続・館にて(前編)

 作:Howling


「うふふ。来たわね。」


宮城優子は、自宅である館の一室で、椅子に座っていた。
適度な肉付きをした美脚を優雅に組んでいる。

目の前には、ひとりの若い男がいた。彼の名前は森ノ宮晴樹。
どことなく落ち着きがない。これから起こることが愉しみでたまらないといった表情だった。

「おじゃまします・・・・・」

晴樹は一言、そう言った。


自他共に認めるスポーツ大好き人間だった晴樹。
あの日、この館で優子と出会って以降、晴樹の日常は激変した。
優子の正体が中身のない"皮"であること。
そして、その彼女に誘われるままに、"彼女を着て"女性というものを知ったこと。
それは女性に免疫の少ない晴樹には強烈な刺激だった。
すっかりその色香の虜となった晴樹。
今では仲間内でサッカーをする機会がすっかり減り、
なにかと理由と時間を見つけては優子の家に行くようになっていた。
もちろん、仲間内に気づかれないようにである。


「今日は土曜日だからゆっくりできそうね。」

優子はニタリと微笑む。

その視線が晴樹に向いたところで、晴樹は我慢の限界だった。
晴樹は優子に近づこうとする。しかし、優子は手を前に差し出して制止した。

「ふふ、焦らないの。」
優子は蠱惑的な瞳を晴樹に向ける。
晴樹は、そんな彼女の瞳、表情、口元。それこそすべてに魅入っていた。
もうすぐ、この美人の体になれる。
興奮しないはずもなかった。

「さ、始めましょう。」

そう言って、優子はすぐに自分のまとっていた服をすべて脱ぎだした。
晴樹もそれに合わせて服を脱ぐ。

優子はもう準備ができていた。

「さ、お・い・で。」

そう言って彼女は背中の、皮になっている彼女自身を開けた。
中はやはり完全に空洞だった。
どうなっているのだろう?晴樹はいつも思う。
そんな晴樹に構うことなく、優子は晴樹を中に迎え入れようと体をくねくね動かす。

「きてえ〜はやくぅ〜」


悩ましい声で晴樹を誘う優子。
ここまでされて、男が奮い立たないわけがなかった。
晴樹はもう待てないとばかりに優子の皮に組み付いた。
ふわっと、女性の香りが晴樹を包み込む。

慣れた手つきで、脚を入れる。
脚の皮を一カ所にたぐり寄せてから一気に穿く。
優子になってからストッキングを何度か穿くのを見て覚えてしまったのだ。
「ふふっ、穿き方が手慣れてきたわね。本当に女の子になれそうね。」
冗談交じりに優子は言った。
「や、やめてくださいよ・・・・」
晴樹自身、少し恥ずかしかった。


あっという間に、晴樹は優子の皮を腰まで着終えた。

「あはぁ〜っ・・・・・んああっ・・・・」
優子が喘ぎ声を出す。よほどキモチイイのだろうか?
「き、気持ちいいんですか?」
晴樹は尋ねた。
「ええそうよぉ晴樹君。空っぽの"皮"に中身が入ってくる感覚って、
 とおってもキモチイイのよ・・・・・・んあああっ!き、きたっ!」

優子が歓喜の声を上げたと思ったら、皮を着込んだ脚のところがくにゅくにゅと変化して、
晴樹の形にぴっちり張っていた脚がすらっとした優子の美脚に変化した。

晴樹もまた、この感触が病みつきになっていた。
自分の体が異性に変わっていくのを実感できるからだ。
勃起する代わりに、早速自分のものになった優子の股間が湿り気を帯びる。

「はぁ・・・・・・」

余韻に浸っている暇はない。一気に着てしまおう。

晴樹はがっつくように残りの皮を着込んでいく。
「あらあら、そんなにがっつかないの。」
優子はそんな晴樹を見て一言言った。





「はぁ・・・・・・」


姿見の前に、うっとりとした表情の優子(in晴樹)がいた。
女性になることの快感に、完全に呑まれていた。


(さ、晴樹君。今日は何をしたいのかしら?)
優子の声が頭に直接響く。その声は心底楽しそうだった。



「そ、そうですね・・・・・・・」

鏡に映る優子(in晴樹)は、恥ずかしそうにもじもじとしている。

(あら、誰もいないわよ。恥ずかしがらないで。
さ、言ってみなさい。なにがしたいの?何でもいいのよ)



なんでもいいのよ。
  なんでもいいのよ。
    なんでもいいのよ。



その言葉が、晴樹の内なる欲求をさらけ出す引き金になった。


「こっ、コスプレがしたいです!色んな服を、優子さんになって着てみたいです!!」

晴樹は優子の声で叫んだ。

「優子さん、綺麗だからどんな恰好でも似合うと思うんですよ。
 だ、だから、見てみたい・・・です・・・」

もじもじする優子(in晴樹)。優子本人は、そのうぶな反応が可愛く見えた。

(うっふっふ・・・よく言えたわね。
 最初の頃からしたら自分のしたいこと素直に言えるようになっていいじゃない。
 じゃあ、そうしましょう。街に出るなら着替えないと。こっちよ)

優子(in晴樹)は、頭に響く優子の声に従うまま、彼女の服が入ったクローゼットに向かった。

(服は私が選ぶから、楽しみにしててね。)
すると、晴樹の意思に関係なく、優子の体が動き出す。
この瞬間、体の主導権が晴樹から優子に変わったのだ。
勝手に服を選んでるみたいで晴樹は不思議な気分になった。
(今日は、これがいいわね。)

優子のチョイスで着た服装は、黒い胸元を大きく広げた長袖のボディコンワンピースだった。
彼女の豊満な胸や臀部にぴっちり張り付いたその服装は、晴樹を興奮させた。
さらに、グレーの柄が入ったストッキングを穿き、靴は、深紅のピンヒールを選んだ。
着終わった後、体の主導権は一度晴樹に戻った。
優子の体で外に出る。晴樹自身楽しみでしょうがなかった。
しかし・・・・・・

(さ、行きましょう。って、どうしたの晴樹君。)

優子(in晴樹)は、玄関で慣れないピンヒールの感覚に苦戦していた。
「その、ヒールって歩きにくいんですね・・・・
 立つので精一杯っていうか・・・・・」
重心の置き方が分からずよろけてしまう。
(しょうがないわね。じゃあ私が代わりに歩いてあげるから。行ってみたいところとか教えてね。)

先ほどまでヒールに苦戦していた晴樹がしていた優子の顔つきが、余裕のある笑みに変わった。

「さ、行きましょう。晴樹君。」

こうして、晴樹は、優子となって初めて、街に繰り出すこととなった。




(うわぁ・・・・・)


見慣れた駅前の繁華街。
しかし、晴樹にとって今は何もかもが新鮮に映る。
無理もない。今自分は自分ではなく女性の姿で外に出ているのだから。

一方、優子も優子で外の世界を愉しんでいるようだった。
「ふふふ、久しぶりの外の世界はいいわね。空気がいいわぁ。」
(空気って、都会の真ん中だからそんなにいいものじゃないですよ。)
「でも私にとってはいいのよ。久しぶりなんだから。」

優子の中身はなく、皮だけである。外に出るには"中身"が必要になるのだと。
こうして晴樹自身が"中身"になることで、優子は外の世界を愉しめているのだ。

「それにしても、暑いわね。」

優子は額の汗をぬぐう。
気づけば、優子の巨乳に汗の珠ができていた。

(うわっ・・・・)

晴樹はその光景にぞくっとした。
「ふふ・・・・」
優子は、晴樹の気持ちを察したのか、その汗を細い指でぬぐうと直接舌で味わった。
(ひゃっ!な、何するんです優子さん!?)
晴樹が驚くのにも構わず、何回か指を舌でねぶり、汗を啜った。

「ふふふ・・・・今、私のおっぱいにたまった汗を見て、味見してみたいって思ったでしょ。
 分かるわよ。だからしてあげたの。どう?私の汗、おいしい?」
あっけらかんと言う優子に晴樹はさらに動揺する。
(やっ、やめてくださいよ〜。恥ずかしいじゃないですか・・・・・)
「そう?ここに"いる"のは私だけで、晴樹君は何にも恥ずかしくないはずなんだけどなぁ〜・・・・・」
意地悪そうな表情で優子は言う。
(もう、勘弁して下さい・・・・・)
「あはは。そうね。悪かったわ。
 さ、晴樹君。君は私になにを着せたいのかな〜?
 行きたいところ考えてもらったら、すぐ伝わるからね。
 私達、今一心同体なんだから・・・・」

優子は楽しそうに言う。優子は晴樹が頭の中で伝えるまま、それに従って街を歩いた。


5分くらい歩いたところだった。
(あっ!)
「どうしたの晴樹君?」
優子(in晴樹)の視界に、高校生らしい男が一人歩いてくるのが見えた。
晴樹はその姿に見覚えがあった。
晴樹の同級生で、一緒にサッカーをしていた仲間だった。

「そう・・・・お友達なの・・・・・」
優子は不敵な笑みを浮かべた。

すると、優子は同級生とすれ違う直前

「ああっ!!」
優子はわざとらしく同級生に向かって倒れ込んだ!
同級生の顔が、優子の巨乳に押し潰される。

「むぐぐ・・・・」
同級生はたわわな胸の感覚に悶絶する。
(な・・・・!?)
晴樹は愕然とした。いくら女の姿とはいえ、同級生をおっぱいで抑えつけるなんて・・・・
「ごめんなさいね。大丈夫?」
優子は妙にゆったりとした口調で話しかけた。
同級生は明らかにどぎまぎしている。それは、晴樹から見てもはっきり伝わった。
それが分かってか、優子は自分の胸を同級生の顔にわざとらしく擦り続けていた。

「だ、だっだだ大丈夫・・・・です・・・」

優子から離れ、同級生は息を荒くしながら言った。

「そう、よかったわ。あら・・・・」
優子は同級生の手元を見て表情を変えた。

「血が出てるじゃない。」
優子はバッグに入れていたハンカチを取り出し、同級生に渡した。
同級生は、今回の事態に目を白黒させていた。
優子は同級生の手をとって、ハンカチを握らせる。
「本当にごめんなさいね。失礼するわ。」

優子は、それだけ言ってその場を離れた。
「あ・・・・はい・・・・・」
同級生はその様子を只見守っていた。


(はぁ〜・・・・、何もあんなこと・・・・・)

「ふふふ・・・・うぶっていいわね。晴樹君見てるみたい。」
(そんな!?)
「さ、行きましょう。」

優子はすたすたとその場を離れた。




翌日、晴樹はこの同級生から
話しを聞く羽目になったのは言うまでもない。


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