今日は定休日だ、と言っても休むわけじゃあない。
店で営業する以外にも仕事は沢山あるのさ。



【TSショップ、山本の日常2】
作:リイエ



「さてと」

俺はそう言うと腕をまくり、部屋の奥にある鉄火場へと足を運んだ。
鉄火場に入ると、ずらりとナイフが並んである。
自分で作った物ながら、惚れ惚れとする出来だ。

「黒のオプションで必要かって聞くとみんな必ずいるって言うもんなぁ。
 そんな簡単にほいほい作れるもんじゃないってーの、っとよ!」

俺はぶつくさ言いながらも、鉄火場に火を灯す。


カーン!カーン!カーン!
鉄火場に大きな金属音が鳴り響く。

「ふぅ、こんなもんか」

俺は普通のナイフとは違ういびつな形のナイフを手に取った。
最初は黒のオプションに普通のナイフをつけていたが、平常時に誤って自分を刺して死んだ奴がいたため、俺は苦心の末にこのナイフを作り出した。

このナイフはゼリージュースの成分が含まれていて、黒のゼリージュースを飲んだときに皮になった皮膚に反応して切れるようになっている。
普通に切ろうとしても、刃がないので切れる事はない。

ジュウウウウウ。
ナイフをゼリージュースの原液につけ冷やす。

「今日はこんなもんでいいか、あんま作ってもしょうがないしな」

原液から取り出したナイフを乾燥棚に引っ掛け、そのまま鉄火場の端にある机へ向かった。
机の上にはずらりと仮面が揃っていた、俺は一枚の仮面を取りその上にある小型冷蔵庫から小さい容器に入ったクリーム色と白色のゼリージュース、それと原液を取り出した。

「おっとここからは、慎重に慎重に」

ゴム製の手袋をつけると、俺は仮面の裏にまず原液を均等になるように塗った、その上に『真由美』と書かれているクリームのゼリージュース、更にその上に白色のゼリージュースを塗り重ねた。
偶然気づいたことなんだが、原液の上にゼリージュースを置くと皮膚に吸収するらしい。
熱にも強くなるので、ジュースと言うよりさながら塗り薬みたいな薬品になったと思える。

これの応用品で、原液と黒と白を混ぜたもので。一部分の皮を取り付けるなんて事も出来る。
これは宅配のみでしかやってないが、意外と好評だ。

「ふぅ、あとはこれを温度調節機の中へと」

俺は机の左にある箱の扉を開いて、その仮面を中へ入れた。

「温度は・・・10度っと、よしよしこれで乾くまで待ってればよし。
 他のマスクもやっちゃわないとな」

俺は腕を捲くりあげ、残りの仮面も同じようにゼリージュースを塗っていく。

っとここでみんなは分からないようだから、説明するがこれは顔を変形させる仮面だ。
普段は白い、体を変形させるゼリージュースのオプションとして用意するんだが、時たま違う目的で使用する客もいる。

このマスクは作るのが大変なんだ、作りたい対象の仮面を持ってきてもらって、まぁ嫌なんだが俺が紫のゼリージュースを飲んで同じ顔を作るわけだ。
紫は排泄すれば、元に戻るからなゼリージュース飲みすぎて一日中トイレに篭っていたときもあったっけな、あれは苦笑もんだったよ。

中には全身入れ替わりたいと、他のパーツも用意したりするぜ。
まぁそこは別料金でたんまり金を頂くがな。
さて話がそれちまったかな、他にも製作中の失敗談とかもあるんだがそれはまた今度にしよう。


仮面を作り終わったら、今度はゼリージュースの混合だ。
いや、普通のゼリージュースに関しては勝手に客が混合してくれるから問題はない、むしろ俺には関知する余地もない。

俺が作るものはソーダーが入ったゼリージュースだ。
二酸化炭素や果物なんかの発酵成分がゼリージュースの効能を変えるらしい。
大きなガスの入ったボンベを取り出すと俺は一気に、ゼリージュース原液の中へ押し込んだ。

すると原液は見る見るうちに液状から固形に固まっていく。
数分もしないうちに、液体だった原液は見事なゼリーソーダへと変化した。

「さて取り分けて容器につめねーとな」

俺はそう言うと、ゼリーソーダーをすくい容器に詰めていく。

「しっかし、高圧縮のガスを入れても凍らない液体ってどういうことなんだろうなぁ。
 まぁよくわかんねーしどうでもいいか」

次に俺は横にあった樽を見た。
樽を横から叩くとコンコンといい音が返ってきた。

「お、できてるな、ちょっと見てみるか」

俺は樽のコックをひねり、用意していたコップに入れてみる。
ひねった先からはどろどろとした、ゼリージュースがジュワーと音を立てて落ちてくる。

「発酵は大丈夫か?おっ、大丈夫みたいだな。上出来上出来」

満足そうにうなずくと、俺は流し場にゼリージュースを流した。
アルコールが入った、ゼリージュースはジュワジュワと音を立てていって流れていった。
流し場から戻ったら、コックをひねり手に持ったビンでゼリージュースを詰めていった。

「ふふーん、ふーん♪」

鼻歌を歌いながら気楽に作業をする。
樽の中身がなくなったのを確認したら、ビンを温度調節機へ運んだ。

「さてと、今日はこんなもんかなぁ」

手を、パンパンと掃い。
小物やら、出来たゼリージュースを見回る。

コンコン・・・、コンコン・・・。
と、そのときその入り口を叩く音が聞こえた。

「ん、誰だ。
 客が休みなのに来ちゃったのかな」

鉄火場にあったエプロンをつけると、俺は玄関に向かった。

「すいませーん、今日はや・・・、あ大野じゃねーか。
 どうした、いつもは来ないのに」

俺が話しかけると大野は、呟くようにしゃべり始めた。

「ひひ、きょ、今日は、ぜ、ゼリージュース持ってきた。
 そ、そのせいでお、小野も困ってんだろ、クククク・・・」

「はぁ?まぁ上がれよ」

俺は扉を開けて、大野を迎え入れた。

「おーい、大野コーヒーでいいよなー?」

部屋の方に声をかけたが返事はない。
まぁいつものことだ、コーヒーでいいだろう。

「ほい、コーヒー」

「あ、ありがと」

「相変わらずどもってんのはかわんねーな。
 元気だったか?」

「ど、どもっているな、なんて言うな、ひひひお、俺だって気にしているんだ。
 そ、それにそ、そんなこ、こと微塵もお、思ってないのに、い、言うなよ。
 げ、元気かってい、言われれば、げ、元気だよ」

大野の話し方は相変わらず、だるい。
言葉言葉に詰まるやつで、それが原因でみんなから嫌われているらしい。
まぁ俺はこいつと腐れ縁ってやつで、今でも悪友をやってる。

「きょ、今日は、ぜ、ゼリージュース。
 ゼリージュース、ま、また持って来たよ。ひひ」

「お、うれしいねぇ。
 最近黒のゼリージュースが売れ行きが良くてさもうちょっとでなくなりそうだったんだよ」

「ひひ。く、黒のじゅ、ジュースがうれるな、んて。
 く、っくるっている奴らが、お、多いね。ひひひ」

指を噛みながら、大野はそう喋ると、大きく笑った。

「おいおい、狂ってんのは客も俺たちも一緒だろ?
 売ってる時点で同罪だぜ、ゼリージュースの所為で見えないところで消えている人多分大勢いるんだぜ?」

「ひひひひひ!ひゃはっははっはは。
 き、君が、そ、そんな、こ、こと?
 う、売ってる、ちょ、ちょ、張本人なのに?
 ひー、お、おかしい」

俺の喋ったことがよほど面白かったのか、引きつりながら大野は大笑いしている。
まぁ、このことでカチンとはしない。

正直このゼリージュースで誰が不幸になろうが、誰が幸福になろうがどうでもいいのだ。
買った奴の自己責任、まぁ天国と地獄があるなら、真っ先に地獄オチだろうな。
もちろん俺もだが。

ひとしきり、笑い終わった持っていた大野はダンボールを俺に差し出した。
中には色とりどりの、ゼリージュースが容器に詰まってる。

「おー、さんきゅ。
 じゃあちょっとこれ冷蔵室に持って行くわ」

「ひひ。いってらっしゃい」

冷蔵室から戻ると、大野の姿はもうなかった。
部屋の座布団の横には、書置きが書いてあった。
どうやら、大野が書いたものらしい。

『コーヒーありがとう。
 お前がゼリージュースを売ってくれるおかげで、小野にいつも一泡吹かすことができるぜ。
 また、手に入り次第持って来るよ。
 大野』

「ふー帰ったか。
 相変わらず楽しいことしてるみたいだな。
 しかし小野ってのは一体誰なんだ?」

入り口のカギを閉め、部屋に戻りながら考えた。
ふう、今日はもう寝るか。

「そんないじめっ子いたかなぁ。
 小野、小野、小野。
 まぁいいか、今度聞いてみるか」

大野の言葉を反芻しながら、眠りについた。



カランカラーン

おっと客が来たようだ。
今日は、どんな話が聞けるのかな。
くっくっく、まったくこんなもんに食いついてくる客はばからしーぜ。
おっと間違えた、おいしいお客さんだったな。

「いらっしゃいませ、本日はどのような御用入りでしょうか?」



終わり














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