異聞・皮女(後編)(作・Howling)







「いかがだったかしら。女性になってみた感想は。」



頭に直接女の声が響く。まちがいなく、この皮には意思があった。



「ああ、言葉は要らないわ。頭で考えれば大体届くから。

 でも、なんでこうなってるのかがまず知りたいわよね。」

男はおもわずうなずいた。

「いいわ、じゃあ話してあげる。」

女は男に、自らが皮女になった経緯、そしてそうなったと自覚したときのことを話し始めた。

「アタシを皮にした男が気まぐれで意識だけ残していたのね。」

「そいつらはアタシを段ボールに詰めて、あんたみたいに女になりたいって

 男達に大金払わせて送ってたの。

 もう、最初はつらくてしょうがなかったわ。

 ぶくぶく太ったキモイ男に内側に入られるのよ。

 たまったものじゃないわ。」

女の声に怒りがこもる。よほど嫌な体験だったのだろう。

「ま、そいつらはそうやって金儲けしてたんだけど、いつしか死んじゃってね。

 それでアタシ達の皮だけが残ったの。

 ハンガーに掛けられたまま途方もない時間を過ごしていたら、ある日彼女に出逢ったの。

 その人は呪術師か何かで。アタシの意識が存在していることにすぐ気づいたわ。

 で、彼女と話をして、術をかけてもらって、条件付でカラダを動かせるようになったのよ。

 その条件が、アタシを着た男が女としてイクこと。」

それで勝手に体が動いたのか。男は納得した。

「彼女にお願いして奴らが使っていたパソコンから適当な住所選んでアタシを送ってもらったわけ。

 それがアタシがここにいる理由ね。」

(その呪術師って?)

「さあ。どうしてるか知らないわ。」

男は、今さらながらに驚愕する。

この皮女は実際に生きた人間からできていたということに。

「それでどうかしら?あなた、このままアタシの中身になって女の快感、感じてみたくないかしら?」

不意に彼女に尋ねられた。

女の快感を得られ続ける。すばらしく思えたが、逆に男には恐怖心があった。

今自分は取り返しのつかないことに踏み込んでいるのではないかと。

その戸惑いが、勝った。

「いや、それはちょっと・・・・・・」

「イヤ?どうして?こんな美人になれるのよ?悪い話じゃないけど・・・」

「だって自分の生活が・・・・・」

「あんなに気持ちよさそうにしてたじゃない?いいの?」

「でもやっぱり・・・・・」







「そう、なら・・・・・・仕方がないわね!」





そのとき、いきなり皮女が飛びかかってきた!

突然のことで男は反応できず、尻餅をついた。

そのすきに、皮が顔にへばりついた。

ちょうど顔の部分に入っていく。



ふむぐぐぐぐ!!!!



顔に手をやり、皮を剥がそうとするが、まったく離れない。

そうしている内に顔の癒着が終わり、頭部だけ女の顔になった。



「あははははっ!!!とうとうアタシの中身になれる男を見つけたのよ。

 そう簡単に返すわけないじゃない!」




体が必死に顔についた皮を剥がそうとしているのをあざ笑うかのように

女は嗤いながら話した。

なんと、皮の顔部分を強制的に被らせて頭の部分だけを乗っ取ったのだ。

「今日からお前はアタシになるのよ。今までのお前はもう消えるの!

 アタシの中で第二の人生を歩みなさい。アタシの「中身」としてね。」

(い、嫌だ!!!!)

「うふふぅ、もう遅いのよ。君は何度も私でイッたでしょ。

 もう体が求めてしょうがなくなってるわぁ。

 女になりたいって、女として快感に溺れたいって。

 気持ちよかったでしょお。」

(そ、それは・・・・!!)

「いいじゃない。女のカラダって、気持ちいいわよぉ。

 もう分かってるはずよ。そんなキモイ男としてみじめに生きるくらいなら

 その方がいいって。」

(で、でも・・・・・?)

「嫌ならしょうがないわね。それじゃ、アタシの皮を破いてよ。」

(え!?)

「嫌なんでしょう?いいわよ。そのままキモイ男として生きていくならそれでも。

 アタシは皮になってからもう100年近くは生きてるからねえ。」

男は目の前に突きつけられた選択肢に戸惑う。

女の言うように皮を引き裂けば自分として生きることは出来る。

そうしなければ女に自分が乗っ取られる。

しかし、皮を裂いたとて、待っているのはみじめなキモイ男としての人生だ。

自分自身に深い劣等感を抱いていたのだ。

(で・・・・・できない・・・・)

「ふふっ、そう言うと思ってたわ。それじゃ・・・・・・・」

(あ、あがっ・・・・!!!!)

「今あなたの脳内に入ってるわ。よほどつまらない人生だったのね。

 いいわよ。貴方の人生、というか体をもらって私が第二の人生を送ってあげるわ。

 感謝するのね。

 誰からも見向きされるようになるわよ。

 欲望に正直になりなさい。女体の快感に浸りたいでしょう?

 男のくせして女の躰着込んでオナニーしちゃうくらいだもの。当然よねぇ。

 いいわよ。その欲望、アタシが叶えてあげるわぁ。

 ためらわなくていいのよ。さぁ・・・・・・・・・」

男から否定の返事はなかった。皮女はこれを肯定と受け取った。

「そう、いい子ねぇ。それじゃあいくわよ・・・・・・・・」



男は、自分の脳内で光が明滅する感覚に襲われていた。

光の瞬きひとつひとつが、男の記憶、感性を奪っていく。

逆に、今自分にまとわりつこうとする女の体験したことや記憶が自分のそれにすり替わっていく。

「はぁあぁぁああああ〜〜〜〜。いいわぁ。そうよ、どんどん明け渡しなさい。

 さあ言うのよ。「ワタシはオンナ」って。それで君は完全にアタシの一部になるわ。さあ!!」

(わ・・・わた・・・・い、いや俺は・・!!)

「俺ぇ〜?違うでしょ。「ワタシはオンナ」さあ。」

その一言を言えば自分は消える。その予感が男にはあった。しかし、もうあらがう術は ない。

(わ・・・・ワタシ・・・・は・・・・・お・・・・オン・・・・な・・・・・)

「もっとはっきり!」

(わ、ワタシはオンナ。オンナですぅ〜・・・・・)

「よく言えたわ。それじゃ、仕上げるわよ!君の心と体を頂くわ。」

皮女の意識が男の意識を塗り替える。それが男の体に快感として襲いかかる。

そのピークが近づいていた。

(んあああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!)

「んあああああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」





男の脳内で叫び声と、女の叫び声がシンクロした。そして彼女の顔を着込んだ男の体は力をなくしうなだれた。

5分ほど経ったろうか。微動だにせず黙り込んだままだ。

すると、頭だけが起き上がった。無表情だった。

しかし、その次の瞬間





ニタァ・・・・・・・





悪意を持った笑みがそこにはあった。



「あっはっは・・・・・成功したわ!これで完全にこの男はアタシの物になったのね!」

それは、完全にあの女だった。皮を着込んだ部分だけでなく、男の肉体をも乗っ取ったのだ。

「さあ、アタシを着て。」

女が話すと、男はすくっと立ち上がり、てきぱきと皮を着込む。

その行動に迷いや戸惑いは一切無かった。

もう完全にこの女が体を支配していた。

「はああああ、空っぽの皮に中身が入ってくる感覚が気持ちいいわぁ。」

あっという間に皮を着込む。そして一瞬でもとの女性の体に変化した。

「ウフン。か・ん・せ・い。アッハッハ・・・・」


女は再び肉体を得たことによる喜びから高らかに笑った。

「ふふっ、ようこそ。女としての人生へ。気分はいかがかしら?」

女は自分の中にいる男に語りかけるように話す。

(はっ、はい〜。女の躰、気持ちイイ、キモチイイ、キモチイイ・・・・・・)

「そう。いいでしょう?頭真っ白になるくらい気持ちいいのねぇ。」

(うふふ、馬鹿な男。このまま私の中で奴隷になってしまうとも知らないで。

 でもホント皮女になって正解ね。もう歳もとらないみたいだし、私自身、

 キモイ男どもに色んな恰好されたりしたおかげで、自分の美貌を再認識できたわ。

 まったく罪な女よね、ア・タ・シ。)

そう、これは皮女になったことによる影響の一つだ。

様々な男の欲望を受けて、嗜好が若干変化していた。

男受けのいい仕草や行動が自然に出来てしまい、それに対する

抵抗がなくなってしまっていたのだ。

つまり、彼女は男狂いと呼ばれても何の抵抗もないほどに

嗜好が変化してしまったのだ。

女は呪術師の言葉を思い出す。





『あなたはいままで男どもの欲望の道具にされ過ぎた。

 だから利用してやるのよ。今度は貴女が男どもを道具にしてやりなさい。

 その方法を、教えてあげるわ・・・・・・』





(彼女には感謝しないとね。こんな方法でもう一度自由を手に入れるなんて。

 アタシだけじゃなく、他に皮にされてた女達も同じようにしてくれたんだし。

 これからどうしてやろうかしら・・・・・・

とりあえず、アジトへ帰ろっか。他の二人も今頃アタシみたいにカラダを手に入れただろうし。

これからどんどんこいつみたいに皮奴隷を増やしてやろうかしら?

今まで散々あんた達のいいようにアタシのカラダ着込んでたものねぇ。

今度は逆にアタシ達があんた達をいいようにする番だわ。)

女はほくそ笑みながら、とりあえず男の部屋にあったコスプレから一着選んで着込む。

赤いタイトミニスーツで、少しかがめばお尻が丸見えになりそうなタイプだ。

そして、男の財布から金を持ち出し、部屋を出て彼女のアジトへと向かうのだった。





「次は誰がアタシの中身になるのかしら?」





あとがき



ドーモ、皆さん初めまして。Howlingです。
皮モノって基本的に男が女を乗っ取るところにぐっと来るものかなと思ってたところに
ふと、もし逆に女側が乗っ取ったらどうなるか?と思い書いてみました。







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