続・夫の留守に襲われて(後編)

 作:Howling   原案:HIROさん


ニセ冴子と真由美は、車で街に繰り出していた。
遠くに街の光が見える。
社内では、ニセ冴子が運転、真由美は助手席に座っていた。
「・・・・・・どうだったかしら?」
「ええ、完璧だったわ。本当にすごいのねあなたたち。」
「ええ、これでもし彼女がうちのお客さんになってくれたら、うちとしてもありがたいわ。」
「経営苦しいの?」
「苦しいも何もお客は貴女一人よ。」
「あらそうなの!?大変ね」
「でも真由美さんもすごいわ。あんなに芝居上手で計画も一から考えてくれたり。」
「あら、それはあなたたち「ろじうらクラブ」のおかげよ。」
「そう言ってもらえるなら嬉しいわ。だってこの顔とか私好みでいいわ。」
そう言ってニセ冴子は自分の頬を引っ張る。やはりよく伸びる。
「でも、うちは女性を洗脳とかはできませんわ。」
「分かってるわよ。演出は非日常な方がいいじゃない。」
真由美はほくそ笑んだ。彼女は洗脳されたわけではないのである。



そう、すべては池真由美の策略だったのだ。
夫が留守がちな寂しさを紛らわすため、真由美は「ろじうらクラブ」なる緊縛プレイを生業とする業者と契約、
彼女が妄想する様々なシチュエーションを愉しんでいた。
しかし、それにも次第に飽きつつあった真由美。
さらなる愉しみを見いだすため、今度は隣人で自分と同じ境遇の冴子に目を付けたのだ。
欲求不満なのは彼女も同じということを知っていたからだ。


数日前、真由美はろじうらクラブでエージェントの若い男と話していた。
何かいい策はないか手がかりを掴むために。
「ねえ。ここのオプションってなにかあるの?」
「オプションですか?UFOで拉致とかはできませんよ。」
以前彼は真由美からUFOに拉致されて宇宙人に犯されるという突拍子もないシチュエーションをふっかけられたことがあった。
当然却下したが。またあんな依頼されたらたまったもんじゃない。彼は思った。
「そうじゃなくって、そちらでやっているオプションよ。」
「はぁ・・・・」
真由美の言葉に安堵したエージェントは、カウンターにあるボードを取り出し、真由美に手渡した。
「・・・・・まあ、こんなところですかね。」
「ふ〜ん。どれどれ・・・・・」
真由美は、リストの一覧に目を通す。そして、一番下にある項目に目がとまった。
「ねえ、この"変装"って何?」
「ああ、これですか・・・・・ちょっと待ってて下さい。10分ほど時間を下さい。」
そう言ってエージェントは部屋を離れた。
変装と言っても、結局この間見たく顔を隠すマスクとかでごまかす程度なのだろう。
真由美はあたりをつけていた。
そして待つこと10分、

「お待たせしました。」
エージェントが部屋に戻ってきた。
「って、ええええええええええええええええええ!?」
真由美は驚きの声を上げた。
なんと、現れたのはエージェントの若い男ではなく女性だった。
見覚えのあるブラウンのウェーブのかかったロングヘアーにボディラインを強調するピンク色のニットワンピース。
そう、現れたのはなんと真由美だったのだ!
「わ、私!?」
驚く真由美を見てもう一人の真由美はニタリと微笑んだ。
「どうかしら。うちのオプション"変装"は?」
目の前のもう一人の自分?は女性の、自分の声で話しかけてきた。
「すごい!声まで私そっくり!?」
「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。」
「ねえ、どうなってるのこれ!?」
「うちが使ってる、特殊ゴムのマスクとボディタイツよ。たいていの人に化けることが出来るわ。」
そう言って偽真由美は腰に手をやってポーズをとった。
「マスク?」
偽真由美はこくりと頷くと、自分の髪に手をやった。ウェーブのかかったロングヘアーはするっと外れ、坊主頭の真由美になった。
「うわ、私って坊主頭だとこんな感じなんだ。」
「ふふ、滅多に見ない分ぞくぞくするでしょ?」
スキンヘッドの真由美は微笑むと今度は自分の顎に手をやる。そして顔をめくり上げるようにして手を挙げた。
すると、その顔はべりべりと剥がれていき、その下にあった顔は、先ほどまで真由美と会話していたエージェントのものだった。
「こんな感じですね。」
エージェントは元の男の声で話した。黒髪短髪の男性の顔に豊満な女性の体。アンバランスさが逆に真由美を興奮させた。
さらにその手には目元と口が空洞になっている真由美の顔を模したマスクとウィッグ。
「触ってみます?」
真由美はエージェントから手渡された自身の顔を模したマスクを手に取る。
「うわぁ。生暖かいし、手触りも本物の肌みたい・・・・」
真由美は、自分の顔そっくりに作られたマスクの感触を存分に楽しんだ。
「基本的なデータがあれば、すぐにでも作れますよ。」
エージェントは真由美に手渡したマスクを取ると、もう一度被り始めた。
ぺらぺらで生気のなかったマスクに再び生気が宿っていく。
エージェントはマスクが自分の顔にへばりつくのを見せつけるようにわざと頭でマスクをひっぱる仕草をしながら真由美のマスクをつけていった。
メイクを施し、ウィッグをつけ直す。
「ほら、こんな具合にね。誰にでも変身できるわ。」
脚を組んでポーズを取り直す。
その様子を真由美は感心して見つめていた。
「ねえ、早速お願いしたいんだけど。」
「なにかしら?」
「ちょっと、私の知り合いで欲求不満な人がいるの。彼女を堕としてこっち側に引き込みたいのよ。」
エージェントはそれが客が増えて結果的に収入が増えることを意味しているとすぐに理解し、真由美の顔でにやりと微笑んだ。
「詳しく聞かせてもらいたいわ。」

こうして、真由美の計画は始まった。
まず、真由美は冴子の写真や体のサイズなどの基本情報を教え、ろじうらクラブ側はそれを元に冴子を模したマスクとボディタイツを開発。
着々と準備を整えていった。冴子を自分の遊びに引き込むために。






「はあ・・・・・・・・・」

あれから数日後。
冴子はリビングで一人ソファに腰掛けていた。

約束通り、翌日になってニセ冴子は縄を解きに現れた。
「ふふふ、あなたにはプレゼントを残しておくわ。
 それと、真由美さんは私のことを彼女の口からは話せないから
 何を聞いても無駄よ。」
そう言って睡眠薬の染みついたハンカチを口元にあてがわれ、冴子は再度気を失った。


気がつけば冴子はベッドの中だった。



「なんだったのかしら・・・・・・???」
今朝真由美と庭先で会った。数日前のことなどなかったかのように普通の彼女だった。
あの日のことが悪い夢じゃないのかとさえ思えるほどに。
真由美は本当に何事もないかのように冴子に接した。
その様子を見て、冴子は真由美に数日前のことを聞き出すのを諦めた。
すべては、悪い夢だったんじゃないだろうかと。


しかし、今冴子の目の前に1枚のカードがある。
それは、自分に化けた男が残していったものだった。
書かれているのは電話番号と、自分そっくりの筆跡で書かれた一言。

「「もし、この前の続きがしたければここに電話なさい   もう一人のアナタより」」


このカードが如実に伝えている。
あれは本当にあったことだったんだ。

ひょっとしたら、今いる真由美もあの男が成りすましてるのかもしれない。
わからない。


しかし、欲求不満の人妻にとって、あの日の出来事はあまりにも刺激的すぎた。
しかも、あのまま放置されてしまえば、余計に欲求不満になった。
生殺しのような感覚だ。

縛られたときの縄の感触や自分にさえ化けてしまう謎の男。
もし、真由美のようにあの快感を味わえるなら・・・・・・・・
もう、戻れないかもしれない・・・・・・・
でも・・・・・・・


冴子はいつしか、熱に浮かされたように、カードに書かれた電話番号を押していくのだった。





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