※(R-18)十八歳未満、閲覧禁止です※ 天使のノブラ 作・JuJu 「ぷろろ〜ぐ」 女神の飾りが輝く、巨大な白銀の門。 エンゼル・ゲート。 エンゼル・ゲートの前には、十人の天使の子供が一列に並んでいる。緊張した面持ちで、一人また一人とエンゼル・ゲートをくぐって行く。通るときに彼女達は目を伏せ、手を胸の前で組む。女神に忠誠と感謝、人間達の幸せを誓う。 門を通った娘達は、飛び跳ねたり、涙ぐんだり、抱き合ったりしている。 今日はエンゼル小学校の卒業式。 生徒たちは、この門をくぐる事を夢見て、今日まで学んできた。 エンゼル・ゲートをくぐる事は、小学校の卒業である事と共に、一人前の天使として認められた証である。 列の一番最後に並んでいたノブラ・ワコール(12歳)にも、門をくぐる瞬間が来た。 白い翼を不安そうにたたんでいる。 潤んだ碧い瞳は一心にエンゼル・ゲートを見つめていた。 (うう〜。緊張しちゃうなぁ。 これでわたしも一人前の天使に……) 《ブー!!》 ノブラが門をくぐろうとすると、ブザー音がなった。 天使達が一斉にノブラを見る。 「ノブラ、あなたは留年です!」 門の横に立っていたガブリエル先生は言った。 ちょっと細身の、金縁眼鏡をかけた背の高い男の先生だ。ウェーブのかかったブロンズの長髪が美しい。 ノブラ達の担任であり、ノブラのあこがれの人でもあった。 「えー? どうしてぇ〜?」 「どうしてではありません。あなたの成績では当然です。体育と保健だけは満点ですが、それ以外は全て赤点ではないですか!」 「うっ……。でもまあ、もう一年先生といられるならいいかな?」 「どうしてあなたはそう楽天家なのですか! 残念ながら落第生はこの学校にはいられません。 課外授業を受けてもらいます」 「先生の授業じゃないの?」 「貴方には地上に行ってもらいます。 私だって貴方のような落ちこぼれを地上に送るのは不安なのですが、これも校則です。仕方ありません」 「人間の住んでいる、あの地上?」 「あなたは人間が幸せにしなくてはなりません。一定以上善行を積めば、天界に戻れます。 その時、エンゼル・ゲートを通れるのです」 「わかりました! それじゃ、ちょっと行って来ます!」 「あ、こら、待ちなさい!! だからあなたは楽天家だというのです。 まだ話しは終わっていません! まずは地上における注意事項をですね……」 「先生のお話は長いからいや〜! またねー!!」 ノブラは金色のセミ・ショートの髪ををなびかせて、行ってしまった。 「がんばってね〜! ノブラ〜!」 ノブラにエールを送る天使達。 ため息をつき、うつむいて首を振る先生。 と思ったら、ノブラは帰ってきた。 「忘れ物〜!」 ポシェットから小さな包みを出す。 「これクッキー。 卒業のお礼に、先生に焼いたの。 卒業できなかったけどね。 それじゃ、今度こそいってきまーす」 手を振りながら小さくなるノブラ。 ガブリエル先生が包みを開けると、ちょっとコゲたクッキーが入っていた。 「本当にこれで良かったのでしょうか。 校則だから仕方ありませんが……。 皆さんも、人間が無事であるように神に祈りましょう」 クッキーと聞いて、集まってきた天使達に包みを広げてクッキーを配る。 ガブリエル先生もクッキーを口に含む。 「……苦いクッキーです」 * * * その頃。 エンゼル小学校の隣にある、デビル女学園。 妖艶な女悪魔の飾りがある、黒檀で出来た巨大な門「デビル・ゲート」。 デビル・ゲートの前では十人の悪魔の子供が一列になり、一人また一人と歩いていく。門を通るとき彼女等は、左手を胸に当て、右腕を高らかに掲げる。悪魔に忠誠と感謝、人間を不幸を誓いながら門をくぐっていく。 門の後ろではすでに門を通った子供達が、飛び跳ねたり、涙ぐんだり、抱き合ったりしている。 デビル女学園の生徒たちは、この門をくぐる事を夢見て、今日まで学んできた。 今日は、蘭・ジェリー(12歳)の卒業式だ。 デビル・ゲートをくぐる事は、学園の卒業である事と共に、一人前の悪魔として認められた証である。 蘭は列の最後で、門をくぐる瞬間を待っていた。 列は進み、蘭の番になった。 「これでワタクシも立派な悪魔ですわね! おっーほほほ」 漆黒の翼を堂々と広げ、黒い瞳は門を見つめ、頬にかかる長くて黒い髪を右手で払う。 高笑いをしながら蘭が門をくぐろうとすると、門の横に立っていたルシフェル先生が言った。 「ジェリー、お前はダメだ!」 スマートな体つきのスポーツ万能な男の先生だ。漆黒の髪をショートカットしていて、いかにもスポーツマンっぽい。 彼女達の担任であり、蘭のあこがれの先生でもあった。 「どうして通ってはいけませんの? 容姿端麗! 学業優秀! しかもお金持ちのお嬢様!! のワタクシが?」 「確かにお前は学年首位だが、最近のお前はなんか変だ」 うっ……。 そうなのです。ここ一週間、ぼんやりしてますの。 その原因はノブラ!! じつは一週間前の事です。 隣町のお菓子屋さん「ノエル」のシュークリームがおいしいとクラスの子から聞きまして、その日の放課後に買いに行った時の事です。 評判なだけあって、お店にはお客さんの行列が出来ておりました。 ワタクシもその行列に並びました。 しばらくしてワタクシの番が来ました。 「お嬢ちゃんごめんね、シュークリームは前の人で終わったよ」 ガーン!! 「そんな……、せっかく隣町から来ましたのに……」 ガックリと肩を落として家路につくワタクシに、声を掛けてきた天使見習いの子がおりました。 「シュークリーム買えなかったの? じゃ、わたしの一個あげる」 彼女は紙袋からシュークリームを出すと、ワタクシに手渡しましたの。 「隣町から来たって言ってたけど、もしかしてデビル学園に通っているの? わたしはお隣のエンゼル小学校に通ってるの。名前はノブラ・ワコール!」 「はあ……、ありがとうございます。ワタクシは蘭・ジェリーと申します」 「ねぇ、わたし前から悪魔のお友達が欲しかったんだ。お友達になってよ」 「なっ!? なれるわけがないでしょう! ワタクシは悪魔なのですのよ!? ……まだ学園を卒業しておりませんが……」 「別にいいじゃない。わたしは気にしないよ?」 「あなたが良くても、ワタクシが良くありません。 名誉も伝統もある悪魔の名門ジェリー家の長女が、天使と仲良くなったとあっては、末代までの恥です!」 「ふ〜ん? まあいいや。また遊ぼうね!」 「おまちなさーい! ワタクシの話を聞いていきなさーい!!」 この後、ジェリー家がいかに伝統があり、良家で、誇り高き名門であるかを説諭するために追いかけたのですが、なんとも足の速い子で、結局見失ってしまいました。 諦めて家に帰り、ダージリンを淹れ入れて、ノブラに貰ったシュークリームを添えました。 「天使のくせに悪魔のワタクシと友達になりたいだなんて……」 紅茶をひとすすりしてから、わたくしはシュークリームを見つめました。 シュークリームに彼女の笑顔が映ります。その笑顔の可愛い事。まさに天使の笑顔……って天使なのですが。 その日からです。彼女のあの笑顔が、いつも頭の中に浮かんで離れないのです。おかげで授業は手につかないし、テストも赤点。「う〜!! これもそれもあれもどれも! みんなノブラのせいですわ!! ……でもまあ、先生と二人っきりの補習が受けられると思えば、気やすめにはなりますわね」 「なんだノブラって? とにかくお前は、課外授業だ!」 「先生の授業じゃない?」 「お前は地上に行くのだ。 「地上って……人間の住んでいる、あの地上?」 「そうだ。地上で頭を冷やして来い。 お前は地上で人間を不幸にしてくるのだ。悪行を積んだら、デビル・ゲートをくぐらしてやる」 「厭ですわ! 高貴なワタクシが汚らわしい人間のいる地上に行くなんて……」 「いーから! ブーたれてないで、さっさと行けっつーの!!」 「はい……。 容姿端麗、学業優秀、お金持ちのお嬢様のワタクシでも、先生にはかなわないですわ……。とほほ」 ため息をつき、うつむいて女学園の正門を出る。 地上行きの列車に乗るために駅前に来た時、駅に入っていく天使の子の姿が見えた。 「あの後姿は……ノブラ!! そうですわ! あれもこれもそれもどれもすべて、あのノブラのせいですわ!! それに、まだ我がジェリー家の素晴らしさを教えてませんわ。 こら〜ノブラ〜っ、お待ちなさーい〜!!」 ★おしまい★ |