REPLICA(レプリカ)
 作・JuJu


第1話「ドール」

   最新鋭風俗!! ドール!!
   ドール専門店「楊貴妃{ようきひ}」潜入レポート!!
   従順! 可愛い! テクもバッチリ!!
   本紙記者の愚息も思わず天昇!!


「俺だって金があれば行きてぇよ!!」
 上原誠{うえはら・まこと}がアルバイトしている餃子専門店「大熊猫」の休憩室。
「どうした大声出して?」
 誠の隣にいた中年男は、スポーツ新聞から目を離した。缶コーヒーに手を伸ばす。
「店長!? な、なんでもないです!!」
 店長は誠の読んでいた雑誌を見る。
 店長が缶コーヒーと一緒にコンビニで買ってきたエロ雑誌だ。
「ははーん。その記事読んで、ドールに行きたいって思った訳か?
 やっぱ最新はいいぞー?
 すげー従順だしな。本物の姫なんかより、よっぽどいい。
 あんなのが出て来ちゃ、お水なネーチャンは失業だな。
 その雑誌やるからさ、上原も行って見ろよ?」
「はあ……。まあ気が向いたら行ってみます……。それじゃ、お疲れさまっス」
「はい、お疲れさん」
 ビルとビルの狭い隙間に挟まれた、従業員通用口のドアを閉める。
「ふー。エロ雑誌読むのに夢中になって、店長がいるのを忘れちまったぜ。
 でも、やっぱいいよなー。
 俺だって、ドールとやりてぇよ!!
 なんたって最新式の風俗だぜ!!
 従順で可愛くてテクもバッチリかー!!」
 誠はゴミ袋がちらばるビルの隙間を抜けて、表通りに出る。
「何がバッチリなの?」
「ゲッ! 茜{あかね}!! いたのか?」
「失礼ね。誠のバイトが終わる時間だから、待っててやったのに」
「わざわざ待ってるなよ。それとも俺の事が好きだとか?」
「なんであんたと恋人気取らなきゃならなければならないわけ?
 近くまで来て、ヒマだったから寄ってみただけよ」
「ふーん?」
 誠と茜は歩き出す。
 高いビルの窓が夕陽に照らされた雲を反射している。
 繁華街はクリスマスソングが流れていた。
 クリスマスかー。
 恋人同士で迎えるクリスマスってどんなんだろうな。
「ま、それもそうだよな。茜は頭もいいから志望校現役合格だし、俺なんかとは釣り合わねぇよな」
「何よ急に」
「俺なんか仕送りもないから毎日バイトの人生だぜ。そのバイトも、まかないがあるって言うから餃子屋を選んだんだし。
 こうバイト漬けじゃ、受験勉強もできねえよ」
「何が受験勉強よ。
 さっきお店から出てきた時、エッチなお店に行きたいって言ってたじゃない」
「ゲッ、聞いてた?」
「聞こえたに決まっているでしょ?」
「安心しろ。金がないから風俗にも行けないし」
「なんであんたの事を心配しなきゃなんないのよ」
「あーあ。お前がやらせてくれれば風俗に行かなくても……イテっ!」
「バカな事言ってるとぶつわよ? まったく男ってエッチなんだから……。
 ねえ、誠。
 そんなにドールのお店に行きたいの?
 あれって従順とかいうけど、結局ロボットみたいな物なんでしょ?
 アッチの方の技術はすごいだろうし、素直だろうけど。でも感情も心もないわけでしょ?
 男って、エッチ出来ればいいわけ?
 やだ! あたし何言っているんだろうね?
 じゃ、後でアパート差し入れもって行くからね」
 茜は走り出す。
 急に立ち止まって、振り返って、大きく手を振る。
 誠も胸の前で手を振り返すと、茜は微笑んでから会社帰りのサラリーマン達の中に消えていった。

               §

 アパート緑荘の3号室。
 俺は自分の部屋で、店長にもらったエロ雑誌をめくっていた。
「ドールって無表情なんだ。
 結局、ダッチワイフが動く様になっただけか。
 なんか、茜に言われて冷めちまったな」
 部屋の戸がノックされる。
「上原様。いらっしゃいますか?」
 聞いたことのない女性の声。茜がイタズラで声色を変えているんだろう。
 だいたい俺の部屋に来る女なんて茜か訪問販売くらいだ。
「そんな事より、飯めし」
 俺はエロ雑誌を押入にしまった。
 茜はよく俺に飯を持ってきてくれる。
 さっきも、俺を待ち伏せしていたり、あいつは小学生の頃から、なにかと俺にお節介を焼きたがるんだよな。
 まあそのために、今夜も飢えなくて済むんだけどさ。
「おう、イタズラなんてしてないで、さっさと入れよ」
 俺は戸を開ける。
 立っていたのはメイドだった。
 黒いワンピースに白いエプロンをしている。
 メイドは丁寧に会釈をした。
「上原誠様でいらっしゃいますね? 主人の久保田高志{くぼた・たかし}がお呼びです」
 メイドさんは微笑んだ。
 久保田って名字、隣に住んでいる奴のしか知らないぞ。
「どうぞこちらへ」
 俺はメイドさんの後に付いて歩いていった。
 案内されたのは、やっぱりアパートの隣の部屋だった。
 久保田は金持ちだから、メイド位おいても不思議はないが……。
 6畳一間のボロアパートにメイドとは。
 だいたいメイドを雇えるほどの金持ちなのに、あいつはなぜこんなアパートに住んでいるんだ。
 金持ちの考える事はわからん。
 久保田の部屋に入る。コード類が乱雑に這っている。
 それでも、メイドさんが掃除をしているのだろう。前に来た時はコンビニの弁当のゴミとか、スナック菓子の空き袋などが床に転がっていたのだから、片づいた方だ。
「高志様。上原様をお連れしました」
「ん。悪いな。もう少し待ってくれ」
 久保田はあいかわらず、パソコンに張り付いていた。小太りの体を載せたイスがきしんでいる。猫背でモニターに顔を近づけている。
「よし、終了!」
 久保田は振り返った。
「見せたい物って、メイドさんのことか?」
「いいだろ?」
「ああ。確かにメイドなんて初めて見たけど、久保田なら雇ってもおかしくないだろ? そんな事を自慢するために呼んだのか?」
「それだけじゃないんだな」
 メイドさんが俺に紅茶を入れてくれる。
 いつも雑誌やパソコンの部品が載っていたテーブルは片づけられていた。
「お前、前からドールとやりたいっていっていただろう?」
「バカ。いくらメイドさんだからって、女性の前でそんな話しをするな!」
「いいんだよ。だって……いや、実際にやった方が分かりやすいか? 鈴香、こいつにパンツをみせてやれ」
 鈴香と呼ばれたメイドは、わずかに驚いた様に体を振るわせると、顔を赤らめて「はい」と小声で頷いた。
 ティーポットをテーブルに置くと、鈴香は俺の前に来た。
 スカートの裾に両手を持っていって行く。
 鈴香はスカートからはみ出たペチコートをつかむとまくり上げた。
 両手は微かに震えて、赤い顔をわずかに伏せながら。
 スカートが上がる度に、白いストッキングに包まれた足があらわになる。
 ストッキングは太ももの所で終わっており、ガーターベルトに続いていた。
 鈴香はヘソが見えるほどスカートをまくりあげた。
「わわわ! もういいよ!!」
「いいえ、ご主人様のご命令ですから」
「久保田! いくらメイドでも、こんな事したら可哀想だろう?」
「可哀想? そんな訳ないだろう。こいつはドールなんだぞ?」
「ドールって言ったら、感情もない、ただのセックスをするだけの人形だろ! この人がドールなわけないだろう!!
 いや、俺も本物のドールは、見たことはないけどさ」
「だから、これがそのドールだって」
「はい。私はドールです。何なりとご命令下さい」
「わかっただろ? 何をしたっていいんだよ、ドールなんだからさ。ついでにパンツも脱がすか?」
「かしこまりました」
 鈴香は頷く。彼女はスカートが落ちないように、裾を口でくわえた。
 鈴香の両手が、白いパンツに伸びる。
「わ、わかった! わかったから!」
「そうか? まあいいや。鈴香、もういいぞ」
「はい」
 スカートを下ろして、スカートとエプロンのしわを伸ばす鈴香。
「驚いた。あれがドールなのか?
 雑誌にはロボットのように感情がないって書いてあったけど、あれじゃ本物の女の子じゃないか」
「当たり前だろう。ドールは本物の女の子のクローンなんだから。
 ただし、風俗て使っているのは、エッチするだけの安物だけどな」
「安物って、あれって本体だけで一千万はするんだろ? その上メンテナンス機器やら維持費とか……」
「安物じゃないか」
「おいっ! フリーのエンジニアってそんなに儲かるのか?」
「実力次第だよ。
 鈴香みたいなドールはレプリカ・シリーズって言って、人間の感情まで脳にプログラミングされているんだ」
「本当に人間じゃないんだな?」
「感情のあるフリをしているだけだから、安心していいぞ」
「そうか。フリをしているだけか」
「な? いいだろ?
 そこでだ、お前にもやらせてやろうと思ってな」
「鈴香さんとか?」
「ただし、入れるのはダメだぞ。お前が入れた物なんか使いたくないからな。
 フェラくらいならやらせてやる。
 安っぽいドールなんかより、レプリカの方がずっといいだろ?」
「おっ……おう!」





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