「あのー、すいません」

ふと見ると、一人の女性がカウンターの前までやってきた。

「あ、いらっしゃいませ。
 なんでございましょ・・・、うぐ!」

バチバチバチッ!
急に体に衝撃が走った。
意識を失う前に見れたものは、まるで女性とは思えないような歪んだ笑顔だった。






【TSショップ、山本の日常3】

作:リイエ






「・・・っと」

「・・・じょ・・ぶ?」

「明君!ちょっと大丈夫なの!!」

意識が覚醒してくる、カウンターにうつぶせになったまま気絶していたようだ。

「よかったお店に来たら、おかしな格好で寝ているんだもの。
 声かけても反応ないし、心配したわよ」

目の前にいる女性は胸に手をあてて、ほっと一息ついていた。
顔を上げると何事もないように、俺は挨拶した。

「やあ、めぐみ。
 おはよう」

このポニーテールで身長が若干低めな彼女は高橋めぐみ。
高校のときの同級生で、鏡を通り抜けられる人間がいるって言っている変人だ・・・と、つい最近までは思っていた。
最近ショップの商売を始めるようになってから、それもあながち嘘ではないかなと思っている。
そういや、まだやたら体が幼いのをコンプレックスに持ってるみたいだな。
さすがに、これから成長するからって、慰めがもう使えないからなぁ、ふてくされたら大変そうだ。

「ひひ、ま、またやられた、み、みたいだね」

声のする扉の方へ目を向けると、そこには大野が扉に寄りかかっていた。
その口ぶりから、俺がどういう目にあったか理解しているようだ。

「ああ・・、女だったから油断しちまった」

起き上がり、ブンブンと首を振る。
手足の動きを確認するが以上は無い様だ。

「え?明君襲われたの、だ、大丈夫?
 怪我とかない?すぐ横にならなきゃ!!」

「いや、大丈夫だよ。
 特に異常はないみたいだ」

「ほ、本当に大丈夫なの?」

大野と俺のやり取りを見て、急にめぐみはおろおろとしだす。

「こういう、商売をやっていると良くあるんだ。
 お金の動きも少ないわけじゃないし、商売上秘密裏にしてるから警察にも行きづらいしね。
 あー、商品何個か持ってかれちゃってるなぁ・・・」

俺は店の中を軽くチェックして、ため息をついた。

「ひひひ、お、お金は、だ、大丈夫なのかい?」

大野に言われて、レジと金庫を確認する。

「ああ、どうやらゼリージュースと新商品を持ってかれたみたいだ。
 くそ、あれ仕入れるのにどれだけの苦労があったと思ってんだ」

「けど、明君が無事でよかった。
 新商品って、新しくなにか入荷したの?」

めぐみが、俺に尋ねてくる。
落ち着いているのを見ると、俺が大丈夫だとわかって安心したみたいだ。
俺はカウンターの下にまだ残っていたカプセルを取り出した。

「これさ」

「カプセル?」

「ただのカプセルじゃないんだぜ、これは性別転換薬って言われてて。
 男が飲んだら女に、女が飲んだら男になる薬だ。
 メイドにするとかしないとか、語ってた金持ちの特別注文でな。
 手に入れるのに苦労したんだが、数はまだ残ってるからいいか。
 説明書も作ってないからカウンターに入れていたんだが、
 なにと間違えたのやら、それともそれ狙いだったのかわからないけどな」

再び大きくため息をつくと、カウンターにある椅子に腰をかけた。

「ひひ、し、しかし、どうするのさ。
 き、君の、気も、おさ、納まらないだろ?」

俺がやられたことに上機嫌なのか、笑いながらたずねてきた。

「とは言ってもなぁ、たしかにそりゃむかつくけど。
 大体はこっちが泣き寝入りするしかないしなぁ」

腕を組んで悩んでいると、大野が楽しそうにこう持ちかけてきた。

「か、監視、カメラ。
 テープ、み、見せて。
 わ、割り当てて、あげる」

「お、本当か!?、じゃあよろしく頼む」

奥にあった、監視カメラ用のビデオを抜き取ると、それを大野に渡した。

「し、調べるのに、ちょっと、じ、じ、時間かかるから、今日は、い、家に、か、帰る」

「いや、もう今日は営業する気にはならないし。
 店閉めるから、飯でも食いにいこうぜ」

「ひひ、い、いいねぇ。
 い、イタ飯、さ、最近ここら辺にで、できたよ。
 そ、そこにいってみ、みないか?」

「へぇ、そんな店できてたんだ。
 この周辺に住んでいるのにまったく知らなかったよ。
 じゃあ、そこに行ってみようぜ」

珍しく大野からの提案に、俺も機嫌を良くする。

「えー、大野君だけ誘うのー?
 ここに、か・れ・んな女性がいるのに♪」

俺たちの会話にめぐみが入ってくる。

「ひひひひ、な、なにを、おもしろいことを、くっくっく・・・」

めぐみの素っ頓狂な言葉に、大野が急に笑い出す。

「だな、言うに事欠いてそれかよ。
 ははははは」

それをみて、めぐみが頬を膨らまして俺たちから顔を背けた。

「も、もう知らない!
 二人でいけばいいじゃない!!」

「ははは、うそうそ、一緒に食いにいこうぜ」

「め、めぐみさんがいれば、は、華も、あ、あるし」

「ふん、二人にしっかりご馳走してもらいますからね!」

「おいおい、俺は物盗りにあったばっかなんだがな・・・」

俺は苦笑しつつ、まだ怒ってるめぐみと大野を連れ出して町に向かった。

「おー、いい感じのお店じゃん。
 大野、お前この店入ったことあるのか?」

「い、いや、な、ないよ、ひひ。
 だから、い、一度いって、み、みたかっ、たんだ」

大野の道案内で、俺たちは大野が言っていたお店に来た。
木造の雰囲気を感じさせる建物は、今日の嫌な気分を忘れさせてくれる。
めぐみの方を見たら、機嫌よさそうにメニューを見ている。
どうやら機嫌は直ったみたいだ、やれやれ・・・。

「ウエイトレスさーん!いいですかー?」

「俺はまだ決まってないんだが・・・」

「私が適当に決めるから、あなた達はそれをたべればいーの。」

「や、山本、い、言っても、む、無駄さ」

「そうだな」

めぐみが大きな声で、ウエイトレスを呼ぶ。

「えーっと、これとこれとこれ。
 あとこれとデザートのこれもください。」

「おいおい、そんなに頼むのか?」

「いいでしょ、レディーを怒らせた罰よ♪」

注文を取りにきた、ウエイトレスにメニューで指を指しながらめぐみは注文をしていった。

「以上でご注文はよろしいでしょうか?」

「はい、それでおねがいしまーす。」

ウエイトレスの注文の確認を聞くと、めぐみは軽快に受け答えた。

「ふー、そういや今日は二人とも何で来たんだ?
 今日は店休みじゃないの知ってたし、俺は相手できないのわかってただろうに」

さっきのドタバタの所為で忘れていた、頭の隅に疑問に思っていたことを聞いてみた。

「私は近くを通ったから、明君の働きぶりを見ようかなと思ってお店に寄ったの。
 そしたら明君、カウンターにうつぶせになってたから最初は寝ているのかなと思ったんだけど。
 あまりにも不自然な格好だったから、心配して何度も呼びかけたの。
 本当に心配したんだからね。」

「あー、ほんとに悪かった。
 死んでいるわけでもないし、なんか怪我しているわけでもなかったからな。
 まぁ心配してくれて、ありがとうな。」

めぐみにそう言うと、めぐみは顔を少し赤くして俯いてしまった。
しまった、ちょっとキザっぽかったか?
俺まで恥ずかしくなってきて、顔が赤くなってきたところに大野が助け舟を出してくれた。

「ひひ、きょ、今日は、君に、よ、用事があ、あったんだ。
 け、けど、今日は、い、いろいろあったし、ま、また今度にするよ」

「そっか、なんかすまんな。
 あ、そういや、気になっていたんだが。
 お前がいつも言っている小野って誰だ?」

会話ついでに、もう一つの疑問をぶつけてみる。

「高校時代、大学時代には小野って名前でお前を苛めるやつは居なかった気がするんだが?」

「ひひひ、お、俺のじょ、上司さ、ぜ、ゼリージュースの、か、開発者。
 な、名前が、に、似ていて、け、研究内容も、一緒だから、他の人にい、いつも比較される。
 お、小野さんは、で、出来る人なのに、お、大野君は、い、いつまでた、たっても、せ、成果がでないわねと、とか」

そう言いながら大野はこぶしを握り締めぷるぷると震わせていた。

「ゼリージュース!そうか、そういえばそうだよな。
 お前もおんなじ会社を受けていたのか、もっとも俺は営業でお前は開発か」

「そ、そういう、こ、ことだね。
 ひひ、し、知っているのかと、お、思ったよ」

「しかし・・・・。
 なるほどな、それでゼリージュース横流しして、小野の責任にしようって事か。
 しかし、あんなに大量のゼリージュース、無くなって騒ぎにならないのか?」

俺がそう言うと、大野はにやぁと笑う。

「こ、口外、で、出来ない、し、シリーズ。
 も、持って行くと、お、小野が焦る。
 そ、それを見て、お、俺はす、スカッとすんだ」

大野の言葉に、少し違和感を感じた。
これだけの大量のゼリージュース、持ち出して大事にならないのだろうか?
こいつのことだから、複製して持ち運びしている可能性もあるな。
俺はそう思いつつも、その疑問を大野に聞いた。

「つうかさ、持って行って疑われたりしないのか?」

「お、俺以外にも、も、持ち出す奴が、い、いるみたい。
 だ、だから、は、把握しきれて、な、ないみたいだ」

くっくっくと、大野は上機嫌にそう言った。
複製はしてないのか、うーむ普通そういうものって、処分しないか?
それとも会社自体がなにか、それを流通させているわけがあるとかか・・・
どちらにせよ、あの会社に入らなくて良かったな。

「ふぅん・・・・、そうなんだ」

「どうした、めぐみ?」

「ん、なんでもないわよ、それより明君」

俺らの会話を見てた、めぐみが急に会話に参加してきた。

「ん?なんだよ、めぐみ?」

「前から思ってたんだけどさ、ゼリージュースってなに?」

「ええー!!」

「ひひっ!た、高橋さんは、や、やっぱり、お、おもしろい」

めぐみの言葉に俺と大野は盛大にこけた。
何度も俺の店に来ているし、大野とのやり取りを見ているから分かっているものだと思っていたけど。

「本当に分からないのか、めぐみ?」

「そうよ、そうじゃなかったら聞かないわよ」

「はぁ・・・・、大野説明してやってくれないか」

俺はこの言葉で頭が痛くなった額を手で押さえながら、大野に振った。

「わ、わかった、た、高橋さんあのね」

テーブルの向こう側に座っている、大野とめぐみを見る。
当時から、大野とめぐみはかかわりが無かったとは言えないもの、交流する間柄ではなかった。
まぁ、俺という共通の友人がいるから高校、大学を卒業した今だからこそ仲良く出来るんだろうな。
昔からの数少ない親友達を、見ているうちにだんだん眠くなってきた。
ううむ、眠いな、酒も入ってるし、今日はいろいろあったから疲れてるのか。
目をこすりつつ睡魔と闘う、だめだ、二人は話しているし少しだけ眠らさせてもらおう。
ちょっとだけ、ちょ・・・・俺の意識は深く沈んでいった。

ピチャン。

「ん・・・」

ピチャン。

「冷たい・・・」

顔に水滴が落ちてくる感覚で、目を覚ました。

「結構、寝ちゃったのか・・・。
 ん?」

何かがおかしい。
その違和感招待は体の自由が聞かないということだった。

「な!ロープ・・・、そもそもここはどこだ?」

俺は脚と胴体をロープで縛られているようだ。
あたりを見渡すと、暗い石で出来たような部屋なようだ。
左の方を見ると大野が、同じように縛られて眠っているようだ。
俺は身をよじりながら大野に近づき、話しかけた。

「おい!大野!起きるんだ。
 おーい!」

「んう・・・
 な、なんで、ね、眠って、や、山本。
 ひひ、い、一体、ど、どういう、こ、こと、なんだ?」

「おー、気が付いたか、俺が起きたら縛られてここにいたんだ。
 俺が寝た後どうなったんだ?」

俺が疑問をぶつけると、難しい顔をして考え込んだ。
少し時間が立ったあと、大野は顔を上げて俺に喋りだした。

「わ、わからない、き、記憶に、な、ないんだ」

「なんだと、それじゃどうしようもないじゃないか!
 あ、めぐみは!」

めぐみがいないことを思い出し、部屋を見渡す。
暗いといっても、何か灯りがあるのか部屋を見渡せるくらいの明るさは確保できているみたいだった。
首を振り、部屋を隈なく見渡すがめぐみの姿は見つからない。

「ひひ、ま、まずいね・・・」

「めぐみ・・・、無事だといいが」

コツコツコツ・・・・

「おい!」

「う、うん、わか、わかってるさ」

俺が言うと、大野も部屋の扉の方へ顔を向ける。

ガチャリ

開いた扉から出てきた人物を見て俺は目を疑った。

「あら、ようやく目が覚めたのね」

「おい・・・嘘だろ?」

「ひひひ、な、なんでだい、た、高橋さん。」

そう、扉から現れた人物はめぐみだった。



− 続く −


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