悪魔の休日

 作:Howling



「ふんふんふふ〜ん♪」


一人の女が鼻歌を歌いながら歩いている。
足取りも軽く誰の目から見ても上機嫌だ。
芝原友梨香。25歳のOLだ。


『地獄の連勤もやっと終わったわ!!明日は・・・・・待ちに待った彼とのデート!!!
 気合い入れるわよぉ!!!』

今、彼女の心は、仕事という名の苦行を乗り越え、大空を羽ばたく鳥のように晴れ晴れとしていた。
そんな状態のまま、彼女は自宅に戻ってきた。3階建てのワンルームマンションで一人暮らしだ。
ゆくゆくは、今付き合っている彼氏との同棲を考えている。


鍵を開け、玄関の鍵を閉めた。




「おかえりなさ〜い♪」



「えっ!?」


誰もいないはずの自宅から、艶っぽい女の声がした。
何故!?
泥棒?いや、泥棒とかなら声を掛けてきたりしない。
警察を呼ぼうか?
ただ声からして、女であることは間違いない。
となればすぐ襲われるようなことはない。
そう考えた友梨香は、恐る恐るリビングへ入っていく。

「な”っ!?」

友梨香は中にいた存在に目を疑った。

紫の肌に先のとがった尻尾。
頭には角があり、人間とは思えない月のような黄色の瞳。豊満な胸。
扇情的なボンデージスーツに身を包んでいるその人物は、明らかに人間ではなかったのだ。
むしろ、『悪魔』と呼ぶにふさわしい姿をしていた。

「うふふ、はじめまして、芝原友梨香さん」


悪魔は、余裕たっぷりに友梨香に挨拶をした。

「ちょ、ちょっと!?貴女誰!?」

友梨香は悪魔に強い口調で問いかける。
自宅に勝手に入られているのだ。当然である。

「うっふっふ〜ん。私の名前はメリッサ。この世界で言うところの"悪魔"ってところかしらね?」

メリッサと名乗ったその悪魔は悠然と自己紹介をした。
依然として余裕な態度を崩さない。

「ど、どうしてその悪魔が家に勝手に入ってきてるの? というか、どうして私の名前を知ってるの!?」

「うふふ〜ん、別にどうだっていいじゃな〜い。
 人間の名前なんて、一目見ればすぐに分かるわ。」

メリッサは、ギラリとした瞳を友梨香に向けながら言った。
友梨香はぞっとした。この悪魔が言っていることが嘘には思えなかったのだ。

「ちょっと、何でもいいから出てってよ!」

「あん、つれないわね。カリカリしている女性はモテないわよ。」

「余計なお世話よ!私には彼氏が・・・」

「あらあらあら〜、それは結構なことだわぁ。」

「な!? 何言わせてるのよ・・・・・」

友梨香はここで、完全に我に返った。完全にこの悪魔のペースに乗せられている。
落ち着かないと・・・・・

「で、何でわざわざ私の家にいるの・・・・?」

「ふっふっふ〜ん、知りたいぃ?」

メリッサは半ば挑発するかのように友梨香に問い直す。

「茶化さないで。」
「それはね〜・・・・単純に、休暇よ。」
友梨香は、メリッサの言うことが理解できなかった。
「休暇ぁ?」
「そう、悪魔も忙しいのよねぇ。元の世界で色々やること多くて。
 だからせっかくの休みくらい思い切り羽を伸ばしたいじゃない。」

メリッサは、背中の羽を大きく広げて伸びをしながら言った。
「それで、人間の世界に行ってみようと思ってね。
 で、たまたま貴女に白羽の矢が立ったのよ。」

「た、たまたまって・・・そんなの説明に・・・ひっ!?」

いきなりメリッサが友梨香の間近に迫った。
その月のような瞳は、友梨香をひたすら観察しているようだった。


「ふふふ・・・・いい躰してる。やっぱり、貴女にして正解だったようね。」

「な、何を・・・・」

戸惑う友梨香に構うことなく、メリッサは指を鳴らして言った。

「服を脱ぎなさい」


「え?な、なに!?」


友梨香は、突然のできことに驚く。

自分の意思に関係なく身体が動き出したのだ。

ジャケットを脱ぎ、ボタンを外し始めた。

「か、からだが・・・・いうこときかない・・・・」

メリッサはにやにやと笑みを浮かべてこっちを見ている。その様子に恐怖を覚え始める友梨香。

ようやく本当の意味で理解したのだ。この女は本物の悪魔だと。

「な、何をするの・・・・?」

無意識のうちに声が震えていた。

「ん? 私が有意義に休日を過ごすために協力してもらうわ。」

「そ、そんな・・・い、いやっ!」

友梨香の気持ちとは裏腹に、友梨香の身体は下着をすべて脱ぎ終え、一糸まとわぬ姿をさらしていたのだ。

隠そうにも、身体を自由に動かせないからどうすることもできない。

「ふっふっふ〜ん、さぁ〜て・・・・」

メリッサは、金属製の紐のような物を取り出した。

それは、一見してファスナーのようだった。

「さ、後ろを向きなさい。」

メリッサが言うと、友梨香の身体は彼女の意思に関係なく従う。

無防備な背中に、そのファスナーを宛がうメリッサ。

すると、そのファスナーは溶け合うように友梨香の背中と一体化した。


「ひっ!?な、何をしたの・・・・?」

「貴女を"皮"にしたの。」

「か、皮!?」

「そ、私が貴女を着るの。。
 貴女になって休日を愉しむことにするわ。」

「い、いやよそんなの!?」

「ふふっ、貴女の許可なんて求めてないわ。
 私が決めることだもの。」

「な、なんで・・・・?」


「私、結構高位な悪魔なの。普通の状態でも魔力が垂れ流しになってるから、すぐ他の悪魔が気づいちゃうのよねぇ。
 だからそれを隠すために、貴女を"皮"にして着ることにしたのよ。
 光栄に思いなさい。貴女、人間でありながらこの私に着てもらえるのだから・・・・」


「そ、そんな・・・・・」

「さて、お話は終わり。早速着るわね〜。」

メリッサはファスナーを下ろした。

じじじじ・・・・・と音を立ててファスナーが開く。

「ああっ・・・・な・・・に・・・・」

友梨香は、自分の背中に奇妙な、ぽっかりと穴の開いたような不思議な感覚を覚えた。

「じゃ、失礼するわねぇ〜。」

メリッサは、ファスナーの切れ目から、すらっとした美脚を入れた。
抵抗なくするすると入っていく。

「ああああ・・・・・やめ・・・てぇ・・・・・」

友梨香は、恐怖からか、弱々しい声で言う。
しかし、身体を自由に動かせないので、メリッサにされるがままである。

メリッサが着込んだ脚は、サイズが若干違うのか、ところどころに不自然な皺ができていた。

「うふふふ〜・・・・お次は上半身ね。」

メリッサは、今度は自らの腕を友梨香の腕に入れる。
尻尾と羽を器用に折りたたんで友梨香の中にしまい込む。

こうして、メリッサの身体は、首から下は友梨香の中に入ったのだった。


「それじゃ、貴女とはしばらくお別れね。ううん、これから一心同体になるから
 末永くよろしくね、ってところかしら。」

「や、やめ・・て・・・・お願い・・・・」

友梨香は今にも泣きそうな顔でメリッサに懇願する。

「だ〜め☆それに、私に着られたら、たぶん病みつきになるわよ。それじゃ」

メリッサは、自分の頭を友梨香の皮の中にしまい込んだ。

角があるはずだったが、皮の中で溶けていったのか、友梨香の頭部がとがるようなことはなかった。

「ああっ・・・・あっ・・・あっ・・・あがが・・・・・・・」


友梨香は、目を見開き、声にならない悲鳴を上げた。
そして、おびえきっていた表情が無表情になり、時折身体をぷるぷると震わせた・・・・・・



震えが止まると、友梨香は正面を向き、右手を後ろにやってファスナーを閉めた。

その瞬間、サイズの合っていなかった身体がみし・・・みし・・・と音を立てながらきしみ、
やがて元通りの友梨香の身体になった。
ぴんと張った太もも、メリッサほどではないにしろ、そこそこ豊満な胸。
完全な友梨香がそこにいた。

友梨香が背中を一度撫でると、ファスナーは雲散霧消した。

そして姿見の前に立った瞬間、友梨香は、普段するはずのないような邪悪で、それでいて色っぽい笑みを浮かべた。

それは、あのメリッサのする笑みそのものだった。

「うふふふ・・・・・上手くいったわ。これからよろしくね、芝原友梨香さん。」

メリッサは鏡に向かって言う。すると今度は、物欲しそうな表情になって体中をまさぐり始めた。


「ええメリッサ様。私、貴女様に"皮"にされて着てていただいて心底幸せです。
 あぁ・・・・気持ちいい・・・・・
 メリッサ様の魔力、病みつきになってしまいますぅ。
 いつまでも一心同体に、私の躰を自由になさってください♪」

メリッサは友梨香になりきって彼女の口調で独り言を言った。
彼女が言いそうにないことを口にすることで、メリッサは若干興奮していた。
しかし鏡に映るのは、幸せそうな友梨香の姿だけである。

「ふふふ〜。人間の躰ってなかなかいいものねぇ。貴女の脚も、ぴちぴちして張りがあって
 いいわよぉ友梨香。
 しばらく、貴女になりきって生活するわねぇ・・・・」

そう言って今度は、下唇辺りに指を引っかけ、下に伸ばした。
すると、友梨香の皮は驚くほど伸び、その下に隠れたメリッサの青い地肌が少し露わになる。
それに合わせて、目元の皮も下に伸び、片方の目がメリッサ本来の目の色に変化していた。
皮を引っ張っていた指を離すと、皮は元の位置に戻り、目の色も、友梨香の目のそれと同じになった。

「ふふふ、さすがね。この皮はよく伸びるわぁ・・・・・」

友梨香、いやメリッサは率直な感想を漏らした。

そして、何を思ったのか、メリッサはこめかみあたりに右手の人差し指を当てた。

皮を着ることで、メリッサには、友梨香の記憶や癖が浸透していく。
メリッサは友梨香の記憶を読み取っていたのだ。
これで、メリッサは周囲に疑われることなく"芝原友梨香"としての生活が可能になるのだった。

(芝原友梨香、25歳。人間世界でのOL。彼氏の名前は宮森幸太。
明日は彼とのデート・・・・・ふふふ・・・・・)


友梨香の記憶を読み取ったメリッサは、笑みを浮かべた。

「ふふふ、明日は楽しみにしていたデートね。
 人間の男とのデート、たっぷり愉しませてもらうわね、ゆ・り・か。」

メリッサは、友梨香の顔で色っぽく微笑みながら言った。

そして、明日に控えた、人間の男とのデートに思いを馳せるのだった・・・・・・







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