魔法少女はぬいぐるみ羊の夢を見るか?

作:JuJuさん



■第8話

 夢緒に魔法少女のことをうち明けてから数日が経った。

 ここは洋司たちの通う学校。

 その教室の戸を開けて、ふらふらとよろめきながら洋司が入ってきた。

「洋司おはよう」

 洋司が自分の席に座ると、後ろの席に座っていた夢緒が言った。

「ああ、おはよ……ふぁーあ」

 あいさつの返事が終わらないうちに大あくびをする洋司。

「ずいぶんと眠たそうだね」

「いろいろあったからな……」

 洋司はそう言って机に突っ伏すと、そのまま寝てしまった。

 と、思ったのもつかの間。すぐに体を起こすと鋭い目つきで当たりを見回す。

「――やっぱり気のせいか……」

 そういって辛そうにため息をついた。

 これほど洋司が衰弱している理由は詩代のことだった。

 詩代は母船にもどっているらしく、あれから現れる気配はない。ルカも給養をかねて母船にとどまっているのだろうと言っている。しかしいつ地上に戻ってくるのかと考えると夜もろくに眠ることもできず、昼間も警戒のために神経をとがらせていた。

 そんな洋司を見かねた夢緒はすこし真剣な表情で言った。

「洋司、鏡で自分を見てる? すごく憔悴した顔をしているよ?」

 そういって夢緒は机の横に掛けてあるスクールバッグに手を伸ばすと、中からコンパクトを取り出した。

 コンパクトのふたを開けて鏡を洋司に向ける。さすがに中におしろいやパフは入っておらず、ケースだけを手鏡の代わりとして使っているようだ。

「コンパクトを持ち歩いている男子高校生って……」

「またそうやってぼくを女の子あつかいする……」

「いや、さすがにコンパクトは女が持つ物だろう。まあ夢緒の場合、持っていても違和感がないというか、むしろしっくりとくるというか……」

「ぼくのことはいいから! 自分の顔を見てみて」

 夢緒に言われて、洋司はコンパクトの鏡をのぞき込んだ。

「……たしかにちょっとだけやつれているな」

「ちょっとどころじゃないよ! このコンパクトあげるから自分の顔を見て反省してよ」

「いや、男の俺がコンパクトを持っていてもな」

「ぼくなら心配ないから。なくしたときのために予備を持っているんだ」

 そういって夢緒はもう一つ鞄から取り出す。

「コンパクトを何個も持ち歩いている男子高校生って……」

「いいから! ちゃんと反省してよ!?」

「う……顔が近い顔が近い! わかったよ。せっかくの好意だ、もらっておくよ」

 夢緒の迫力に負けて、思わず受け取ってしまう洋司だった。

 夢緒は洋司に顔を近づけたまま耳打ちする。

「それでやっぱり……、あの宇宙人のことが気になっているの?」

「顔が近いって! まずは離れろ!

 ――ああ。詩代はまだ母船から戻っていないから心配はないとルカが言っているし、その推測は間違いないんだろうが……。

 いつ地上に戻ってくるかと考えると、つい警戒してしまう」

「気持ちはわからないでもないけれど、このままだと宇宙人と戦う前に洋司の体がまいっちゃうよ」

 そう言って夢緒はしばらく考えたあと、言葉を続けた。

「――そうだ! このまえくれたぬいぐるみの麻績さんは洋司のあこがれの人だったんでしょう?」

「ば、ばかいえ! 麻績さんのことをあこがれの人だなんて! 年上の麻績さんがガキの俺を異性として相手にしてくれるはずがないだろう! ただの知り合いだよ! 知り合い!」

 いきなり大きな声を出した洋司に夢緒は苦笑する。

「声が大きいよ。やっぱり図星だったんだね。洋司が麻績さんを見る目を見ていれば、ぼくじゃなくてもわかるだろうけどね」

「そ、それで麻績さんがなんだっていうんだよ」

「眠れないのなら、せめて息抜きくらいしないと。

 そこで明日は休日だし、中身がぼくでよければ麻績さんとデートしてみない?

 ぼくもせっかく手に入れたぬいぐるみを有効に使ってみたいし」

「馬鹿いうな。詩代がいつ戻ってくるかわからない非常時にデートなんてしていられるか。それに麻績さんの仇をとるまでは遊んでなんかいられない」

「洋司! 洋司!」

 洋司の学生服のポケットからルカの声がした。念のためにルカの入ったスマホを学校に持ってきていたのだ。

「ルカ、聞いていたのか。それならばおまえからも夢緒に言ってやってくれよ。デートなんてしている時じゃないって」

 洋司はクラスメイトに見つからないように、こっそりと胸ポケットからスマホを覗かせる。

「何度も言っているけれど、詩代はしばらく戻ってこないわ。

 有機的アンドロイドだって活動にはエネルギーが必要だからね。定期的に母船にもどってエネルギーを摂取しなければならないのよ。

 ちなみに私も魔法少女だった時は、母船に戻ってそこでエネルギーを摂取していたのよ? 今は電子記録装置の充電だけで活動できるけどね。でも詩代は私みたいに電子記録装置に住んでいるわけじゃない。彼女が活動を続けるには補給が必要なはず。

 だから明日デートをしても支障はないわ」

「ほらルカさんのお墨付きだよ。これでデートすることは決定だね」

 夢緒は勝ち誇った笑顔で言う。

 ルカに遊んでいる場合じゃないと言ってくれることを期待していた洋司はがっかりした。

「わかったよ。たまには息抜きも必要だろうからな」

 と、しぶしぶデートの承諾をした。

 それから洋司は地球の空に浮かぶ母船の中で、ひとり報告の通信をしている詩代を想像した。

 もちろん司令はすでにいない。それどころか彼女を作った星の人は誰も生きていない。だから……あたりまえだが返答は戻ってこない。帰ってくるのはむなしい雑音だけだろう。

 それでも与えられた任務に忠実に、滅んだ星に向けて一方的な通信を続けている詩代を思うと、すこしだけ彼女が可哀想に思えた。


    *


 デートの当日の朝。洋司の部屋。

「おはよう洋司。ずいぶんとごきげんね。それに顔色もだいぶよくなったわ」

 洋司がベッドから起きると、学習机の上に置かれていたスマートフォンの電源が入ってルカがあらわれた。

「おはようルカ。俺も緊張しすぎていたと反省したんだ。夢緒に心配をかけたし、ルカのことも信頼しなくちゃいけないと思ってな。

 おかげで、ひさしぶりによく眠れたよ」

「それと麻績さんとデートできることがいい効果になったみたいね。中身が夢緒さんとはいえ、洋司のあこがれの女性とデートできるんですものね」

「うるさいな。

 あ、ルカは今日、家でるすばんな」

「えー? まあデートじゃ仕方ないか。楽しんできてね」

 洋司は自宅を出ると、夢緒と待ち合わせている麻績のアパートの部屋へ向かっった。

 アパートに着くと、すでに麻績のぬいぐるみを着ていた夢緒が出迎えてくれた。

 夢雄は麻績の普段着だったらしい薄手のサマーセーターを着て、体の線が出るようなジーンズをはいている。家の中ではブラジャーを付けるのが面倒なのか、乳首が薄いセーターを押し上げているのが目についた。

 洋司はセーターを盛り上げているブラジャーをしていない大きな胸を見たい衝動に襲われたが、注視することがはばかられて目をそらした。

(麻績さんの中身は夢緒なんだ。だから胸くらい見たって平気じゃないか)

 そう自分に言い聞かせても、やはり外見はどこから見ても麻績にしか見えないためにどうしても乳首が浮き出ている胸を直視することができない。

「それじゃあ、今日着ていく服を選んでよ」

 麻績になった夢緒は部屋の中に洋司を導くと言った。

 夢緒の提案でデートの時に着る服は洋司が選ぶことになっていたのだ。

「しかし意外だなあ。麻績さんってこんな趣味があったんだ」

 洋司は部屋にところ狭しと広げられた多くの服を見ながらいった。

 洋司が麻績になったときは彼女に申し訳なくてクローゼットを開けることはできなかった。そのため洋司は彼女がどんな服を持っているのか知らなかったのだ。

 ほとんどは麻績の普段着らしい服だったが、中にはナース服(超ミニスカート)やバニーガール(超ハイレグ)やチャイナドレス(スリットが超深い)と〈エッチな〉服もまざっていた。

「それにしてもこれは……。まるで俺の趣味に合わせたようなエッチな服ばかりじゃないか」

 それも当然だった。

 実は麻績のぬいぐるみをもらった日から麻績になって着るために夢緒は服を縫い続けていたのだ。しかもそれらは洋司が喜んでくれるものをと思って作ったために自然とコスプレやエッチな服になっていた。

 夢緒は思う。

 洋司に喜んでもらって、頑張って縫ったかいがあった。洋司が女に求める気持ちを深く理解できるのは同じ男だからこそだろう。ずっと長い間女に生まれてくれば洋司とも恋人になれたのにと恨んできたけれど、でもこれで男に生まれてきたことが報われた。

(次は浴衣(ゆかた)の製作に挑戦したいな。あとは洋司のために、ちょっときわどい水着とか作るのもいいかも)

    *

 夢緒は洋司が望むならどんな服だって着ていく覚悟があると言ったのだが、さすがにデートにコスプレ服を着ていく訳にはいかないという洋司の意見で、もともと麻績が持っていたワンピースを着てデートすることにした。

「着ていく服も決まったし、さっそく着替えるね」

 そういうと麻績になった夢緒は、洋司の目の前でセーターを脱ぎはじめた。両腕を交差させてセーターのすそをつかむと一気にまくり上げる。

 麻績の大きなおっぱいが揺れながらあらわれた。

(やっぱりブラジャーをしていなかった!)

 着替え始めた麻績を、洋司はおもわず見入ってしまう。

 そんな洋司に気が付いた夢緒は、恥ずかしがりながら

「同性とはいってもいまのぼくは女の子なんだよ。恥ずかしいじゃないか。向こうむいていてよ」

 と自分の体を抱くように両腕で胸を隠す。その片手には脱ぎたてのセーターが握られていた。

 羞恥するしぐさは女性そのものであり、まるで麻績に言われているように思えて、洋司はあわてて後ろを向いた。

 背後で衣擦れの音を聞きながら洋司は思った。

 俺も麻績さんのぬいぐるみを着たときに彼女の裸を見たことがある。胸だって鏡に映して何度も観察した。それどころかこの間まで麻績さんの体は自分の物だったのだ。ところがこうして他の人が変身した麻績さんを目の前にすると、着替えを見るのさえ恥ずかしく思えるのはなぜだろう。ふだんから振る舞いが女の子っぽい夢緒が麻績さんのぬいぐるみを着ているからなのだろうか。

 そんな洋司の背中を見ながら夢緒は(本当は見たくてしかたないくせに無理しちゃって)と苦笑した。それから自分は女の子になったんだなという実感がわいてきた。

 でも同時に、夢緒は洋司に申し訳なく思った。

 さっき向こうを向いてといったのは、ほんのちょっとのイタズラ心と女の子になりきりたくて言ったのだが、それは本心ではなかった。むしろ失言だったと今は後悔していた。洋司の麻績の着替えが見たいという気持ちはよくわっている。だからこそ、洋司がそれでも見たいと一言いってくれれば、麻績になった自分の裸をあますところなく喜んで存分に見せてあげるつもりだった。そもそも洋司に喜んでもらおうと思って、今日はブラジャーをつけてなかったのだ。

(だいたい、この体は洋司からもらった物なんだから、洋司の好きなようにしていいのに。

 中身がぼくでよければ、ぼくは麻績さんになって洋司にどんなことでもしてあげられるよ)

 夢緒は少し残念そうな表情をしながら、なれた手つきでブラジャーを着けるとワンピースを着た。

「もう見ても良いよ」

 洋司が振り返ると、そこにはワンピースを着た麻績が立っていた。

 その姿をうっとりと眺めていた洋司は、夢緒がうっすらと化粧をしていたことに気がついた。

「化粧……しているのか?」

 洋司は言った。

「うん。薄くだけれど」

「化粧か。それはそうだよな。大学生になもれば化粧のひとつもするよな。

 俺はそんな当たり前のことも気がつかなかったし、気づいたとしても化粧なんてうまくできなかっただろう。

 やっぱり夢緒に麻績さんの役割をしてもらってよかったよ」

 麻績さんのぬいぐるみを手放すときはつらかったけれど、やはりこれでよかったのだと洋司は思った。

「念のために言っておくけれど。

 この化粧だってぼくが麻績さんだってばれないためにしたんだからね。

 ぼくにはそういう趣味はないから。

 今日だって、洋司が憔悴しきっているから麻績さんになってデートして上げるんだからね。勘違いしないでよ」

 しかし内心では、本当に洋司とデートが出来るんだ、まるで夢のようだ、と夢緒は泣きたいほど喜んでいた。

「わかっている。わかっているって。

 でも今日だけは麻績さんになりきって俺を楽しませてくれよな」

 軽口を叩きながらも、洋司の表情がわずかにくもる。

 洋司はこうして目の前に麻績がいるのを見て、彼女がぬいぐるみにされたのは悪い夢だったんじゃないか、本当は夢緒が彼女を着ているのではなく本物の麻績がまだ生きていてそこに立っているんじゃないか、などと勘ぐっている自分に気が付き、目の前に麻績さんが立っているのを見るのがつらくなって来ていた。

(やっぱり俺は麻績さんが好きだったんだな。たとえ叶わない恋でも。

 だからこそ、麻績さんの人生を終わらせた詩代は許せない。ぜったいに倒す)

 と洋司は思った。

(ともあれ、今日のところは詩代のことは忘れてデートに専念しよう。せっかくの夢緒の好意だしな。

 その代わりデートの後、詩代と戦う。決戦だ。こんどこそ差し違えてでも麻績さんの仇をとる)

 洋司はそう決意を新たにした。


    *


 こうして洋司は、麻績になった夢緒とショッピングモールでデートをはじめた。

 初夏の空は晴れ渡り気持ちのよいそよ風が吹いている。

 夢緒は正体が男だとばれないように、麻績になりきった言葉で会話をしていた。

 ふたりはファミリーレストランで食事をしたり、服を見て回ったり、映画を鑑賞したりして、一日中デートを満喫した。

    *

「きゃっ!」

 夕方。

 ショッピングモールのおもちゃ屋の前を歩いているとき、夢緒が短い悲鳴をあげた。

「どうした?」

「こんなところにカエルがいる!」

 夢緒があまりに驚くので洋司が見てみると、それはおもちゃ屋の店頭に置かれたおもちゃのヒキガエルだった。

「へぇー。なかなかよくできているな。本物のヒキガエルそっくりだ。

 それにしても夢緒は臆病だな。さわってみなよ。大丈夫、おもちゃなんだから」

 洋司にけしかけられて夢緒がおそるおそるとカエルの頭にさわると、いままでじっとして動かなかったカエルが急に鳴き声を発したので夢緒ふたたびは悲鳴をあげた。さらに夢緒に向かってのそのそと歩きはじめたので、夢緒は慌てふためいて洋司の腕に強く抱きついた。カエルの動きもなかなか精巧だ。

 そんな夢緒を見て、洋司はこらえきれずに笑い声をあげた。

「あっはははは!」

「もう、笑いすぎ! さわってごらんって言ったのは洋司じゃない」

「ごめんごめん。

 だけどさ、これおもちゃだぞ? おもちゃ。

 おもちゃ相手にそんなに怖がって……!! あははは」

 棚を見ると、おもちゃの商品名は〈レプリカロイド・シリーズ〉と書かれている。近づいてきたヒキガエルを洋司が手に取って裏返してみると、腹の部分がパネルの電池ボックスになっていた。


    *


 表面上は詩代のことを忘れてデートのことを楽しんでいるように見えた洋司だったが、やはり心の中では詩代との戦いが気にかかっていた。

 そんなおり、衣料品店で試着した服を楽しそうに鏡に映している麻績さんになった夢緒を見ていて、洋司は「あっ!」と小さく叫んだ。

「洋司、どうしたの?」

「いや。たいしたことじゃない」

 そして洋司は思った。

(夢緒を見ていたら、詩代と戦うための秘策を思いついた。

 これなら、いけるかもしれない)

 かすかにほほえみながら、洋司はまるで空にある詩代の母船を見すえるように店舗の天井を見つめると、小さくうなづいた。


    *


 やがて宵(よい)がせまりデートが終わる時間が近づいてきた。

 中身が夢緒とわかっていてもやはり麻績さんとデートができてたのは楽しかった、と洋司は心からそう思った。

 ショッピングモールの中央にあるライトアップされた噴水広場で、麻績になった夢緒が言う。

「ねぇ洋司。キスしようか?」

「はぁ? 男同士だぞ?」

「でも体は麻績さんだから問題ないでしょ? それとも洋司は麻績さんとキスをしたくないの?」

 そう言われると否定ができない。

 洋司は思った。

 本物の麻績さんだったらキスなんてする機会は絶対になかっただろう。たとえ中身が夢緒だとしても、これはあこがれの麻績さんとキスができるチャンスだ。

 それに、俺はこれから決死の覚悟で詩代との戦いにいどむ。負ければ殺されるだろう。

 勘のいい夢雄のことだ。俺の決意を感じ取って、麻績さんの姿でキスをしてくれると言っているのかもしれなかった。夢雄なりの、戦いへおもむく俺への応援なのだろう。考えすぎかもしれないが。

「いいんだな?」

「洋司が相手ならば、ぼくは全然かまわないよ」

 こうして洋司は麻績と抱擁を交わし、続いて熱いキスをした。端から見れば年上の女性と愛し合っている姿そのものだった。

「俺……本当に麻績さんとキスしたんだよな」

 キスができたうれしさを隠しきれない洋司。

 同じように大好きな洋司とキスができて、夢緒は隠していた恋心を抑えきれなくなっていた。

 自分の思いに堪えきれなくなった夢緒は勇気を振り絞り、一大決心をして洋司に告げた。

「洋司。笑わないで聞いて。

 ――ぼくは洋司が好きだ。大好きだ。

 友達としてじゃない。恋人として好きなんだ。

 嫌われるかもしれないと思って、いままで言えなかった。

 でも、もう胸にしまいこんでいられないんだ。

 ぼくは、本心から洋司が好きだ」

「……」

 男からの告白を受け、洋司はまじまじと夢緒を見た。

 それからすべてを理解したように言う。

「ああ、びっくりした。

 デートだものな。告白もアリだよな。

 うん。たとえ演技でも、麻績さんと恋人になれて嬉しいよ」

 渾身の告白を、デートの締めくくりのサービスだと洋司に誤解されたことに気がつき、夢緒はすぐに取りつくろった。

「と、当然じゃないか。本当に男同士で恋人になるなんてありえないよ。

 でも洋司はこんな風に麻績さんにいってもらいたかったでしょう?

 洋司が元気が出るようにって、言ってみたんだ」

「やっぱり、そうだよな。

 ありがとうな。もうだいじょうぶだ。

 今日は楽しかったよ。本当に」

 洋司は本当に嬉しそうな笑顔を見せた。

 そんな洋司を見ながら夢緒は思う。

(勘違いされちゃった。

 今日のところはこれが限界だけれど、いつかきっと、本当にぼくは洋司のことが好きなんだって気づいて欲しいな。

 麻績さんのぬいぐるみを着ているときだけでもいい、ぼくのことを心から恋人として愛してくれるときがくるといいな)








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