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天使のノブラ
 作・JuJu


第1話 「ノブラ、白衣の天使になる。(中編)」


「それから、私は急用を思い出したので帰る。

 私がいなくても、責任を持って太田さんを看病をするんだぞ? いいね!」

 沢田医師になった蘭は言った。

「え〜っ? 先生、帰っちゃうんですか?

 太田さんとあたしだけになっちゃうじゃないですか!

 ストーカーと二人っきりで夜を過ごすなんて……、危険過ぎます!」

 看護婦の聖子は言った。

「患者と看護婦だ、問題ないだろう」

「太田さんって、あの体格ですよ?

 もし迫られでもしたら、あたし抵抗できません」

(うふふ。もちろんあの方に取りついて、あなたを襲うつもりですわ。

 ま、ワタクシは女性には興味がないので、襲うふりをするだけですけども)

 蘭は思った。

「君も看護婦の端くれだろう?

 とにかく、私は帰るから、後の事はたのんだよ」

「あっ、先生? ちょっと!」

 聖子を無視して、医師は診察室から出ていってしまった。

「えーえー! わかりましたよ!

 太田さんは、あたしが責任を持ってめんどうをみます!

 でも、もしもの事があったら、先生のせいですからね!」

 聖子は、病院から出ていく医師の背中に向けて叫んだ。

 沢田医師は病院から出た。

「ふーっ。うまく演技できたでしょうか?

 次は、あの素敵な方の体をワタクシの自由に出来ると思うと……うふふふふふ……」

 沢田医師は、右手の甲でよだれを拭く。

「うふふふ……ジュル……。

 あらあら、ワタクシとしたことが、よだれをたらすとははしたない。

 でも、あの方のお体に入れるなんて……、も〜こたえられませんわ〜! さっそく頂くとしましょう!!」

 蘭は医師から抜け出すと、ものすごい勢いで病院に飛んでいった。

「あれ? なんで私はここにいるんだ?」

 蘭が抜けて意識が戻った沢田医師は、あたりをキョロキョロと見渡す。小首をかしげながら、病院に戻っていった。

「あら先生? 忘れ物ですか? あとの事はあたしに任せて、とっとお帰りくださいっ!」

「あ、いや。

 え? そ、そうか? じゃあ、任せたよ?」

 聖子の剣幕に押され、沢田医師は訳もわからないまま追い出される。仕方なしに帰宅する沢田医師であった。



* * *



「え〜と。さわだ……びょういん……。ここはお医者さんね?」

 地上に来たノブラ・ワコールは沢田病院の前に来ていた。

 ノブラが病院の看板を見ていた時、蘭の入った沢田医師が出てきた。

「あ、お医者さん!

 お医者さん注射するから嫌い!」

 沢田医師を見たノブラが、慌てて立ち去ろうとした。

 その時、沢田医師の中から蘭が出て来た。

「人間の体から何か出てくる!!」

 ノブラは、目を凝らした。

 サナギから抜け出す蝶の様に、医師の背中から蘭が出てきた。

「蘭!

 なんでお医者さんの体から、蘭が出てくるの?」

 蘭はマッチョの太田の体に入れる事で頭がいっぱいで、ノブラの声に気がつかない。

 彼女は頬を赤く染め、急いで病院の中に飛んでいった。

「今の蘭だったよね?

 お医者さんの体から出てきたよね?

 なんで? どうして?

 それに、体に入るとかなんとか……体を自由にできるとか言っていたけど……。

 あ、思い出した!

 授業で聞いた事がある!

 人間の体に入ると、自由に操れる……んだっけ?

 ちがったかな?

 蘭に聞いてみよう! 蘭〜まってよ〜!」

 ノブラは壁をすり抜けて、沢田医院に入っていった。



* * *



 蘭は壁をすりぬけて、控え室に来た。

「あーあ。大変な事になったなぁ。

 今夜はあのストーカーと二人きり……」

 聖子は言った。

「おーっほほほ。看護婦が困ってますわ!

 あんな素敵な方を、ストーカー呼ばわりする罰です。

 今でも不幸の様ですが、もっともっと、困らせてさしあげましてよ」

 蘭は聖子の頭上で、腕組みをしながらフワフワと飛んでいた。不敵に微笑むと、壁をすり抜けてマッチョを捜しにいった。



* * *



 蘭と入れ替わりに、控え室にはノブラが入ってきた。

「こっちに来たみたいだったんだけど、どこに行っちゃったんだろう?

 別の部屋かなぁ?」

 ノブラが部屋を出ようとした時、聖子が言った。

「あー。困った。どうしよう」

「え?

 やったあ! 困っている人発見!

 助けてあげて、善行をつんで、早く一人前の天使にならなきゃ!」

 ノブラは看護婦の背中に立った。

「体の中に入れば、わたしも看護婦さんになれるのかな?

 蘭だってできたんだから、きっと大丈夫だよね?

 それに……、わたし、看護婦さんってやって見たかったんだっ!」

 ノブラは、聖子の体に重ねていった。

「はあ……一晩中、太田さんの看護をしなければならないなんて……はうっ!? どうしたの? 体が急に動かなく……」

 聖子はしばらく硬直していたが、突然動き出す。

「ん? あ?

 できたできた! わたし看護婦さんになっちゃった!」

 聖子は自分の体を見た。

 体をくるくる回転してみる。

「動く動く! おもしろーい!!

 白衣の天使、ノブラの誕生よ!」



* * *



 その頃、蘭・ジェリーは診察室に来ていた。

 マッチョの太田はおとなしくイスに座っていた。

「では、さっそく」

 蘭はマッチョの中に体をうずめて、マッチョの体を乗っ取った。

「ほほほ。あの看護婦に無理難題を言って、困らせてさしあげますわ!

 ああっ!この太くて低い声……。

 この、たくましい体。

 すべてワタクシの思いのままなのですわね?

 なんて素敵な……」

 太田になった蘭は、自分の体を眺めたり、腕をさすって筋肉の感触を確かめたりした。

「この感触。たまりませんわ〜。

 この体がワタクシの物。

 ルシフェル先生も素敵ですが、この鍛えぬかれた……。

 ――ハッ!!

 いっ、いけませんわ!!

 ルシフェル先生! ワタクシは、浮気なんてしていません!

 確かにこの方も素敵ですが、ルシフェル先生が一番ですわ!!

 ワタクシとした事が、あやうく浮気してしまうところでした。

 こんな事をしている場合ではありません。

 悪行を積んで、一日もはやくルシフェル先生に認めていただかなければ。

 まずは病気のふりをして、あの看護婦を困らせましょう」

 ストーカーになった蘭は叫んだ。

「看護婦さん! 苦しい〜よ〜苦しい〜よ〜」



* * *



「ん? 患者さんが苦しんでる!」

 看護婦の聖子になったノブラは、声がした方に行こうとして、ドアに体をぶつける。

「いたぁ〜。人間って壁を抜けられないから不便よね〜」

 手でドアを開けて、診察室に入る。太田になった蘭がイスに座っていた。

「看護婦さん、いたいよーいたいよー!」

「どうしたの?」

「えっとー、病名はなんでしたかしら? そうそう、風邪ですわ!!

 風邪で苦しいんだよー。

 それもただの風邪じゃなくて、

 看病してくれないと、死んじゃう風邪なんだよー!!」

「死んじゃうの?

 そんな重病なの?」

 ノブラは思った。

(ああ、なるほど。

 重病な患者さんを助けようとして、この看護婦さんは困っていたんだわ。

 でも重病の患者さんを助ければ、絶対に天界に帰れるに違いない!

 よ〜し、がんばらなくっちゃ!

 でも……どうすればいいの?

 看護婦さんになったのはいいけど、わたし、人間の病気の治し方なんてしらないよ〜)














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