「幼馴染と入れ替わり」






腐れ縁の科学部の友人・蒼汰に頼まれたバイト、
それは新しい発明品のモニターになって欲しいというものだった。
金額は学生の俺にとっては破格だったので二つ返事で引き受けたものの
その途端に蒼汰がニヤッと笑って「バイトって二人必要なんだよな~」とのたまう。
「一度引き受けたからにはまさか断らないよな~、雅道」
顔面から迫る蒼汰の迫力に、
俺は渋々幼馴染の美登利にバイトを持ち掛けた。
「雅道君と一緒なら良いよ」
ニコッと笑うと、
珠美は二つ返事で引き受けた。


「では始めるよ」
その発明品というのは
相手の視線でモノが見えるVRマシンの1種らしい。
蒼汰は俺と美登利にヘッドセットを被せると
機械のスイッチを入れる。
ブーン起動音を響かせて動き始めるVRマシン。
一瞬視界が消えると、次の瞬間
俺の視界は美登利から見えるモノに変わっていた。

「あ、視界が変わった」
蒼汰に話すと
「やった~、成功だ。これで俺は大金持ちだ」
蒼汰はガッツポーズをして叫んだ。
「実験は成功だ。もう外していいよ」
蒼汰に促されて俺たちはヘッドセットを外そうとする。
「あ、待って、スイッチ切ってから……」
だがその言葉を聞いたのは
俺たちが既にヘッドセットを外した後だった。
マシンがボンという音を立てていた


アレ?
何となく違和感を覚える
えーっと、何でだったっけ
頭がぼーっとしていた。

「二人とも大丈夫だよね。じゃあこれバイト代」
蒼汰が目の前の俺に茶封筒を渡した。
え? あれ?
「じゃあな雅道、また手伝ってくれ」
俺たちを押し出すように部室から送り出そうとする蒼汰。
頭がぼんやりしたまま
俺は違和感の正体を確かめることなく
部室を出た。


部室から出て校庭を歩いていると、
ようやく頭がスッキリしてくる。
そこで俺はようやく身体の異変に気がついた。

頬をくすぐる長い髪
白くか細い手
そして着ているのは女子のセーラー服。
恐る恐るスカートをたくし上げる。
その中に目にしたのは黒いタイツに包まれた太もも、そして……

頬が熱くなる。
頭の中は真っ白だ。
「ちょっと! あたしのカラダで何してるのよ! やめて!」
泣き顔の俺が俺の手をつかんで叫んでいた。

「な、なにが起きているんだ」
「あたし、美登利よ、あなた、雅道君?」
「あ、ああ」
「あたしたち」
「俺たち」
「「入れ替わっている!!」」


それから約一ヶ月
蒼汰がVRマシンの修理を終えるまで
俺たちの入れ替わり生活は続いた。

俺と美登利が入れ替わっているなんて
誰も信じようとしない
お互いの友人も両親も
ほっとするのは美登利と二人でいる時だけ
いや、もうひとつあったか
一人でいる時には……

元に戻れるようになった時
俺たちは全てを知り合った
幼馴染以上の親密な間柄になっていた。


                           (文:toshi9)




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(作品:JPGさん)









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