魔法少女はぬいぐるみ羊の夢を見るか?

作:JuJuさん



■第7話

 ぬいぐるみ怪人が母船に帰ってから一週間が過ぎた。

 帰宅部の洋司が学校から帰ってきて夕方まで部屋でくつろいでいると、突然学習机に置かれていたスマホの画面が明るくなりルカが映しだされた。

「洋司……」

 いつになく冷静な声で呼ばれて、洋司はスマホに近づくとを手にとって画面を見た。真剣な顔をしたルカに気が付き、洋司の表情も自然と真面目なものになる。

「用心して。そろそろ詩代が母船から地球に戻ってくる頃だわ」

「わかるのか?」

「あくまで計算上だけど。この星の上空に置いてある私の母船から送られてきたデーターと、詩代と戦ってきた私の経験を照らし合わせると――」

 その時だった。ルカの話をさえぎるように、家の外から女性の叫び声が聞こえた。

「キャー!!」

 悲鳴を聞いた洋司とルカは顔を見合わせる。

「詩代が出たのか?」

「おそらく間違いないわ」

 洋司は急いで着ていた普段着を脱ぐと、魔法少女のぬいぐるみを着て出動した。

 玄関を開けたところで、学生服姿の夢緒に出会った。

「ど、どうして夢緒が俺の家の前にいるんだ?」

 洋司はおどろきのあまりその場で立ちどまった。彼が部活の帰りで下校しているとしても夢緒と洋司の家は学校を挟んでまったく逆方向にあるのだ。

 実は洋司は気がついていなかったが、夢緒は高校からの帰宅途中にいつも洋司の家の前をあるいていたのだ。理由はもちろん洋司が好きなため。愛するゆえに毎日洋司の家の前まで寄り道するというストーカーまがいなことをしていた。

 一方夢緒も、洋司の家から小さな女の子――しかも魔法少女のコスプレをしている――が出てきて驚いていた。

 そこにもう一人の声が響いた。

「魔法少女が……生きていた?」

 驚いたことにぬいぐるみ怪人詩代も洋司の家の前に立っていた。

「どうして? 魔法少女は私が光線を当ててぬいぐるみにしたはずなのに。それは間違いないはず。でも……生きている……。おかしい。まったく理解不能」

 いつも冷静沈着な様子を見せていた詩代が動揺していた。

 それもそのはずだ。事実、魔法少女は間違いなくぬいぐるみにされていた。いまいる魔法少女は見た目こそそっくりだが中身は別人なのだ。

 そのことを詩代に教えれば彼女の動揺も収まるだろうが、そこまで洋司もお人好しではなかった。

 洋司は詩代の動きに警戒をしながら周囲を確認する。すでに日が落ちようとしていた。夕日に照らされて赤く染まった詩代と夢緒以外あたりに人影は見あたらない。

 どうやらさきほどの女性のような悲鳴は夢緒のものだったらしい、と洋司は考えた。

「詩代……今度は夢緒を襲っていたのか」

「くるみ! 言葉づかい!!」

 男言葉になっていることをルカが羊をデザインしたポシェットの中からしたためる。いつもは周囲にさとられないように声を抑えているのだがつい大声になっていた。

 洋司は指摘されて一瞬しまったという表情をしたが、すぐに「それどころじゃないだろう」と言いかえした。大切な友達が襲われているのだ、ぬいぐるみにされるということは死を意味する。友人の生死の場で言葉づかいなどかまってはいられなかった。

「――その小さな電子機器からも魔法少女の声がした。

 私の記憶によれば、どちらの声も確かに魔法少女固有のもの。

 録音? 通信? もしかしたら魔法少女は複数存在する? さらに理解不能。

 だがかまわない、今度こそぬいぐるみにする。魔法少女を含めこの星の人間はすべてぬいぐるみにする。……それで問題は終結する。

 でもそのまえに新しいサンプルの戦闘能力の分析が先」

 詩代もようやく混乱状態を脱したようだった。例の光線が当たった人をぬいぐるみにする銃を洋司の友人の夢緒に向けた。

「これ以上犠牲者を増やしてたまるか! 詩代、おまえの息の根をここでとめてやる」

 洋司は威勢よく言ったものの夢緒をかくまいながら戦わなければならないという不利な状況にあった。

 詩代が夢緒を狙っていることを考えれば夢緒のそばから離れることはできない。この場から動かずに戦う方法はないかと洋司が考えていると、魔法少女に初めてあったときに彼女が魔法のステッキで戦っていたことを思い出した。魔法のステッキならば羊のポシェットのなかに入っていたはずだ。

 洋司はポシェットから魔法のステッキを取り出す。手のひらに乗るような小さなステッキは見る見るまに巨大化して三十センチくらいの大きさになった。

 洋司はルカに訊ねた。

「このステッキってどうやって使うんだ」

「ステッキを相手に向けてボタンを押せば、あとは自動で光線を発射するわ」

「光線! 思った通りだ。やっぱりこれは波動砲みたく、力を溜めて光線を発射するんだな!」

「ただしすぐに発射できる詩代の光線銃と違って、そのステッキは力を溜めるまですごく時間がかかるのが難点よね。そのかわり一度発射すれば威力は段違いだけど。発した瞬間に詩代の体は爆発四散木っ端微塵よ」

「爆発四散って……なんか物騒だな……」

 さっそく洋司は魔法のステッキを詩代に向けた。

「ええっと……。ああボタンってこれのことだな?」

 洋司は握っている柄(え)の部分に付いている小さなボタンを押した。

 しばらくすると《エネルギー充填一〇%……》とステッキから渋い男の声が発せられた。

「よし。これが一二〇%まで溜まれば、詩代は木っ端微塵になるんだな?」

 しかしエネルギーが溜まるまで相手が待ってくれるはずもなかった。

 くるみの魔法のステッキと違いすぐに発射できる詩代は、洋司に向かって次々と光線を放った。

 そのたびに洋司は夢緒をかばいつつどうにか避けつづける。

「くそぅ……長く耐えられそうにないな。エネルギーはまだ溜まらないのか?」

《エネルギー充填三〇%……》

 洋司の質問に答えるように魔法のステッキが渋い声が発した。

「まだたったの三〇%なのか? 一二〇%に溜めるまでにどれだけ詩代の攻撃を耐えなくちゃならないんだよ」

 それでも一人ならば時間が稼げたかもしれない。しかしいまは夢緒を護りながら戦わなければならないのだ。夢緒はおっとりとした性格で運動も得意ではない。その上怪人に肝を潰していて光線をまともに避けることさえできない状態だった。洋司は自分の身だけではなく、ろくに動くこともできない夢緒を助けなければならないのだ。

 このままではあまりにも不利だ。

 そう考えた洋司は隙をつくって夢緒を逃がすことにした。

「俺がおとりになって詩代を引きつける。そのあいだに夢緒はこの場から逃げるんだ」

「でも……」

「いいから俺の言うことを聞け!」

 洋司はぬいぐるみ怪人の光線を避けつつ、足取りも危うい夢緒をどうにか追い出すようにこの場から逃すことに成功した。

 無事に姿が見えなくなるまで夢緒の姿を見送り洋司はわずかに安堵した。

 が、そこまでだった。

 夢緒を無事に逃がした余裕が油断となってあらわれてしまった。

 詩代の銃口が洋司の心臓を捉(とら)えた。

 詩代は確信を込めてつぶやく。

「もらった……」

「くるみ! 危ない!」

 ルカの叫び声もむなしく、怪光線が洋司に命中する。

 ただし以前魔法少女を撃った時のように黒い怪光線が広がり全身を包み込むのではなく、当たった場所が光線を吸い込むように点になって消えていった。

「ぎゃあああーーー!!」

 苦しみの声を上げて体をのけぞらせながら震える洋司。

(くそっ! ついにやられた。あの怪光線を浴びてしまった。

 俺もルカや麻績さんのようにぬいぐるみになってしまうのか? これで俺の人生は終わるのか?)

 そう思うと目の前が真っ暗になった。

 洋司は絶望したまま地面に倒れこむように突っ伏した。

「この目で確かに見た。なぜか光線が魔法少女を包み込まなかったが、間違いなく当たった。今度こそ確実に魔法少女を処理した」

 詩代の声はあいかわらず平坦で無感情なな口調だったが、こころなしか満足そうに聞こえた。

 宿敵を倒したことで逃げられた夢緒のことなど眼中にないらしい。

「急いで司令に報告しなければ」

 詩代はそういって振り返るとどこかに去っていった。気のせいかその足取りはいくぷん早足に見えた。


    *

「……ようすけ……ようすけ……」

「……誰だ……俺の名を呼ぶのは? 果敢に戦った俺を天界に連れていく戦天使(ヴァルキリー)か?」

「なにバカなことを言っているのよ。

 いいから起きて!!」

 何者かに言われてのろのろと洋司が立ち上がると、そこは先ほど詩代と戦った場所だった。

「あれ!? 俺は生きているのか? いや確かにあの怪光線を浴びたよな。そのことはしっかりと憶えているし。

 だったらなぜ俺はぬいぐるみ光線を浴びて平気でいられるんだ?」

 ポシェットに入れていたスマホから、ため息とともにルカの声が聞こえた。

「ばかねぇ。魔法少女くるみはすでにぬいぐるみなのよ。ぬいぐるみがこれ以上ぬいぐるみになりようがないでしょう?」

「え? それじゃ今の俺、無敵? なのか? そういうことは早く言ってくれよ。ぬいぐるみ光線が効かないのならばもう詩代なんて敵じゃない!」

 意気揚々と拳を固めている洋司にルカがいさめた。

「油断をしてはだめよ。詩代の実力がしれない以上あなどることはできないわ。それにあの光線銃以外にも攻撃手段があるかもしれないし。

 あなたはあくまで光線銃が効かないってだけ。詩代だって戦士なんだから、最低でもナイフくらいは予備として持っているでしょ」

「……なるほどな、ルカの言うことはもっともだ」

 浮かれていた洋司も気を引き締める。


    *


 洋司は自分の部屋に戻り、魔法少女のぬいぐるみを脱いだ。

「それじゃルカ、詩代の対策を考えようか」

「そうね。ぬいぐるみ怪人を倒せないんじゃあ、いくら光線が無効だといっても意味がないしね」

「そういうことだ。どうやったら詩代を倒せるか、今から作戦会議だ――」

 洋司がそこまで言ったところで、家の呼び鈴が鳴った。

 洋司が玄関に出てみると、真剣な表情をした夢緒が立っていた。

(詩代から逃がしたあと家に帰らなかったのか?)

 そんなことを思いながら洋司は言った。

「遊びに来たのか? わるいが今はちょっと忙しいんだ。それにもうこんな時間だぞ?」

 洋司は日が沈み星が出始めた住宅街の空を見上げて言った。

「どうしても聞きたいことがあるんだ。ここじゃ話せないことなんだ。部屋に入れてもらえるかな?」

「俺の部屋に? べつにいいけれど」

 夢緒の気迫に圧されて洋司は断りきれずに彼を家に入れた。

    *

 洋司の部屋に通された夢緒は表情をさらに堅くした。

(夢緒とは子供の頃からの長い付き合いだが、こんな怖い顔をしているのははじめてだな)

 洋司がそんなことを思っていると、夢緒が突きつけるように言った。

「ねえ。さっき洋司の家から、女の子が出てくるのを見たんだ」

「え?」

「すっごく可愛らしいドレスを着た、綺麗な女の子だったよ」

 しまったと洋司は思った。

(俺がくるみになって家から出たのを見られていたか。

 ――いや、あたりまえか。それは見られていただろうな。家の玄関の前で夢緒は襲われていたんだものな)

 洋司は周囲に人がいないかを確かめずに玄関から飛び出してしまった、自分のうっかりとしたおろかさをいまさらながら悔いる。いまごろスマホの画面ではルカが頭を抱えてあきれていることだろう。

「あ……ああ、そうか。見たのか? あの子はだな……。その……そうそう! 親戚の子を預かっていたんだ。コスプレ……っていうのか? アニメの魔法少女のかっこうをするのがえらく気に入っていてな。あんな服を着ていたんだ。

 まっ、今日はもう家に帰ったけれどな」

 親戚の子! 我ながらうまい言い訳をしたと、洋司は胸の中で自分を褒めたたえた。これならば今後家(うち)からくるみが飛び出すところを目撃されても、また親戚の子が遊びに来ていたのだろうと納得することだろう。

 満足そうにほくそえむ洋司だったが、返答を聞いた夢緒の表情はますます険(けわ)しくなる。

「その女の子はね、変な女性に襲われていたぼくを助けてくれたんだ。

 変な女性は銃で襲ってくるし。

 君の家から魔法少女は出てくるし。

 いったい洋司の周りでなにが起こっているの?」

 あきらかに洋司が秘密をにぎっていることを見越した上での口調だった。

「実を言うとね、最近洋司の様子が変だからずっと気になっていたんだよ。

 何かあるんでしょう?

 教えてよ? それとも親友のぼくにも話せないようなことなの?」

 問いただす夢緒の迫力に洋司も秘密を教えることにした。

 ルカには口止めされているがごまかしきれる自信はなかったし、なにより夢緒なら信用がおける。

「実は……」

 たまりかねたのか、その瞬間学習机の上に置かれたスマホからいままで一切の口を閉じていたルカが叫びに似た声を上げる。

「洋司っ!!」

「誰っ!? ああなんだ、スマホか……。急に声がしたんでびっくりしたよ。

 やっぱり買い換えたんだね。あたらしいゲームを入れたの?」

 洋司が話す気になったことを知り、いつものおっとりとした性格に戻った夢緒が言う。

「ちがうちがう。彼女は宇宙人でスマホの中で生きているんだ」

「そういう設定のゲームなの?」

「ゲームじゃなくてだな……。むぅ、なんといったらいいものか」

 洋司が説明に困っていると、ルカが再び叫んだ。

「洋司。私たちのことは秘密だって約束したじゃない!」

「ルカの言いたいことはわかっているって。

 魔法少女のことを話しちゃダメだって言うんだろう?

 そうは言うがな、夢緒だってあやうく殺されるところだったんだ。偶然俺の家の前で事件が起こっていなければ、俺が駆けつけた頃には確実にぬいぐるみにされて死んでいたはずだ。

 そんな危険な目にあったんだ。こいつだって理由を聞く権利くらいはあると俺は思うぞ。

 それに夢緒は信用がおける。それは俺が保証する」

「……」

 しばしの沈黙の後、ルカが言った。

「本当に信じて良いのね?」

「ああ」

「……わかったわ。彼を信用している洋司をわたしは信用する。話しても良いわ」

 洋司はルカに向かって頷いたあと、夢緒に向き直ってルカの紹介をした。

 それから洋司は、ぬいぐるみ怪人に襲われたこと、魔法少女に助けられたこと、そしてぬいぐるみを着ることで変身できることなど、いままであったことすべて包み隠さずに夢緒に話した。

「――なるほどね。最近洋司の様子がおかしいと思っていたけれど、そういうわけだったんだね。納得した」

「だまっていてすまなかった。言ったところで信じないと思っていたし、ルカには秘密にしていろっていわれていたから」

「ううん、いいよ。むしろぼくのことを信用してこうして話してくれたことが嬉しいよ。
 ルカさんも信じてくれてありがとう」

「どういたしまして」

「ここまでバラした以上いずれは気が付くだろうから、ついでにあのことも話しておく。

 以前に夢緒に綿を渡しただろう?」

「あのいっぱいの綿! あれって抱き枕にして洋司にあげたよね?」

「その綿の正体なんだが……。じつは大量の綿は怪人にぬいぐるみにされた人間のものなんだ。

 人間が原料なんて気持ち悪いよな。だまっていて悪かった」

 そう言って洋司は「綿はこのぬいぐるみのなかに入っていたんだ」と言って、タンスから魔法少女と麻績のぬいぐるみを取り出して床に広げた。

「これがそのぬいぐるみ……。
 そうか。あの綿はこの人たちの物だったんだ……」

 しばらくのあいだ夢緒はぬいぐるみにされた人たちを見ていたが、やがて洋司に言った。

「いいよ。ないがしろに捨ててしまうよりよっぽど良いとぼくはおもうよ。

 それから洋司の話してくれた秘密は絶対に守るから安心して」

「信じているぜ!」

「――で、そのことなんだけれど」

 ふたりの会話を黙って聞いていたルカが、唐突に割ってはいった。

「ルカ? なにか言いたいことがあるのか」

 洋司が問う。

「うん。魔法少女と麻績さんと自分の生活の三重生活をするのは大変だって、洋司が言っていたでしょう?」

「言っていたというか実際に大変なんだけどな。すでに麻績さんの生活がおろそかになっているし」

「そこで夢緒さんに手伝ってもらうのはどうかなと思って」

「はあ?」

「ええ?」

 ルカの提案に洋司と夢緒が驚く。

「だから、夢緒さんに麻績さんの役割をしてもらえればいいんじゃないかなって。

 そうすれば洋司は魔法少女の活動に専念できるでしょ?」

「なるほど。夢緒に麻績さんになってもらおうってわけか。

 しかし麻績さんになった夢緒を詩代が見つけたらどうする? ぬいぐるみにしたはずの麻績さんが生きているのことを不審がられる可能性は高い。ただではすまないぞ。

 俺の場合は魔法のステッキがあるから反撃もできるが、夢緒の場合は対抗のしようがないし」

「それはそうだけど……。私としては洋司には魔法少女に専念してほしいのよね」

「いや、俺としては夢緒を戦いに巻き込みたくない。たとえ三重生活が苦しくてもだ」

 ふたりが激論を交わしている横で、夢緒は床に広げられていた麻績のぬいぐるみを手に取るとつぶやいた。

「この人って洋司のあこがれの女性だったんだよね? ということは、これを着ればぼくも洋司のあこがれの女性になれるのか……」

「ん? 何かいったか?」

「ううん、なんにも。

 それよりこの女性のぬいぐるみの話なんだけど、それ、ぼくが引き受けてもいいかな?」

「え?」

 驚いている洋司にルカは言う。

「ほらみなさい。本人だっていいって言っているじゃない」

「しかし怪人に目を付けられるかもしれなんだぞ?」

「さっきの戦いでぼくはすでに目を付けられているからね。同じことだよ」

「そうそう」

 ルカが夢緒の後押しをする。

「ぜひとも、ぼくに麻績さんの役をやらせてよ」

「本当にいいのか?

 まあ、夢緒がいいっていうならばお願いするが。俺も楽になるし。ルカも俺が魔法少女に専念できるって喜んでいるし」

「うん。ぼくも洋司の手伝いができるならうれしいよ」

 夢緒はそう言ってから、ぬいぐるみにされた麻績を胸に抱きつつ小さな声で「それに、洋司の恋人になる夢が叶うかもしれないしね」と、ひとりごちた。

「それじゃ、麻績さんのことはよろしくたのむ」

 洋司にとって麻績はあこがれの人だったから、彼女のぬいぐるみを渡すのはちょっと残念な気がした。

 しかしこれで魔法少女に専念できる。専念できれば麻績の仇を討つことも容易になるはず。

 そう考え直して、洋司は麻績のぬいぐるみへの思いをうち消した。

「くれぐれも、詩代――ぬいぐるみ怪人には気をつけてな」

「わかってるよ」

 こうして麻績のぬいぐるみは夢緒の手に渡った。









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