「な・・!?
 納得できない!」

予想外の言葉に俺は椅子から勢い良く立ち上がって机を叩いてしまった。

「では、仕事がありますので。
 大野君もすぐに戻ってきた方がいいよ」

小野はそう言うと、席を立ち店を出て行った。

「しょうがないじゃない、小野さんの言う事も正しいし。
 私たちの要求を受け入れてくれるわけじゃないんだから」

「あぁ、判っている。
 わかっているんだが・・・」

俺の見当違いだったのか?
小野ってやつはもっと、ゼリージュース自体に危機を感じていると思っていると思ったんだが。
くそっ!
俺はさっき、会話した内容をいらつきながらも思い出していった。




【TSショップ、山本の日常5】

作:リイエ




大野の計らいで、小野と話す機会を作ってもらった。
喫茶店で待っていると、大野が来た。

「待った?仕事中に抜け出す形になっちゃったから時間あまり取れないけど。
 小野さん連れてきたよ」

大野の横には白衣を着た男性が立っていた。
研究で何日も部屋をでてないのだろうか、無精ひげで人相が読めない。

「どうもはじめまして、小野俊行と言います」

向こうが挨拶してきたので、こちらも頭を下げる。

「こちらこそはじめまして、山本明と言います。
 今日はお忙しい中来ていただいてありがとうございます」

「で、ご用件はなんでしょうか?
 大野君が女性になったのも関係してそうですね」

「はい、実は・・・ゼリージュースの件で」

小野の顔つきが変わる。
俺は今までの顛末を一部始終話した。

「・・・・なのであなたの会社で開発されているゼリージュースの内容を知ってしまい、他の会社を全て落とされ

るよう根回しされていたみたいなんです」

「それで大野君の力を借りて、TSショップを始めたと。
 あくまでも自分で始めたわけであって、誰かに頼まれてやったわけじゃないんですね?」

「はい、それは私個人の判断です。
 ただ、店名は大野の意見を聞いたのはありますが」

俺はそういいながら、大野の方を見る。

「だって、ダンボールにTSショップ宛って書いてあったんですもん」

急に俺の前が暗くなる、顔を上げると小野が立っていた。
どうやらその所為で影ができて暗くなっていたらしい。

「あの・・・どうし・・・・・」

ドカッ!
ガタンッ!
小野は無言で急に俺のことを殴ってきた。

顔に衝撃が走る。
口に鉄の味が広がる、どうやら口内を切ってしまったらしい。

小野がゆっくりと席にすわる。
突然のことで俺は何がなんだかわからなかった。

「ゼリージュースの一件に関しては、これで全て鞘を収めます。
 大野君の元の戻し方も考えましょう」

「ほ、本当ですか!?
 ありがとうございます」

「ですが・・・。
 ゼリージュースの件に関しては、関知できません。
 残念ながら手を貸すという事は難しいですね」

「な!、何故です!!」

ため息をついた様子の小野は、こう続けて喋り始めた。

「いいですか、僕があなたに力を貸すって事は会社に逆らうって事ですよ。
 僕はTSFショップや通信販売で3つのゼリージュースが販売されていたのは知っていましたが、他のゼリージ

ュースまで製造されて世に出回っているとは思わなかった。
 この行動をとれば、どれだけのリスクがあるかわかりません。
 あなたや僕や大野君だけに危険が及ぶならいい。
 僕にだって家族や恋人がいるんです、その人達までにリスクを課すわけにはいかないんですよ」

「し、しかし・・・」

「どのくらいの規模になっているかわからないんです。
 そんな危険な状態で、僕が力を貸す訳にはいきません。
 大野君に関しては、ここを訪ねてみてください」

小野は一枚の名刺を机に置いた。

「な、納得できない!」

俺はそう言いつつも小野の背中を見送るしかなかった。

「じゃあ、私も戻るね。
 元気出してね、小野さんもああ言っているけど。
 現状に納得しているわけじゃないから、山本君が動き出せばきっと協力してくれるわよ」

そういって、俺の肩を叩き大野も店を後にした。
俺は一人残された机で、こぶしを思い切り叩きつけた。

・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

「待ってくださーい」

私は先に店をでた、小野さんを追いかけた。

「ん?あれ、さっきの彼をほっといていいの?」

「はい、山本君なら大丈夫です。
 頭も切れる人だし」

「そうか、じゃあ僕が言った意味を理解してくれるかもしれないな。
 僕だって、この状況を打開したい。
 けど難しいんだ・・・」

「何故ですか?」

私が聞くと、小野さんはこっちに振り返って立ち止まった。

「今、この世界に何人ゼリージュースを飲んで別人に成りすましている人がいるんだろうね?」

「え・・・?」

小野さんはゆっくりと歩いている人たちを指差していく。

「あそこのOLさん、そこの女子高校生、あるいはあのファーストフードの店員さん。
 体自体が本物なんだから妙な動きをしても、いつもと違うなくらいにしか思われない。
 それってこわくないかい?」

小野さんの言う言葉を理解して、私は背筋がゾクッとなった。

「僕だって手をこまねいている訳じゃない。
 だけど、会社の動きがわからない以上、僕は動けない。
 思ったよりも規模が大きくなっているみたいだしね、リセットはできないんだ。
 だから彼が動いてくれれば、もしかしたら打開の一手になってるかもしれない。
 言い方は悪いかもしれないけど、彼が自分を犠牲にしてまでの行動をするようなら僕も力を貸すつもりだよ」

そこまで言うと、小野さんは前を向きなおし歩き始めた。

「大野君はチームのみんなにも今の方が好評だし、このままの方がいいなぁ。
 山本さん、名刺の意味に気づいてくれればいいけどなぁ」

?????

「どういうことです?」

私はどうやら、薬で女性になってしまったらしい。
元は男らしいけど、私にはそんな記憶まったくないし。
名刺の意味?
私を元に戻す事を目的としないなら、なんであんな風に言ったんだろう?

「あれは、どなたの名刺なんですか?」

「あー、それはね・・・」

そういって、小野さんは私に名刺を見せてくれた。

「クリニック・・・・YUKI?」



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