魔法少女はぬいぐるみ羊の夢を見るか? 作:JuJuさん ■第6話 ここは洋司の友人、夢緒の部屋。 その部屋で、一人の女の子が全身の映る鏡に自分の姿を映していた。 いや……よく見ればそれは女の子ではなく、女装をした夢緒だった。 夢緒は鏡の前でさまざまなポーズを取っている。その容姿、しぐさ、立ちすがた。それらはどの点をとっても女の子そのものだった。もともと自然にしていても女の子っぽい上に鏡の前では特に意識して女の子らしくふるまっているため、鏡の中の夢緒が本物の女の子以上に女の子らしく見えるのは当然といえよう。 夢緒は洋司に対してひんぱんに女の子のように見ないで欲しいと言ってたが、実はそれはウソだった。本心では洋司に異性として見てほしいと願っていた。 夢緒は幼なじみの洋司に小さい頃から恋心を抱いてきた。こうして鏡の前で女装をしているのも洋司に愛されたいためだった。 同性同士では恋人にさえなれない。それでもその願いを鏡の中だけでもいいから満たしたいと思い、夢緒はこうして毎日、女の子としてのまねごとをしていた。 裁縫が得意なのもこのことが理由だった。女装するためには女の子の服がいる。しかし女物の服を買うのは恥ずかしい。通信販売という方法もあったが、万一宛名ラベルに品名が書かれていたら家族に何を買ったのかばれてしまう。そこで彼は、自分で服を縫うことにしたのだ。女物の服が欲しい一心で続けているうちに、いつのまにか裁縫が得意になったと言うわけだ。もちろんもともと裁縫の才能もあったが、なにより女物の服を着たいという情熱がその才能を花開かせた。 でも、そのことは誰にも秘密だった。 彼は洋司のことを好きだったが、それがばれて洋司から気持ち悪がられ友情まで壊れてしまうことを恐れた。そのために本当は女の子として扱ってほしい気持ちをひた隠し、洋司の前ではいつも自分のことを女の子のように見ないでくれと言っていた。 夢緒は鏡の自分に向かって問う。 「もしもぼくが本物の女の子で、この服を着て前に出たら、洋司はぼくのことを素敵だって言ってくれたかな?」 鏡の前でクルリと回って、昨日仕上がったばかりの衣装の出来を確かめる。 「女の子に生まれたかったな。そうしたら洋司に告白できたのに。もしかしたらこんなぼくでも洋司と恋人の仲になれた可能性があったのに。 ……いいんだ。わかっている。ぼくは男の子で洋司も男の子だ。男の子同士、結ばれることなんて永遠にないんだ」 大きなため息をはいて、憂鬱な気分を息とともに吐き出す。 これからひと仕事があるのだ。 夢緒が振り向くと、彼の部屋の片隅には大量の綿が置かれていた。量にして人の体のふたり分もありそうな綿の山だ。 洋司に『実は綿が大量に手に入ってな。俺が持っていても使い道もないし、邪魔だし、だからといって捨てるのも忍びないから、夢緒がもらってくれないか? 夢緒は手芸が趣味だろう?』と言われ引き受けたのだ。 そうして受け取ったものの、予想以上に多すぎる綿の山に夢緒も持て余していた。 「こんなにいっぱいの綿をどうしたらいいんだろう?」 このままいつまでも部屋に置いておくわけにもいかない。それに大切な親友である洋司から裁縫に使ってくれと言われて渡された以上なんとか裁縫で使わなければならない。 「そうだ! あれを作ろう!」 しばらくのあいだ夢緒はうなりながら思案していたが、やがて良い方法をひらめいたらしく棚から生地と裁縫道具を取り出して何やら作り始めた。 * 数日後。 「それで、俺が渡した綿でこのぬいぐるみを作ったのか。 しかし……これはまた、ずいぶんと大きいな」 学校帰りに夢緒に呼ばれて彼の部屋に遊びに行った洋司は、手渡された人ほどの大きさもある巨大な羊のぬいぐるみを抱きかかえながらいった。 「ふわふわしてもこもこしている綿を見ていたら、羊のぬいぐるみを作ろうってひらめいたんだ。 でも男の子の洋司にはぬいぐるみは似合わないでしょう? だから抱き枕としても使えるように大きめにしたんだ。 抱き枕ならば男の子の部屋にあってもそんなに変じゃないからね」 「そういうものなのかなぁ」 「そのぬいぐるみは綿をくれたお礼として洋司にあげるよ。 二個作ってあって、ぼくのぬいぐるみと色違いのペアになっているんだ。 ――やっぱりいらないかな? 男の子の洋司にぬいぐるみって合わないよね……」 夢緒は悲しそうな表情で洋司を見つめた。洋司にはそれがまるで、女の子がいまにも泣きだしそうな顔に見えた。 「い、いや。夢緒がせっかく作ってくれたんだ。抱き枕として使わせてもらうよ。ありがとうな!」 そんな顔をされたら断れるはずが無いじゃないか、と洋司は心の中で思った。 * その日の夜。 パジャマ姿の夢緒はベッドの中で、羊のぬいぐるみを抱きしめて寝ていた。 「えへへ。洋司とペアのぬいぐるみ。うれしいな」 そうつぶやくと、幸せそうに眠りについた。 |