魔法少女はぬいぐるみ羊の夢を見るか?

作:JuJuさん



■第2話

 洋司は自分の部屋で、ベッドに寝かせた魔法少女だったぬいぐるみを見下ろしながら腕を組んで悩んでいた。

 あの事件のあと、ぬいぐるみにされた魔法少女をこのまま放置しておくわけにはいかないと思い家まで持って来たのだが、これからどうしたらいいものか彼にもわからない。

 等身大の女の子――それも小学生――のぬいぐるみが独身男性の部屋にあるのはまずい。誰かに見られたらダッチワイフとか思われてもしかたない。しかも小学生のダッチワイフだ。

 かといって、こんな大きな物を隠す場所もない。

 困り果てながら魔法少女のぬいぐるみを見ていたら、彼女の衣服が乱れ背中の肌が見えていることに気がついた。ぬいぐるみにされて倒れた時に破けたのか、あるいは家まで運んでいるときに引っ掛けたのか、原因は分からなかったが、その背中は裂けて中から綿が出ていた。

 ぬいぐるみ怪人も言っていたし触ったときの感触からも彼女がぬいぐるみにされてしまったことは理解していたが、こうして体の中から綿がでているのを目にすると本当ににぬいぐるみになってしまったんだなと実感する。

「そうだ! ぬいぐるみならば綿を抜いてしまえばぺちゃんこになるかもしれない。平たくなればおりたたんで隠すこともかんたんだ」

 魔法少女には可哀想だが、ほかに良い方法が思いつかなかった。

 洋司は魔法少女の服を脱がして裸にすることにした。小学生とはいえ女の子の服を脱がせるのはちょっと恥ずかしかったが、ぬいぐるみを隠すためには仕方ないんだと自分に言い聞かせながら作業を続けた。

 魔法少女を裸にしたあと、背中の切れ目から腕を入れて中にあった綿をすべての抜き取った。

 これで魔法少女を隠すことができるようになった。

 しかし今度は、大量の綿をどうするかという問題が出てきた。かつて魔法少女だったものをゴミの日に捨てるのも忍(しの)びない。

 どうしたものかと考えあぐねているうちに、手芸が趣味の夢緒のことを思い出した。

「よし、夢緒にやろう! あいつならば手芸が得意だから再利用できるはずだ」

 綿の問題を片付けた洋司は、おりたたむために平面になった魔法少女の抜け殻をつかみ上げた。背中には綿を抜き取る時に広がってしまった裂け目が見える。ためしに裂け目をひっぱると、すっかり薄っぺらくなった裸の魔法少女の体はとてもよく伸びた。

「……もしかしたらこの裂け目から、俺が足や手を入れることが出来るんじゃないか?」

 つい、そんなことを考えてしまう。

 アニメの魔法少女が大好きな洋司は幼少のころに遊園地で、着ぐるみショーというアニメのキャラクターのぬいぐるみを着た子供向けの演劇を見たことがあった。

 そしていま彼の手には、まるでアニメから抜け出したような魔法少女のぬいぐるみがある。しかも遊園地のショーでやっていたような子供が見てもぬいぐるみだとバレバレなものではなく、精巧でどこから見ても人間にしか見えないようなぬいぐるみだ。

 もちろん小学生の少女と高校生の男の自分ではあまりにも体格が違うことは洋司も理解していた。それに先ほどまで生きていた人間を着るということに抵抗もあった。しかし目の前には魔法少女のぬいぐるみがあるのだ。

 幼(おさな)いころ、男の子ながら自分もアニメに出てくるような魔法少女になりたいとテレビの前で憧れていた想いが時を超えてよみがえってくる。

 彼はぬいぐるみを着てみたいという好奇心の衝動を抑えきれなくなっていた。

 しばらくのあいだ手にしたぬいぐるみを見つめていた洋司だったが、やがてツバを飲み込んでから決意するようにつぶやいた。

「……ちょっとだけ着てみるか……!!」

 洋司は綿を抜いて平たくなったぬいぐるみをベッドに戻すと、すばやく服を脱ぎ裸になった。

 ふたたび裸の魔法少女のぬいぐるみをつかみ、背中の裂け目から足を差し入れる。

 ぬいぐるみの中は絹のような薄さとなめらかさをしておりスムーズに足が入ってゆく。しかもおもしろいくらいに柔軟でよく伸びる。

 これならば全身を入れても破けることはなさそうだな、と洋司は思った。

 やがて洋司は全身をぬいぐるみに入れてしまう。

 ちょっとした好奇心で着てみた洋司だったが、彼がぬいぐるみに全身を入れると不思議なことが起こった。

 洋司を包み込むようにぬいぐるみが縮み始めたのだ。

 洋司はぬいぐるみが自分の全身を圧迫し、体が縮んでいくのを感じていた。ところが不思議なことに、締めつけられるような苦しさはまったくなかった。むしろぬいぐるみが肌になじんでいくような、ここちよささえ感じられた。

 やがて収縮が終わる。

「……なにが起きたんだ?」

 洋司は自分の部屋に置いてある大きな鏡に全身を映した。

 そこにはぬいぐるみにされたはずの魔法少女が立っていた。

 洋司は魔法少女の姿になっていたのだ。

「こ、これはいったい?」

 おもわず発した声まで魔法少女のものになっている。

 おどろいた洋司は思わずぬいぐるみを脱ごうと背中に手を回したが、そこに裂け目の感触はなかった。なんども背中を触って確かめてみたが、裂け目は綺麗に消えている。

「ぬいぐるみが脱げない!?」

 あわてふためいた洋司は、なかばヤケになって背中の皮膚を両手でつかみ引き裂くようにひっぱる。すると背中に裂け目ができた感触ができた。驚いて手を放すと、ふたたび裂け目はふさがった感覚がある。

「なんだ……。簡単に脱ぐことができるのか」

 いつでも脱ぐことができることを知って、洋司はようやく安堵した。

 落ちついてくると今度は好奇心がわいてくる。

 小学生の子供とはいえ異性に変身したのだ。その体に興味が出るのは当然だった。

 洋司は鏡に映ったふたつの胸に視線を集中させる。

「小さいな……」

 膨らみかけた発育中の胸。

「俺としては、おっぱいは大きい方がいいんだけどな。

 たとえば麻績さんさんみたいな……」

 麻績というのは近所のアパートに住んでいる大学生の女性だった。スタイルが抜群で雑誌のグラビアアイドル以上だろうと洋司はつねづね思っている。

 しかし無い物ねだりをしてもしかたがない。小さくても胸は胸だ。目の前には本物の女の子の胸がある。女の子の胸を自分の思いのままに好きなようにできるのだ。

 考えを改めた洋司は両胸に両手を当てた。ゆっくりと揉んでみると快感の刺激が脳を襲った。

「う……うわっ!? なんだなんだ!?」

 つぎに乳首を触ってみる。

 さきほどよりもさらに強烈な快感が全身を駆け抜けていった。

 洋司はおもわず夢中で胸を揉み、乳首をさわり続けた。

「ん……んんんんん!!」

 あまりの快感に腰が砕けて、ひざ立ちになる。

 それでも胸を揉むことをやめられず快感に浸っていると、ついに頭の中が真っ白になるような絶頂が彼を襲った。

「あっ、あっ。ああーっ!!」

 ひざ立ちさえも堪えきれず、床に座り込んでしまう。正座に近いが、尻が床に着くような形で座った。

「女の胸ってこんなに感じるのか……。すごいな……」

 床に手をつき、ぼんやりと薄目を開けて、荒い息を整えながら、洋司はつぶやいた。

 しばらくしてようやく意識がはっきりとしてくる。

「ふぅ……。女の胸って気持ちいいな。くせになりそうだ。よし、もういっかい触ってみるか!!」

 そう思ってふたたび胸に手を当てようとした。


 その時である!

「ふーん……。なるほどね。地球人ってぬいぐるみにされた人を着ることで変身できるんだ」

 部屋の中に女の子の声が響いた。

 洋司は慌てて周囲を見回す。

 が、とうぜん人の姿はなかった。

「気のせいか……。ここは俺の部屋だ。俺以外だれもいるはずがないよな」

 安堵したのもつかの間、ふたたび女の子の声が聞こえた。

「ここ、ここ! 私はここよ!」

 洋司がおどろいて声のした方を見ると、机の上に置いておいた壊れたはずのスマートフォンの電源が勝手に入って、画面にぬいぐるみにされたはずの魔法少女の姿が映っていた。

「おどろいた? 地球にはまだこんな技術はないはずだものね。

 説明すると、ぬいぐるみ怪人に殺される直前に私の記憶をデータ化してあなたの電子記憶媒体に記録したの。容量が小さかったから、あなたの記憶媒体をちょっと改良させてもらったけれどね」

 洋司がとまどっていると、スマホの魔法少女は話を続けた。

「それにしても、ぬいぐるみにされた人を着ることでその人に変身できるなんて驚いたわ。それって地球人特有の能力なのかな。いままでにそんな例はなかったし。

 それと、あなたはどうして私に変身したの?」

「そ……それは」

 好奇心で魔法少女のぬいぐるみを着たのだなどとはとても言えなかった。

「もしかして、私に成り代わってあなたがこの星を守ろうとして私に変身したの?」

「! そ……その通り! まさにその通り!! 俺が君に代わってあいつを倒すために変身したんだ!」

「やっぱりそうだったんだ!」

 魔法少女はスマホの画面の中で嬉しそうにほほえむ。

 どうにかごまかせたことに洋司は安堵する。

「それにしても、本当に君たちは宇宙人なのか?」

「うん。私もぬいぐるみ怪人も遠い宇宙から来たの。この星の人には信じられないかも知れないけれど……」

「いや、信じる。ぬいぐるみ怪人やら魔法少女が出てきたり、怪光線で人間がぬいぐるみにされたり、そのぬいぐるみを着ると女の子に変身できたり、スマホに女の子が住み着いたりしたんだ。

 そのすべてを俺はこの目で確かに見てきた。これはもう信じるしかないだろう」

 洋司は自分に言い聞かせるように答えた。

「なっとくしてもらえたのなら話が早いわ。

 それじゃ、くわしく話すから聞いてね。

 これから私に代わってぬいぐるみ怪人を倒そうとするならは必要な知識だと思うから」

 魔法少女はそういうと自己紹介を始めた。

「まず私のことね。

 私はここより遙か遠い星で造られた有機的アンドロイド。

 有機的アンドロイドっていうのは、人工の細胞で作った人間そっくりなロボットのようなものね。

 私に与えられた任務はただひとつだけ。ぬいぐるみ怪人を無力化・行動不可能な状態にすること。ぬいぐるみ怪人を倒したら私の役割も終わる。

 次にぬいぐるみ怪人について。

 彼女も私と同じ有機的アンドロイド。造られた星は違うけれどね。

 彼女を生みだした星の文明はすでに亡びていて、でも彼女は任務に忠実に従い続けている。

 彼女の任務とは、星々をつぎつぎと渡ってその星の人間型住民(ヒューマノイド)をすべて排除していくこと。もちろんそんな非人道的な行いはゆるされるはずがないわ。だから彼女をとめるために私が造られた。そのために私ははるばる地球まで彼女を追いかけてきたの。

 最後に。一度ぬいぐるみにされた人間はもとには戻れない。だから体を失った私にはもう戦う力はない。だから後のことはあなたに託すわ。私の体を受け取って」

「君の体……」

 そういわれて洋司は、自分が少女の体で素っ裸でいたことを思い出した。

 下を向いて少女の裸を見て気まずくおもう。

「その……ごめん。……君の裸を見たりして……」

「ん?」

「そのうえ君の体で……、その……、む、胸を揉んだりとか……」

「ああ、そのこと? そんなの気にしなくていいのに。
 その体はあなたにあげたんだから、もうあなたの物。好きなようにその体を使って良いのよ。

 自分の体なんだから、裸を見るのも自由だし、胸でもどこでも好きなように触ってかまわないわ。

 なにより、その肉体は人工的に造られたものだもの。人間じゃない。地球人で言うところのロボットとか人形みたいなもの。だから気にしなくていいわ。

 むしろ私の方こそ、代わりに怪人と戦ってくれることに感謝しているの。

 ただぬいぐるみ怪人のことや私のことは他の人には教えないでね。宇宙協定で私たち宇宙人の存在を知らせてはいけないことになっているから」

「そのことならは心配しなくていい」

 だって宇宙人なんて言っても誰も信じないだろうし、俺が小学生の女の子に変身していることなんて恥ずかしくて誰にも言えるわけがない、と洋司は思った。







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