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天使のノブラ
 作・JuJu


第4話 「ノブラ、学校の先生になる。(前編)」


 神石公園に朝日が射した。

 公園で一番背の高いアカマツ。そのテッペンで寝ていたノブラは、太陽のまぶしい光で目を覚ました。

「やっと起きましたわね、ノブラ」

「あ、蘭! おはよう!」

「おはようございます。

 と、挨拶している場合ではございません。

 あなたが起きるのをワタクシはここで、ずぅ〜っと待っていたのです」

「起こしてくれれば、よかったのに」

「それは……、貴方の寝顔があまりに可愛いかったもので、起こすのにしのびなくて……」

「ねえ、見てみて! 人があんなに大勢!!」

「朝ですから。人間は主に昼間に活動するのです」

「あれ何? あれは? 行って見ようよ!」

「あれは池ですわ、それからあれは……。

 そんな事より、あなたにはお話しがあります。まず天使と悪魔の関係についてです」

「天使と悪魔の仲が悪かったのって、ずーっと昔のはなしでしょ?」

「いーえっ! よくお聞きなさい? ジェリー家は名家です。ですから、伝統を非常に重んじます。

 そもそも歴史の紐を解いても、古来より天使と悪魔は敵対する立場であり……」

 蘭は目を閉じた。人差し指を立て、オーケストラの指揮者の様に振りまわし、得意げに先祖の話をした。

「ふああ〜。蘭の話、つまんない……。

 それより蘭、あれは何? 行って見ようよ!」

 ノブラは飛び立った。

「そしてですね……。ノブラ、聞いてらっしゃいます?」

 蘭が目を開けると、ノブラは遥か遠くを飛んでいた。

「ま! あんなところに!!

 ワタクシの話は始まったばかりです。お待ちなさい!!」

 蘭はノブラを追いかけて飛び立った。

 ノブラは蘭がやってくるのを見つけると、手を振った。

「蘭〜、遅い〜! 早くこっちこっち!!」

「ハアハア……お待ちなさいノブラ! まだお話は終わっておりません!

 それに……。その……。

 一番肝心なのは、どうして看護婦の体に入って、ワタクシとエッチな事をしたのか、その理由を……。

 あ、いませんわ!

 今度はどこに?」


         *   *   *


 地上では、自分と同じ位の歳の子供達が大勢歩いていた。

 ノブラはそれを見つけると、降りていった。二人組みの女の子に近づく。

「ねえ蘭? この子達どこに行くのかな?

 蘭? あれ? いない。

 帰っちゃったのかな?

 ねえねえ? あなた達どこにいくの? って聞いても、人間にわたしの声は聞こえないよね。どうしたら教えてもらえるかな?

 そうだ!」

 ノブラは、一人の子に近づいた。

「ごめんね。ちょっと体を貸してね」

「え? 急に体が……動かなく……」

 ノブラは女の子の体に入った。

 女の子はダランと体をくずしたが、すぐに顔を上げた。

「由香里ちゃん、どうしたの?」

「この子、由香里ちゃんって言うんだ。

 ねえねえ! これからどこに行くの? ピクニック?」

「何バカいってんのよ。小学校に決まっているでしょ?」

 もう一人の女の子が飽きれて歩き出したので、ノブラの入った由香里も後をついていった。

「ふーん? 人間も学校に行くんだ。わたし達と同じだね!」

 歩いていると、学校が見えてきた。

「へー! これが人間の学校! 面白そう!!

 体貸してくれてありがとう!」

 ノブラは由香里の体から抜け出すと、小学校に入っていった。

「――え? ここは? 学校?

 なんであたし、学校にいるの?

 商店街のパン屋さんの前にいたのに、突然学校の前に? ……え? どうして?」

「……。

 由香里、今日は何かおかしいよ?」

「うん……自分でも変……」

「大丈夫?」

 女の子は由香里の手を握った。

「大丈夫。だって法子ちゃんがそばにいてくれるもん」


         *   *   *


「あんな所に! 見つけましたわ!!」

 ノブラは神石小学校に入っていく所だった。

 蘭はノブラを追って、小学校に入っていった。

「ふー。ここに来た事は確かなのですが。

 これだけ建物が広くて子供ばっかりだと、捜しきれませんわ。

 しかたありません。ノブラが見つからないのならば、ここの人間を困らせて悪行を増やしましょう」

 蘭は石神小学校の校長室に入って来た。校長と女の先生がいた。

「吉岡先生には、今日から一年A組を担当してもらうわけだが……」

 蘭は校長の頭上で、しばらく話を聞いていた。

「ふんふん。なるほど。大方の事情は飲み込めましたわ。

 この女性の方は教師で、今日が初めての授業なのですね?

 授業で緊張している人間こそ、よいカモと習いましたわ。

 ほほほ。それでは校長に憑依して、無理難題を申し付けて不幸にして差し上げましょう!

 ……とは言え、うう……よりによって、こんなハゲデブオヤヂにならなければならないとは。いくら補習とはいえ、あんまりですわ。

 ……愚痴を言っていても始まりません。ここは目を瞑って……えいっ!」

 蘭は校長に体を重ねて、校長の体に入っていった。

「う? うん……」

「どうされました校長?」

 話の途中で突然うなだれた校長に驚いて、吉岡先生が声を掛ける。

「う……いえ、なんでもありませんわ。……もとい、何でもない。

 それより、さっきまでの話しはウソだ」

「は? ウソ?」

「今日は吉岡先生には五年B組を受け持ってもらう。授業は……そうだな、保健の性教育なんか困りそう……もとい、受け持ってもらおうか」

「そんな。いきなり五年生は無理です。しかも性教育って……」

「うるさい! わしは校長なんだそ! 校長の言うことが聞けないというのかね? いいから黙って言う事をきけ!!

 早くしないと、そろそろ限界……」

 鐘が鳴る。

「授業十分前……。わかりました。時間もありませんし。校長がそうおっしゃるのならしかたありません。」

「よしよし。それでいいんだ」

 蘭は校長からすごい早さで抜け出した。

「うー、気持ち悪い! もう限界ですわ〜」

 蘭は飛んで校長室から出ていってしまった。

「ん? わしは何を?」

 校長はキョロキョロとあたりを見まわした。

「それでは授業にいってまいります」

「ん? ああ。頼んだぞ」


         *   *   *


 授業開始の鐘がなる。

 吉岡先生は五年B組の前の廊下で、立ち止まっていた。窓を見ると、生徒たちは着席して先生が来るのを待っている。

「気が重いな〜」

 吉岡先生は言った。

 ノブラは学校のあっちこっちを飛びまわっていて、五年B組のクラスの前に来た。

「あ! 困っている人発見!」

「いきなり五年生相手に授業ができるのかしら? しかも性教育とは……」

「授業する自信がないのね?」

「でも、がんばらなくっちゃ」

「そうよ、その意気!

 アタシも手伝ってあげる」

 ノブラは先生に体をめり込ませる。

 女先生はガクっと、うなだれるが、急に顔をあげる。

「成功!

 まかせといて! 先生の代わりに、あたしがちゃんと授業しておいてあげる!」











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