魔法の巫女ももこ
第1話「誕生! 魔法の巫女ももこ」

作・JuJu


 俺は若月桃太郎{わかつき・ももたろう}。
 朝。家を揺るがす足音で目を覚ました。
 俺の部屋の戸がデカい音をたてて開くと、泣きじゃくったマッチョな男が現れた。しかも女装だ。
「な、なんだ貴様は!!」
 マッチョは俺に向かって走って来くる。野太い声を発しながら。
「おにいちゃ〜ん」
「ま、待て! 俺は貴様のアニキになった憶えはねェ!!」
 あんな筋肉だるまに体当たりされたら……!!
「げふっ」
 俺は布団にたたきつけられる。
 マッチョは抱きしめてくる。
 背骨がきしんで苦しい。
 俺は背骨の痛みと、筋肉男に抱かれる気持ち悪さで、思わず胃の中の物を吐き出しそうになる。が、ここは俺の布団の上だ、ぐっとこらえる。
「いったいテメェは何者だ!! 俺に抱きつくんじゃねぇ!!」
「お兄ちゃん! あたし雛子」
「ざけんなコラァ!! 雛ちゃんは隣の家の小学生の女の子だ」
「朝起きたら、こんな姿になっていたんだよう。
 パジャマはビリビリになっちゃうし、他の服はちっちゃすぎて着れないし、ママの服を借りてやっとお兄ちゃんの所に来たの。助けて!」
 助けて欲しいのは俺の方だ。
 騒ぎを聞きつけたオヤジと犬にしか見えない竜のスモモが入ってきた。
「本当に雛ちゃんかもしれんぞ?」
「オヤジ?」
「梅雄おじちゃん!」
 この男は俺のオヤジ。若月梅雄{わかつき・うめお}。
 若月神社の神主なのだが、神主なんて正月の稼ぎ時しかやらない。普段は大学の教授で日本の神学の研究をしている。
 スモモはマッチョを見て、怖がって部屋の隅に縮こまってしまった。
「テレビを見てみなさい」
 俺は部屋にある、小さなテレビを点ける。
『臨時ニュースです。東京都神石市付近で、男女が入れ替わる事件が発生しており町中はパニックになっております。』
「神石市って……。じゃこのマッチョが雛ちゃんだって、本当なのか?」
「雛ちゃん。後のことは俺とこの桃太郎おにいちゃんにまかせて、お家に帰りなさい」
「でも」
「だいじょうぶ。桃太郎おにいちゃんが、必ず元にもどしてくれるよ」
「うん」
 ナイスだオヤヂ!! こんな気色の悪い生物は、さっさとお引きとり願おう!
 マッチョは、なんども何度も振り返りながら帰っていった。
 その寂しげな後ろ姿を見て、本当に雛ちゃんのなのかなと感じた。
「嫌な予感がする。昔、お前が3歳の頃……今から15年ほど前になるか」
 オヤジが言う。
「俺が3歳の時って、母さんが邪心竜と闘ったあの時か」
「あの時と同じ予感を感じる」
 俺はオヤジから聞いた、母さんの闘いを思い出していた。

               §

 桃太郎が3歳の時、北陸の海に邪心竜が出現した。
 邪心竜が復活すると災害がおこる。そう言い伝えられている。
 実際、邪心竜が出て以来ここら一帯の海は荒れ、地は揺れた。空は一日中雨雲に覆われている。
 若月神社の巫女は千年に渡り、邪心竜を監視し、復活するたびに封印していた。
 邪心竜退治の依頼が、桜の元に届いた。
 桜はすでに巫女を引退し一児の母となっていたが、事の大きさに今一度巫女衣装をまとい立ち上がった。
 桜の持ち竜、スモモの母セリリアと共に。
 戦いはシ烈を極めたが、セリリアの犠牲の末、ついに邪心竜を倒した。
 ついに千年の闘いに終止符が打たれたと安心したのもつかの間、体が朽ちてもまだ、邪心竜の魂が生きていたのだ。
 体を失った怒りに燃えた邪心竜の魂はあまりに凶悪で、持ってきた神器では封印に耐えられなかった。
 そこで桜は自らの身体に邪心竜を取り込み、海に身を投げて己の命と共に、邪心竜の命も絶った。
「桃太郎をお願い」
 それが母、桜の最後の言葉だったと、桃太郎は聞かされている。

               §

「しかし当時は怪人など出てはこなかった。だからあくまで想像なんだが……」
「邪心竜が新たな力を手に入れて復活したと言うのか?」
「わからん。
 とかにく桃太郎よ、雛ちゃんを助けたくはないか? 母親の敵を討ちたいだろう?」
「だが」
 邪心竜に対抗できる唯一の力は霊力だ。霊力は代々若月家の血を引く者に受け継がれてきた。
 ただし霊力を発揮するには巫女でなければならない。神聖な巫女が巫女装束を着ることで、霊力をフルに発揮できるのだ。
 逆を言えば、巫女になれない男の俺はほとんど霊力を発揮できない。潜在的な霊力は男女変わらないそうなのだが、霊力を身体の外に発揮できなければ、なんの役にも立たない。
 試しに一度俺も巫女装束を着てみたが、やはり女でなければダメらしい。
 俺の僅かな霊力では、怪人や邪心竜とは戦えない……。
「霊力の事か? 一つだけ方法がある。こんな事もあろうかと、ひそかに研究を進めて置いた。
 ただし……邪心竜は強いぞ? 闘う勇気はあるか?」
 俺は黙って頷く。
 オヤジは部屋の隅にいたスモモを呼んだ。
「ワン」
 マッチョがいなくなって元気になったスモモは返事をすると、背負っていたカバンをオヤジに向けた。オヤジはそこからお祓い棒を取り出した。
「お祓い棒?」
「そうだ、正式名称は違うのだが、分かりやすくここではお祓い棒としておく。
 これは桜、お前の母さんが使っていたお祓い棒だ。
 闘う直前になったらお祓い棒を天高く掲げて振るのだ。
 ただし振るときは人に見られないようにな。このお祓い棒は若月家の家宝。それを俺の技術で進化させたものだ。だから世界に一本しかない。万一お祓い棒の秘密がばれて奪われでもしたらおわりだ」
「よーするに、これがあれば邪心竜と戦えるようになるんだな?」
「ああ。だがお祓い棒はお前の霊力を引き出すだけだ。あとはお前にかかっている。
 すまんな。援護はするがやつらと直接戦えるのは、霊力をもった若月家の血を引く者だけなのだ」
「よーし。母さんの仇をとってやる」
「頼んだぞ。俺はちょっとでかけてくる。神器があると言う話を聞いたんでな」
 神器と言うのは、邪心竜を封印できる、重箱みたいな箱だ。
 これがないと、たとえ邪心竜を倒したとしても、すぐに復活してしまう。
 神器は日本各地のいつくかの神社や寺に納められていると言う。
 だが、永い年月の間に、神器がある場所は分からなくなっていた。全国の神社仏閣、人も来ない朽ちぶれたのから、ほこらまで合わせると、ものすごい数がある。これらをしらみつぶしに探さなければならなかった。
「神器探しはたのんだぞ? オヤジ」
 俺はスモモと町に出て怪人を捜した。
 町は人も車も無いため、怪人はすぐに見つかった。
「オヤジの言うとおり、あいつが邪心竜の手下だというなら、俺の力で倒せるはず」
 俺は隠れて、スモモの背負ったカバンからお祓い棒をだした。

               §

 桃太郎はお祓い棒高く掲げて振ると、お祓い棒の先から紅白ストライプの光が放ち、彼の体をシャワーの様に包む。服が溶け、光に包まれた桃太郎の体は小さくなって10歳くらいの女の子の体になった。白襦袢がふわりと桃太郎を包み込んだ。その上にゆっくり白装束が包む。
 腰には帯が巻かれ、そこから緋色の袴が伸びる。足には白い足袋がはかれて、草履が添えられた。
 桃太郎の黒髪は大きく伸びて広がり腰まで届くと、広がった髪を束ねるようにリボンで縛られた。口元が紅で彩られた。

               §

『魔法の巫女ももこの誕生よ! キャー素敵よー! 素敵ー!!』
「え? スモモちゃん? なんでしゃべれるの? アタシのこのカッコウなに? いったい何がどうして? えっ? えっ?」
『お祓い棒の力で、女の子になったのよ! 若月家の女は巫女装束を着ると、霊力がぐ〜んと増すから、怪人だって倒せるはずよ!』
「霊力を上げる為に女の子になったのね。それは分かったけど……。
 その魔法の巫女ももこって……ナニ? ダサい名前」
『いえ……あの……。
 そりゃー、私だって反対したのよ!! だけど……。博士……桃子ちゃんのパパがどーしてもこの名前だって』
「じゃあ、このカッコウも? 巫女衣装ならなんでもいいんでしょう?」
 アタシは袴を摘んで見せた。
 上半身は巫女っぽいけど、下は袴の様な形をしたミニスカートになっている。しかも肌襦袢がペチコートの様にはみ出していた。
『ピンポーン。それも桃子ちゃんのパパの趣味よ!!』
「この小学生みたいな体も……?」
『またまた正解〜』
「う〜、パパ。たしかに女の子が欲しかったと言っていたけど……こんな趣味があったなんて……」
『もう一度お祓い棒振れば桃太郎ちゃんに戻れるんだから、ちょっとの間だけいいじゃない。
 それより今は、怪人を倒さないと!』
「そ、そうね」
 アタシはカタツムリ男に向かっていった。
「お待ちなさい! 悪事を働くのはそこ迄よ! この魔法の巫女ももこが成敗してあげるわ!!」
「魔法の巫女ももこだと?
 うほー、可愛いロリ娘だデンデン! お前もマッチョにしてやる」
 カタツムリ男は、いきなり頭から生えた角から、光線を出してきた。
「この光線に当たった奴は、みんな性別が変わるんだデンデン!!」
「ちょっと! ビックリしたじゃない!!」
「なっ、何故だ!? なぜ性別変換光線が効かない?」
『そりゃあ……もう性別変わっているしねぇ』
「シーッ。怪人に聞こえちゃうよ」
『大丈夫。私達はテレパシーで話しているから、私達以外には聞こえないわ』
「お前はいったい何者デンデン?」
「言ったでしょう? アタシの名は魔法の巫女ももこ!!」
『桃子ちゃん、懐に手を入れて!
 懐に入ってる護符を取り出して、念を込めるの!』
 アタシは人差し指と中指で懐に入っていた符を掴んで目の前に持っていくと、静かに目を閉じて思いを込めた。
『桃子ちゃん! 怪人に向かって投げて!』
 紅の光に包まれた符は矢のように飛びカタツムリ男の額に張り付くと、符が燃え始めた。
『お払い棒でカタツムリ男を切って!!』
 刀で切り裂く様にお払い棒を斜めに振ると、符からでた炎がお払い棒の後を追う様にカタツムリ男を引き裂いた。
「破魔炎滅{ハマエンザン}!!」
「デンデン〜〜〜!! 竜姫様、バンザーイ!!」
 炎は瞬時にカタツムリ男を包み、怪人は燃え尽きてしまった。
『キャー! 桃子ちゃん、素敵〜!!』
「すごい……」
『あっさりと倒せちゃったんで、気が抜けた?』
「これが古来一千年、人を守ってきた若月家の巫女の力……」
『そ。あなたの力よ。
 そして邪心竜はそれ以上の力を持っているって事。でも邪心竜を倒せるのは世界で貴方しかいないのよ』
「運命……なのかな?」
『とにかく今日は素敵だったわ。雛ちゃんももとにもどってるはずよ』
「うん」

               §

 新たな使命を背負った桃子。
 彼女の戦いは今始まったばかり。
 戦え桃子、負けるな桃子。

                         ☆つづく☆


〈次回予告〉

 パパどうしたの? 「桃子を殺せ!」ってアタシのこと?
 えっ? 町中の人が「桃子を殺せ!」ってアタシに迫って来る?
 助けて! みんな相手に、アタシ戦えないよ!!

 次回 魔法の巫女ももこ  第2話「鳩まんじゅうの恐怖!」
 お楽しみにね☆


〈あとがき〉

 今回は「お気軽ごくらく」がテーマです。
 みなさんもぜひ、「ソファーに寝ころんでヴィデオを見て、コーク飲みながらピザとポップコーン食べて、口癖はFxxk You! Fxxk You!」なんて言う気軽さで読んで下さいねー。
 それと今回はエロなしでしたが、次回もやっぱりエロなしです。期待していた方ごめんなさい。(^^;ゞ






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