REPLICA(レプリカ)
 作・JuJu


第6話「失踪(しっそう)」

 茜が誠とドールのエッチな行為を茜が目撃してから、一ヶ月が過ぎた。
 茜はあの時から、誠と連絡を取っていない。誠と過ごすつもりだったクリスマスも正月も過ぎ、年が明けて大学の講義も始まっていた。
 茜は大学に来て講義を聞いていたが、内容は上の空だった。
(誠。どうして何も言ってこないの? ドールに夢中で、あたしの事は忘れちゃったの?)
 自分から誠に会いに行けばそれですむ事だ。
 だけど、そう考える度に「悪いのは誠なのに、なんであたしの方から謝んなきゃならないのよ」と思ってしまう。
 友達の葉子が声を掛けてきたため、茜は我に返った。
「茜! 茜ったら! 講義終わったよ」
 茜は教室を見渡した。学生は半分しか残っていなかった。残った学生も、昼食のために急いで教室を出ていく。
「たまにはここで食べよっか?
 茜、授業中ずっとボーっとしてたでしょ?」
 葉子は弁当箱を机の上に置いた。茜もつられて弁当箱を出した。
 クラスに残っているのは茜と葉子だけだ。
「やっぱり彼氏のこと?」
 どうして女は恋愛関係になると鋭いんだろう? 同性ながら不思議だ。
 まあ、あたし達が悩むことって言えば、たいてい恋愛関係なんだけど。
「うん。誠と一ヶ月話していないんだ」
 葉子が相手でも、おさななじみをドールに寝取られたなんて言えるわけがない。
「一ヶ月!? ケータイもメールもなし?
 あんたケンカにしたって、それって、長すぎない?」
 わかった! 茜の事だから、意地になって自分から話しかけられないんでしょ?」
「あたしは悪くないもの!」
「そこが茜らしいって言うの!
 一ヶ月も会ってないのよ? どっちが悪いなんてもう良いじゃない。時効よ時効。
 ……会いたいんでしょ?」
「それは……」
「意固地になっていると、本当に会えなくなっちゃうよ。
 ちょっとした事でケンカして、お互いの顔を合わせるのもなんか気まずくなって、そのまま時間だけがたって、気がついたら離れ離れになっていた。
 そう言う例だってあるのよ」
 葉子は立ち上がる。窓から外を見た。
 風はなく、窓からは暖かい日差しが射している。授業が終わったために暖房は止まっていたが、日溜りの室内は暖かい。
 外の冷たい空気も、ガラスにさえぎられてここには入って来ない。
 葉子は茜の方に振り向いた。
「今日、謝りに行きなさい。
 なんだったら、あたしが仲裁に入ってあげようか?」
「い、いいわよ! 仲直りくらい自分でできるから」
 茜は午後の講義もぼんやりと聞いていた。
 講義が終わってから、誠のアパートに向かった。
(メールでも出しておくか。この前みたいになのは嫌だしね。たしか、アパートの隣の人のパソコンに届くとか言ってたし)
 だが、メールはあて先不明で戻って来た。
(あれ? じゃあ携帯電話で……って、誠は携帯持ってないんだっけ?
 どうしてアイツはあんなに貧乏なの?
 ……ご飯食べるお金あるのかな?
 まさか、あたしの差し入れがなくなって餓死してたりしないでしょうね。
 とにかく、誠のアパートに行って見ますか。
 誠はああいう性格だから、あたしの方から行動しないと。
 まったく、世話のかかる男よね)

     *  *  *

 茜は誠のアパートに来た。
 ドアのノブを回す手が止まる。
 誠がドールとエッチな事をしていた記憶が頭を横切る。
(あの時、ドアを開けたら、誠があんな事をしていたんだ)
 茜はノブから手を離すと、ドアをノックした。
「誠?。いるんでしょ?」
 もう一度ドアをノックした。
 返事はない。
 いないのかな?
 茜はノブを回した。カギがかかってないので軽く回った。
「またカギをかけてない。無用心なんだから」
 茜はドアを開けて中をのぞいた。
 部屋には何もなかった。
「そんな!」
 茜は中に入った。
 誠が無理して買った、テレビとDVDデッキもなかった。
 流しを見る。歯ブラシも、ヤカンもなくなっている。
 ちゃぶ台もない。
 何もなくなっていた。
「引越しちゃったの?」
 あたしに何も言わずに?
 あたし達って、それだけの関係だったの?
 あたしはドールに負けたの?
 また、あたしを置いてどっかに行っちゃうの?
 そうだ! 隣の人なら何か知っているかも!!
 茜は久保田の部屋に行ったが、飽き部屋だった。
 アパートにある全部の部屋を回ったが、四部屋とも空部屋だった。
 誠はどこにいっちゃったの?
 そうだ! 引っ越しても、バイトは続けているかもしれない。
 茜は「大熊猫」に行った。

     *  *  *

 茜は誠がバイトしているギョーザ屋「大熊猫」に入った。
「おお、君は上原の!
 どうして上原はバイトに来ないんだ?」
 店長は言った。
「え? ここにもいないんですか? どこにいったんだろう?」
 茜は言った。
「ここにも?
 なんだお嬢ちゃんも知らないのか?
 上原の奴、ここ一ヶ月バイトを休んでいるんだ。連絡も来ないし。
 同じ予備校に行っているバイトの奴も、予備校に来なくなったって言ってるし、奴ぁいったいどうしちまったんだ?」
「店長! 夜の分の仕込みおわりました」
 厨房からバイトが言う。
「おう! 今行く。
 バイトに不満があったのかも知れないって心配していたんだ。
 謝るから来るように言ってくれないかな?
 またバイトしてほしいんだ。あいつがいないと、はかどらなくてな」
「わかりました」
 茜は大熊猫を後にした。
 歩きながら考える。
 誠が大熊猫をやめるなんて! ただで食事にありつけるって喜んでいたのに。
 いつもおなかを空かしていたのに、なぜ突然止めたの?
 それに、予備校に行ってないって、あたしと同じ大学に入りたいってウソだったの?
 茜は誠のアパートに帰ってきた。
 何もない部屋。
 唯一、この部屋には誠のにおいが残っていた。
『ちょっとした事でケンカして、お互いの顔を合わせるのもなんか気まずくなって、そのまま時間だけがたって、気がついたら離れ離れになっていた。そう言う例だってあるのよ』
 葉子の言葉を思い出していた。
 もう誠とは会えないの?
 背後からドアが開く音がした。
「誠!?」
 もしかしたら、誠が帰ってきたのかもしれない。
 茜は振り返った。
 玄関に立っていたのは、鈴香だった。





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