脳交換クラブ 作:jpeg 培養液に浮かぶ脳。 いまはまだ、なんの情報も入っていない、脳の形をした蛋白質の塊に過ぎないが、これから僕が細かくデータを入力していく。 脳交換クラブの年会費は高くなく、平凡な会社員の僕でも払える程度だが、見つけるのがむずかしい。 クラブの入会フォームは、憑依サイトとでも言おうか。ランダムにホームページやブログに寄生し、ごく少ない確率で、本来そのページにないボタンを標示する。 クリックし、絶対に存在を口外しないなど規約に同意し、高い倍率から選ばれると晴れて会員になれるが、(女性の会員も、少数ながらいるらしい) 誰が運営しているか等は、完全に謎に包まれている。 会員には、年に一度、運営から、「白ロム」と呼ばれる、なんの情報も入っていない、まっさらな脳が送られてくる。 (運営が脳だけをクローンで培養したものとのことだ) 脳の入った機械とパソコンを接続し、キーボードで自由に情報を入力する。 バグなくきちんとつじつまを合わせて情報を入力した脳は、人間に入っている脳と同等の働きをする。 そうやってカスタマイズした脳は、秘密クラブの集会で、任意の女性の脳と入れ替えられ、女性は一日だけ、誰かの好みにプログラムした脳で動かされる。 一年目はなれておらず、プログラムがバグだらけで、うちの会社の受付嬢、神田麗子さんは、受付嬢の制服姿のまま、日頃の聞き取りやすい案内とはかけ離れた、濁ったダミ声で意味不明の単語を羅列しながら、手脚や体をでたらめな方向に延々動かし続けるだけで失敗だった。 (まあ、翌日受付でつんと澄まし顔の麗子さんをみて、ギャップの興奮と、麗子さんを操ったという征服欲は満たしたので、もとはとったが) 二年目は、駅でよく見かける、カーディガンにリボン、超ミニスカートの制服姿で髪をパサパサに脱色したクソ生意気な黒ギャルの脳を、現実には存在しないレベルの淫乱なマゾでありながら、三歳児程度の知性しかない設定にプログラムした脳と入れ替えた。 一年目は頭を切り開いて脳を入れ替える手術は気持ちが悪くて観察を希望しなかったが、このときは希望し、開頭から見学した。 黒ギャル自身にも、自分の脳がむきだしになるのがよく見えるよう、椅子に縛り付け、目の前に大鏡を置いてもらった。 少ないボキャブラリー(ありえないんだけど、むかつくんだけど、きもい、やめろバカヤロー) で口汚くわめいていた低能の黒ギャルは、自分の脳を露出した姿に耐えられなかったようで、早々に発狂した。 「マヂウケル!超おしゃれして〜焼いたうちが、頭切られてなんか出てるし!なにこれうちの頭ん中、こんなグロいとかありえないんだけど!ヒャハハハ!」 黒ギャル(生徒手帳をみたら、どうやら「黒崎あや」という名前らしい)の、カラーコンタクトを入れた左右の目が、ギャグ漫画のように互い違いになり、半開きの口から舌がはみだし、口に入る髪の毛を噛みながら、よだれと鼻水を垂らした表情が、イキ顔のデフォルメのようで興奮した。 手術後の黒崎あやは、四つん這いでハイハイし、バブバブ言いながら僕にしがみつき、何度も何度も、性欲のおもむくまま、けだもののようなセックス、というかもはや生殖行為をしたのだが、 (マゾのあやは僕の肛門をしゃぶり回し、踏みつけられて盛大に潮を吹き、乳首がちぎれそうなほど強く噛まれて白目を剥き痙攣しながら失神した) 脳の設計段階から、漠然と都合のいい図面しか描けてなかったせいで、 もともと脳ミソつるつるのバカ黒ギャルに低能の脳を入れても、単なる淫乱を相手にしているのとさして変わらず、予想よりつまらなかった。 (制服姿の黒ギャルが、脳を丸出しにしながら狂っていくのは興奮したが) あやは発狂してしまったが、運営が拉致してきた女性たちは記憶をクリーニング、開頭した傷口もナノマシンで修復後に開放されるので、自分にふりかかった災難を全く覚えていない。 僕も翌日、駅でだるそうにしているあやに再会した。 (ついでに言うと、白ロム(情報の入っていないまっさらな脳)は二年で軟化してしまうので保存はできない) 三年目は、美人で有名な、STPP細胞とかいうものを発見した若手女性物理学者を、幼稚園のスモックとチューリップハット姿で知恵遅れに、 四年目は、ワールドシリーズにも出場したバレーボールの花形選手を、ユニフォームとは真逆の不健全なランジェリー姿で豚にした。手脚が長く、スタイル抜群だったので、我ながら満足のいく結果だった。 いまではコツもつかみ、初心者のときにはできなかった、ふつうに考えていては不可能な設定も、 (たとえば、人間の言葉を100%理解できる犬の脳とか) 入力の手順を逆にしたり、わざと一部を削除したり重複させたり、工夫しだいでかなりクリアできるようになり、脳のプログラムの奥深さや無限の可能性を感じ、ピースの細かいジグソーパズルや、部品の多いプラモデルを、もっとおもしろくしたものを組み立てる感覚で、ますますはまっている。 そして今夜、五回目の集会。 指定の秘密会場には、もうけっこう人が集まっている。仮面で顔を隠している人もいる。 間を置かず司会が現れ、開会を告げる。 今年は国民的アイドルユニットのセンターポジションだ。 運営は毎年、違う女性の体を借りて進行を取り仕切る。 会は、 女の体で外を歩きたい、 好みのコスプレをしたい、 女の体で男とセックスをして、快感を味わいたい、 美少女になり、イケメンを手酷く振ってみたい、 単純に、自分自身が好きな女性と入れ替わりたい、 などの比較的軽いものからスタートし、徐々にディープな願望へとシフトしていく。 他人の、ありとあらゆる妄想… どのような脳を、どのような女性に入れるのか、 おおよそ人間が思い付く限りの、ありとあらゆる歪んだ願望や狂った欲望、奇想… をみるのも、自分が抱く妄想を実現させるのと同じくらい楽しく、創造力を刺激する最高の前菜だ。 そして僕の番が回ってきた。 何度体験しても、この瞬間の胸の高鳴りは言葉に尽くしがたい。 ステージへと歩を進める。 今年は… いまでは脳交換クラブには、かなりの人数が参加しているらしい。 あなたも街で美人や、かわいい女性を見かけることがあるだろう。 そのうちの何割かは、間違いなくクラブの被害に遭っているはずだ。 乗っ取られた経験のある女性、もしくはクラブの会員に、一度も会ったことがない人は、きっともういないと思う。 |