いいんちょをボディジャック☆ 作、挿絵:jpeg 「山田くん、用事がないならはやく下校してください」 冷たく澄んだ声で、クラス委員長の熊澤千秋さんは俺、山田一郎に言い捨て、教科書を小脇にかかえ、早足で廊下を歩いていく。 一度も染めたことのない黒髪をただ真ん中から分けておさげ髪にし、白い小顔、めがねをかけたきつそうな知的な目。紺色のブレザーにキャンパスズック、一年中、肌の透けない真っ黒なタイツを穿いている。 「いいんちょ、相変わらず容赦ねえなあ…」 言いながら俺は学生服の胸ポケットから「吹き戻し」を取り出した。 吹き戻しとは、笛の先に丸まったカラフルな紙筒がついていて、吹くと間抜けな音を出しながら紙筒が伸び、吹くのをやめるとまたくるくるともとの形にもどる、縁日などでみかける子供のおもちゃだ。 だがこの吹き戻しには不思議な力がある。 俺は吹き戻しの先端をいいんちょの後頭部に向け吹いた。 ピ~ヒャララという間抜けな音とともに、笛から白いもやが飛び出し、いいんちょのうなじに飛び込む。 「うっ!」 背筋をぴんと伸ばし歩いていたいいんちょの体ががくんと震えたかと思うと、すべての動きを止め棒立ちになる。 「なっ…にっ…? や…ゲ…ガ、グェ…」 知的ないいんちょの喉から、ふさわしくない動物じみた声がもれ、口の端からよだれがひとすじ垂れる。 やがて、いいんちょの後ろ姿を見ている俺の視界が薄れ、夕方の学校の廊下へと変わった。さっきまでとは違い、廊下の天井がすこし高く感じ、視界がすこしぼやけている。 こっちの体はかなり視力が悪いらしい。いいんちょ、勉強のしすぎかな? そうなのだ、実は、この吹き戻しには、自分のたましいを他人にふきこむ不思議な力があるのだ。 俺のたましいをふきこまれた体は意識をなくして眠っている状態になり、俺がその体の持ち主として好き勝手に使うことができる。 「…やったぁ~♪ 合・体・成・功!♪」 急に軽薄な声を出し、いいんちょ=俺は、普段いいんちょがしない満面の笑顔で、自分の体を抱きかかえ、ガニ股でガッツポーズをした。 脚を開くと、スカートの股間がスースーする感覚と、透けない厚さのしっかりした黒タイツが、いまや自分となったいいんちょの脚を締め付ける感覚を感じる。 うしろを振り返ると、俺、山田一郎の体が吹き戻しを持ったまま、目と口を半開きで床に座り込んでいる。 その表情からは一切の知性を感じない。まあ、魂(意識)がいいんちょの体にあるから、当たり前なのだが。 「俺、まぬけな表情してんなあ。生徒指導の先公でも通ったらめんどうなことになるから、俺の体はそこの教室にでも隠しておくか」 俺はいいんちょの体のいんちょの声を使ってしゃべらせ、ふだんの聞き取りやすい発音ではなく、だらけた語尾を伸ばしたしゃべりかたで自分の体をひきずった。 「くっ…いいんちょ…勉強ばっかりしてて非力だなあ…! も、もう息切れが…いいんちょ、体力なさすぎ!」 なんとか俺の本体を適当な教室に放り込み、夕闇せまる渡り廊下のガラスにいいんちょ、熊澤千秋の体を写してみる。 力仕事をしたので、すこし髪と息がみだれ、頰が上気しているいいんちょは意外に色っぽく、女を感じた。 「…お、おお、いいんちょ、意外と…」 自分自身をいいんちょと呼びながら、いいんちょは自分の頰を撫で回している。 さきほどいいんちょの体を乗っ取ったとき、いいんちょが垂らしたよだれが垂れたままになっている。 「いつも真面目ないいんちょがよだれたらしてる姿なんてレアだから、ぬぐわないでこのままにしとこっと♪」 ガラスに映ったいいんちょの顔がうれしそうにそんな異常なことを言うのを、俺はいいんちょの目で見ている。 「さてと…」 真っ黒な透けないタイツをはいたすらりとした脚。 「いいんちょの黒タイツ、前からすげーエロいと思っていたんだよなあ!♪ へへ~…さわってみよっと!♪ ああ~、サラサラっていうか、シャリシャリっていうか、いいんちょのムチムチのふとももでぴんと引き伸ばされた黒タイツ、たまんない手触りだなあ…♪」 スカートをまくりあげ、ふとももをじっくりねっとりと、女が自分の脚を見るとき決してしない眺め方で見る。 ふくらはぎや足首のところは脚の面積が狭く、タイツの生地もあまり引き延ばされていないので真っ黒だが、面積が広いふとももの部分まで来ると、黒タイツはうっすらと透け、ふとももの肌色と絶妙に混ざり合い、なんともエロいことこの上ない。 ズックを脱ぐと、つま先も同じように透けていて、縫い目というか切り替えの下にのぞく形のいい爪がたまらなくエロい。 「おおっ!いいんちょの黒タイツ脚...黒タイツふともも…黒タイツつまさき…ゴクリ…た、たまんねぇ~…! 女ってみんな思考能力ないのかなあ!?こんなエロい格好で平気で人前をふらふらしやがって… お?おおっ、おお~笑 いいんちょ、白無地のださい子供パンツ(笑) おむつかよ!(笑) 色気ゼロだけど、この、もう十分成熟して出産もできるカラダとのアンバランスさが、なんともフェチ心というか、変態ごころを刺激するねぇ~♪ ウヒョー♪」 自分で喜んでスカートをまくりあげ、色情狂のようなことを言っているいいんちょ、熊澤千秋。 いいんちょを知る者がみたら、狂ってしまったようにしか見えないだろう。 だがいまの熊澤千秋は、体は熊澤千秋でも、中身はまったくの別人である俺なのだ。その思いが俺をますますいきり立たせる。 体をいじるのを中断し、俺はまた、いまや自分の体であるいいんちょを窓ガラスに写してみる。 表情はまじめくさったいつものいいんちょのまま、上着をはだけ、丸出しにした乳首をこりこりいじりながら、黒タイツをはいた脚をガニ股にし、そのまま、 「山田くん、用事がないならはやく下校してください」 いいんちょのしゃべりかたを真似てみた。 「山田くん、用事がないならはやく下校してください」 「私は熊澤千秋、改め熊澤おま○こ。黒タイツ。黒タイツ。黒タイツとこりこり乳首の私は熊澤千秋。 変態性欲。アナルなめぞう。ちくビームだし子。私は今日からちくビームだし子。改名しました。どう?素敵な名前でしょ? 黒タイツ。黒タイツ。真っ黒透けない黒タイツ」 ![]() ガラスには、手を鳥のようにパタパタしながらガニ股になり、表情だけはいつもの真面目で凛としたいいんちょが写っている。 そのギャップはあまりにも違和感があり、滑稽を通り越し、不気味ですらある。 俺は意識をいいんちょの頭の内側に向け集中してみる。 そうすると、乗っ取った人間の記憶を読むこともできるのだ。 「…え!いいんちょ、オナニーを知らないんだ!! なになに?... 勉強したことはすぐ頭に入るけど、自分はこのまま、ただ勉強だけで学校生活が終わっていいのか、普段は馬鹿にして見下しているクラスの山田くんのように青春をエンジョイしなくていいのか、漠然とした不安を感じている… って余計なお世話だよいいんちょ! …そんな、ちゃらんぽらんだけど、自分にはないものをたくさん持っている山田くんのことがなぜか気になる… … … え! え!? …お、俺、別にいいんちょ好きじゃないし…(汗) 黒タイツ穿いたいいんちょの脚がエロいから、好きに動かしたりいじり倒したかっただけなのに…(汗) え~っと… ま、まあ、そ、それはともかく…!汗(動揺) え、えーと... オナニーは知らないけど、セックスのことばかり考えてむらむらしている。 でもオナニーを知らないから、寝る前になんとなくおしりの穴をいぢるくせがあるのか! いいんちょ、知識ないくせに、マニアックなプレイ先取りしてんな!さすが秀才! なになに…? 下校途中にひろったギャル雑誌をこっそり持ち帰って、引き出しにかくしている... ときどきながめては鏡に自分をうつしてギャルメイクをした自分を想像してみたりするけど、親に怒られるから化粧品はすこししか持ってない、っと… ギャルを見下しながらもあこがれを抱いているけど、そんな自分を認めたくない、 でも私もこんな格好をして、すてきな彼氏とデートしたり、街でかわいい子だなって思われたりしてみたい。 私は地味でださいけど、やさしくて誠実な、歳が上の彼氏と図書館で本を読んだりデートしてみたい、 そういう切ない思いをどうしても捨てられない… かー!甘酸っぺぇ~! 図書館!ギャルにあこがれてても、いいんちょ、なりきれてないな~!かわいいやつだねぇ!(笑)」 「よーし!いいんちょが踏み切れないなら、俺がいいんちょの体使って夢をかなえてあげるよ!ねえ、うれしいでしょ?いいんちょ?」 「ほ、ほんと!?山田くんのこと、勉強できないからってバカにして見下してほんとにごめんね! ほんとは山田くん、私より賢かったんだね!千秋、反省~!千秋のバカ!マヌケ!オタンコナス!」 言いながらいいんちょは自分の頭をポカポカ殴りはじめた。 まあ、俺がいいんちょの体と声を使ってひとり芝居をしているのだが。 はたからみたら、さぞ間抜けに見えるだろう。 「山田くんって、ほんとは私のこと考えてくれる思いやりある人だったのねっ!千秋、誤解しててごめんね、私、オツムにちょっと自信があったけど、いまは意志のないぬけがらの体だし、私よりも賢い山田くんが私の体を操縦してくれたほうが、私にとっても幸せだと思うの。どうか山田くんの好きなように私の体を動かして!」 少女漫画っぽく胸の前で腕を組み、目をうるうるさせながら、俺はいいんちょの体に思い通りのせりふをしゃべらせる。 いいんちょは、自分の体がそんなことをしゃべっているとは夢にも思わないだろう。 いいんちょがなにをしゃべるか、どう体を動かすかも、全てが俺の意志しだいだ。 俺がそれを考えると、いいんちょの体が興奮しはじめる。 そのシチュエーションが俺の胸を異様に昂らせ、鏡に写るいいんちょの乳首がぴんと立ち、カチカチに固くなっている。 そのとき、突然いいんちょの体の下腹がグルルル不吉な音をたてた。 「げ!いいんちょの体、ウンコしたいじゃん!ウンコしたいのに好意を抱いている俺とすれ違って、恥ずかしかったから早足だったのか! …よ~し!」 俺はいいんちょの体から服を乱雑に廊下に脱ぎ捨てた。 見た目も体もいいんちょ本人なのに、乗っ取られているいいんちょは、いつもとまったく違う行動パターンをとっている。 パンツを脱いでからわざわざタイツを穿き直し(俺の匠のこだわりだ)、黒タイツと制服のリボン、キャンバスズック以外は全裸になる。 過激な芸風で、何度もテレビ局を出入り禁止になったお笑い芸人とおなじ格好だ。 その格好のまま、いいんちょの体で廊下を走る。小振りな胸と乳首が走る振動に合わせて揺れるのを感じる。 このいいんちょの姿を、ぜひ第三者の視点で見たいものだと思いながら。 「急げ急げ~!」 男子トイレの個室。俺はいいんちょの体で笑顔でいいんちょのスマホに向かってしゃべる。 「はあい、私は3年A組の熊田千秋よー♪千秋ねえ、いまから排便するのお♪排便♪排便♪大便を排便♪ 恥ずかしい言葉だから、わざと何回も言うね♪ どうせはずかしいのはいいんちょで、俺じゃないからね♪ 音とかひり出したものアップするから、みんなみてねえ♪」 スマホに顔と生徒手帳を向け、いいんちょの体と声を使ってしゃべりかける。 いいんちょが穿いている透けない黒タイツは、事前に俺に動かされたいいんちょ自身の手で、股間部分だけビリビリに裂かれている。 「千秋は実は変態だから、ウンチするときは裸に黒タイツだけ穿いて、タイツはいたまま股のところだけ破ってじゃないとできないのぉ♪ 千秋のバカな秘密みんなに知られちゃったあ♪ うれしいっ!みんな、千秋の動画いっぱいみてね♪ これをネタに、ふだんはまじめくさったふりをしているけど、本当はド変態な千秋を脅迫して、私を好きに使ってねぇ♪ 千秋ほんとはマゾだから、そうされると興奮するのお♪」 めがねを人差し指でくいっと上げ、かわいく微笑み、くねくね科(しな)を作りながら、普段のいいんちょなら死んでも口にしないであろう異常なせりふをベラベラ言いながらも、しゃべっている途中からすでにいいんちょの体が排便をはじめ、独特のスクラッチの音と匂いが個室に濃厚に充満する。 きりっと知的ないいんちょの肛門が、いまヒクヒクしているかと思うと、勝手にいいんちょ自身の生殖器からネバネバした液が垂れ流れ始めた。 すべて出し終わると、俺はいいんちょのケツも拭かないまま、いま撮れたての動画をクラウドにアップし、出したものを流さず残したまま、男子トイレをあとにした。 … 翌日。俺はいいんちょの体でギャルの格好で登校した。きのうまでのしみのない白い肌をドーランで派手に茶色にぬりつぶし、 まばたきしたとき風が起きそうなつけまつげ、一度も染めたことのないしとやかな黒髪はバサバサに白く脱色し、ブレザーやシャツやカーディガン、いいんちょ の体でアダルトショップで買ったスケスケのパンツが見えそうなミニスカートをだらしなく着崩して。 朝礼の挨拶で校長を突き飛ばしてマイクを握り、 「きょうから私、委員長の熊澤千秋はギャルデビューしてヤリマンになりまぁす♪ 千秋ほんとはセックスのことしか考えていないくせに、まじめくさったふりしてたのよお♪ でももう我慢するのいやだから、みんな千秋の体を便所に使ってねえん♪ 千秋まだ処女だから、千秋の処女は早い者勝ちねえん♪」 そう言うが早いか、俺はいいんちょの体から抜け出した。 (ラストA、講堂に、正気に戻ったいいんちょ悲鳴が響き渡った。 end) (ラストB、抜け出すとき、俺はいいんちょの魂の一部、賢さを司る部分をもぎとってきた。 これでいいんちょが本来持っていた知的な部分は永遠に欠落したので、バカなギャルの見た目にふさわしい今後を送るだろう。 本人はもうそのことを悲劇と思わないので、きっとハッピーな人生を送るだろう。 end) |