k27さん短編総合


焦げた懺悔と教誨――海賊版ゼリージュース
作:K27


 今は使われていない廃品置場の捨てられた自販機前で、俺は一心不乱に飲み下していた。
 白く痩せた喉をごきゅごきゅ鳴らしながら。雪肌の手でボトルを懸命に絞るように掴み。
 まさか……出会えるとも! まさか……手に入るとも! 実際は毛程も思ってもいなかった。巷で噂のゼリージュースを。
 だけど……俺は……チクショウ。何でこんな事に。

 これも全てはアイツの所為だ。
 
 アイツさえ俺を誘拐しなければ!



 捕まえられたある男の記録 前編


 話を一月程前に戻そうか。
 
 勤めていた○○商事が、知らぬ内、何時しか借金まみれになっていた。俺も表面上は気付かなかったし、いや気付けなかったといった方が良いか。
 いきなりだ。連絡もなしに国税局の制服組が会社に入ってきて、経営の差し押さえをしたんだからさ。何が起こっているのか一般社員の俺には到底理解できなかった。
 その時社長は、私用でいなかったけど、確か……専務が対応に出ていたっけ。
 査察官と専務の激しい口論の末、意味も甲斐も成さず、結局数日と経たない内に運営の差し止めが決まったんだよな。
 後に聞く話だと、社長一家は夜逃げ。とまあこの時点で社員に対する裏切り行為だわな。
 勿論、残された社員は路頭を迷う事間違いなしって訳さ。
 これも最近では良くある話。リーマンショックだの、景気悪化だの、政治悪化だの、何だのかんだのと影響を何時までも引きずり、経営が上手くいかずに破綻するのは、近頃良くある事だったから。
 一旦落ち始めると下降は何時までも止まらない。何処までも落ちるだけだ。
 端的に言えば派手にやりすぎ。対応できず昔のような考えのまま、経営を続けていたと言う事だろう。それも地方都市なら尚の事さ。
 要は時代に対応出来なければ、後は滅びるだけなのさ。なんつーの、ほら、恐竜の絶滅とかにこれって似ていない? あれ、反応が悪いな。やっぱ俺だけかよ。
 まっ、正直マイっちまうよな。社長の誤魔化しにも、あっさりとした倒産勧告にも。
 人間不信って言うの? 人って奴をほとほと信じられなくなったよ……はぁ〜。
 溜息をこぼすと俺の目前の男はあからさまに嫌な顔をしていた。
 んっ。あ〜悪りぃ悪りぃ、気分を害したな。んじゃ話を続けようかい。
 
 あれは……俺を含めた社員の誰もが職探しに追われ、身を粉にして費やしてた時期だった、と思う。曖昧だがちょうど――会社が倒産してから一週間後くらいの事だな。
 俺が摩訶不思議なゼリージュースと出会ったのは……そもそもアレが俺の人生を狂わせれくれたんだよな。
 あ? ンだよ? その顔は? もしかしてアンタ……ゼリージュースを知らないクチか。

「…………」

 ――確かにな。あまり一般では売られていないからな。近頃じゃ特定の場所やネットとかか。でも、名前位は聞いた事あるだろ? え……ないって!? ま、マジかよ。う〜ん。
 と、とにかくだな。味は抜群。滑らな舌触りで、コクもあり、喉越しも良く、完璧な一品なんだよ! うん!
 こう、思い出すだけで……本当に美味かったなと思える。あのゼリージュースは……特になぁ。
 いや、いけないなぁ。思わず感傷に浸ってた所為か、話が少し横にそれたな。それじゃ、話を更に進めようか。
 その前にタバコ。悪いけど貰えれば助かる。ん? な、何だよ、んな呆れた顔すんなよ。しょうがないだろ。一種の中毒みたいなモンなんだからよ。

「ハァ、仕方ないな」

 俺の話し相手である、目前の若い男は徐にYシャツのポケットから渋々タバコを取り出す。ごつい指で弾き上げ、トントンと一本だけ取り出してくれた。箱のパッケージは見えなかったが、形から確りとタバコだと分かる。
 頭を何度も奴に下げ、『すまないな、兄さん』と軽く会釈をした。
 目前の男からタバコを一本、直接、皺の寄った唇に渡され、不自由そうな顔つきで俺は咥える。たまに痛みが奔り、下顎が僅かに震えていた。
 疲れている所為か視界もボヤケ、体が余り言う事が利かないな。自分でも分かる。多分顔色も酷く悪化しているのだろうな。憔悴しきっているように男には映っているんだなと。

「フフッ」
「何が可笑しい?」
「別に」

 自分の姿が映るマジックミラーを見ながら笑った。骸骨みたいな貧相な顔だな……俺は。

「それにしても」

 やっぱり、タバコは良い。咥えただけで一瞬にして身体に生気が漲ってくるようだぜ。最高、だな。
 自分の顔全体に明るさが差し、笑みが宿り、綻んでゆくイメージが脳裏に浮かぶ。
 あぁ〜、これだ。葉の匂いを嗅いだだけで、俺の大好きなフィリップ○リス社のブランドタバコ――○ルボロだとすぐに分かってしまう。
 俺はこのタバコのメンソール味が堪らない程好きなんだよ。高校時代は毎日のように吸っていたし。今じゃ肺が真っ黒に染まるほど焦がれている。
 自慢の恋人のように何時だって一緒だったっけ。部屋で彼女と熱く触れ合いながら吸う、タバコの蕩けるような苦い味わいは今だって覚えている。忘れられない経験だ。
 唯一違いがあるとすれば、コイツだけは俺を裏切らないって事ぐらいだけだな。
 けど――ホントの所、好きなのは、何となくアレと味が酷似しているからかも……な。

「どうした? 好きなんだろ? 俺に遠慮せず吸えば良い」
「ん……あぁ? だけど……」
「! そうか。悪かったな。少し、待てよ。どれ……俺の側まで顔だけ寄せろ」

 俺は男の指示通り、げんなりする程痩せた顔を男に近づける。男はスラックスのポケットから四角い物体を取り出した。
 ――こいつ。若い癖に結構気が利いているじゃないか。見ると男がポケットから取り出したのは熟女の絵柄がプリントされたマッチ箱。多分ヴィンテージ物だろう。
 中から一本取り出し、指でも鳴らすかのようにしてシュッと擦ると、タバコに火を点してくれる。
 どうやら男は、香りが逃げないようにライターでは無くマッチを使ってくれたようだ。
 美人でもない、俺みたいなむさ苦しい男に対して配慮が行き届いている。仕事柄と言ってしまえば、其処まで何だけどな。
 ま……有り難いな。俺は頬や唇を窄めて肺に一息入れると、鼻から煙を絞り出し、静かに落ち着く。
 もう一息入れようとした時、男は俺からタバコを引っ手繰るようにして取り上げた。
 男は自らの指先でヤニを抓んで消している。
 ――飴と鞭かよ。
 フッと男は鼻で笑うと、勢い良く机を叩き、話の再開を促す。 

「どうだ満足か? では、コチラの番だ。さぁ、話して貰おうか」
「分かった。良いだろう。だがその前に減刑は確かなんだろうな?」
「確かだ。約束しよう」
「信頼できるのか?」
「何なら署名でもしようか?」

 男はデスクから概要と特記事項の書かれた紙とボールペンを取り出し、署名欄に自らの名前“大内輝夫(おおうち てるお)”と先に書いて俺に見せ付ける。とボールペンと紙をすぐさま手渡してきた。
 だけど俺は紙とボールペンを突き返す。奴の親切な態度を見てかは知らないが。
 ただ言えるのは、大内は虫も殺さないような優しい顔していると言うことだ。鼻なんて平べったく垂れ、上唇に付くような感じだ。何処と無く愛嬌のある顔をしている。
 しかもデカイ図体をしているが決して威圧的ではない。背中が丸まっている所為かも知れないのだが。
 奴の姿をじっくり見ていると面白く、人間不振なんて言葉、吹き飛んでしまう。久々に人を信じてみようと言う気分になってしまうのだ。
 まぁ、自分でも可笑しな事なのだが。
 
「いや、良いよ、アンタを信じるよ。だけど一つだけ頼みがある」
「分かっている。お前の身の安全だろ?」
「そうだ。それと、これから話す事は一字一句漏らさずに聞いてくれ」
「ああ」

 と大内が頷きながら、デスクからレコーダーを取り出しスイッチを入れた。

 カチリ。と機械音が部屋に反響する。



 あれは――仕事も見つからず、何時ものように当ても無く彷徨っていたんだったな。
 それと……あの日服装は……そうだな。排気ガスに塗れたような古惚けた作業服を何時ものように着ていたっけ。
 ん、薄汚れた手で腫れぼったい眼を擦りながら、求人紙片手に一応歩き回っていたんだったな、確か。

「仕事……見つからネェーなぁ。やっぱ不景気だから仕方ないのかもな……やんなっちまうぜ」

 視線を落としてみるとビジネスシューズが眼に入った。よれよれで皺が寄って豪く年期の入った靴だ。俺の細いコケた脚と同じように貧相に見えてしまう。
 靴はカツカツと言う乾いた音を鳴らし、底を磨り減らす度に口からも靴からも溜息が漏れている気がした。
 胸ポケットに差し込まれたマルボロの箱包みから、タバコを一本取り出し火を点す。白煙を気持ち的にフッと吐くとそのまま軽足を進ませる。
 タバコを色の悪い唇に咥えたまま俺は暫くノラリクラリと歩いた。トボトボと繁華街の薄暗い路地裏に差し掛かった、そんな時だ。後ろから奴に肩を叩かれたのは。

「お兄さん、お兄さん。ちょっと良いデスカ? 時間アル?」

 発音の悪いカタコト言葉。きっと外国人らしい。後ろから声を掛けられて振り向いていないが多分そうだ。
 声の印象は乱暴ではなく、何処か穏やかで物腰が丁寧な感じがした。生来の雰囲気なのかも知れない。
 俺は歩くの止めないで話す。

「セールスか、何かかい? 悪いけど俺、金も何も持っていないし、今日は疲れているんだ……頼むからほっといてくれよ」

 相手の顔も見ず掌を横に振った。疲れている上に面倒、何もかも信じられない。言葉の壁だってある筈だ。忙しいので構ってはいられない。
 しかしセールスと言うのは断られた時点で二種類分かれるのは経験上知っている。つまり其処で諦める奴と諦めない奴にと言う意味だ。
 都合が悪い事にセールス(彼・彼女)は諦めないタイプだった。右肩を掴み、セールスは俺にしつこく突っ掛かってきた。

「なら! コレ飲んでミル。疲れ吹っ飛ぶヨ。お客さん、時は金ナリヨ、タダで良いからノム。今すぐ」

 栄養ドリンク? 漢方薬? はたまた麻薬じゃないのか? 好奇心。俺の隠れた欲求が反応したのか、何故か振り向いてしまう。
 眼前には、瞳の大きな女のようで、肩幅が広く身体付きの良い男のような、両性の要素を含む、平均的な姿をした、男? 女? この際どちらだか解らない。がとりあえず服装は、紺の背広に白いワイシャツに派手な回転灯のようなネクタイ。身なりから察するにリーマンだろう。
 黒髪は女みたいに長く、余った髪はポニーテールのように一本に縛っている。
 見た目で判断する限り、何となくだが、アジア系の人間だと言う事は解る。ただし、日本人では無いだろう。

「オッ、振り向いたネ。興味デタカ。さぁ、膳は急げ、コレ飲むヨ!」

 唐突にも奴は俺の髯だらけの口に缶ジュースを無理矢理押し付けてきた。緑と黄色と黒の三色ボーダーの奇妙なスチール缶をだ。あからさまに怪しい。
 プルタブは既に開けられていた。缶が傾いた時、一瞬だが中身が見える。中から嫌色の液体が波打つようにうねっていた。黒みが掛かったような茶色。珈琲に見えなくも無いが匂いが違う。妙に鼻に入り込む、スッとした高揚感を擽る甘い香りがした。
 俺は反射的にセールスの腕を掴み、横に払い除ける。

「……ふざけるなよ! 飲む訳無いだろがッ!」
「何故っ? 何故アナタ拒む。どうせ生きていても無意味ダロ? 違うカ?」
「どう言う意味だよ? あぁ!?」

 怒気混じりに俺がセールスに訊ねると、奴は奇妙な笑みを浮かべ言葉を紡いできた。何を考えているか分からないあ不可解な笑みだ。

「浮浪者ダロ? その汚い格好。見れば分かるヨ。お兄さん。生きていても、この先、希望も未来も何もナイ。死んでイルと一緒。道端の小蟲や害虫と一緒。だからワタシ、お兄サンみたいな方の為、有意義に死ヌ手助けシテヤッテイル」

 セールスはタイミング良く、側のゴミ箱から現れたゴキブリを靴底で踏み潰す。何度も踵を使い磨り潰している。
 白い乳白色の体液が飛び散る様を、崩れない笑みで俺と潰れたゴキブリを交互に見ていた。“お前もこのゴキブリのようにしてあげるよ”と態度で意思表示しているようだ。
 初めて俺は恐怖を感じてしまった。いや、もしかするとこれは畏怖なのかもしれない。
 俺の強気な姿勢は、翼をもがれた鳥のように砕け落ちる。果敢な威勢は見事に掻き消されてしまった。  

「なっ!? ……お、お前が俺に飲まそうとしたのは、もしかして毒薬か!?」
「違うヨ、毒薬とは、ちょっと違うヨ。良い物、これはとっても素晴らしい物。とある研究員が我々に、アル程度の製法をリークしたモノ――ワタシタチが独自に色々入れて改良したモノ。まだ味は本物ヨリ落ちるガネ。だけど。お兄さんを待ってイルヨ。飲ムと180度。別の世界や人生ガネ」

 言っている意味が解らない。だけど、身の危険だけは解る。今すぐ走って逃げなければ!
 俺は狭い路地で男を突き飛ばし、踵を返して逃げようとする。
 するとセールスが冷淡な口調で言った。

「本当に良いのカ。アナタきっと後悔スルヨ。――後悔したくなければ缶の中身、ヨク見てミル」

 セールスの言葉を聞き、俺は立ち止まり、チラリと横目で缶を凝視してみる。
 中を見てみると驚き尻餅を着いた。大の男が尻餅を着き、“情けない”と思うかも知れないが驚かざるおえない物を眼にしたのだ。
 当初はジュースだと思っていた。だが――
 缶の中身がスライムのように形を変えて動いている。「ヴェォォオオオエエエェッ」と不気味に呻きながら、プルプルしたゼリー状の中身が蠢いているのだ。――まさか……生きていやがる!

 ――どうだい、大内さん? 俺が腰を抜かすのも無理もないと思うだろ? とまぁ、“その程度か”と思う奴もいるわな。まだ続きがあるんだぜ。

 缶の中身が俺の脚に纏わり付いてきたんだ。まるで……そうだな。流氷の天使――クリオネ。そう、クリオネだよな、アレは確かに。見た目は危険も無く、害も無さそうに見えるが、一度正体を現せば獰猛な悪魔に変わるって奴だよ。形は柔らかな、ゼリーでも中身は悪魔って感じだな。
 そのゼリーは細く枝分かれして何本もの触手になって、ナメクジのように這いながら、俺の脚を襲うように掴んだんだ。
 ゼリー状の物体は良く見ると、イボが付いたような触手だった。俺の脚に吸い付くように絡むと、太股を捻じ切るが如く、力一杯に締め付けてきた。
 ズボン越しだと言うのに、まるで直に締め付けられているような感覚。ゼリーが内部へ浸透でもしているのだろうか。
 俺は堪らず、無茶苦茶にゼリー状の物質を手で剥がしに掛かる。が如何にも掴む事が出来ない。掴もうとしても素通りしてしまうのだ。液体に触れたような感覚はあるが、動かすと沈むように吸い込まれてしまう。
 自分の手までもが、何時の間にかゼリーの中へと閉じ込められてしまっていた。

「う……ぐぅ」

 何処からか硫酸を掛けたような蒸発音が鳴った。体内からだろうか。
 まるで中身が溶かされてゆくようだ。体中を炎で包まれたような感じだった。
 ゼリーが浸透してゆく。体中を、血管内を駆け巡っているような感覚。
 呼気が荒くなり、目の前の光景が歪む。グラグラと体内で地震が起きているような気分だ。物が二重にも三重にも見えた。
 次第に視点が定まるにつれて、異変が起きる。視線の先が二つに分かれたんだ。
 奇妙だと思うかも知れないが、本当の事だ。一つの視線はセールスを見上げ、もう一つの視線は地面を見つめていた。
 俺は身体を動かそうとした。がピクリとも動かせなかった。

「「ドウナッテイルンダ。ナッ!?」」

 辛うじて声は出せたものの、喉に違和感を感じた。触ろうとしたが出来ない。だが何故か自分の唇から機械的な声が出ているようのは分かる。しかも声が二重になっているのだ。

「分かル? 分離したんダヨ、お兄サン。“ゼリー”と“皮”にネ」

 奴は路上に転がる缶を持つと言う。

「ゼリージュースって聞いた事アルヨネ。マ、今では、かなりの数が出回ってるから、聞いた事くらいはアルダロ?」
「ナッ!? ナンダト!? マサカ!?」

 最初、男の言っている事が分からなかった。だが、二つの視線の……目前の状況と奴の発言を整理して考えれば、大体の察しが付く。本物だと。
 半信半疑だったが、どうやら奴が言うように、俺は“皮”と“ゼリー”に分かれてしまったようだ。身体が動かないのが良い証拠。そして――何より今まで“人間だった”時の俺の感覚が全く違うところだろうか。
 例えば手足を動かそうとすると、一方は痺れるように震えるだけ。もう一方には空気が抜けた風船のような奇妙な脱力感がある。
 感覚が分かれて存在している。何よりも俺が一度も味わった事のない感覚なのだ。

「お兄さん。アナタ、凄く運、良いねッ。初めての成功例ヨッ。ワタシ、アナタノ事、メチャ気に入っタ。モノは相談だけど、お兄サン。うちで働かないカ。アナタ、ワタシに付いてくれば、金に一切困らナイ。ハッピーだよ。幸せにしてアゲルヨ。ドウ?」

 セールスの瞳は弧を描いている。これ以上ないくらい、不気味な弧をだ。

「「フザケルナ」」
「フフッ、お兄サン、自分の立場考えたらドウ? 今のお兄サン、ただの皮と、ただの生きたゼリーね。ドウ足掻いても人間には到底見えナイヨ。もう一度訊くけど、どうするノ?」 
「…………」
「さぁ、答えは待っちゃくれないヨ? 即断即決ネッ」

 俺は舌打ちを――出来たかは定かではないが、とにかくすると「「ワカッタ」」と言った。

「良い答え。期待したとおりの実に良い答エ。お兄さんならそう言うト思ってイタ。少し待ってイルヨ」

 セールスは俺を残し、斜影のように走り去る。
 ――数分後、奴は戻ってきた。華奢な背中には人を抱えている。
 見ると女性だ。それも飛びっきりの美人さん。
 セールスの背中に項垂れているが分かる。大きな瞳には具合良くシャドーと濃いマスカラが掛かっている。マスカラと同系色の艶やかな黒髪が肩まで伸び、丁度、毛先は円を描くようにカールしていた。
 彼女の服装はスマートカジャアルと言うタイプだ。襟付きのスリーブワンピに薄手のストール、パンプスを身に着けている。
 コレは俺の個人的な好みなのだが、スカートが少し短めな所がまた良い。ひざ上10センチ。さらに黒いストッキングを見ると何となくそそられてしまうんだよな。
 ……気を取り直しセールスに訊いた。

「「カノジョハ?」」
 声掛けにセールスは首を傾げた。
「う〜ン、ワタシの知らない女。アナタも知らナイダロ。丁度具合良くイタから、捕まえタマデヨ」
「「ハンザイジャナイノカ!?」」
「大丈夫。この国の人タチ、とテも寛容。警察官はトクニ。カレラには、ゴールドをドッサリ渡したシ、振り込んでアゲタ。心配ナイネ。お互いにハッピーだから」
「「ソ、ソウカ。ケド、ナンノ、モクテキガ、アッテ! ソノヒトヲ!」」
「コノ人はお兄さんの新しい肉体ヨ」
「?」

 俺の今の表情(皮と液体)――鳩が豆鉄砲喰らった顔しているんだろうか。いやそれよりも、頭頂部へと鳩に贈り物(糞)を落とされた間抜けな顔をしているのだろうな。
 何故ならセールスの言っている事がまるでチンプンかんぷん。理解不能だ。既にコノ状況。俺の脳に、理解しろと言うのが無理難題なのだろう。だが唯一分かるのは、名も知らぬ彼女が巻き込まれてしまったと言うことだ。
 俺を含めた犠牲者が一人増えたって事になるよな。

「この国のコトわざにもあるよウ。何とかは一見にしかズとありマス。だから。アナタはただ黙っていてくれれば結構デス。後は私が処理シマス」

 機械的にセールスが言った。
 そして奴は、彼女を――薄っすらと黄ばみがかった、小汚い灰色の地面の上に降ろして寝かせる。と俺の分離体の一つである皮を片手で伸ばすように持ち上げた。
 奴は俺に微笑をかけながら言う。

「先に断っておきマス。痛いですヨ、かなり。ホンの少しダケ、お兄さん動くナカレ。モチロン我慢できるヨネ? アナタ、立派な男だモノね」
「「――ナニヲスルキダ……イタイ。ヤ、メ、ロォォ!」」

 鋭い激痛が走り、声が途切れ始める。
 奴はもう一人の俺(皮)の唇端を掴むと左右に広げた。柔軟ながま口のように、唇は驚くように伸び、顔は痛々しい笑みが刻まれている。
 何やら異物が入ってくる。見ると、醜く広がった俺の唇先に彼女の爪先を押し当てていた。黒のパンプスが唇や歯茎にひんやり触れている。味覚器が反応し、靴底に付いたドロの味や彼女の匂いが唇から紅い舌へと絡む。
 フェティシズムと言うべきなのだろうか。自分にはそんな愛好など微塵もないと思っていた。彼女の匂いが唇から心に伝わってくる度に、下っ腹が敏感に疼き興奮していたんだと思う。
 だけど難を言うなら、自分では吐き出そうにも、吐き出せないのが尤も辛い所である。それでも心地良い事は自ずと知っているんだよな。
 彼女の足首や太股が俺の口内に進入し。次第に閉塞感が広がり、俺の喉を圧迫してゆくさま。
 俺に入り込み内側から支配でもしてゆくのか、何とも言えない感情が湧いたんだ。


「大内さん。そもそもな。セールスがやっている事は――俺(皮)を彼女に着せているんだと思ったのよ」
 
 可笑しな事に。服の上から服を重ねている感じ。まるでマネキンに服でも着せるかのように俺を黙々と着せているのさ。
 奴の手付きは至極しなやかで、職人張りにかなり確りしていた。指先が小刻みに動くたびに俺(皮)が彼女に張り付いてゆく。
 皮の俺だけど、一時だけアソコが吸い込まれるように凹んだ。ちょうど俺のサオと袋が溝に嵌る具合かな。なんつーの、見た目状、掃除機に吸われた感じかな? まぁ、感覚すらこの時点では無いけど。 
 別の場所も其れに伴い、内側から外面へと押しやるように彼女の胸の形や服の形が現れたんだ。
 続いて俺の身体を奴は、波立たせるように触り、よった皺を丁寧に伸ばしてゆくんだよ。
 するとだな、――まるで魔法でも見るかのように服の形は消え去った。胸の形も平たくなり、外面に出ていた違和感がなくなる。
 元気良く俺の陰部は再び呼吸した。体中の感覚が全て甦ったんだ。

「ど、どうなっているんだ!?」「ド、ドウナッテイルンダ!?」

 自分の声に驚き、咄嗟的に俺(皮=現在内側は彼女)は口元を押さえる。声の声質が変わり、二つに分かれたのだ。
 そして奴は悪意を孕んだ魔童のような笑みを俺に覗かせた。

「素晴らシイヨ! 最高だネ! 君は!」
「モトニモドシテクレ!」「元に戻してくれ!」
「ムリダネ、アハハハッ!」

 奴は薄気味の悪い声を発し上げると、俺に促したんだ。“付いて来い”とな。
 一応な、良心の咎めた俺は、彼女を元に戻して欲しいと嘆願してみたけど、案の定、徒労に終った。“私の仕事を手伝ったら元に戻してヤル”との一点張り。 
 なに? 抵抗すれば良かったって? ……気持ち的にさ、無理だよな。 
 
「俺には如何しても奴に、抗う勇気も気力も無かったんだよ」



 捕まえられたある男の記録 後編

「――それから俺は、男の仕事を際限なく手伝ったのさ。有りとあらゆる事をした。綺麗な仕事から汚れ仕事に至るまでな。お陰さまで、金にも、女にも、ある程度の地位にも有りついて、一時幸せだった」
「だった……か。ワザとだか知らんが、お前がミスを犯すまでの事だよな。とにかく人生の終着駅って奴だ。幾らなんでも人を殺してしまっては御終いよ」
「俺は……彼女を殺していない。彼女は……今も……俺の中にいる」
「ほう。で? じゃ何か? お前さんは彼女を体内に飼っているとでも? そう言いたいのか?」

 大内は呆れたような口ぶりで言った。まるで信じていないようだ。当たり前の話なのだが。

「いや、飼っているとは若干違う。名も知らぬ彼女は、言わば俺の中身。一部になったんだ」
「殺したんじゃなく、あくまでも体の一部だと? ふふっ、馬鹿言っちゃいけない。ホントの所どうなんだ。お前は彼女――“熊野洋子”を組織の命令通り殺し、戦利品として自分の一部にしたんじゃないのか? えェ?」
「違う。俺は彼女を殺しちゃいない」

 大内は深く溜息を漏らして、手元の書類を見ながら言う。
 奴は信じていない上、半ばげんなりとしているようだ。

「だがな、裁判でお前の殺人の関与は既に実証済みだ。証拠だって有る。それに関しては言い逃れは、まず出来ないだろ」
「それこそでっち上げだ! だって、お、俺はやっていない……彼女を……」

 俺の必死な様子を見ると、男は掌で頭を抱えるように覆ってから、口元に手を滑るように持ってゆく。何やら悩んでいるようだ。
 大内は突然鼻で笑うと話しを再開させた。

「このままでは平行線だな。とりあえず話を戻そう。お前は彼女を自分の一部にした。言葉通りの話なら、今も彼女はお前の体中に収められている事になるな?」
「そうだな」
「なら、彼女……熊野さんを外へ出せるか?」
「…………」
「どうなんだ?」
「んなの……無理に決まっている」
「無理に決まっている……だと。俺を馬鹿にしているのか? 貴様ッ。 大体、どう言うことだ、無理とは? 常識では有り得ない事をやっておいて無理だと! 俺を舐めているのか!?」

 弛んだ顔に似つかない鬼気迫る面持ちで、大内は身を乗り出す。奴は掴みかかる勢いで詰め寄ってきた。
 視線を下げ、俺は唇を震わせながら、頑なに否定する。

「不完全ながら……吸収したんだよ。俺の意思とは反し、あくまでも行為的ではなく、極自然に。自分では止められなかった。勝手に起きたんだ。彼女は今でも生きているが、外に出せない状況。信じてくれ。これも組織が齎したゼリージュースの副作用の一つなんだ!」

 大内は俺の懸命な言い分に肩透かしを喰らったのか、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしている。歪な太い眉は八の字に下がっていた。

「チッ、そのなんだ。ゼリージュース……存在するなら、確かに可能ではあると思う……が、お前の言葉を全て、鵜呑みにしろと?」
「全てを信じろって訳じゃない。でも、ああ、結局信じるも信じないもアンタ次第だ。俺は嘘だけは吐かない」 

 大内は落ち着いたのかゆっくりと椅子に腰を降ろした。体重に椅子はグラグラと軋んでいる。

「なるほど。なら、お前が言っている事を真実と仮定しよう。組織について。そのセールスマンについて、詳しく教えてもらおうか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。その前に俺が言っている事が本当に事実だと、ちゃんとアンタに納得して信じてもらいたい。アンタまだ半信半疑なんだろ?」
「まぁ、そうだが。でもどうやって?」
「見てれば分かる」

 そう言うと、俺は自分の左腕を満遍なく揉み始めた。脆い果実の子房を優しく扱うようにして腕を揉んだ。

「あ? お前? 一体何がしたい?」
「良いから。アンタは黙って見ていればいいんだよ」

 ――無言で暫く揉み続けると、俺は窮屈そうに服の袖を捲くり大内に見せてやる。「そろそろだな」と呟き。

「なッ……」

 一言だけ。喉に詰まったような霞んだような一言。大内の驚嘆した声は俺に笑みを齎すのには充分だった。
 表面上に見える皮膚は、浮き立つように静かにざわめく。と鳥肌が立った。次の瞬間更なる変化が始まる。
 俺の浅黒い肌は見違えるほど白く染まり、程よく伸びた太い腕部は収圧するかのように細く。節くれだった粗暴な指先は可愛らしく、爪に至るまで綺麗になる。
 みるみると女性のなだらかな腕へと変化したのだ。 

「どうだい? 凄いだろ? これで信じて貰えたかな」
「ん……ああ、悪い。気分が優れない。席を少し外す」

 大内はそう言うとふらつき加減に席を立ち、部屋から出て行った。余りの異質な出来事に大内は困惑したに違いない。
 だから、気分転換がてらに少し外へでも行ったんだろ。見た目より肝の小さな奴だな。
 息を軽く吐くかのように唇端を上げていると、先ほど出て行った大内の代わりに女が室内に入ってきた。選手交代か。
 眼鏡を掛け、髪にはカジュアルなパーマが全体にかけらている。ショートヘアの女だ。見た目は可愛いらしいと言うより、真面目そうなイメージが何処と無く漂っている。
 女は大内が座っていた席に着くと俺を見詰めてきた。睫毛が起った切れ長の瞳で。
 この女、俺に興味でもあるのか? と僅かながら頬をユルまし思ってしまう。
 するといきなり。眼前の女は身を乗り出してきた。スカートの裾が捲れながらも気にせずデスクに上がる。とその上で四つん這いになり、俺に絡み付いてきたのだ。彼女は軽く舌なめずりをした後で、俺の首裏に手を廻し、あろう事か唇を奪ってきた。

「ふむむんン!?」

 驚いて俺は女を突き飛ばそうとしたが、思っての他、女の力は強かった。ふと『何処にこんな力が……』と思ってしまう。
 線が細く、壊れそうな姿態からは想像がつかない程、強力。いや、それに上乗せみたく、彼女からは俺の力を抜かせる程の良い香りがしていた。
 厚みのある唇は一向に俺から離れない。情けない事に男の俺が全く抵抗できないでいる。もしかすると、本心では抵抗したくないと望んでいたかも知れない。
 どちらにせよ、彼女は並みの女ではない。そんな気がした時、女は笑ったのだ。腹の底からゆっくりと沸き起こるような昇る笑いを俺に魅せた。
 彼女は自らの唇を俺から離す。唇は唾液の糸を引きながら離れると……

「久しぶりだな。皮の俺!」
 
 口調は男だが、女の透き通った声が淡い色をした唇から放たれている。

「そうか、お前なんだな、ゼリーの俺」

 “ゼリーの俺”と言うキーワードと共に、彼女は潤いある小さな唇を開ける。と俺に自分の本体を見せた。揺らめくようなゼリーが覗いている。俺の顔をしたもう一人の“俺”が。

「あの人が言っただろうに。口が酸っぱくなるほど警察関係は信用できないって。それに何でまた、タレこんだりなんかするかな?」
「やはりお前か――俺。うッ……この匂いは。まさか持ってきたのか? アレを……」
「そうだ。ほら、飲め。お前に届ける最後のゼリージュースだよ。定期的にゼリージュースを摂取しなければ生きられない体なんだからな……お前と俺は」

 眼前の女の“俺”は、俺にペットボトルを手渡す。容器にはびっしりと焦げ茶色のゼリージュースが詰め込まれていた。ちなみにラベルは貼られていない。
 俺はキャップを開け、一口飲んだ。舌に乗せると砂糖菓子のように溶けてなくなる。味は俺の好きなタバコに酷似していた。
 飲む人間により味が変化するゼリージュース。組織が開発した特殊なゼリージュース。効果は分離・皮・融合と支配・分離・支配・支配・ボスによる支配?

「ウッ!?」

 頭痛と共に自分の知らない記憶まで入り乱れてきた。
 痛みは直ぐに引き、俺は顔を上げて“俺”を見やる。

「最後か……と言う事は、お前が俺を殺しに来たと、そう言うんだな?」
「ああ。お前さえ組織を裏切らなければこんな事にはならなかった。正直な気持ち、やりたくないな。自分で自分を殺すなんて」
「何を言っているんだ。俺たちは互いに別の存在だろ。そもそも分離してからはな」
「だが、何故なんだ? 金も権力も自由も好きなだけ手に入れたのに、何が不満で裏切った?」
「さぁな、自分でも分からない。だけどコレだけは言える。俺は、もう、疲れたんだ。組織の束縛はうんざりだ、利用されるにもな」
「そうか。そう言えばお前……酷くやつれたよな。やっぱり、くだらない罪悪感からか? それとも、お前……まさか。まだ本当の意味で吸収をしていないのか!?」
「ああ、そうだ。彼女は吸収しない」

 もう一人の俺の唇から怪訝な溜息が漏れた。

「馬鹿だな。何時までも吸収しないでいると、自我が崩壊するぞ? お前本気で死ぬ気かよ」
「――だから裏切ったんだよ。死にたいんだよ、俺は。俺が消えればきっと彼女は元に戻るはずだから」
「…………」

 俺と“俺”は互いに瞳の奥を見合いながら、一分ほどすると、同時に頷く。そして“俺”は「ナルホド」と。もう一度、俺にキスを交わした。“俺”が入ってくる。
 今度はただのキスではない。死の接吻と言う奴だ。組織の制裁処置に使われる手の一つ。
 組織が開発したゼリージュースに別のゼリージュースを混ぜると劇薬に変わると言う仕組みだ。
 この場合、最初に飲んだゼリージュースに、もう一人の俺。ゼリー状になった俺の一部を混ぜこんだ事になる。
 そして、今。彼女の舌と共に。喉の奥に“俺”を感じながら、意識は深い永久(とこしえ)と沈んでいった。
 眼を閉じる瞬間、確かに近くで紙が破ける音が聞えた。
 俺が消え、彼女が戻る。そう俺は心中で確信しながら溶けてまっサラと消えてゆく。





 ――次に俺が目覚めたのは温かいベッドの上だった。白いシーツと白い枕に白い掛け布団がひかされていた。俺が着ている服まで白い。部屋中が白一色に彩られているようだ。
 横を向くと棚があり、花瓶がある。中には雪柳が活けられていた。
 ふと俯き、何故か自分の胸を凝視していた。見慣れているはずなのに違和感を感じている。
 トクントクンと心臓が早鐘を打っていた。
 俺の目先には、二つの膨らみがあり、撫子色の柔肌が見えている。
 恐る恐る触ると揺れ、背筋に寒気が奔っていた。慌てるように服を捲くり、パジャマらしいズボンへと何故か手を差し伸べていた。
 中に手を入れる。と掻き分けるかのように下着の中へと、更に指先を入れて亀裂をなぞっていた。下腹部が芯から熱くなってくる。
 羊毛に似たものが指先を包み、体奥から何やら粘っこい液が出てきたようだ。
 覗くと万華鏡のような美しい光が見えた。

「あ……濡れている」

 呟きながら俺は息を飲み込み、荒く呼吸をしていた。何だかおかしな気分に成りつつあるようだ。

「はぁ、はぁ」と自然に流れ出る。

 俺は体中を弄り、観察でもするかのように暫く探索していると、何時しか途端にドアが開かれたようだ。
 手を止めて音のする方角に首を傾けると、俺は呆気に取られてしまう。
 早々とした靴音が近づいてくると、誰かに抱きつかれたのだ。
 ――俺の家族
 頬には雫が降りかかっている。ベッドの側では馴染みの両親と弟が泣いていた。

「洋子、お前!」
「洋子、洋子、無事だったのね。良かったぁ」
「姉ちゃん!」

 鼻水混じりの枯れ声。三人の掌の温もり。そして懐かしい触合い。

「…………」

 泣きじゃくる家族に俺は声が出なかった。何と言って良いのか掛けられなかった。
 俺と家族の頬には熱帯びた水滴が何故か諾々と伝わっている。




 何故か理由が分からない。



 でも……別に良い。今は。



 今は良いんだ。



 これで。












 追記記録 ボスと研究員の会話(録音テープ)

「ボス! 研究の結果が出ました。様々な結果が見られましたよ。皮の着脱後、ゼリージュースの中毒性は残り、現在熊野洋子、彼女は自販機でゼリージュースを買い漁っています。そして、彼女は自分を男だと無意識に抱いております。確実に認識は出来ておりません。若干記憶は入り混じっていますが」
「ふむ、良好だな。人格の植え付けによる、人類支配をするのには、な」
「しかしボス。MKZ(マインドコントロールゼリージュース)計画なんて絵空事が本当に実現可能なんですか?」
「さてな。可も不可もないのが現状だ。しかし、想像してみたまえ。このゼリージュースが広まれば、一人の意思が人間を動かす時代が到来してもおかくない。これ以上ないほど正確に人は管理されるのだよ。争いもなくなり、一人の意思が決定を下すんだからな。平和で理想な世界ではないか!」
「ですが、当初の思惑とは違い、え〜と、セールスの報告によると、ボスの意思が入ったゼリージュースはあの男の体内に入っても、特に支配される訳でもなく、大丈夫でしたが……結局、偶然の産物なのでは?」
「違うな。本人は意識出来ないレベルで支配されていたのだよ。私にな……ふは、ふは、フハハハハッ」


<了>



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