魔法の巫女ももこ

最終回「ココロノツナガリ(7)」

作・JuJu



「母さんの体で勝手なことをしないで!」
「この体は、性行為への期待で熱くなっているぞ?
 私だけではない、この桜の体が快感を求めているのだ」
 竜姫は近づいてきた。
 桃子は逃げなければと思ったが、桜の裸体から目が離せなかった。
 桃子の目は、桃太郎の目――男の目つきになっていた。
「お互い女の味を楽しもうではないか?」
『自信を持って! 精神を集中させるのよ!!』
 いつの間にか、桃子の隣にスモモが来ていた。
 スモモも霊力を出して邪心竜を引っ張った。
 スモモの霊力は余りに微量で、まったく効果はなかった。
 だがそれでも、スモモは全霊力で邪心竜を引っ張った。
 顔をしかめ、荒い息を吐いている。立つことも苦しいらしく、足や体が震えていたが、力は緩めなかった。
『スモモ……。わかった。
 俺だって若月家の血を引いているんだ。
 千年の若月の巫女の願いを背負っているんだ!』
(そうだ。何も考えるな。
 今はただ、自分のもてる力を全部だす。それだけだ)
『フハハ! 竜姫の復活……む? なんだ! この力は!?』
 桜に逃げ込む邪心竜を、引きちぎるように桃子の霊力が引っ張った。
『やめろ! ちぎれる……!!
 ぐはぁ! ぐき、ガガガガガーーー!!』
 邪心竜の精神は、二つに引き裂かれ、霧のように消えた。
「よし!」
『やった……!!』
「終わったんだな? これで、やっと、全て?」
 桃子の耳に、また自爆装置の放送が耳に入ってきた。
《基地ノ崩壊マデ、アト15分デス》
 そこに、梅雄達が来た。
「やっと来たのかオヤジ!」
「桃子? なんて口の聞き方だ? 幻滅だぞ」
「もう邪心龍はいないからな! 桃子の振りをする必要もない!」
「そうですよ。あなた。……老けたわね」
「あれから15年たったからな。
 お前は年をとってないな」
 梅雄はボンデージ姿の桜を、いやらしい目つきで見ていた。
「もうそんなに過ぎたの。
 邪心竜に取り付かれていた間、歳は取らなかった。でもつらかった」
 プロフェッサーKは遠くから見ていた。
 梅雄と桃子を見る桜のやさしいまなざしを。
 プロフェッサーKは去って行った。
「逃げるのか?」
 プロフェッサーKに気が付いた桃子は追おうとした。
「許してやれ。邪心竜がいなくなれば、何もしないだろう」
 梅雄が言った。
「それより、脱出だ」
 梅雄は気絶している雛子を抱いた。
 桃子はスモモを抱いた。
 轟音と共に、基地が大きく揺れた。
 壁にひびが入り、そこから土が舞って視界が悪くなる。
《アト10分デス》
「逃げるぞ!
 梅雄は言った。
 桜も自分がもう歩く体力さえ残っていない事を解っていたが、黙っていた。
 みんなの前では元気見せていたが、実は桃子とのセッ○スに加え邪心竜の封印で、体も精神もボロボロだった。
 桜も着いていったが、やはり遅れてしまっていた。脱出には時間がない。自分が足かせになりたくなかった。
 桃子達も轟音と揺れ、埃で視界が悪く、桜が途中から着いてきていない事に、誰も気が付かなかった。
 桜は通路で立ち止まった。
 崩れるように座り込む。
 目の前の通路の天井が抜け落ちて、壁となった。
「ほら。神様も、もう私の役目は終わったと仰ってるわ」
 桜を邪心竜を倒した満足感が支配していた。

               §

 プロフェッサーKは研究室に帰っていた。
 黙って目をつむって座っている。
 彼は桜の笑顔を思い出していた。
「桜の笑顔か。
 龍姫の時には見せなかった表情だな。
 私が桜に惚れたのも、あの笑顔を見た時だった。
 今まで誰も私に微笑んでくれる奴なんていなかった。だが、桜はちがった。
 私は桜の体も心も手に入れたはずだった。
 だが、違った。
 体と心。合わせて一つの物なのだ。
 私はもうあの笑顔は受ける資格がない。あの笑顔の受けるべき相手がいる。
 桜の選んだ若月と、桜の子桃太郎。
 私は、なんと遠回りをしてきたのだろう。
 私が求めるべき物はただ一つ。桜の幸福。桜の笑顔ではなかったのか?
 心から微笑む桜が見たかっただけではなかったのか?
 当時は許せなかった。私より若月を選んだ桜が。桜を奪った若月が。
 だが、今ならば分かる。
 桜が若月を選んだのだ。
 だとしたら私のするべき事は、若月から桜を奪うことではなく、若月と桜を祝福するべきだったのだ。
 憎むのではなく、祝福するべきだったのだ。
 だが遅すぎた。
 ――結局私は最期まで若月に勝てなかったと言うことか。恋も人生も!」
 プロフェッサーKは立ち上がった。
「思えば、あの洋館に桜が尋ねてきてから、オーフルも始まったのだな。
 ならば、最後もそこで迎えるか」
 プロフェッサーKは研究室を出て、洋館に向かって歩き出した。
「む? 桜?」
 プロフェッサーKは桜が倒れているのを見つけた。
「逃げ遅れたのか?
 くそ、若月の奴、何をしている?」
 プロフェッサーKが通路を見ると、天井が崩れて壁になっていた。
「なるほど。
 こんな私だが、今からでも桜の為に出来ることがあると言う訳か」
 プロフェッサーKは壁に体当たりをした。
 壁はびくともしなかったが、プロフェッサーKは何度も何度もぶつかった。

               §

 桃子達は洋館の外まで出てきていた。
 ここまで来れば安心だ。
 地下からは、轟音が響いていた。
「母さんがまだ来ない!」
「北村もだ。くそ! お前等はここで待ってろ!」
「オヤジはここにいろ、俺にが行く。桃子になっている俺が一番強い」
「バカ言うな! 娘だけ行かせられるか」
『あたしと桃子ちゃんとは、一心同体よ』
「時間がない。お前達、行くぞ!」
 三人は基地に戻って行った。
《基地ノ崩壊マデ、アト5分デス》
「あっちから、ドンドン音がする」
「北村だ!」
 3人が進むと、通路に壁が出来ていた。
「北村! いるか!」
「若月か! 桜はここだ! 壁の向こう側だ」
「わかった。北村、そこをどけ!」
 3人は、同時に壁に体当たりした。
 通路を塞いでいた壁が崩れ落ちる。
 気絶した桜と、白衣の肩に血を滲ませているプロフェッサーKがいた。
「桜を頼む!!」
 梅雄は桜を抱きかかえた。
「プロフェッサーKも早く!」
 桃子は言った。
「ここは、私と桜が暮らした、大切な場所だ。
 私はここで、最後の時を過ごしたい」
 プロフェッサーKは自分の体が、もう動かない事を知っていた。
 だからといって、若月に助けられたくはなかった。
「プロフェッサーK! お前のことは許す。だから早く逃げよう!」
 桃子が言うと、梅雄は言った。
「桃太郎。あいつが自分で選んだ道だ。そっとして置いてやれ」
「でも」
「男なら、わかるよな」
「……」
 桃子達は去っていった。
 プロフェッサーKには、桜を抱き抱える梅雄の姿が、出席する事の無かった結婚式の、梅雄と桜の新婦を抱き抱える新郎の姿に見えた。
 桜は気絶しているが、しばらく静養すれば元気になるだろう。
「私の夢の時間は終わった。若月よ。遅くなったがあの時、結婚の時に言えなかった言葉だ。
 ――しあわせにな」

               §

 桃子達が出た瞬間、洋館は崩れ落ちていった。
 地面から轟音が鳴り響いた。
 しばらくすると静まり、波の音だけがした。
「ううん」
 桜が唸った。
「お母さん?」
「まだ起きないみたいだな。無理もない、十数年もの間邪心龍に体を
乗っ取られていたんだ。だがしばらく休養すれば元気になるだろう」
「さて。桃子の姿ともお別れだな。
 こうなって見ると、ちょっと名残惜しいな」
 桃子は男根になってしまったお祓い棒を天にかかげて変身を解こうとしたが、何の反応もなかった。
「やっぱりダメか。
 オヤジ、新しいお払い棒を作ってくれ」
「それは世界に一本しかないと言っただろう」
「じゃあ、元のお祓い棒にもどしてくれ」
「どれ、見せて見ろ?
 こいつは強力な霊力で変形している。もう直せないぞ?
 まあ、それもいいじゃないか。お前だって女に生まれてこなかった事にコンプレックスもっていたんだろ? これで晴れて、本物の若月家の巫女だ。」
「それはそーだが……でも違う!!」
 腕を組んで、朝日の昇る水平線を見ながら梅雄は言った。
「これですべておわったな」
「おわってないーっ! 俺はどうなるんだよー」

(おわり)


               §


エンディング・テーマ曲 『イツワリ』


紅いルージュ 男をだまし
心に仮面 女を演じる
素顔の私を見て あなたは許してくれますか

もうひとつの姿 偽りの言葉
もうひとつの生命(いのち) 偽りの身体(ヌード)

あなたの瞳 あなたの想い
たとえ私が 消えたとしても
私はあなたを 忘れはしない



知りたい事は なんですか
大切なのは なんですか
本当の私を知って あなたは許してくれますか

あなたへの裏切り 偽りの気持ち
あなたへの傷 偽りの愛

ここでの私は ただの処女(おんな)
知らないほうが 幸せな事もある
あなたは確かに そう言った



もうひとつの姿 偽りの言葉
もうひとつの生命(いのち) 偽りの身体(ヌード)

あなたの瞳 あなたの想い
たとえ私が 消えたとしても
私はあなたを 忘れはしない





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