魔法少女はぬいぐるみ羊の夢を見るか?

作:JuJuさん



■第5話

 撮影当日の日曜日。

 洋司と留美は雑居ビルの入り口に立っていた。

 洋司は麻績のぬいぐるみを着て変身している。とうぜん留美は、隣に立っている麻績が本当は洋司だとは夢にも思っていない。

「ここが監督のいっていたスタジオね」

 留美がいった。

 留美に連れられてやってきたスタジオは、雑居ビルの中にあった。

 スタジオに入るとヒゲにメガネで小太りの中年男がパイプイスに座っていた。

「彼が監督よ。こんにちは監督、今日はよろしくお願いします!」

「いよー! まっていたよ留美ちゃん!

 その子がお友達の麻績ちゃんだね? ぼくのことは気軽に監督って呼んでくれよ。それじゃ二人とも今日はよろしく!」

「はあ……よろしくお願いします」

 洋司はスタジオを見渡す。大きな照明装置や三脚のついた高級そうなカメラが置かれていて、壁に白い幕や青い幕を張った所が、これから撮影する場所だとすぐにわかった。

 しかしヒゲメガネ監督以外に人が見あたらない。そのことを洋司は疑問に思った。

「ねえ留美。あの人が監督だとして、カメラマンはどこにいるの?」

「麻績はスタジオ撮影って初めてだったわね。あの人は監督兼カメラマンよ」

「じゃあスタッフはひとりだけなの?」

「そういうこと」

 それから留美は声をひそめて続ける。

「不景気だからね。監督が全部ひとりでやらなくちゃならないのよ。大変よねえ。
 そのうえ監督はこの仕事だけでは食べていけないらしく、ライターとして雑誌の文章も書いているそうよ」

 そんな会話していると、二人のもとに監督がやってきた。

「それじゃ時間がないからね。来てそうそうで申し訳ないんだけれど、撮影を始めるから隣の部屋で着替えきちゃって」

「はーい。わかりました」

 留美は愛想よくそういうと、麻績の手を引いて撮影室を出た。

 廊下をわたり、手書きで更衣室と書かれた紙がドアにテープで張られている部屋に入る。

「麻績、水着は持ってきた? 電話で言っておいたでしょう?」

「う……うん。いちおう」

 あいまいに答えてから、洋司は心の中でつぶやく。

(……麻績さんの水着借りて来ちゃったけれどいいのかな?

 いいんだよな。だっていまは俺が麻績さんなんだから。

 麻績さんの水着は俺の水着なんだ)

「それじゃあ着替えましょう!」

 更衣室としてあてがわれた部屋は狭いうえに部屋の三分の一が雑多なガラクタで占められているという、物置のような場所だった。

 そこに着替えのためのロッカーが並んでいる。

 いちおう掃除だけはしてあるのか、ほこりっぽくないことだけが唯一の救いだ。

(グラビアアイドルの撮影ってもっとハデなものだとおもっていたけれど、現実はこんなものなのか……)

 洋司がそんなことを思いながらふと留美を見ると、彼女はすでに着替え始めていた。

 目の前で平然と服を脱いで下着姿になる留美にあせりながらも、洋司の目は彼女の体をじっくりと見つめていた。

(なるほどな。グラビアモデルをするだけあって、なかなかいいスタイルしているな)

 洋司は服の上から見たときも留美はスタイルがいいと思っていたが、こうして下着姿を見るとますますその綺麗な体つきがわかった。

 留美の着替えに見とれている洋司に気がついた下着姿の留美がいった。

「なにぼんやりしているの? はやく着替えちゃおうよ」

「う……うん!」

 あわてて自分も着替え始める洋司。

 彼は下着姿になりながら心の中で思った。

(それでも麻績さんのスタイルには負けるけどね)


    *


 留美は白地にピンクの花柄がちりばめられたワンピース水着、洋司は無地で深いブルーのビキニ姿だった。

「お、着替えてきたね? いやはやこれは、ふたりともナイスバディだねぇ。

 これは撮りがいがあるよ。おじさん、はりきっちゃうぞー」

 撮影室に戻ると洋司と留美の水着姿を見ながら監督がいった。

 物腰こそおちゃらけているが、するどい眼がプロとしてふたりのスタイルを見定めているのが洋司にはわかった。

 中年おやじに自分の体を女とし評価される視線に洋司は息を飲んだ。

 やがて眼鏡にかなったのだろう。監督は軽く頷くと

「じゃ、撮影に入ろうか」

 と、ふたりを青幕へと導いた。

「ここを浜辺だと思ってね。

 背景は後から合成するから気にしないで」

 監督がいう。

(夏も近いんだから海かプールで撮影すればいいのに。ほんとうに制作費がないんだな)

 と洋司は心の中で愚痴をこぼした。

「それじゃ、まずは適当にポーズを取って。

 テーマはキャンバス・アイドルの休日……って感じかな」

「はーい。わかりましたー」

 監督にいわれて留美は愛想よく返事をした。

 留美は手を伸ばして洋司の手を取る。

 いきなり水着姿の、しかも年上の女性に手を握られて緊張をする洋司。

「最初は海岸を散歩している感じでいきましょう」

 留美は洋司にいった。

 さらに留美の指導で、ひじをついてうつぶせに寝そべっている姿や、ふたりで肩を並べてカメラに向かってピースサインをする姿などを撮った。

 麻績の体で水着撮影、しかも美人でスタイルもいい留美さんと一緒に写ることに最初は照れながらも喜んでいた洋司だったが、それらになれてくると次第に留美のやり方が気に入らなくなってきた。

 じっさい監督をみても、やる気がそがれているのが同じ男としてよくわかった。

(留美さん……。撮影に浮かれていないでもっと監督を見てよ。

 こんなんじゃ男性読者の気は引けそうにない、これはモデル選びを失敗したな、そんな気持ちが監督の顔に書いてあるよ。

 いくらスタイルがよくったって、それを見せびらかすだけじゃダメなんだ)

 洋司は心の中で抗議した。

 この白けた雰囲気に気が付いていないのは留美ひとりだけだった。

 洋司は心の中でさらに愚痴を吐いた。

(あのね留美さん。わかっていると思うけれど今撮っているのは男向けのグラビアだよね?

 こんなんじゃ男の股間にはガツンってこないんだよ。満足なんてできないんだよ。

 コンビニで立ち読みをしていて、ペラペラとめくっていて、すげーエロい子が目に入って、『よし今夜はこの子で……!』って、つい雑誌を持ってレジ行ってしまうような、お金を払うときは頭の中はエロいことでいっぱいになっているような、帰り道はグラビアの女の子をお持ち帰りしている気分になるような、そんなんじゃないと価値はないの)

「え? 麻績、なにか言った?」

 心の中で思っていたつもりがつい口からつぶやいて出ていたことに気がついた洋司は、あせりながら答えた。

「あ……! いえ、なんでもない、なんでもない。

 でもね、もうちょっと大胆な方が監督もよろこぶんじゃないかなーと思って」

「えー。そう……?」

 自分がリードしたポーズを否定された留美はすこし不満げな表情をした。

「たとえばねぇ……。

 こんなのはどう!?」

 洋司は留美に正面から抱きついた。

 いきなり抱きつかれて驚いている留美の胸に、洋司はさらに自分の胸を強く押しつける。

 大きな胸と胸がつぶれて重なる。

 さらに洋司は抱きついていた腕を離すと、今度は手のひらで自分の胸をすくい上げ、水着の上から胸の先と胸の先をくっつけた。

「お! いいねいいね! ノリノリだね! いいよいいよ」

 監督もさすがはプロだった。

 すっかりしらけ気味だったのに洋司がいきなり起こしたハプニングに急に目を輝かせ、シャッターチャンスは逃さない。フラッシュが光り洋司と留美のちょっと怪しい光景がカメラに収まる。

 さらに洋司は留美の背後から抱きつき彼女の背中に思い切り胸を押しつける。

 これもカメラに収まる。

 ふたたび正面に回りこむと洋司は留美の胸に顔を埋めた。

 頬を赤らめて恥ずかしがる留美と、イタズラそうな表情でカメラに向かって笑顔を向ける洋司。

 フラッシュの嵐がふたりを包んだ。

「これはあくまでも撮影のための演技だから。それとも演技とはいえ私とこんな関係になるのは嫌?」

 洋司は彼女の耳元でやさしくそうささやいた。

 留美は顔を真っ赤にしたまま黙りこんでいる。

 その後も演技だと言い訳をしつつ、実は本当はレズだったんじゃないかというくらい洋司は積極的で官能的に留美を攻めつづけた。

 撮影を始めた頃とはうってかわってすっかり無口になってしまった留美に洋司はいった。

「ほら、監督もよろこんでいるじゃない。がんばろうよ」

 それから洋司は留美の胸を思いのままに揉んだり熱い口づけを迫ったりと、麻績の体で欲望のままにやりたい放題なことをした。


    *


 撮影は終了した。

(「行きすぎた女の友情」「ソフトレズな関係」。

 そんな風に見える、なかなかいい写真が撮れたんじゃないだろうか)

 洋司は自慢げに思った。

「いやー、今日はありがとう。おかげですばらしい写真が撮れたよ。ぜひまたこういうのよろしくたのむよ」

 監督もご満悦だ。


    *


「おつかれさまでしたー!」

 洋司は元気にそういってスタジオを出た。いっぽう留美はうつむいたまま、か細い声で「おつかれさまでした……」と言った。

 ふたりで更衣室に入ると、それまで顔を赤くしてうつむいていた留美の雰囲気が一転する。

 留美は疑惑といらだちを混ぜた顔で洋司を目で問いつめる。

「何のつもり!?」

「え?」

「あんな、指示をされていないエッチなことをするなんて。あれが全国に売られるんだよ」

「いいじゃない。監督もよろこんでいたし」

「よくないわよ。今日モデルをしてくれたことは感謝している。でもあんなことをするなんて。

 だいたい今日の麻績は変だよ? 麻績はエッチなことは嫌いだったじゃない。だから今日の水着の撮影も断られるかもしれないって心配していたのに」

 どうやら留美は、エッチな写真を撮られたことにご機嫌斜めらしい。

(やっぱり留美さんは、単に自分の自慢のスタイルを見せつければ読者の男たちが喜ぶと思っていたらしいな。

 グラビアモデルを引き受けたくせに案外まじめな性格なんだな。だったらこんな仕事引き受けなきゃいいのに。まあ、業界に顔を売るためにしかたなくグラビアに出るって電話でいっていたしな。

 でもいいじゃん。グラビア写真なんて男の目を喜ばせるためにあるんだから。どうせならばサービスしたほうが読者もよろこぶし。監督にだって好印象だったし。

 だいたいそんな風にプロ精神がたりないからモデルの仕事だってなかなか来ないんだよ……。

 そうだ!

 このままの性格じゃ、いずれしぶしぶやっているグラビアモデルの仕事さえ来なくなって、結局モデルになる夢を諦めることになるに違いない。それなら俺がエッチなことに目覚めさせてあげればいいんだ。彼女がエッチなことに吹っ切れさえすれば、顔だってスタイルだって良いんだからグラビアモデルの仕事がどんどん来るはずだ)

 そう思った洋司は、この場で彼女にエッチなことを慣れさせることにした。

「そんなに今日の私って変かな?」

 そういいながら洋司は水着姿の彼女に近づいた。洋司も留美も更衣室としてあてがわれた部屋に入ったばかりでまだ水着から着替えていなかった。

 怪しげな洋司の雰囲気に気が付いたのか、留美はわずかに身構えると後ずさった。

「大丈夫よ仔猫ちゃん。今日は私がいいことを教えて上げる。一緒に楽しみましょうよ」

 洋司がにじり寄るのに合わせて留美がさらに後ずさる。

 やがて留美の背中が更衣室の壁に当たる。

 留美を壁際に追いつめた洋司は、左腕で壁を叩いて彼女を精神的に束縛し、右腕を彼女の肩に手を伸ばして彼女のワンピース水着の肩紐を外した。

 つぎに水着の胸の部分をつかむと、勢いよく下にずらす。
「嫌っ!」
 驚いて両腕で自分を抱きしめるように胸を隠す留美。

 洋司は彼女の両腕を両手でつかんで強引にはずすと、そのまま彼女の両腕を上げさせ、自分の頭を麻績の胸にうずもれさせた。

(何これ? スゲー柔らかい! 水着の上からもよかったけれど、やっぱり直(じか)にさわった方が気持ちいいなぁ)

 自慢するだけあってなかなか形と大きさを持った胸だった。

 洋司は欲望のままに麻績のくちびるを動かすと、留美の乳首を舐めたり吸ったりした。

「いやっ! お願い、やめてっ!」

 留美は首を左右に振りながら嫌がったが、洋司は両腕を上げさせたまま彼女の腕を放さなかった。

「うふふ。だーめ。やめない」

 やめるどころか、その舌はますます激しく彼女の胸を蹂躙(じゅうりん)しつづけた。

「ああん……いや……だめ……」

 いつの間にか彼女の声に色気が出ていた。表情も溶けるようなものになっていく。

 ようやく留美の腕を解放した洋司は、今度はその腕で彼女の胸を激しく揉みしだく。

 留美の胸は洋司の欲望がままに形を変えていく。

「ああーっ!!」

 しばらくして、留美はひときわ大きな声を上げたかと思うと腰を落として床に座った。

 洋司が彼女の表情を見おろすと、息が荒く顔が真っ赤だった。閉じた目からは涙が流れている。

 女の涙は男にとっての凶器だ。

 留美の涙を見た洋司は、急に不安に襲われた。

「……ごめん。調子に乗りすぎた」

「……」

 留美からの返事はない。彼女はうわめづかいの涙目で洋司をにらむ。

 それから急に立ち上がって水着の肩紐を掛けると、着替えもせずに水着の上から服を着て更衣室を出ていってしまった。

 これは彼女との友情関係に深刻なひびが入ったかもしれないと洋司は思った。

(ごめん、麻績さん)

 洋司は心であやまった。

 もしかしたら麻績さんにとっては大切な友達だったのかもしれない。

 でも同時に、自分には関係ないことだという気持ちがあるのも感じていた。

 彼女とは今日会ったばかりだ。べつに洋司が選んだ友達でもない。洋司と仲が良かったわけでもない。彼女と過ごした時間は全部で数時間にすぎない。ようするに洋司にとって、留美は知り合い以前の存在だった。

 むしろ強引にモデルに連れ出されて休日を潰された上に、せっかく仕事を増やしてやろうしたのにその好意をないがしろにされたことにすこしだけ腹を立てていた。

「まあいいか。おっぱいを揉めたし」

 洋司はいまだ手に残る留美の胸の感触を思い出しながら、結局は得をしたのだからいいじゃないかと自分に言い聞かせたあと、着替えてスタジオを出ていった。


    *


 洋司は麻績のアパートに戻った。

「おかえりなさい。モデルの仕事どうだった?」

 留守番をしていたルカが言った。

 洋司は麻績のぬいぐるみを脱ぎながらいった。

「撮影はおもしろかったけれど、いろいろ大変だったよ」

 ぬいぐるみを脱ぐと、いままでの疲れが急激に襲ってきた。

 他人になりすますというのは楽しいけれど、ものすごく緊張するし大変だな、と洋司は思った。

 まだ詩代が母船に帰ったままなので魔法少女にならなくて済んでいるが、やがて魔法少女もしなければならないと考えると洋司はすこし憂鬱になった。

「やっぱり俺と麻績さんと魔法少女の三重生活は大変そうだな」

「はいはい。そんなことは最初っからわかっていることよ。
 でもたとえどんなに大変でも、洋司がぬいぐるみを着て変身していると言うことは絶対にばれないようにしてね?」

「やれやれ。わかっているって。だからこそ大変なんだよ」

 洋司には自分自身の生活があり、詩代が出現すれば魔法少女くるみになって戦わなければならす、しかも麻績になって周囲にばれないように彼女のふりまでしなければならない。

 洋司はこれから始まる三重生活を思い憂鬱な気持ちに襲われていた。








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