言ったことは忘れてくれ。ところで、これからどうするつもりなんだ?今度は葵さんに乗り移る気なんだよな?俺が手伝ってやろっか」

「えっ?手伝ってくれるの?それって本気?」

「マジだよ。お前の最後の頼みごとになるだろうから」

「それって、どういうこと?最後の頼みごとって?」

裕二は心の中で決心してから言葉を続けた。

「実はな、貢には言ってなかったけど、あの薬はなぁ。自分の願いが叶ったら、そのまま成仏してしまうんだよ」

「それって……なんでそんなことまで知ってるの?」

「だいたいな、あれはそこらじゃ手に入らないものなんだ。入手方法は言えないけどな。まだ実験段階だったからどうやら安心してしまうと体への癒着度が低くなるみたいなんだ」

「ってことは、今は茜の体にいるけど、これから葵の体に入ったら……」

「だって、それがお前の願いなんだろう」

「そうだけど、それならそれでいい。俺の選んだ道だもの、人生最後の時は楽しく終わらせたいよ。あとは、葵の体で思う存分したいことをするだけだ」

「まぁ、お前は事実上死んでるんだからな。今はおまけの人生だもんな。その最後の時間を助けてやろうと思ってな。昨日のお礼?もあるしな」

「ふ〜ん。そんなに茜とやりたかったのか?お前もやるな」

「お互い様だよ」

そう裕二が言うと、茜(=貢)と一緒に軽く笑ってしまった。

「でもな裕二。葵は一人暮らしなんだぞ。俺は今、茜なんだから別に手伝うことなんてないぜ」

「やめろよ、茜。その言葉遣い」

「ごめん、そうだったわね。手伝ってもらわなくても茜は大丈夫なんだけどな」

「そこが甘いんだよ。お前が葵になったら、本当の茜さんが一緒にいることになるんだから、そこを俺が手伝ってやるんだって」

「そういうことなのね。わかった、わかった。ってことは、裕二さんに茜のことは任せちゃっていいのね」

「まぁ、そういうことだ。それなら俺も手伝い甲斐があるからな」

「ふ〜ん。裕二さんってそこまで考えてたんだ。ずるいわね」

「すまん、すまん。お前のためだけじゃなく、俺のためにもなるから協力するなんて思っただろう」

「いいわ。私をサポートしてね」

ということで、裕二は貢が葵に乗り移るための手助けをすることになった。本当の茜に戻ったときのことを考えると、確かに誰かと一緒にいれば不自然ではない。そのせいもあってか茜(=貢)は理解してくれた。葵のマンションへ向かう時の二人はなんだか、遠距離恋愛の別れを惜しむような心境だった。

10分ほど歩いて、葵の住むアパートの前まで来た。土曜日の朝に茜が葵の家を訪ねるのはよくある光景だったので、こうやって玄関のチャイムを鳴らすのも不自然ではないのだろう。ピンポンと音がした後で、葵が扉を開けてくれた。

「あら、茜ちゃん。今日はどうしたの?とにかく、あがって、あがって」

中から現れた時の葵の姿は、上はタンクトップに下はキュロットのラフな部屋着を着ていた。

「じゃあ、おじゃましまーす」

その時、葵は「えっ」とでも言うような表情を見せ、

「茜ちゃん。どうしちゃったの?いつもはそんなこと言いもしないのに」

「だって、これからお姉ちゃんにおじゃまするんだもの」

そう言って、茜(=貢)は思い切り頭を叩きつけた。ゴチンという鈍い音がまたも聞こえた。貢は少しの間、前が見えなくなったが、徐々に新しい感覚を感じ始めた。さっきまでよりも更に高貴な感じがする。さらなる大人の女性に入り込んだと確信した。

目の前がゆっくりと明るくなってきた。さっきよりも胸が大きく、腰も大きくなっている。髪も更に伸びていて、肩を越えるくらいの長さになっていた。そして、台所の鏡を見るとそこには、貢の元彼女の姿が写し出されていたのだ。黒く長い髪を触りながら、すっと通った鼻筋にパッチリとした大きな目だった。まだ、化粧をしていないのか、そこにはいつも見ていた葵とは少し別人に見えた。

「ねえ、裕二。成功したみたい」

外にいた、裕二を葵(=貢)が葵の家に招き入れた。

「あとは、茜のことお願いね」

「わかってるて。もうあの世にいっちまうんだろうから。これが最後だよな。今までありがとう。お前結構、可愛かったよ」

「あらあら、茜さんに夢中みたいね」

葵(=貢)はいったん間を入れてから、

「裕二に言っておくけどな。俺は決して後悔してないぞ。お前のおかげでこうなったんだ。ほんと感謝してるからな。あとは、意識がなくなるのを待つだけだ。それまでに、やりたいことをやろうと思うよ」

「そっか。わかった。俺の予想だと明日になればお前は……じゃあな、あとは一人で楽しめよ」

「おぅ。それじゃあな。そうそう、葵の体ってな三人姉妹の中で一番いい感じだぜ。さすがに俺の女だったことがあるよな」

「お前、恨みを晴らすんじゃなかったのかよ」

「そうだったな。それじゃあ、本当に最後のお願い聞いてくれるか」

「なんだよ。急に早くしないと茜の意識が戻るぞ。聞いてやるって」

「それじゃな、夕方になったらここに来てくれ。それだけだ」

「それじゃあ、俺は茜を家まで送ってくるから。最後の日を楽しんでくれよな」

「ああ。絶対に来てくれよ」

「お前があの世に行くのを見届けてやんないとな。それじゃな」

そう言って、裕二は茜を背負いながら葵の家を後にしていった。

約束どおりに夕方になって、裕二は葵の家を再び訪れていた。貢が言っていた通りに来てやったというわけだ。少しだけ緊張しながらチャイムを押した。すると、部屋の奥のほうから「は〜い」という声が聞こえた。そして、ガチャット言う、音とともに玄関の扉が開いた。中からは、朝に見た時とは比べ物にならないくらい、美しい女性がでてきた。

「どなたです?押し売りはお断りなんですけど!」

その時、裕二は自分の目を疑ってしまった。どこからどう見たって葵に違いないように見えたのだ。

「あの〜。俺のこと見覚えありませんか?」

すると葵は、

「う〜んとね。わかんないような。見たことあるような。ちょっと待ってね。思い出してみるから」

「貢って知ってるよね。その友達で裕二って言います」

「そうだったの?私、あいつとは別れたの知ってるでしょ。何しにきたの?」

「ここに来るように言われたから、来たんだぞ。芝居はもうそのくらいにしろよ、貢」

葵は、何言ってるの?といいたそうな顔をしてから。

「あなた問題なさそうだから、とにかく上がってよ。一人で退屈していたから。貢の友達だったんなら。心配ないしさ」

「うん、お邪魔します」

「とりあえずは、このソファーに座ってくれない?ちょっと部屋散らかってるけど、気にしないでね」

「見知らない男の人を入れるわけないから、やっぱりお前、貢だろ。白状しろって」

「だ・か・らぁ。さっきからあなた何言ってるのよ。私が貢ってどいううこと」

「そっか。そこまでしらを切るようなら、朝からの出来事を話してくれないか?」

「朝からの出来事って、あなたって強引ね。いきなり、レディーに向かって何話し掛けるのよ」

「とにかく、話してくれないか」

少し怒るように裕二は言った。

「そうねぇ。朝は7時に起きて、それからシャワーを浴びたわ。そして、コーヒーを入れてくつろいでいたら、妹の茜がチャイムを押して……あれっ?そのあとの記憶が少し飛んじゃってるみたい。昼までなにをやったのか、ぜんぜん覚えてないよ」

「本当に?じゃあ、本当に葵さんなのかな?」

「それは当然のことじゃない、だいたい行きなりそんなこと聞いて、おかしな人ね」

その瞬間、葵の下がちょこっと出して笑ったのを裕二は見逃さなかった。

「やっぱり、お前は貢だろ!からかうのもいい加減にしろ!」

叱り付けるように裕二は葵に言った。すると葵は、

「ん〜。やっぱり引っかからなかったな。私の負けね」

「まだ成仏してなかたな。貢のことが心配で来てやったんだぞ。このまま誰にも気づかれないであの世に行ってしまったら、浮かばれなくなるぞってな」

「じゃあ、その時が来るまで一緒にいてくれる?」

葵(=貢)は猫なで声をだしながら言った。すると裕二は、

「ああ。いるから安心して、逝ってくれ」

「なんだか、縁起悪いこと言うなよ」

「だって、お前はもう死んでる存在なんだからな。この世の中ではもう貢の存在はないんだから」

「そりゃそうだな。そうそう、朝から今まで、人生最後の日のために準備してきたんだ」

「恨みは晴らせたか?」

「それなんだけどな。こうなってしまうともうどうでもよくなったんだ。それに……」

「それに何だよ」

「それにお前のことが好きだから。だから、こうやってきれいに化粧もしたし、この洋服も着ているんだ。俺と最後に別れた時とまったく同じ化粧、同じ衣装だぞ」

「俺のことが好きだって?どいうことだ」

「それは、昨日は茜だったけど経験したじゃない。今度はこの体でいかせてね。葵からのお願いだから」

「お前とはできないよ」

「もう、またそんなこと言ってぇ。きっと私の方が気に入るよ。俺とやったことあるけど、その時は興奮して収集がつかなかったもの」

「そんなに誘っても、駄目なものは」

裕二がそこまで言ったところで、葵(=貢)の唇で話を止められてしまった。

「お前なぁ」

「いいじゃない、私は裕二のことが好きなの。ごめんね茜ちゃん」

貢はそうやってこの世で最後の時を楽しく過ごしていったのだった。



(終わり)





 

本作品の著作権等について

・本作品はフィクションであり、登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
・本作品についてのあらゆる著作権は、全て作者の夏目彩香が有するものとします。
・本作品を無断で転載、公開することはご遠慮願いします。

copyright 2011 Ayaka NATSUME.

inserted by FC2 system