(前回のあらすじ)
 若月桃太郎は木村雛子に変質者退治を頼まれた。
 近頃、雛子の通う小学校に変質者が出没するというのだ。
 桃太郎は魔法の巫女ももこに変身し、小学校に潜入する。
 グラウンドで体育の授業を受けている時に、桃子は校庭の一角に変質者の影を発見した。
 変質者の正体が、桃子の捜索を続けていた怪人ネズミ男だとは知らずに。


魔法の巫女ももこ

第5話「潜入! 神石小学校!(後編)」

作・JuJu



 変質者は校庭の隅の木の陰から離れて、桃子達に近づいてきた。
「変質者の正体って、怪人だったの?」
 桃子の声に、異変に気が付いた生徒たちが騒ぎだした。
「先生。生徒達を連れて早く避難させてください! アイツはアタシがやっつけます。
 大丈夫! アタシは若月家の巫女ですから! アイツを倒すのがアタシの使命ですから!」
 若月家の巫女の事はパパから聞いていたらしく、先生は頷くと生徒たちを連れて校舎に向かった。
 ネズミ男は桃子の前に来た。
「魔法の巫女ももこ! みつけたでチュウ!
 俺は竜姫様の怪人、ネズミ男チュウ!!」
「勝負よ!!」
 桃子は刀を持つ様にお祓い棒を構えた。ネズミ男を睨み付ける。
 生徒たちの避難が終わるまで、怪人をここから進ませるわけには行かない。
 その時、後ろからシャツを引っ張られた。
「桃子ちゃんっ! あぶないよ、一緒に逃げようよっ!」
 振り向くと雛子がいた。
「え? 雛子ちゃん!? 逃げてなかったの!?」
「変質者の正体は怪人だったんだよ? 相手は人間じゃないんだよ!」
「アタシなら大丈夫! 雛子ちゃん早く逃げて!!」
「イヤ!! 桃子ちゃんが一緒じゃないと行かない!!
 桃子ちゃんはあたしのお友達になってくれるんでしょ? お友達置いて逃げられないよ!!」
「ほー? 桃子はその娘に弱いようだなチュウ?」
「ネズミ男! 雛子ちゃんに近づいたら、承知しないわよ!!」
「どう承知しないチュウ?」
 ネズミ男は雛子に近づいた。
 桃子もネズミ男に立ちはだかった。
 ネズミ男がフンと笑い、走った。
(速い!)
 そう思った時には、ネズミ男は桃子の背後に回っていた。
 桃子が振り返ると、雛子をかかえるネズミ男がいた。
「桃子ちゃん〜!」
「雛子ちゃんを返しなさい!!」
「返して欲しかったら、俺を捕まえて見ろチュウ!」
 桃子はネズミ男に突進してお祓い棒を振ったが、ネズミ男は闘牛の牛の様に桃子をあしらった。
 桃子は巫女装束を着ていないため、霊力を出し切れていないと言うのもあるが、それ以上にネズミ男の足が速かった。
(なんて速さなの? あの足で逃げられたら、巫女装束を着ていても追いつけないかも知れない)
 桃子は思った。
「遅いチュウ遅いチュウ!! 遅くてあくびがでるチュウ!!
 俺はプロフェッサーK様に、走力を強化させてもらったんだチュウ!!
 だから、お前なんかには捕まらないのでチュウ!!」
「走るだけしか能がない怪人ね?」
「ふん! スプリンターの凄さを思い知ったかチュウ?
 それにコイツがいればお前は攻撃出来ないチュウ!」
 ネズミ男は雛子をさらした。
「卑怯物! 雛子ちゃんを助けて、アナタを倒す!」
 桃子はブルマーに挟んでおいた護符を取り出した。
 万一の事を考えて、三枚だけ持ってきていたのだ。
 桃子は護符に霊力を込めると、護符に火がついた。
 桃子は護符をネズミ男に投げる。雛子ちゃんに当たらないように、注意を払って。
 ネズミ男が軽く避けると、護符は地面に落ちて燃え尽きてしまった。
「そんな攻撃もあるのかチュウ? 桃子が強いと言うのは、まんざら嘘でもないらしいチュウ。
 でも、攻撃が当たらなければ恐くないでチュウ!!」
 桃子は次々と護符を投げたが、全て避けられてしまった。
「ちょっと、逃げてばかりいないで、正々堂々と戦いなさいよ!!」
「いやだね!
 俺はプロフェッサーK様から、桃子の大切な人間を捕まえて来いと言われただけだチュウ!
 洗脳して、我々の仲間にするでチュウ!」
「洗脳? あたしをどうする気?」
 ネズミ男に抱えられている雛子が言った。
「おまえを洗脳して、桃子と戦わせるチュウ!!
 お前が相手なら、桃子も手が出せないはずでチュウ!!
 ハト男の洗脳などとは違うでチュウよ? 今度のは一生覚めない強力な奴でチュウ!!」
「いや!! あたし桃子ちゃんと戦わないよ!」
「ムダムダ! 洗脳してしまえば、お前は忠実な奴隷になるでチュウ!!」
「そんなことはさせないわ!!」
「さてと、そろそろ基地に戻るとするかチュウ。
 プロフェッサーK様もお待ちだろうし」
「逃げる気?」
 桃子は思った。
(ここはなんとか、ネズミ男を逃がさないように、言葉で引きつけなければ)
「足が速いとか言って なによ!! 卑怯なだけじゃない! 
 卑怯なことにしか役立たない足!! バカ足! ダメ足! 卑怯足!!」
「やけくそチュウ? どーせ追いつけないくせに威張るなチュウ!!」
 それでも、自慢である足の事を傷つけられたのだろう。
 ネズミ男はわざとゆっくり歩いた。
 時々立ち止まっては桃子に向かって、尻をペンペンと叩いて見せた。
 まるで「追いつける物ならいつでも追いついて見ろ」という様に。
「くっ! 悔しいけど、怪人の足には追いつかない!!」
 巫女装束を着て、霊力をフルに使えば、もしかしたら追いつけるかも知れないが、変質者の正体が怪人だとは思っていなかったため、巫女装束は家に置いてきたままだ。
 装束を取りに家にもどっている間に怪人は遠くに逃げるだろう。そうなったら、雛子ちゃんを奪還するチャンスさえなくなる。
『桃子ちゃん! 聞こえる!?』
「え!? スモモちゃん!」
『いまそこに行くから待っててね!』
 学校の門に四駆の自動車が停まる。梅雄の自動車だ。
 車のドアが開くと、スモモが桃子に向かって駆け出してくる。
 後を追うように、梅雄が出てきた。
「桃子、待たせたな!! スモモが騒ぐから来たのだが、怪人が出たのか?
 ぬっ!? ブルマーか!! いいな!!」
「パパ! バカな事言ってないで!」
「梅雄おじちゃーん!!」
 鼻の下を伸ばして、桃子の体育着姿を見入っていた梅雄だったが、雛子の声を聞いて我に返った。
「雛子ちゃんを人質に取られたのか!
 おのれ怪人め! 俺だってまだしていない事を!!」
「パパ……いつかさらう気だったの?」
「桃子、早くこれに着替えるんだ!!」
 梅雄は巾着袋をだした。
「巫女装束持ってきてくれたのね!
 ネズミ男! 着替えるからちょっとまってなさいよ!」
 用具小屋に入って着替える桃子。
 しばらくして、桃子が出てくる。
「パーパー! 何これ!!」
 桃子の姿は巫女装束ではなく、豹柄のレオタードだった。
 胸元が大きく開いている。猫耳と尻尾までついていた。
 レオタードは桃子の体にピッタリと張り付き、彼女の体のラインを余すところなく表現している。
「魔法の巫女ももこが変身した姿、その名もパンサー・モモコの誕生だ!!!!」
「変身って着替えただけじゃない。
 それにパンサー・モモコって……。また変な名前付けて!
 アタシはパパの着せ替え人形じゃない!!
 もう、こんな女の子の姿はいや!!」
「まあそう言うな、陸戦仕様の特殊スーツだ!」
「あ! そういえばネズミ男は」
『とっくににげちゃったわよ』
「何で!? 着替えるまでまっててって言ったのに!!」
「まあ、落ちつけ! そのためのパンサー・モモコだ!!」
「つまり、スクール水着の時見たく、また変な効果があるのね?」
「お前もようやく分かってきたようだな?
 猫耳を触って見ろ」
「あ、ちゃんと感触がある」
「霊力を使って、桃子の体の一部として使えるのだ。耳を澄まして見ろ」
 桃子の猫耳がピンと立つ。
『へへへっ。みずから逃がす隙を作るとは、桃子はバカでチュウ!!』
「この声は、ネズミ男……、あっちの方から聞こえる……」
「その耳は、怪人を探索するレーダーになっているのだ。
 耳に意識を集中すれば、怪人がどこにいようがすぐに見つけられるぞ。
 捜索範囲が狭いのが欠点だがな」
「ううん。充分役に立つわ。
 凄いわパパ!!
 ねえ! じゃあ、この尻尾は?」
「触ってご覧」
「あっ……。これも自分の体みたいに感触がある。まるで本当に尻尾が生えたよう」
「うむ」
「それで、この尻尾にはどんな力があるの?」
「単なる飾りだ!」
「無駄な事に霊力を使わないでよ!!」
「可愛いだろ!! 萌えるぞ!!」
「はあ……。少しでも期待したアタシがバカだったわ!!」
「まあ、そう怒るな。そのスーツの最大の特徴は、移動速度だ!! 足が速くなるぞ?」
「本当? この耳と足があれば、ネズミ男に追いつけるのね?
 ありがとうパパ!!」
 ぐずぐずしている時間はない。
 桃子はネズミ男を追いかけて町中を走った。
 自動車並に早く走る、豹柄のレオタードを着た女の子が走っているので、道行く人が注目している。
(うう……、この姿ってミニスカ巫女装束より恥ずかしいよー)
 今はそんな事を言ってはいられない。
 桃子は思い直すと、走ることに集中した。
 ついに神石公園で、ネズミ男を見つける。
「お待ちなさいネズミ男!!
 魔法の巫女ももこが変身した、このパンサー・モモコが逃がさないわよ!!」
「ゲッ、桃子? どうして人間ごときが俺に追いついたんだチュウ?
 だが、追いついた所でどうするチュウ? この人質がどうなってもいいのかチュウ?」
「くっ!」
「桃子、大丈夫か!?」
 梅雄の車から、スモモと梅雄が出てくる。
「パパついてきたの?」
「スモモがいれば、お前の居場所がわかるからな! お前のことが心配で来てしまったよ」
『桃子ちゃん騙されちゃだめ! 博士は桃子ちゃんのレオタード姿が見たいだけなんだから!』
「なに? パパだと? お前の親父か!? ならば奴も人質にした方がいいチュウ!!」
 ネズミ男は梅雄も捕まえた。
 だが、小学生の雛子と違い、大人の男の梅雄は重かった。
 怪人とはいえ、人間を二人抱えた姿は動きづらそうだ。
「暴れるな! くそっ、重い。これでは速く走れんチュウ!」
 仕方なく、ネズミ男は梅雄を楯にする作戦に変えた。
「桃子! これ以上追ってくるな! お前の父がどうなってもいいのかチュウ?」
「ふん! どうにでもすれば?」
「桃子〜っ」
 桃子の態度は、雛子が人質になった時と違いすぎた。
「くそっ、こいつが桃子の親父と言うのは、俺の見当違いチュウ!?
 それにこのままでは重くて動けない」
 怪人が腕をゆるめた隙に、梅雄が逃げ出す。
「やっぱり、この娘だけさらうチュウ!!」
 だが、ネズミ男が思案に明け暮れている間に、桃子は雛子の手を握っていた。
「雛子ちゃん、アタシがいるからね。絶対助けるから!」
「うん! 信じてる」
「その手をはなせチュウ!」
 ネズミ男は、雛子の腕を持って、力ずくで離そうとした。
「雛子ちゃん、手を離しちゃだめ!」
 その時ネズミ男は叫んだ。
「ギャーーーー!!!」
 ネズミ男が振り向くと、尻にスモモが噛みついていた。
『油断したわねネズミ男!』
 ネズミ男が油断した隙に、桃子は雛子を取り返すと、車の中に入れた。
「さあ、もう人質はいないわよ?」
 ジリジリとネズミ男に迫る桃子。
 桃子の気迫に押される様に後ずさりをすると、後ろから声がした。
『もう一度、お尻を噛まれたい?』
 振り向くと、スモモがいる。
「どれ、俺も」
 梅雄まで近づいてくる。
「さささ……三対一とは卑怯チュウ!!」
「それが人質を取っていた奴が言う言葉?
 みんな、いっせーのせで、思いっきり行くわよ?」
「待つチュウ! やめるチュウ!!」
「いーい? いっせーの!!」
「!! チューーーーー!!」
 ネズミ男は、逃げていった。
『速っ!! 本当に早いのね』
 ネズミ男の姿はどんどん小さくなっていった。
「全力をだすとあんなに早いんだ。あの速さじゃ、パンサー・モモコでも追いつけないわ……」
 桃子が車のドアを開けると、雛子が抱きついてきた。
「雛子ちゃん。ケガはなかった?」
「桃子ちゃん! 恐かったよー!!」
 いままで我慢していたのだろう。急に雛子から涙が溢れた。
「もう大丈夫だからね」
「桃子ちゃんって、魔法の巫女ももこだったんだね!
 桃太郎お兄ちゃんから聞いたよ。
 あたしがマッチョの男の人になったときも、鳩まんじゅう食べて変になった時も、海で溺れたときも、みんな魔法の巫女ももこが助けてくれたって!
 ありがとう桃子ちゃん!!」
「お礼なんていいのよ。だってアタシ達お友達でしょ?」
「うん。
 雛子ね、あいつ等あたしを洗脳するとか言っていたけど、たとえ洗脳されたとしても、絶対桃子ちゃんとは戦わないよ!
 だってあたし達お友達だもん!」

                 §

「えーい、作戦失敗チュウ!!」
 作戦を失敗してオーフルの秘密基地に帰還したネズミ男。
 司令室に行くと、竜姫とプロフェッサーKがいた。
 ネズミ男は、結果を話した。
「それで、桃子から尻尾を巻いておめおめと帰ってきたというのか? 恥さらしな奴め!」
 桃子から逃げてきたと言う言葉に、竜姫の顔に僅かだが憎悪の表情が浮かんだ。
「申し訳ありませんチュウ、プロフェッサーK様。次こそは必ずや成功させてみますですチュウ」
「プロフェッサーK、そこを退くのだ」
 竜姫がネズミ男の胸に手のひらを近づけた。
「若月家の巫女に背中を向けるとは、汚らわしい……」
「おおお……お許し下さい!」
 竜姫が念を込めると、手のひらから黒い霊力が溢れた。
 霊力はネズミ男を包む。
「破ッ!」
 竜姫のかけ声とともに、瞬時にネズミ男が消えて、そこには水蒸気だけが残った。
「プロフェッサーK! 次の作戦は準備できているのであろうな?」
「はっ?
 ハハッ! すぐに遂行致します」




〈次回予告〉

 怪人に襲われている男の人を助けたアタシ。
 その人は、世界的に有名なカメラマン、土谷さんだったの!
 土谷さんはアタシをモデルにして写真を撮りたいって言う。
 どーしようかなぁ……。
 アタシがのんきにしているその裏で、プロフェッサーKの陰謀はすでにうごめいていた!


 次回 魔法の巫女ももこ 第6話「写して! ももこ!(前編)」

 お楽しみにね☆





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