正月の秘め事

 作:Howling


「ご覧下さい!!年始早々、初詣の人だかりがこんなにっ!!」

テレビで、新年初詣のニュースが流れている。
大学生の小山宏輝は、自宅でそれをぼーっと観ていた。

年末年始、特にサークル活動の類もしていなかった宏輝には
特別な行事はなかった。
なので、こうして一人自宅でテレビを観ているのだ。

「うわぁ・・・・めんどくさい・・・・・」

宏輝は、人だかりが好きじゃなかった。

時間がかかる。人に酔いそう。理由は様々だが、とにかく人が多い環境になじめなかった。
人付き合いも希薄。
とはいえ、せっかくの新年。
初詣にいかないというのも気が引けていた。

「・・・・・近所の神社にでも行くか・・・・・」

さっさと済ませてしまおう。
宏輝は、普段着に着替えて、自宅を出た。





「ふぅ・・・・・」


宏輝は、自宅から10分程度歩いた先にある、神社の鳥居前にいた。

玉川神社。

近所の小さめな神社で、普段から人はほとんどいない。

それも、街中や、ニュースに出てくるレベルの大きな神社仏閣に人が流れているからだ。

本殿までの石段も、ひっそりとしている。

そんな雰囲気を好んでいた宏輝は、時折足を運んでいた。



「これなら、早く終わるかな。」


宏輝は、淡々と石段を登った。

しかし、

「あ、あれ・・・・・」

宏輝は、石段を登るのにひとつ違和感を覚えた。
夜更けのせいか、周囲が濃い霧に覆われているのだ。

「こんなに霧深くなるか・・・・?」

それでも、幸い足下は見えていた。
早く石段を登ってしまおう。そう割り切った宏輝は、足早に石段を駆け上がった。


「ふぅ・・・・・」


ようやく、石段を登り終えた。
登り終えても、霧は周囲を覆っていたが、先ほどまでの深さではなかった。


いよいよ参拝できる。

でもその前に手灼で禊ぎを済ませる。こうしたことに関しては、宏輝は律儀だ。


本殿に向かい、参拝する。
当然、作法は二礼、二拍、一礼だ。


何かいいことがありますように・・・・・・

とくにこれといった願いもなかった宏輝は単純にそんなことを念じていた。


用事は済んだ。あとはおみくじでも・・・・

と思ったところで、宏輝の足が止まった。

「え?」

その原因は、本殿にいる人達であった。
どれも皆、女性、それも美人揃いだったのだ。
神主さんと思われる出で立ちの人までもが女性だったが、その人がひときわ群を抜いていた。
歳は20代後半だろうか、しかし、風格から醸し出される雰囲気は、それ以上に大人びて見えた。

その神主が、宏輝の方を向いた。
そして、笑みを浮かべて・・・・・・・・・・・

神主の所作に、宏輝は完全に見とれていた。

「どうかなさいましたか?」

不意に声をかけられた。おみくじ売場の近くに立っていた巫女姿の女性からだった。

「え、いや・・・・その・・・・」

突然に声を掛けられ、返答が思いつかずしどろもどろになる。

「ふふっ、大丈夫ですよ。お気になさらないで。」

巫女姿の女性はにこりと微笑む。
 
「実は・・・・神主様が貴方に用があるとのことです。
 お代はいりませんので、よろしければ一緒に来ていただけますか?」

「え・・・・?」

急な誘いに、宏輝は、正直何が何だかさっぱりだった。

神主が自分にわざわざ用がある、というのはどうゆうことだろうか?

しかし、お金は取らないということで、断る理由が見つからなかった。

「じゃ、じゃあ・・・・・・」

宏輝は承諾した。

「それはよかったです。では、私が奥の部屋にご案内しますね。どうぞ。」

「え?おみくじ売り場はいいんですか?」

「はい、いいんですよ。さぁ・・・・・」

巫女姿の女性に言われるまま、宏輝は彼女についていった・・・・・・




「では、こちらでお待ち下さい。」

巫女姿の女性は、宏輝を案内した後、すぐ去っていった。
一人、案内された部屋へ取り残される宏輝。

「これはまた・・・・・すごいな・・・・」

宏輝が通されたのは、神社の奥、外から一切見られることのないだろう一室だった。
それでも、その室内は宏輝の住むワンルームのアパートから考えればかなりの広さを持つ部屋だった。

明りは四隅にあるろうそくのみで、若干薄暗い。
しかし、それが逆に神社故の神聖さを醸し出していた。

「何がはじまるんだろう・・・・・」

誰に聞かれるでもなく、ぼそりとつぶやく宏輝。

その直後、奥のふすまが開いた。

そこから現れたのは、あの神主の女性だった。

両手に、お盆のような物を持っている。
乗っている物が何なのかは、布に隠され、よくわからない。

「お待たせしました。」

優美な所作で、神主の女性が近づいてくる。

「私はここの神主をしています、雨宮 結女と申します。」

結女と名乗った神主は、正座して、深々と一礼した。

「あ・・・これはどうも・・・・」

思わず、宏輝も一礼した。

「突然お呼び立てして申し訳ありません。」

「いえいえ・・・そんな・・・・・でも、どうして僕を・・・・?」

宏輝は、疑問に思っていたことを直接尋ねた。


「はい・・・・参拝に来られた貴方様を一目見て、必要と思ったからです・・・」

そう言って、結女は宏輝に顔を近づけた。

「え!?ちょ・・・・」

びっくりする宏輝の頬に両手を優しく添える結女。
その瞳は、ただじっと宏輝を見つめていた。

「憂いに満ちた目。貴方の心は鎖で何重にもつながれているよう・・・・・」

何を分けの分からないことを・・・・と宏輝は憤りかけたが、その憤りもすぐに溶けてしまった。

それも、この結女が自分を見つめる表情が、単なる哀れみや蔑みといったそれとは無縁の、
ただただ心配している人の目だというのが伝わってきたからだ。

「私はそんな貴方の心を救いたい。だからここに招いたのです。」

そう言って、結女は、先ほど運んできた布に覆われた物を宏輝に差し出した。

「さ、これをどうぞ。」



「こ、これは・・・・・?」

今の宏輝には、この結女に対する警戒心は薄れていた。
言われるがまま、布を取り、中身を見た。

「え・・・・?」

布の下に隠されていたのは、肌色の物体だった。

それだけじゃない。長い黒髪、ウィッグだろうか?それも一緒になっている。

手袋のようだと思っていたが、指先にはピンクの爪のようなものもついている。

広げてみると、その物体は人の形をしていたのだ。

「こ・・・これって・・・・・?」

宏輝は、結女の方を見つめた。

「これは、貴方の心を解放するためのもの・・・・・
 女性の・・・・・私の皮・・・・・」


「か、皮?」

戸惑う宏輝。そんな彼を、結女はずいっと間近で見つめた。

「さあ 纏いなさい」

ゆっくりとした口調で語る結女。その瞳が、黄色に光ったように見えた。

その瞬間、宏輝の心には、抗いがたい感情が芽生えた。
彼女に従えばいい。ただ、その感情が宏輝の心を埋め尽くす。

「・・・・・はい・・・・」

宏輝はただそうつぶやいた。

「服を脱いでから纏うのよ。何も恥ずかしがることはないわ。」

結女の一言に忠実に従う宏輝。
何のよどみもなく、服を脱いでいく。
服を畳んで端に寄せる。

「私も・・・・・」

そのうち結女もまた、神主の装束を解き、一糸まとわぬ姿となった。

虚ろな目つきのまま、皮を纏っていく宏輝。

背中、お尻の上辺りまで入った切れ目から脚を通していく。
脚から、その皮を纏っていく。

地肌への吸い付きがよく、するすると着ることができた。

腰まで着終えたところで、宏輝の体に変化が起き始めた。

もこ・・・・もこ・・・・と肉体がうごめき、宏輝の脚は、華奢で柔らかい曲線を描く女性の、結女のそれと変わったのだ。

「はぁぁ・・・・・」

その変化が心地いいのか、宏輝は思わずため息をついた。

さらに腕に手を通していく。しわを丁寧に伸ばすと、首から下が皮に包まれた。

もこ・・・・もこ・・・・・・

再びあの感触が宏輝を満たしていく。

ウエストがくびれ、胸が風船の如く膨らみ、女性のそれへと変化させていく。

気づけば、背丈も結女と同じになっていた。


とうとう、頭の部分にさしかかった。

首の後ろにある裂け目から頭を突っ込む。

目の位置を調節すると、変化はすぐに起きた。

もこ・・・・・もこぉ・・・・・

皮が吸い付き、自らの皮膚と区別が付かなくなっていった。

視界が回復すると、目の前で結女が微笑んでいた。

「ようこそ。新しい世界へ・・・・・」

「新しいせかい・・・・って、声・・・・?」

宏輝は自分の声が高い女の、結女の声になっていることに戸惑う。

そんな宏輝をよそに結女は円形の姿見を宏輝の前に持ってくる。

「ご覧なさい。これが今の貴女よ。」

「え・・・・?」

姿見には、同じ姿をした二人の女が映っている。

一方は自分の体を戸惑いながら手で触り、もう一方は微笑みを絶やさずにいる。

体の感触を確かめている内に、宏輝は内面の変化を感じていた。

自分が小山宏輝であるという自覚が、記憶が、時間と共にどんどん薄れていく。

その代わりに、見覚えのない光景が自分の記憶として刻み込まれていく。

それが、結女の記憶だろうということはすぐに理解できた。

宏輝は、自分が肉体的にも精神的にも、結女に変化していくことを悟った。

宏輝は、自分自身という殻から解放されていくのを感じていた。

自分自身という意識が溶け消え、"結女"という新しい自我に包まれていく。

それは、宏輝にとって抗いがたい快感となっていく。

周囲になじめず、孤独を抱えていた宏輝。
そうしたコンプレックスを、この結女は瞬時に見抜いていた。

彼女に従えばいい。彼女の言うことなら・・・・・・




「ふふふ・・・・・気分はどう?"私"」

結女が、宏輝に問いかける。

宏輝、いや結女となった彼は、結女の方を見て微笑む。

「すがすがしい気分だわ。"私"」

口調も、結女のそれへと変化した宏輝。いや、宏輝としての自我はもはやそこにはなかった。
もう一人の『結女』がそこにいた。

「そう。それじゃ、行きましょう。」

結女は、宏輝が変化したもう一人の自分を抱きしめ、唇を合わせた。


んくっ、んむっ、んぷぅ、むぅん、はぁんっ・・・・・

互いを貪り、求め合うように唇を、舌を這わせ合う二人の結女。
二人とも、頬が紅潮していく。
それに合わせて、腰をガクガクと震わせる。
互いの股間から、愛液が流れ、太ももへと流れていく・・・・

「「ぷはぁっ!」」

二人は唇を離した。

互いを見つめ合いながら、荒い呼吸をする。

ほんの一度の接吻だけで、二人の体じゅうに汗が滲む。
そして立ちこめる二人の女性のフェロモン。

それがまた互いを興奮させていた。

結女が『結女』の頬に手を添える。


「いいのよ。このまま快感に溺れて。私が解放してあげるわ。何もかもから・・・・
 貴女は『私』になって、何もかも忘れてしまえばいいのよ・・・・」

そう言って、再度濃厚なキスが始まった。

それだけでなく、互いの股間に手を伸ばし合う。



「「んぐぅっ!?」」


キスしたまま、くぐもった快感の悲鳴を上げる二人。

唇を離し、互いのお尻をもみ合う。

「・・・・・お尻・・・・・柔らかい・・・・・」

「そう?でもこのお尻は貴女のお尻でもあるのよ。」

「うん・・・でも・・・・・気持ちいい・・・・」

『結女』は、自分と同じ結女のお尻を夢中になって揉んでいた。

「そんなにいいの?それなら・・・・・」


結女は『結女』を床に仰向けに寝させると、その顔面に向かって腰を下ろした。

「私のお尻をとくと味わいなさいな・・・・」

『結女』の顔に、結女のお尻が隙間なく吸い付いていく。

「んむっ、むむぅ・・・むぷぅ・・・・」

結女のお尻に圧迫されながら快楽の呻き声を上げる『結女』。
そんな中で『結女』も、両手で結女の脚を、お尻を撫で回し、揉む。

「ああっ・・・・貴女の撫で回し方・・・・気持ちいい・・・・」

結女もまた、その手つきにうっとりとする。


「はぁ・・・・・・・・もっと気持ち良くしてあげる・・・・」

結女はそう言うと、お尻を『結女』の顔から離し、『結女』の股間に顔を近づけた。

「ああああっっっっっ!?」

『結女』は悲鳴を上げた。

股間をちゅーちゅーと吸われるたびに快楽の度合いが増していく。

「あっ!?ふぁっ!?ひゃあっ!?い、いいよぉ・・・・・・・・」

悲鳴を上げる『結女』。その度に、『結女』の股間からは愛液がどばどばと流れ落ちていく。

結女は、その様子を見て嬉しそうに目を細めた。

「も、もっと・・・・もっとぉ・・・・!」

『結女』は、両手を結女の頭に宛がい、自らの股間に強く押しつけさせた。

「んぷぅっ!?」

ぐい、ぐいと押しつける。快感をさらに貪るように強く・・・

それに応えるように、結女もいっそう激しく舌を突き入れる。

「ああっ!!!あんんっ!!あん!ああああああっっっっ!?」

部屋中に響くほどの悲鳴を『結女』は上げながら、果てた。





「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・・はあぁぁっ・・・・・」

深呼吸をする『結女』。惚けた表情。焦点の定まってない目。

そんな彼女に結女は覆い被さった。

「いい表情ね。いいのよ。もっと、気持ち良くなりましょう・・・・・」


結女は、『結女』の体中に滲んだ汗の珠を舐め回す。


そのまま、結女は『結女』の股間に太ももを這わせた。

「二人で一緒に・・・・イキましょう。」

「・・・・ええ・・・・・」


そして、股間同士を、擦り合せ始めた。

「「ああっ!?あっ!あっ!!!あああっっ!!!」

二人分の悲鳴が反響する。
互いの吐息が、汗が、声が、快感を煽る。

同じ躰同士。溶け合っていくような感覚さえ覚えていた。
このまま・・・・・二人でひとつに・・・・・

二人の結女は、同時に絶頂を迎えた。

「「あああああ〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!」」



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それから、どれだけの時間が経ったろうか。

『結女』は、結女に抱きかかえられながら、まどろんでいた。

「うふふ・・・・・もう、大丈夫よ。このまま、眠りなさい。
 貴女に、いいことがありますように・・・・・・・」

結女は、『結女』となった宏輝に伝えるように、つぶやいた・・・・・



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「・・・・・・・・はっ!!」



宏輝は、神社の本殿で目を覚ました。誰か掛けたのだろうか、毛布が掛かっていた。

周囲を見回すと、朝日が差し掛かっており、朝を迎えていることがすぐに分かった。


「え・・・・・???」

宏輝は、人っ気すらない神社の様子に違和感を覚えた。
外に出て、境内の周囲を歩いた。しかし、

「誰も、いない・・・・?」

神社には、誰もいなかった。
宏輝は、ふと近くに立っている立て看板を見かけた。

「え・・・・・・?」

それを見て宏輝は思わず言葉を失った。


その看板には、

初詣  元旦 午前10時〜



つまり、大晦日から元旦の朝にかけては、初詣はしていなかったというのだ。

なら、夕べ見た神社は?結女や巫女さんは一体・・・・?


「何だったんだ・・・・・?」

しかし、宏輝には、結女との出来事が夢幻とは思えなかった。

何故なら、宏輝の手にある"もの"が、それを物語っていたのだから・・・・・



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「あああっ!ああんんっ!!あっ!!ああああっっ!!!」


あれから宏輝は、時折、一人自宅で『結女』となって快楽を貪るようになった。
宏輝の手元に残った物、それは、あのとき被った結女の皮だった。


宏輝は、結女の皮を被って自慰に耽るとき、結女に見守られながら愛撫されているような感覚に溺れていく。

あのときの結女の眼差しが、宏輝の心に深く残っていた。

それは、宏輝の心に、不思議なまでの安心感をもたらしていくのだった・・・・・・・


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あとがき


皆様、新年あけましておめでとうございます。Howlingです。
お正月ということで、初詣でこんなことが起きたらいいなと思いつくままに書いてみました。


本編に出てくる玉川神社の伝承上の意味は
"魂皮神社"

魂の安寧を自らの皮によって包む女性の神の言い伝えがある、という設定です。
・・・・かなり強引でしたね。

何にせよ、今年も色々書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
ではまた!!!






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