ふゆさん総合



息子の妻

作 ふゆ



登場人物

 母   白石涼子(60才)

 息子  白石正隆(33才)

 妻   白石紗枝(30才)

 孫   白石美樹(5才)

 友人  山口理恵(60才)

 友人嫁 山口敦子(29才)



第一章

「こうした方がいいんじゃないですか、お義母さん」

「何言っているの、家では昔からこうしているのよ」

「でも、それでは手間がかかり過ぎます」

息子の嫁の紗枝は私のやり方に尽く反対してくる。

「母さん、紗枝の言う通りだよ。どんどん新しいやり方に変えていかないと」

息子の正隆も嫁の味方をする。

この女に復讐したい

大事な一人息子を奪った女

孫が出来ても、何だかんだと理由をつけて会わせようとしない女

そんな思いを募らせている私に、3年ほど前に友人の息子の嫁に来た女性が訪ねてきた。

近くまで来たので寄ってみたと言っている。

その友人とは子供の頃から仲がよく、なんでも話せる仲で嫁に対しての不満をいつも打ち明けていた。

友人のほうも嫁に対する不満が多く、いつも愚痴を言い合っていた。

でも嫁に来た女性とは、挨拶をする程度の関係で、

わざわざ用もないのに何故と思ったが、せっかくなので家でお茶でも飲むことにした。

シンプルなブラウスに花柄のスカート、派手ではないが若さが華やかに見せている。

若いっていいわね、そう思いながら私は彼女に話しかけた。

「いらっしゃい、お義母さんお元気」

「ええ、かわりなく元気ですよ。最近お義母さんとは会ってないんですか?」

「ええ、そうなのよ。ここ一ヶ月位、会いに行っても用事があるとかで会ってくれないのよ」

「ふふ、そうでしょうね」

笑いながら返事をする目の前の女の態度に、私は不審を覚えた。

「どういう事なの、理恵になにかあったの」

そう問いかける私に、彼女はいたずらっぽい表情を見せる。

「まだ分からない涼子ちゃん、私よ理恵よ」

そう友人の名前を名乗ってきた。

「何言ってるの、私をからかってるの? 貴方は彼女の息子さんのお嫁さん、敦子さんじゃない」

「ふふ、分からないのも無理ないわね。実は嫁と体を入れ替えたの」

そう言いながら、彼女は体を入れ替えた経緯を話し始めた。

「若いっていいわね。疲れないし、夫と違って夜も盛んだし、あの女に年寄り扱いされる事もないし」

予想外の話にあっけにとられてる私に、彼女は驚く提案をしてきた。

「ねえ涼子ちゃんも嫁に息子を取られて悔しいって言ってたわね。貴方もお嫁さんと入れ替わってみない?」

入れ替わりを勧める友人の話に、

これはチャンスよ

あの女に復讐する絶好の機会よ

私はそう思った。



帰省を渋る息子をなんとか説き伏せて、その日を迎えた。

「いらっしゃい、紗枝さん」

いつもなら嫌みの一つも言いたくなる相手だけど、今回はこの体が自分の物になると思うと喜んで迎える事ができるわね

そう思いにっこり笑って声を掛けた。

なんとか紗枝と二人きりになる機会をつくらなきゃ

そう思っていると、正隆は友人の所に行くと言い出した。

向こうには美樹と同い年の子供がいるので、一緒に連れて行くそうだ。

正隆と美樹が出かけ、私は嫁と二人きりになった。

「紗枝さんお茶でも入れるわね」

そう言いながら、立ち上がるとわざとよろけたふりをして紗枝にぶつかると、理恵に教わった入れ替わりの呪文を唱えた。

そうすると目の前が真っ暗になり意識が途切れた。

意識が戻り起き上がってみると、あの女が履いていた花柄のスカートを自分が履いてる。

鏡を見ると、若く美しい女性が自分を見つめていた。

「うーん」

隣で私になった紗枝が目を覚ましたようだ。

「どうして・・・、私がそこにいるの」

嬉しくてしかたないのを隠し、困惑しているように演技する。

「大変よ紗枝さん、私たち入れ替わってるみたい」

鏡を見た紗枝はショックで呆然としていた。

「こうなってしまったら、どうするか考えないとね」

「どうするって、どうすればいいのか・・」

「しかたないわ、私があなたの振りをして、あなたが私の振りをするしかないじゃない」

「そ、そんな、私がお義母さんになるなんて嫌です」

「じゃあどうするの。その姿で自分は紗枝です、私たち入れ替わってるて言うの」

「ええ、正隆さんにそう言うしか」

「そんな事、信じてもらえると思うの。頭がおかしくなったと思われて、二人とも病院行きよ」

「でも、お義母さんが私の振りするなんて無理です。正隆さんだって、美樹にだってすぐにばれます」

「それはどうかしら」

その時玄関のチャイムが鳴った。正隆達が帰ってきたのだ。

私は玄関まで迎えに行く。

「おかえりなさい。どうだった? お友達のところ。楽しかった?」

「うん、久々なんで話し込んで、楽しかったよ」

「そう、いいわね、子供の頃からの友達って」

「ママー、美樹も一杯遊んでもらって楽しかったよ」

「あら、よかったわね。じゃあ、またおばあちゃんの所に来ないとね」

「うん、また来たい」

そう話す私を、正隆は嬉しそうに見つめている。

「母さんはどうしてる」

「自分の部屋にいるわ。今、貴方の子供の頃の話とか聞いていたの」

「そうか」

「まだ話の途中だから、暫くお義母さんの部屋にいるわね」

「うん」

部屋に戻ると、私は紗枝さんをじっと見つめる。

「どう、正隆も美樹も全然疑ってないわよ」

紗枝は顔を伏せて泣きだしてしまった。

「明日には帰らないといけないから、これからの事を話ておかない?
 何も知らないと大変だから、色々教えてくれないかしら。
 美樹の幼稚園の事とか、銀行の暗証番号とか」

紗枝は驚いた顔で顔を上げる。

「そんな、私も一緒に帰ります」

ふふ、そんなことさせるわけないじゃない

そんな言葉を噛み殺しながら、私はわざと悲痛な表情を浮かべる。

「そうねぇ、私もそうした方がいいと思うけど正隆になんて言えばいいかしら。どうしましょう」

「それは・・・」

「遊びに来たと言っても、居られるのは精々数日だしねぇ・・・」

「でも、私は絶対にいやです。幼稚園の事とか銀行の暗証番号を教えるのなんて」

「そう、仕方ないわね」

そう言って紗枝の使っていたスマホを取り出し操作する。

案の定、幼稚園の予定など紗枝のスケジュールが全て記録されていた。

「これをみれば貴方の予定が全てわかるわね。几帳面な貴方らしいわ」

紗枝は驚いた顔で私を睨んだ。

「どうして私のスマホを操作出来るんですか。指紋ロックがあるはずなのに」

「だって、今は私が白石紗枝ですもの。分かった? もう全部教えるしかないのよ」

その言葉に観念したように、紗枝は全てを話し始めた。



「母さんありがとう、帰るね」

私になった紗枝に、正隆はそう声をかけた。

泣き出しそうな顔をしている紗枝を横目に、私は美樹に声をかけた。

「美樹、おばあちゃんにさようならしないと」

「おばあちゃん、さようなら」

「お義母さん、お世話になりました。
 また、遊びにきますね。
 お身体を大事にして下さいね」

正隆と美樹が車に乗り込んだのを見届けると、小さな声で囁いた。

「元気でね、紗枝さん。二人のことは私に任せてね」

そう言うと、紗枝は悔しそうに涙を流して泣いていた。



帰りの車の中で助手席に座る私に正隆が声をかける。

「母さん、別れ際に泣いてたみたいだな。
 俺たちが帰るのがよっぽど、寂しかったんだな」

何も知らない正隆に、私は神妙な顔で返す。

「ええ、そうね、これからはもっと頻繁に帰って上げないとね」

「そうだな・・・」

そう話しながら、私の心の中は喜びに満ち溢れていた。

これでもうあの女もおしまいね

最愛の夫

可愛い一人娘

そして自分自身

その全てを私に奪われた

なんだか可哀想ね

でも仕方ないわ、私をないがしろにして全てを独り占めしようとしたんですもの。貴方が悪いのよ

これからは、私が大切な一人息子正隆の妻

可愛い孫娘の母親

ああ、幸せだわこんな日がくるなんて



第二章に続く





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