銀行強盗
作:jpeg


 おだやかな昼下がりの地方銀行。順番待ちの大勢の人々
…融資目的の零細企業の社長、記帳にきたOL、預金の手続きを待つ主婦…
活気があるが眠気をさそう、ありふれた日常の空気。
自動ドアから中年の男が入ってきた。
ペラペラのジャンパーに汚れたスラックス、穴の開いたスニーカー、頭が薄くなった冴えない中年。

中年が震えながら銃をかまえて叫んだ。
「だれも動くな! こ、この銃本物だからな! 死にたくなかったら、だまって言う通りにしろ!」
天井に向かって一発発砲した。銀行内に悲鳴が響き渡る。

銀行犯は警備員を縛り上げている。
その隙を突いて、カウンターの奥の支店長がすばやく警察署への通報ボタンを押したようだ。

「お、おいお前! か、金を集めてこい! こ、このバッグに詰めろ!」
「へ、変なまねしたら撃つからな! お、俺はもうどうなったって構わないんだからな!」

強盗犯に命令された、小柄で色白、真っ直ぐな黒髪を清楚に束ねたおとなしそうな女子行員が、涙に濡れた顔で震えながら、集めた現金をバッグに詰めようとしたそのとき、

「ひっ!?」

なんの前触れもなく突然、女子行員が激しく痙攣し、白目を剥いて小さな頭がガクンと落ちた。
同僚の派手めなメイクをした女子行員が叫ぶように「小林さん!?」と呼びかける。銀行犯も思いもよらない展開に激しく狼狽している。「な、なんだよおい、あんた!?」

呼びかけにも全く無反応だった女子行員、小林がふいに頭を上げた。
たった今まで顔を涙で濡らし尽くしていた小林は明るく笑っていた。

「とんでもないとこに憑依しちまったみたいだな! でもせっかくだから、この体楽しむか! なんかあっても俺の体じゃないしな!」

ぽかんと見つめる強盗犯を尻目に、ピンクの制服に包まれた小柄な体をまさぐりながら
「ホホウ、小さい体に似合わぬ、なかなかのゴム毬…
こほん...ア、ア、ただいまマイクのテスト中〜
…おおっ、ザ・女の子って感じのかわいい声だなあ〜! コイツの体!

あっ、あたしにはどうぞお構い無くぅ♪
こっちはこっちで勝手に楽しみますから、どうぞどうぞ、勝手に金でもなんでも好きに持ってってよ♪」

言うや小林は無造作にデスクに飛び乗り腰をかける。
小柄な小林は地面に脚がとどかず、空中でパンプスを履いた形のいい脚をぶらぶらさせている。
大股開きでタイトスカートが腰まで捲れ上がり、ベージュのパンストに包まれた、地味な小林に似合わない真っ赤なパンティも丸見えだ。

小林はパンティに指を滑り込ませると、そこに隠されている部分を激しくいじくり回しはじめた。
銀行強盗の最中、明るく衆目の面前でオナニーをする女子銀行員。
すぐにピチャピチャと、濡れたものがぶつかり合うささやかな音が静まり返った行内に響き渡る。

みなあまりのことに体が動かない。
小林を知る同僚たちは、まさかあの小林さんが、との思いで満たされていた。
地道だが素早く正確な仕事ぶり、クレームにも真摯に対応し、だれより早く出勤して、みなの机をていねいに雑巾掛けし、たまさかには花を飾ってピリピリしがちな銀行の空気をなごませてくれる、あの小林さんが。恐怖で頭が狂ってしまったに違いない…。

その思いは突然の銃声でやぶられた。
小林の額に小さな穴が開き、そこから黒い血がぼたぼたとこぼれた。
限界まで瞳を上に向け、ほぼ白目になった小林は、糸が切れたようにデスクからくずれ落ち、無防備に床に激突した。
パニックに陥った強盗犯が発砲し、小林は即死だった。

もつれる足でバッグをつかみ、逃走にかかる強盗犯が待ち合いのソファの脇を駆け抜けようとしたせつな、ソファで震えていたOLが言った。

「あーあ、なんてことするのさ。せっかくいいところだったのに。あの子の体、死んじゃったじゃん!
かわいかったのに、もったいないなー。
しかもこの春に結婚予定だったんだぞ!あの体!
しょうがないなー… ま、いいや!もう死んじゃったものはしょうがないよね。この子もなかなかかわいいしな!」

茶髪を巻き髪にして、かわいらしいスカーフと紺のベストに包まれた胸を揉み、OLは黒タイツを穿いた肉付きのいい脚を、自らいやらしい手つきでネチネチとさすりはじめた。

銀行強盗中の緊迫した空気にあまりにそぐわない事態の連続に、強盗犯のパニックは頂点に達した。
逆上し、意味をなさないわめき声を挙げてOLに向けて銃を構えたその瞬間、警官隊がなだれをうって突入してきた。

・・・

 保護され、毛布で体を包んだOLは、ニヤニヤ笑い、周りの混乱をおもしろそうに見回しながら、毛布の下で開いた脚の間をいじくり回していた。
OLの体を婦警がやさしくさすっている。

報道陣が激しくフラッシュを焚く中、手錠と顔を隠された強盗犯がパトカーに押し込まれた。
強盗犯がぼんやり窓の外に目を向けると、婦警が覗き込んでいるのと目が合った。

整った顔に似合わない下品な表情で犯人を見つめてニヤリと笑い、おもむろに制服に包まれた胸をもみしだいた。
「あ…お、お前…!? お、おい!お巡りさん! あいつが犯人だよ! あいつをつかまえてくれよ!」

本来は職務に極めて忠実であるはずのその婦警は、わめく強盗犯に背を向けると、あっさりと職務を放棄し、鼻唄を歌いながらスキップで混乱収まらぬ現場を勝手に立ち去っていった。








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