魔法の巫女ももこ 第2話「鳩まんじゅうの恐怖」 作・JuJu 桃太郎とスモモがダイニングキッチンのドアを開けて入ると、父の梅雄がテーブルにうつ伏せになって倒れていた。 「オヤジ?」 「う……うぇぅ……」 「ワンワン!」 「スモモ? 何か分かったのか?」 どう見ても犬にしか見えない竜の子供スモモは、桃太郎に何かを訴えかけていた。 「わかった、いま桃子に変身する」 魔法のお祓い棒を振ると、桃太郎は桃子に変身した。 「魔法の巫女ももこ、見参!」 『桃子ちゃん、この袋があやしいわ』 スモモが言う。桃子に変身するとスモモと話せるのだ。 梅雄の足下に転がっていた紙袋を桃子が拾って覗くと、ハトを形をした可愛い饅頭が2個入っていた。テーブルの上にもかじられたのが1個。そういえば梅雄が駅前に新しく立った露店で、おやつを買ってきたと言っていた。 「3時に一緒に食べようねって約束したのに、パパってばずるい!」 『……やっぱりね。このお饅頭からは邪悪な霊力を感じるわ! 霊力が微量すぎてどんな効果があるのかわからないけれど……。 霊力を感じるって事は、邪心竜の仕業に違いないわね』 饅頭を見たり嗅いだりしていたスモモが言った。 「でも何でこんな手の込んだ事をするのかなぁ?」 梅雄が突然うなり声を上げて立ち上がる。目がうつろで焦点があっていない、低いうめき声を上げている。その歩き方は、テレビのホラー物で見たゾンビによく似ていた。 「パパ! どうしたの?」 あわててしがみついた桃子を梅雄はぞんざいに振り払った。桃子は冷蔵庫にに背中を打ちながらも梅雄を見た。 『桃子ちゃん大丈夫?』 「あたしより、パパが変だよ!」 『落ちついて桃子ちゃん! とりあえず様子を見ましょう?』 「う…うん」 梅雄は家から出ていった。 § 秘密結社オーフル地下秘密基地。 薄暗い研究室に篭もっていたプロフェッサーKは、司令室に入り照明に目が眩んだ。 やがて目が慣れてくる。金色の山羊を型どった椅子に女性が座っているのが見えた。彼女の茶色の瞳は、プロフェッサーKを冷たい目で見つめる。 秘密結社オーフルの総統、竜姫の姿だった。 白い肌に腰までまっすぐ伸びた青黒い髪が流れる。 貞操な顔とは裏腹に、体はいやらしいSMの女王を思わせるボンデージに包まれていた。特にその胸は、プロフェッサーKが今にもこぼれ落ちてしまうのではないかと心配するほど露出している。ボンデージの上は体を隠すために絹をはおっていたが、布地が少ないためかえって妖艶な雰囲気を醸し出している。研究一筋で女の手も握ったことのないプロフェッサーKも、彼女にだけは胸が高鳴ってしまう。 「お呼びでございますかな、竜姫様?」 「失敗したそうだな?」 「あっ……あれは『魔法の巫女ももこ』とか言う予想外の妨害が入ったためでして、ももこさえいなければ、間違いなく作戦を遂行できたわけでして……」 竜姫は何も言わなかったが、その目は「言い訳など見苦しいぞ」と言っていた。 「で……ですがワシとておめおめと引き下がっているわけではありません。前回の汚名を晴らし、桃子をせん滅すべく、すでに新しい作戦を遂行中で御座います」 「うまくゆくのであろうな?」 「このプロフェッサーKに万事おまかせください」 「期待しておるぞ」 § ハト饅頭を食べた梅雄は家を出ると、引き寄せられるようにどこかを目指して歩き始めた。 後を付ける桃子とスモモ。 梅雄が何か言っているのだが、声が小さく、もがくように言っているのでよく聞き取れなかった。しばらくすると梅雄の声がだんだん大きくハッキリしてくる。 「桃子よ、こいつらを助けたかったらついてこい!」 梅雄は言った。 『なるほど……梅雄さんを伝言として使ったのね』 「ひどい!」 『気を付けて、敵が呼んでるって事は、その場所に罠あるのかも』 桃子達が追跡をつづけていると、後ろからも声がした。 「桃子よ、こいつらを助けたかったらついてこい!」 振り向くと、制服を着た3人の女子高生が梅雄と似た歩き方であるいてくる。 「桃子よ、こいつらを助けたかったらついてこい!」 その後も、次々人がやって来ては同じ事を言った。 ハト饅頭を食べた人達は、続々と神石公園に集まり、その何百人の中心にハト男とプロフェッサーKがいた。 「ふふふ……。見よこの我が下僕達を……。その上ハト饅頭の売り上げで軍資金も潤った。一石二鳥な天才ならではの作戦だ!!」 「けっこうせこいですねハト」 「悪の組織の運営も大変なのだ。そんな事はどうでもいい! これだけの大合唱で桃子を呼べば、必ず桃子はここに来る。その時こそ桃子の最期だ! 頼んだぞハト男」 § 人々を追って神石公園に来た桃子達。 公園のまん中には筋肉質の体に、ハトの頭と足と翼を付けた怪人が立っている。隣には白衣を着たやせ形の男がいた。 「ハト男……」 『今回の騒動はあいつが原因ね! 桃子ちゃん出撃よ!』 「うん!」 「お出ましの様だな、魔法の巫女ももこ。なるほど、凄い霊力だ」 プロフェッサーKは計器からゆっくりと顔を上げると、桃子に焦点を合わせるようにメガネを動かし目を細めた。 「こんな小娘がワシのカタツムリ男を倒したというのか? お初にお目にかかる! ワシは竜姫様の参謀にて天才科学者プロフェッサーK!」 「竜姫? この事件は邪心竜の仕業じゃないの?」 「ほう? 邪心竜を知っているのか? 邪心竜は若月の巫女に殺された。 だがその魂は、竜姫様として生まれ変わったのだ! 「やっぱり邪心竜は復活してたのね? その竜姫とか言う姿で!」 「さて、おしゃべりはここまでだ。見た前! 私のしもべ達を! こいつらは竜姫様の霊力によって操られている。助けたければ私の作り上げたハト男を倒して見たまえ!!」 「ハト男はもちろんだけど、アナタも倒す!」 「私はカタツムリ男を倒した奴をこの目で確かめたかっただけだよ。後はこいつらが始末してくれる! さらばだ!」 「桃子を殺せ…」 「え?」 プロフェッサーKの出現に気を取られていたため気が付かなかったが、いつの間にか霊力に犯された人達が桃子を囲んでいたのだ。 「桃子を殺せ!」 あらゆる場所から聞こえた。 「桃子を殺せ!」 何百人と言う人が繰り返し合唱しながら迫ってくる。 「桃子を殺せ!」 「そんな、私を殺せなんて……。」 『桃子ちゃん。みんな霊力の催眠で操られているだけよ!! 辛いかも知れないけど、みんなを助けられるのは桃子ちゃんだけなの、がんばって!』 「そ、そうね! 私がしっかりしないと!」 「ぶははは!! 一般の方々は攻撃できないだろうハト?」 ハト男に操られた人達に囲まれ間合いを詰められ、逃げ道を失うスモモと桃子。 「死ね!」 ハト男の一声で人々が次々と襲いかかってくる。 桃子に変身した今、攻撃を避けることは簡単だった。 だが反撃が出来ない。これだけの人の相手では逃げる場所もない。 それ以上に桃子の心を痛ませたのは、集団の中には男も女も、みんな桃子を殺す事だけを考え、心に突き刺さるような殺意に満ちた目をしていた。 (みんな私を憎んでいる) 桃子は思った。 その中に聞き覚えのある声が響いた。 「桃子、死ねぇー!!」 隣の家の小学生、雛子の姿だった。 「雛ちゃんまで!!」 放心した桃子に、他の男が拳が当たった。それを皮切りに、女が蹴り付けてきた。次々に来る攻撃に、桃子は思わずしゃがみ込みこんでしまった。 袋叩きから助けたのはスモモだった。 背中をつかまれたかと思うとふわっと体が浮いて、桃子が目を開くと、スモモが背中をくわえて空を飛んでいた。飛ぶと言うよりは、なんとか浮かんでいる感じだが、危機は脱出した。 しかし、別な心配が頭を横切った。 「スモモちゃん! スモモちゃんが空を飛んでいる所をみんな見ているよ?」 『へ、平気よ、彼らは正気ではないわ。そんな事より、ハ、ハト男の事だけを考えて!』 「へー? その犬は空を飛べるハト?」 声のした方を見ると、ハト男が飛んでいた。 「だ〜が、空はハト男の本領ハト!! まさに飛んで火にいる桃子ハト!!」 「スモモちゃん、来るよ!」 『あ、あたしの力じゃ、持ち上げるのが、せっ、精いっぱいよ!』 スモモは適当な所に着陸しようとするが、移動が遅いために常にに下に人が追ってきていた。 その間にもハト男が迫ってきては、桃子の体をついばもうと飛び回る。桃子もお払い棒で反撃するが、彼女の体が大きく揺れて高度が一気に下がり、今度は亡者の様に伸びる手に捕まりそうになる。その度にスモモは苦しそう桃子を持ち上げた。 ろくに抵抗も出来ないまま、ハト男のクチバシが彼女に当たる度に、桃子の体から肉と血が削られる。 桃子が十分弱り切った事を確認したハト男は、攻撃の穂先をスモモに変えた。 たった一度の攻撃で、あっけなく落とされる桃子。彼女は、飢えた者達のまん中に生け贄として捧げられた。 「ははは! 桃子もこれで終わりハト!!」 尻餅をついて、回りを見ると、何百と言う人が向かってくる。 目の前には雛ちゃんもいた。 もう、だめ! 桃子は頭を抱えて丸まったが、いつまで立っても攻撃は来ない。 彼らは攻撃の手の止めると、急に向きを変えてどこかに走り去ってしまった。 「おい! お前達? どこにいくハト? 桃子はそこハト!!」 ハト男が行き先を見ると、操られていた者達は公園のトイレに向かい始めたのだ。 「しまったハト! 材料費をケチって賞味期限切れの材料ばっかり使ったのがまずかったハト!?」 『桃子ちゃん!! あばれちゃっていいわよ!!』 スモモが言う。 「うん」 桃子の体が青色の霊力に包まれる。 「ハ…ハト?」 桃子の気迫に慌てふためくハト男は、空に逃げようとした。 「おっと! 今度はこっちの番だっていっているでしょ?」 ハト男の頭上で待ち伏せしていたスモモが、ハト男にの右の翼に噛み付いた。 「ハトー!!」 羽を傷つけられバランスを失った所に、桃子の炎の符の矢がハト男の左翼を打ち抜く。 羽を折られて飛べなくなったハト男に、桃子が近づく。 「破魔炎斬(ハマエンザン)!!」 桃子のお払い棒の剣によって、ハト男は真っ二つに斬られた。 「この姿には言いたいことはいっぱいあるけど、竜姫を倒すためなら、……まあ少しくらいなら我慢くらいしてもいいかもね」 催眠が解けて帰ってゆく人々を見てそう思う桃子であった。 ☆つづく☆ 〈次回予告〉 海に来たアタシ達、楽しい海水浴のはずが、ここにも邪心竜の怪人!! バカンスを台無しにして許さない! 魔法の巫女ももこに変身よ! えっ? どうして巫女装束じゃなくて水着なの? 海戦用に開発した特殊スーツ? スクール水着じゃない!! それに、怪人タコイカブラザーズの腕が、アタシの身体に巻き付く……。 いや! お願い、水着の中には腕を伸ばさないで!! 次回第3話「夏だ! 海だ! 海水浴!」 お楽しみにね☆ |