魔法の巫女ももこ

第3話「夏だ! 海だ! 海水浴!」

作・JuJu



「桃太郎、海水浴に行かないか?」
 オヤジが居間に入ってきた。
「行かない」
 スモモをかまっていた俺は答える。
 海水浴は行きたいが、オヤジと一緒なのが気に入らない。
「桃太郎お兄ちゃん〜、海に行こうよう〜」
 オヤジの後から、隣の家の小学生、雛ちゃんが入ってきた。
「実は雛子ちゃんを海水浴に誘ったのだが、桃太郎と一緒じゃないと行かないと言うのだ。どうだ? 俺が車を出すから旅費が浮くぞ?」
 足元を小突かれる。下を向くと期待一杯の目でスモモが俺を見ていた。
「仕方ない。タダならばいいか」
「わん☆」
「やったー。お兄ちゃん、新しい水着買ったのー。見せて上げるねー」
「よし!」
 オヤジは何度もガッツポーズを取っていた。
 雛ちゃんとスモモが喜んで走り回るのは分かる。だが親父、どうしてそこまで喜ぶ? もしかして雛ちゃんの水着姿がそこまで見たかったのか?

                §

「お兄ちゃん、海だよ海!」
「わんわん☆」
 オヤジの車の後部座席で、雛ちゃんとスモモははしゃいでいる。
 オヤジも鼻歌混じりで運転をしている。
 来てよかったかも知れないな。
 海岸に着く。混んでいると思ったが、意外と空いていてラッキーだ。
「お兄ちゃん、雛子を見て〜」
 俺が雛ちゃんを見ると、いきなりシャツを脱ぎだした。
 俺はロリコンではないが、子供とはいえ女の子が服を脱いでいく姿を、目の前で見せられるのは恥ずかしい。
 服の下には家から着てきた水着を着ているのは分かっているのだが。
 新調したという水着は、黄色のワンピースだった。
 熱い波動を感じて隣を見ると、オヤジが雛ちゃんを見て鼻の下を伸ばしている。
 オヤジ、マジでロリコンだったのか?
「お兄ちゃん、遊ぼうよ」
 雛ちゃんが手を引っ張る。
「いや、俺はオヤジと一緒に支度があるから」
「じゃスモモ、一緒に遊ぼう」
「波にさらわれるなよ?」
「はーい!」
 雛ちゃんとスモモは波の浅い所ではしゃいでいる。
 俺とオヤジは車からピーチパラソルやビニールのシート、クーラーボックスを取り出した。
 俺がビーチパラソルを立てている時に、悲鳴が聞こえた。
「キャー! お兄ちゃん!」
「ワンワンー!!」
 海を見ると雛ちゃんとスモモが海で溺れている。
「まってろ! 今助ける」
 その時、雛ちゃんとスモモが溺れている所に大きな渦がおこって、一人と一匹は吸い込まれてしまった。
 俺がア然と海を見ていると、竜巻がやみ、海面から怪人が出てきた。
 イカみたいな奴と、タコ見たいな奴の2匹だ。
「やったぜ弟よ! 人間をゲットしたイカ!」
「兄貴ぃ……俺のは犬だったタコ……」
 怪人達は言った。
「くそ! 溺れたんじゃなくて、怪人に捕まったのか!!」
「桃太郎! 出撃だ!!」
 あっけに取られていた俺とは違い、冷静なオヤジ。
「こんな事もあろうかと、海戦用に改良を加えある。安心して戦ってこい」
 悠然とお祓い棒を俺に差し出すその姿は、武道の師範の様だ。
 いつもこんな感じなら、俺も少しは尊敬するのだが。
「よし! 今助けるぞ!」
 俺は怪人や雛ちゃんに変身する姿を見られないように車の影に隠れてお祓い棒を振った。
「魔法の巫女ももこ見参!
 ……って、何よこのカッコウ!?
 どうして巫女装束じゃなくて、水着なのよ!?」
「海戦用に開発した特殊スーツだ! 海の中でも戦えるぞ?」
「なにが特殊スーツよ! スクール水着じゃない!
 わざわざ、胸の名札に『ももこ』って書いてあるし」
「似合うぞっ!!」
「そういう問題じゃなくってぇ〜!」
『桃子ちゃん……たすけて……』
 スモモが言った。
「う〜っ! いいわ。パパには後でたっぷり文句言ってやるんだから!!」
 アタシはお祓い棒を手に海に入った。
「二匹いたって、魔法の巫女ももこには無駄なことよ! 覚悟なさい!」
 アタシは怪人の近くまで泳ぐと海面から頭を出し、お祓い棒をビシっと怪人に向けて言った。
「人間が来たイカ。弟よ、お前も人間を捕まえて見ろイカ」
「わかったよ兄貴! 俺、がんばるタコ!」
 タコみたいな怪人は、スモモちゃんを捨てた。
 スモモは雛ちゃんが気絶している事を確認すると、空を飛んでパパの元に向かって行った。
「俺はタコイカ・ブラザーズの弟タコ男なんだな。それで隣のは兄のイカ男なんだな。
 それでは喰らえ、タコ男の触手!! タコタコ〜!!」
 タコ男の腕は伸びた。
「そんな攻撃!
 あなた達なんて、この護符で……。護符で?
 パパのバカ! この服、護符が付いてこないじゃないっ!!
 くっ、こうなったら接近戦ね」
 アタシはタコ男の腕を、お祓い棒で振り払った。
「いたいんだなー」
「えっ? 切れてない?」
『巫女装束を着ていないから、桃子ちゃんの持っている霊力が完全に出てないのよ』
 岸からスモモが言う。
「護符もないし、お祓い棒は効かないし、どうしたらいいのよ?」
「兄貴ぃー、手が痛いんだな! とても痛いんだな! こいつ強いんだな」
「弟よ、ならば兄弟力を合わせて戦おうイカイカ!」
 イカ男は、雛ちゃんを捨てる。
 雛ちゃんを助けるために、パパが素早く海に飛び込む。
「二人がかりとは卑怯よ! いったん撤退!」
 アタシは雛ちゃんを抱き抱えると逃げだした。
 その時、アタシの足に怪人の腕がからまってきた。
「よーし! 人間ゲットイカ!」
「パパ、雛ちゃんをお願い!」
 アタシはパパに雛ちゃんを渡す。
 足を引っ張られて、アタシは海中に沈められた。アタシは慌てて息を止める。
 アタシはお祓い棒で体に巻き付いたタコとイカの足を叩いた。叩くと痛がって一旦手を離すけど、叩いても叩いても、新しい足が体にまとわりついてアタシを放さない。
 ……息が続かないよ……。
 アタシは我慢できず口を開いてしまった。目の前を大きな泡が昇っていく。
 ……これでアタシも溺れ死ぬのね……。
 あれ? 苦しくない? どうして?
『桃子ちゃん! そのスーツは霊力の力を利用して水中でも息が出来る様になっているんですって!』
「(もー。そう言うことは早く言ってよ!)」
『だって今、博士から聞いたのよ!』
 だからと言って事態が好転するわけではないけど、死なずに済んだ事があたしを落ちつかせた。
 アタシは怪人達の腕を逃れる為にひたすらもがいた。
「こいつ、いつまでたってもグッタリしないタコタコ」
「チッ! しぶとい奴。どれ、いったん出して見るイカ?」
 怪人達はアタシを海から引き上げた。
「ちょっと! いいかげん腕を離しなさいよ!」
「ちっとも参っていないんだな! おどろいたんだな!」
「貴様、どうして!」
「ふふーんだ! この水着は特別製で、水の中でも息ができるのよ!!」
「わっ! それは凄いんだな!」
「ならばその水着を脱がせばいいんだな!」
「え? ええっ?」
「タコタコ! さすが兄貴、頭がいいんだな!」
「やめてよ! エッチ!」
「暴れるな! えーい! これでは脱がせられん! 弟よ、こいつを押さえておけイカ」
 イカ男に命令されたタコ男の腕は、アタシの腕と足にますます強くからみついた。
 イカ男はアタシから腕を離し、改めてアタシの目の前に来ると、何本もの腕をアタシに伸ばしてきた。
 アタシの体中を、イカ男の腕がはいずり回る。
「ん〜? これはどうやったら脱がせられるイカ?」
「やめてよ! あっ、水着の中に腕を入れちゃダメ!」
 イカ男はアタシの足を大きく開かせる。
 アタシは抵抗したけど、強い力で抵抗が出来なかった。
 イカ男はアタシの水着のあらゆる隙間から腕を滑り込ませては、胸やお尻を触りながら、水着を引っ張ったり、押したりしている。
「えーい、めんどうだ! やぶいちまえ!! イカイカッ!!」
 イカ男はアタシの水着を引きちぎった。
「キャー!!」
 あたしは恥ずかしさのあまりタコ男の腕を振り払うと、両手で体を隠した。
「なっ! こいつ、急に力が出たんだなタコ」
「なぜだイカ!?」
「え? どうして? なんで急に力が出せるようになったの?」
『ん〜。きっと桃子ちゃんの霊力は、いままで水着の為に使われていたのよ。
 水着がなくなったんで、水着に流れていた霊力がもどった。
 今の力が、桃子ちゃん本来のちからだと言う事』
「そうか! 巫女装束がなくても、これ位は出せるのね?」
 アタシは、試しにお祓い棒でタコ男の腕を切った。
「タコー!!!」
「OK! 今度はちゃんと、タコ男の腕が切れる。これなら戦えるよ!」
「よくも弟を!」
 イカ男は何本もの腕をアタシに伸ばしてきた。
「腕なんて何本あっても無駄よ!!」
 アタシはイカ男とタコ男の腕を、一本ずつ切り落とした。
「兄貴〜、腕を全部切られたんだな〜」
「弟よ、手も足も出ないとは、この事だイカ!」
『桃子ちゃん、今よ!』
「うん! 破魔双刹斬{はまそうせつざん}!!」
 アタシのお祓い棒の剣は、怪人2人を同時に切り裂いた。
「タコタコー!」
「イカー!  竜姫さまばんざーい!!」
「うむ。桃子よよくやったな!」
 振り向くとパパがいた。
「ヒッ!? パパ?? あービックリしたー。
 いつからそこにいたの!」
「ん……?」
『桃子ちゃんの水着が破れた時に、慌てて向かっていったけど』
「水着!? キャア!!」
 戦いで忘れていたけど、アタシ裸だったんだ。慌てて海の中に体を沈める。
「じゃあパパってば、アタシの裸ずーっと見ていたわけ?」
「いや、お前の事が心配でな。それで……」
『博士ったら、ずーっと見ていたわよ。こーんなに、鼻の下伸ばして』
「・・・・・。
 パーァパーァっ……!!」
「まあなんだ、怪人が倒せて……お、まて、いや話せばわかる!! まて!!」

                §

 スモモは、まだ気絶している雛子の隣に寝ころぶと、桃子と梅雄を眺めていた。
『いいなー。追いかけっこ楽しそう。
 私も遊びたいけど、雛子ちゃんを置いてもいけないし……。
 どーでもいいけど桃子ちゃん、水着着ていないこと、また忘れているみたい。
 鼻の下を伸ばしているパパの顔に気づいてないのかしら?』


                         ☆つづく☆


〈次回予告〉

 雛子ちゃん通っている小学校に、最近妖しい男の人が現れるんだって。
 そんな変態、この魔法の巫女ももこが許さない!
 ――まさか、犯人はパパって事はないわよね? 真相を確かめなくっちゃ!
 桃子に変身したアタシは雛子ちゃんに制服を借りて、小学校に潜入することにした。
 本当だ! 吟味する様に、双眼鏡で女の子ばっかり見ている怪しい男がいる。

 次回第4話「潜入! 神石小学校!(前編)」

 お楽しみにね☆




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