ぼくだけの☆亜里紗LIVE(アリサライブ)!
 作・JuJu


【STAGE1 新人アイドル亜里紗】

「お名前は?」

「はい……! たっ、達也(たつや)と申しますっ!!」

「達也さん、応援ありがとう」

 彼女はぼくの目を見ながら微笑(ほほえ)む。

 ぼくの名前を呼んでくれた!

 その喜びが全身を駆けめぐり、彼女の輝く笑顔がぼくの心を射抜く。

 目の前にいるのは彗星のごとく現(あらわ)れた新人アイドル亜里紗(アリサ)。季節は春。桜の舞う、うららかな陽気にぴったりなアイドルだった。

    ♪  ♪  ♪

 ぼくが亜里紗のことを知ったのは、一週間前のこと。アイドルファンとしては駆け出しだ。それどころか今までアイドルなどまったく興味がなかった。

 そんなぼくが偶然インターネットで流れているプロモーションビデオを見て、一目で彼女のファンになった。それはまさにぼくが理想としていた女性を見つけた瞬間だった。

 ビデオを見た後、さっそくインターネットで亜里紗のことを調べてみた。アイドルオタクたちの書き込みを見つける。端整な顔立ち、みごとなプロポーション、染みひとつない肌、サラサラの髪など、あまりにも人間離れした完璧な容姿。そのため亜里紗は、実はどこかの研究所が作った最新のアンドロイドではないのか? だとか、あるいは精巧なコンピューターグラフィックではないのか? などと考察をしていた。

 考察は結局、現実的に考えれば人間と見間違うような高性能なアンドロイドなど存在するはずもないし、コンピューターグラフィックならば握手会などできるわけがない。亜里紗は実在する人間だ、という結論にいたっていた。

「ふーん。握手会があるのか……」

 この話題で、ぼくは亜里紗の握手会があることを知った。

    ♪  ♪  ♪

 数日後。ぼくは電車を乗り継ぎ、亜里紗の握手会に来ていた。

 アイドルに興味がなかったぼくは、この手のイベントに来たことがない。初めての握手会に緊張しながら行列に並び、ついにぼくの番になった。

 本物の亜里紗を目の前で見ると、ますますその美しさに感動した。この世にこんな可愛い女の子がいたとは。まさにアイドルになるために神が作ったのではないかと思わずにはいられない。大きくて形のいい胸とお尻。しかも腰は驚くほど細い。さらに透き通って可愛らしい声。艶やかな長い髪。なにもかもが完璧としか言いようがない。底辺の弱小プロダクションに所属しているために、知名度があまりに低いことが本当に悔(く)やまれる。

 目の前にいる亜里紗の美しさに気を失いそうになっていたぼくは、テーブルの上に彼女の手が差し出されていることに気が付いた。

「お名前は?」

「はい……! たっ、達也と申しますっ!!」

「達也さん、応援ありがとう」

「大ファンです」

 ぼくはあわてて差し出された亜里紗の右手を両手で握りしめる。白い肌は染みもなく、それこそ毛穴さえ存在しないのではないかと思われるほどスベスベしている。ぼくの手は感激と緊張で汗でびっしょりになっていた。それでも嫌な顔ひとつ見せず、それどころかぼくに合わせて左手も添えてぼくの手を握ってくれた。やっぱり天使だ。

 小さくて暖かくて柔らかい手。いつまでも握っていたかったけれど、亜里紗の隣に立つ女性に時間だと冷たく言い放たれた。

 インターネットから得た知識によると、隣に立つ彼女は亜里紗のマネージャー兼プロデューサーだったはずだ。名前は綾子(あやこ)。推定年齢二十代後半。もともと亜里紗の所属する雀翔(じゃくしょう)プロダクションのアイドルだったが、まったく鳴かず飛ばずで年齢を重ねてしまい、そのままマネージャー兼プロデューサーとしてプロダクションに残ったらしい。それはともかく、元アイドルと言うだけあって、こちらもなかなかな顔もスタイルもいい。

 で、その彼女に言われてしかたなく、名残惜しいが手を離した。

「明日のライブも、ぜったいに見に行きます!」

 明日彼女のライブ・コンサートがあることは把握している。ファンとして当然のことだ。

「ありがとう」

 ぼくだけに向けられた笑顔を堪能する。

「はいはい、次の人」

 マネージャーがぼくをせき立てる。

 心の中で、握手会に集まった男の中でぼくが一番亜里紗のことを好きなんだ、という自負を持ちつつ後にした。

 ぼくはフリーターだった。フリーターのうえ、運がいいのか悪いのか、ちょうど前のバイトの契約期間が終わったところだ。今はバイトは入ってないので、明日のライブについやす時間はたっぷりある。そのうえバイト代も出たばかりなので資金の方もバッチリだ。

    ♪  ♪  ♪

 握手会の帰り道。

 東京郊外の某県にある握手会場の周辺は開発途中らしく、出来たばかりの広い舗装道路にそって更地(さらち)と建設途中の建物がまばらに並んでいた。更地の向こうは遠くに伐採しかけの林が見える。今日は休日なので建設業も休みらしく、重機や建設機械の騒音もなく、道路も資材を載せた大型トラックも走っておらず、とても静かだった。通行人も握手会の帰りの人がまばらにいるだけだ。

 そんな道路をぼくは男の本能と戦いながら歩いていた。

 亜里紗が握ってくれたこの手でオ○ニーをしたい……などと、ついつい考えてしまう。

 そんな自分に気がつくたびに自分を戒(いまし)めた。亜里紗はそんなことのために手を握ってくれたわけではない。あんな純情そうな彼女を汚(けが)すようなまねはしてしはいけない。そんなのはファンとして失格だ。

 歩きながら、そんな葛藤と戦っていた。

 それでも好きな女の子とエッチなことがしたいというのは男の本能である。本能ばかりはどんなに自分を責め立てても抑えようがなく、オ○ニーをしたいという気持ちは高まるいっぽうだった。









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