俺が女子に霊体を差し込んだら、もちろんこうする2

 作:spirit_inserter  挿絵:universe



 ――退屈な授業が終わり、いよいよ放課後が始まった。学校にいた生徒たちが思い思いの時間を過ごす、至福の時。
 グラウンドを見れば、部活なのかただ遊んでいるだけなのか、十数人が土煙をあげながらサッカーボールを蹴りあっている。
 廊下では、いくつかのグループがひとつに固まって、他愛もない話に花を咲かせている。
 通学路には大勢の生徒が一方向目指して、ずらりと並んで歩いている。

 そして……そこは誰も来ないであろう、廊下のさらに奥にある人気のない男子トイレの個室。
 その洋式便座にもたれかかるように座る自分の身体を、息をはきながら俺は見下ろしていた。

『ふぅ……やっぱ、できるようになってる。よし、感じはつかんできたぞっ!』

 こう目をつぶって、少しすると身体が痺れて重くなってくる。そこでぐい、と身体を引っ張り出してやるイメージをすると、うまく身体から幽体を抜け出させることができた。
 両腕を交互に見るが、どちらも透き通っている。がくんと首を垂れ下がらせて眠っている自分の肉体を見下ろしながら、さてまずはどこに行こうかと悩んだ。
 
 やる事は決まっている。
 さっきのように女子を見つけて、そっそれから……そ、その身体に、この幽体を重ねるのだ。するとどうなるか。
 その身体は、俺が動かすことになる。つまり俺は他人の身体を乗っ取って意のままにできるんだ。もちろん女子も、男子も、やりたい放題。身体に重ねるだけで、全部俺のものになるんだ!
 
『は、早く試したいっ。自由にできる時間も長くないし……よしっ行こう!』

 そう、そのために帰りもせずにこんな場所に来たのだ。家に戻ってる場合じゃない。
 すごいことができるようになってのだし、その能力を試さずにはいられないだろう。そして……あの時のように、もう一度味わいたい。女子だけが感じられるそれ。いやらしい魅惑の、股間の快感を。
 "そのとき"を思い出してニヤニヤしながら、すり抜けて扉の外に出るが、もちろん誰もいない。この時間にこんな所にくるやつはいないだろう。古びて、たまにひび割れているタイル床の上を浮かび、廊下に出て行くと、少ししてふわりと階段を上った。
 
『うーん、男ばかりだなぁ』

 人がいないといっても、たまには見かける。しかし数は明らかに少ない。
 それもそのはず。4階は今は使われていないせいで、がらんとした教室だけが残されている。立ち入り禁止にこそなっていないものの、好き好んでここに来るやつはいない。
 今、俺がいるのは、そんな4階へと続く入り口の階段付近。
 さっきからじっとそこで通り過ぎるやつを待っているが、もともと人通りが少ない上に、女子が一人も来ない。
 なぜだ。俺がココで待っているせいで、無意識に避けられてるのか?

『んー……できれば誰にも見られずに移動したかったから、ここで待ってるんだけどなぁ』

 待っても待っても、一向にこない。
 こない。
 
 …………。


 ……移動しようかと思った、まさにその時だった。
 そろそろ3分が経とうというときに、目の前を通りすがろうと、一人で歩いてきた女子に目をつけた。おっかなり可愛い子じゃないか?
 名前も顔も知らない生徒だったが、検証にはちょうどいい相手だ。

 今やろうとしている行為は、とんでもなく危険かもしれない行為。 
 万が一にも他人の身体を奪おうとしているのだから、その辺の適当な子で……というのは、早く試してみたいとひゃいえ、どうにも受け入れられなかった。
 だから待っていたのだが、これはいい。
 ふわっと浮かんで一瞬だけ真正面を見つめる。ゆったりとした顔立ちで、とても大人しそうな子。胸のあたりがふっくら膨らんでいる。黒い靴下は膝下なので、隠されることもなくスカートの下から覗く肌色の太もも。眩しいくらいだ。
 普通の表情で、ぼんやりと前を見ながら歩いてくる。目の前に浮かんでいる"俺"には気づかずに、ポニーテールを揺らしながら。
 やがて、交錯する。
 ぶつかることなく、彼女をすり抜ける。俺は一切動かずに、彼女が身体をのめりこませてきた。
 すると――さっきと同じ。まるで人型の粘土に、ぴったりと身体を押し込められたような、不思議な感覚に包まれる。

「はぅぅっ!?」

 幽体にぶつかった女子は、片手に持っていたプリントを、はらりと取り落とす。
 まるで身体が突然人形に変わってしまったように、少女を動かしている筋肉が硬直する。肉体を操る、白い魂が塗り変わっていく。まるで侵入者に抵抗するように身体をびくびくと震わせた。

「あ、ぅ。や……めっ、ぁ……てぇ……」

 がく、がくがくっ。
 一秒もたたず、少女は力が抜け落ちたように膝をつき、一瞬だけ浮かび上がったスカートがぱさりと床に覆いかかる。
 その隙間から出た太ももは少し開いて、足は横を向いている。かろうじで前に倒れることだけは避けたのだろうが、すぐさまそれ以上の感覚が彼女を支配する。それは、思わず天井を向いてしまうほどの感覚。

「あぁ……ぁ……っ」





 がくん、と首を上げなければならないほど息苦しい。
 それと同時に、身体の何かが変わっていく。今まですっぽり入っていたものが押しのけられて、溶けるように、感覚がなくなってしまう。太ももが、腕が、体が溶かされる。氷が水に溶けるように優しく、それは頭のほうまでやってきた。
 だめだと思うのに、わけがわからなくなっているせいか、全く抵抗できない。溶ける。頭の中が。

「ぁ…………」

 声を零しきったたあと。
 がくん、と今度は下を向いた。こんな廊下で女の子座りしたまま、俯いて黙り込んでしまう。
 廊下は幸いにもしんと静まっていた。遠くから、たくさんの生徒たちが談笑する声がかろうじで響き、こだまして聞こえてくる。
 窓からは夕日が差し込み、ぺたんと座りこんで動かなくなった少女の傍に、色濃く影ができていた。
 それは少女の短く切りそろえられた茶髪のシルエットではなく、もっと短髪。明らかに裸の男子の身体の形へと徐々に変わっていた。
 しかしやがて、そのシルエットが完全に変わりきったとき、不意に影が元の形を取り戻す。

「…………んん」

 たったいま目覚め、首をあげた女子のものとなんら変わりない、セーラー服の形をした影が動き出す。
 きょろきょろと辺りを見て、それから自分の手の平をみた。何度かひっくり返して、腕も見て、自分の身体を確認する。まるで怪我をしていないか探すように見えるが、続けざまに自分の胸をそっと触って、びくっと肩を震わせた。

「やっぱり、おれの能力は誰にでも使えるんだな」

 誰にも聞こえないように言うと、出てくるのは、この身体の持ち主の声だった。
 ゆっくりと立ち上がってもう一度辺りを見回すと、不意に近くに紙が落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、どうやら先生に提出しなければならないプリントらしい。この身体の持ち主の女子の名前が書かれている。
 ふぅん、と見つめながら、隠すようにプリントを胸元に抱き込んだ。ドキドキしてる。誰もいないとはいえ、こうして膨らんだ胸をぎゅぅとしている様子を見られるのは、どうにも恥ずかしい。
 さて。さっきは女子トイレの個室だったからいいが、今は誰が来るともしれない廊下。ぼろを出さないように、できれば誰とも出会わないようにしないと。
 
「……よしっ。じゃあ早速」
「あら、宮下さんじゃない。こんな所でどうしたの?」

 背筋がぞく、と凍った。
 それは決して快楽などではなく、どちらかと聞かれれば間違いなく不快な感覚の方。あまりの気持ち悪さに背筋が強張り、時間が凍りついたようだ。
 反射的に振り返ると、大人の女性がコツコツと近づいていた。服装からしておそらく教員だろう。そして呼ばれた名前に聞き覚えもあった。宮下という名前は、いまプリントで見たばかりの綺麗な手書き文字。つまり……

「お、おれ……わっわたしのことですか」
「えっ? そうだけど……宮下さん、どうかしたの?」
「その、えっと、な、なんでもないです」

 一瞬慌てたが、最初の一言で自らの口から発せられた女声を聞いて、かろうじで思い出す。
 何とか出てきた声を操った。今、自分はこの身体だ。可愛らしいセーラー服を着て、"宮下"の札を胸につけた女子学生なんだ。全てを乗っ取っているのだから、中に入っている男の精神のことなど、そうそうばれようはずもない。
 だが、流石に目の前の生徒のおどおどとした様子に疑問を持ったようで、首をかしげる。すると俺の手に持っている紙を指差し、勝手に納得した様子を見せたので不思議に思った。

「もしかして、わざわざここまでプリントを届けに来たの?」
「えっ。あ、はっはい……あの、こっこれ先生に渡せばいいんでした……っけ」
「うん。そうだけど……どうしたの? もしかして宮下さん、何か悩み事でもあるの……?」
「い、いえ。お気になさらないでっ、くださいっ。それじゃあっ!」

 プリントを押し付けるように渡してからさっと振り返る。引きつった顔を見られないようにしながら、歩き出そうとする。

「あ、宮下さんどこに行くのっ?! そっちは使われてない4階よっ」
「あ……トイ、お、お手洗いですっ」

 そう言い残して、さっと逃げ出した。背後で不思議そうにする先生の視線を感じながら、慣れない身体で階段を駆け登る。しかし、走っているうちに足の長さが、もとの身体と随分と違うせいで転びそうになり、とっさに手すりを掴んだ。
 
「うわっ……!」

 いつもの調子でいくと、がくん、と体勢を崩しそうになってしまう。
 足は細いし、とっさに掴んだ腕も長さが違うせいで、戸惑ってしまう。幸いにも身体のほうが覚えているのか、ずっこけることはなかった。
 しかし、身体を動かすと、どうしても違和感を感じてしまう。もとと身体の構造も、力の入れ加減も、何もかもが違うと自覚させられた。最初に憑依したときは胸と股間ばかりが気になったものだが、本当に他人になると全てが違うんだなと、変に感心してしまう。
 何とか階段を登りきった頃には、すっかり息があがっていた。

「はぁ、はぁっ……す、座ってるだけだったから気づかなかった。他人の体になるときっついな……」

 よく見られていた最初のほうに転ばなかったものだ。いや、登った辺りは見られていたかもしれない。
 しかし追いかけてくる様子もなかった。一刻も早くトイレにいきたいとでも判断してくれたのだろうか。咄嗟についた嘘にしては、割といい線をいっていた。
 階段を登りきって、本当に誰の声も聞こえないしんと静まった廊下にたどり着いたと感じて、ぺたんと床に座り込む。

「うう……けどちょっと感覚に慣れてきたぞ。歩く幅も違うから、何回か踏み外しかけて危なかったぁ……!」

 憑依というのは、都合のいいことばかりではないようだ。他人の身体を乗っ取ればこうなって当たり前。
 ゆっくりと立ち上がって、再度身体の動きを確かめる。
 腕をぐっぐっ伸ばし、足を曲げ伸ばししてみる。靴が地面をコツコツ叩く音どころか、スカートの布擦れの音すら、閑散とした縦長のコンクリートの空洞によく響く。壁の奥まで届いて、木霊するほど。

 夕日差し込む廊下で、不思議な動きを続ける少女。
 自分の片足を持ち上げて曲げ伸ばししてみたり、手をバンザイと伸ばしてみたり、軽くその場で回ってみたり、そんな不思議な行為を一人で繰り返していた。人が来ないことは、音ではっきりと分かる。
 やがて動きを止める。とうとう、あの休み時間から待ちに待っていた、この時がやってきたのだ。
 
「……よし。おれの思い通りに動いてるな、この身体も」

 あのトイレの女子が特別に相性がいいわけではなく、この身体でも同じ感じだった。慣れればそう難しいことでもない。
 さっそく一歩を踏み出して、まるで鏡の中の世界に入ってしまったような無音の廊下に向かい合う。

 ここには誰もいない。
 誰も来ない。
 廊下に繋がるのはいくつかの部屋――昔は使われていた教室や、トイレがある。近くの戸窓からは重ねられて逆さになった机の足が見えている。こうしてみると、いつも過ごしている2階と、ここは全く変わらない構造だ。

「だ、誰も……来ないよな」

 喉から出てくるのは、微かに震えた女声。怯えているように聞こえるが、その言葉の中には期待の色が僅かに含まれていた。
 何度も、念入りに周りを確認する。

「わたし、宮下っていいます! 今日はよろしくお願いします!」

 ……なんちゃって。
 どこからどう見ても本人だ。中身だけが違うなんて、果たして誰が想像するだろうか。この口で真実を語ったとしても誰も信用しないだろう。
 
「さあて、さっそく……ああっ、こんなことさせるなんて。勝手に他人の体で、しかもこんな場所で……!」

 こんなことしちゃ駄目だ。さっきはトイレだからよかったが……いや、あれも許されない行為だろう。
 あの後、あの子がどうなったのかは知らない。ただ騒ぎにはならなかったようなので、きっと自分で何とかしたのだろう。申し訳ない気分になったが、今は、この体の奥から沸きあがってくる、どうしようもないウズウズとした感覚に魅入られっぱなしだった。

 太ももが、ぎゅうと閉じる。これからやろうとしていることを察知して、女子としての潜在意識が身を守ろうとしたのかもしれない。
 しかし男にとっては何の防御にもならない。ドキドキ、という段階はとっくに過ぎ去り、少し屈んだときにはバクンバクンと心臓が高鳴っていた。そして――誰もいないのをいい事に、いつ誰が通るかもわからない、このだだっ広い廊下でスカートの裾をぎゅぅと握る。
 する、するする。

「ううっ……」

 恥ずかしい。だけど、身体から熱湯が巡るような感覚がぶわっと沸いてくる。
 やがて持ち上げるにつれて、ただでさえスースーしていた太ももが、ふわりと冷たい風に触れたのを感じる。正面を守る布が無くなり、ついには履いているであろうショーツを超えて、へその少し下までが涼しくなった。
 いわゆるスカートのたくしあげ、というやつをさせてみた。
 本当に誰も見てないよな、と、別に見られてもいいという気持ちでやっていた自分でも思ってしまう。それほどに、自信の股間を晒すという行為は扇情的で、唇を結ばなければならないような耐え難い羞恥を感じる。しかし、そうして恥辱に耐えていると、平たい股間が震えるのを感じた。危険な快楽に身を強張らせるにつれ、沸きだしたものが、下着をじゅんっと濡らしていたのだ。どうしようもないエッチな身体である。

「こ、こんな風にすると、やばいっ。何もない股間を晒してるかと思うと……興奮するぞ……んっ!」

 男口調で、僅かに股間に沿って縦長にできた水気を晒しあげる。薄ピンクの布が微かに食い込んでいるおかげで、その染みはまるで影のようだ。自分の股間を覗きこむと、ゾクンと背筋が張った。
 
「ああ、気持ちイイ……っ。けどこの辺にしておかないと、ここじゃ誰がくるか分からないし、落ち着かないし」

 さっそく気持ちよくなったところで、場所を移すことにした。空き教室はいくらでもあるのだ。
 またトイレにしようか。いや、さっき行ったばかりだし、今はこの階自体がほとんど安全なのだ。同じような場所よりも、他の所がいい。
 そうなると……この並びにある、教室のどこかがいい。ポスターの一枚も貼られていない無機質な廊下は、これから行おうとしている淫行を思うと、寂しさではなく、どこか安心感を与えてくれた。
 適当に奥まで歩いていくが、身体のサイズにもすっかり慣れてしまった。

「……これだけは慣れないな。上半身に下着をつけてるなんて、マジで変な気分だな」

 胸をふかっと服越しに揉んでやるが、押しつぶされるだけであまり感じない。ブラジャーをつけているせいだろうか。
 真ん中ほどの教室の前で、扉をカラカラと開けて中の様子を伺ってみる。

 黒板のほうを見ればがらんどうの、完全な空き教室。
 窓からは紅色の光が差し込んでおり、傷ついて曇った廊下を光が反射する。時計はとっくに止まっており、やたら綺麗な黒板だけがチョークや黒板消しもなしに放置されている。
 そして後ろを見れば、画鋲のいくつか残った穴だらけのボードに、逆さに積み上げられた机。なぜか椅子はどこにも見当たらない。
 ここなら、誰にも見られることはないだろう。さっと身を滑り込ませて、音を立てないように扉を閉じた。

「…………」

 しん、と空気の音だけが聞こえている。窓の外から、ひどく遠い車のエンジン音が響いてくる。いま廊下に誰かいれば、足音が聞こえてすぐに分かるだろう。もちろん廊下もしんと静まっている。
 少女の呼吸音と心音が、やけに大きく聞こえた。
 トイレは絶対に安全だ。鍵がかけられるし、多少声が漏れてもある程度なら怪しまれない……はずだ。
 しかし、ここはそうではない。人気がないとはいえ、扉を開けようと思えば簡単に開いてしまうし、そもそも人がいることが知れれば、なぜこんな所にいるんだと怪しまれてしまう。ある意味、とても危険な場所だ。

「……はぁはぁっ。じゃあ誰もこないうちにっ」

 放置された教卓の上に、ぴょんと腰かけて飛び乗った。
 視界に広がるがらんとした教室。積み上げられた机は誰もいないことを認識させてくれるが、不意に、普段の光景がダブる。人で埋め尽くされた、俺の2階での日常を。
 ごくん、と唾を呑んで、太ももをゆっくりと開く。スカートを脱ぎ去ってしまいたいが、それはさすがに誰か来たときに危ないだろう。指をショーツの上から、股間につつっと宛がう。

「ん……」

 男の時に感じる快楽よりも、ずっと小さなぼんやりした快感が生まれる。
 こうして足を開いているのに何も指を妨げるモノがないというのは、二回目でも不思議な気分になるものだ。もう片方の手で胸に触れてみるが、ほよんと柔らかくも乾いた感触が帰ってくるだけで、あまり面白くない。この子は貧乳なのかも。

「……指でやるのも悪くない。けど、もうちょっと刺激が欲しいな」

 指を外して、どこか物足りない感じに無遠慮に頭を掻いた。
 身体はすっかり興奮しきっていて、快感を感じる準備も十分だ。指で弄っても十分に刺激を感じることはできるだろうが、身体が訴えてくる。もっと強い刺激が欲しい、物足りない、いつもの快感はもっと凄い。

「こんな状況で物足りなさ感じるって……普段もオナニーしてるのか、この身体の子。それとも俺が悪いのか?」

 そう言ってみたが、考えてみれば同じ年の少女だ。
 異性の自慰を始めた年齢なんて知っているはずもない。同性でもそんな話はしない。こうして憑依してみて、初めて分かる彼女の秘密だった。
 けれど、ということは何をすればこの身体は満足して自慰ができるのだろう。キョロキョロと辺りを探すが、あまりピンとくるものは見当たらない。そこで自分の身体を見下ろし、股間をじっと見ているうちに、何となく思いついた。
 濡れ始めたショーツに浮かび上がってくる小さな溝。これまで指を這わせてきたアソコ。

「……あれで、どうかな?」

 さらに横のほうに視線を逸らしてみると、銀色の机の淵がある。さらに上のほうに行くと固そうな角が見えた。
 あそこに、ココを擦り付けたらどうなってしまうのだろう。

「んんっ!」

 そこを、角に擦り付ける。
 そう考えると、不意にアソコがぞくぞくっと快感を生み出した。触れてもいないのに正解だと分かってしまった。
 だが机からひょいと降りてみると、そこは案外高い場所であることに気づいてしまう。胸元よりも少し下くらいで、股を擦り付けるにはあまりに高すぎた。
 ……どうしよう、台でも探そうか。
 そう思って背後を見ると、生徒が使う木机を見つけた。もしかして……あれなら。
  
「これでもいけるか……よいしょ、おも。男の体と筋肉の量が違うから、やり辛……っと」

 じんじんと熱くなった身体を誤魔化すように声を出しながら近づいて、一個おろしてみる。
 すると何と、ちょうどいい高さではないか。
 まじまじと見つめながら、まずは試してみようと、ぴたりと腰をくっつけてみる。すると、まるで最初からその目的で作られたかのように、丸い机の角は股の位置にぴったりと納まった。
 突起と、興奮に濡れた下着がひたりと触れ合う。外の冷たさにひんやりとした感触が液体越しに割れ目の肉に伝わってきて、きゅんと奥が閉じたような感じがした。
 
「ひゃっ」

 喉から小さく毀れるのは、やはり彼女の声。
 邪魔なスカートを片手でたくし上げ、平べったい股間を木机の角ぐにぐにと押し付ける。
 夕日の影は色濃く、爪先立ちになった少女が上下に動くさまを映し出す。
 ぎゅ、ぎゅっ。
 
「ん、やっ、こっこれだよ。この身体がっ、求めてた硬いのぉっ……あ、やっ。ひゃんっ」

 机の淵に手をかけて、できるだけ動きが安定するように支える。背後から見ればそれほど違和感がないだろうが、横から見れば何をやっているかは明らか。いわゆる角オナというやつだが、少女に憑依した人間はそれを知らなかった。
 始めて知った自慰。そして女子が辿る性への探求を、一生縁がないはずの男の魂が味わっている。
 それは蕩けるほど魅力的で身体が汗を流す。今は涼しさを感じる秋なのに、真夏日かと思うくらいかぁっと暑い。
 
「ソコが、この股間が擦れるっ。あっあっ。女子のカラダがこんなにイイなんてぇっ、おれ、知らなかったよぉっ……んあぁ!」

 さっきの身体での自慰も凄かったが、これはその倍くらい凄い。じっくり味わえるおかげもあってか、焦ることもなくこの素敵な、桃色の快楽を貪ることができる。
 身体からはフェロモンがあふれ出し、きっと男子がいればメロメロになって、この身体は襲われてしまうだろう。
 蠱惑的な魅力を放っていることに恐らく本人は気づくことがないだろう。しかし、入り込んだ俺はとうに気づいて、その甘い蜜の虜になってしまった。股間から溢れ出る蜜を、もっともっと掻き出したい。どうしようもないこの疼きを、爆発させたい。
 欲しい。もっと、硬いもので荒々しく擦ってほしい。

「あっあっ! んっ、ひぁ、やぁぁ……んひゃっ!? ひっ!」

 女子の細くも柔らかい指先の感触や、無意識に遠慮してしまうせいで、どこか刺激が足りなかったのだろう。
 コレは違う。何もかも違う。
 きっと、家で女子はいつもこんな事をやっているに違いない。爪先立ちから、身体を引くと……ずるるるっ!

「んひっ!!」

 目を見開いて、予想外に強かった刺激に反射的に口が閉じてしまう。
 縦スジに沿って角が押し付けられ、移動するたび、びびびっと背筋から脳天を貫くような電気が駆け巡る。足ががくがくと震え、倒れてしまいそうなほどの快感だ。
 しかし、一度自慰を始めた女子が、絶対にここで倒れることはないことを俺はすでに知っていた……なぜなら。

「あぁ……はぁぁ。はぁ、ふうっ、ん……っ!」

 今度は自分のペースで、ゆっくりと、徐々にかかとを持ち上げる。履いている靴底がゆっくりと曲げられ、抵抗しようとするが、性に取り付かれた肉体に逆らえるはずもない。
 すっかり濡れそぼって、既に透けたワレメをじゅるるるっ、角に押し付けて持ち上げる。腕に力を込めているが、突き上げてくる快感のせいで、こちらもガクガクと子鹿のように震えてしまっていた。
 そして持ち上げきったところで、ストンと腰を落として「ああんっ!」と、意識しても止められない快感のサイレンを、喉の奥から込み上げさせた。
 何度も、何度も繰り返す。狂ったように徐々にその速度を速めさせていることに本人ですら気づかない。
 霊体を取り憑かせ、意のままに操っているつもりでいた。しかし机の角に股間を擦るという行為に、むしろ俺のほうが取り憑かれていた。だって、こんなに気持ちいいなんて、誰も思わないだろ……っ!!

「あっ、あん、やっ。じょ女子のアソコすげえっ、ふあぁぁっ! 勝手に声がっ、でるっ。ゾクゾクするのがおれの体中に広まってぇ……っ!」





 めくれあがったスカートからは、トロトロに濡れそぼって、もはや秘部を守る機能を失ったショーツを透けさせて完全に見えている。冷たい風が、マグマのように熱くなった女子のワレメまで伝わってくる。
 あっあっと声を零す少女の影が、静寂の教室でギシギシと音を立てながら、口元に漂う吐息とともに黒影を写しつづける。
 机の一部――擦りつけた角がアソコから離れるたび、まるで男女がキスをした後のように糸を引いた。しかし、すぐにまた下の口と、丸い木机の角は接吻する。
 繰り返す、何度でも。いつまでも。腰を動かす速度が限界を迎えるまでは。

「ふぁ、だ、だめだっ。もうイ……くっ! イくっ、もうクるっクるぅっ! あっあんっっ! もっと擦れて、このカラダ思いっきりっ……ふぁぁっ!」

 最後のスパートだ。全力疾走をして、ゴール直前で頑張るのと同じくらいの気持ちで、足を曲げ、ぴんと伸ばす。
 ぐいぐいと押し付けられた股間は、無機物の突起によって容赦なく上下に擦られる。本人でない人間が操っているせいで、その動きに一切の遠慮はない。それはただ快感を貪るだけの、動物に堕ちたメスの動きだった。
 そして、とうとう覚えたての角オナは、肉体の限界を迎えた。身体がふわっと浮かび上がる――そんな風に感じた。

「あんぁ……っ?」

 最後に喘ぎ声が出たが、聞こえなくなった。
 突然、ミルク色の世界に放り出されたような錯覚に陥った。
 ふわっとカラダが浮かんで、これまでずっと身体に込められていた力はいつの間にか嘘のように抜けきっていた。何が起きたんだろう。そう思ったとき、不意に腰のあたりがじんわりと暖かくなる。
 太ももが、足が、爪先が。不思議な暖かさは下だけ出なく上にも広がって、胸元まで登ってきたときに、始めてそれがぼんやりとした快感であることに気づいた。まるで甘いミルクの温泉に浸かるような気持ちよさだ。
 源泉が身体の中から徐々に沸き出してきて、広がる。体中に。

「あ……ぁ……!?」

 だが、ぬるま湯は徐々に変わる。甘く肌を内側から撫でていたそれは、徐々に牙を向き、内側から少女を擦り上げる。電気が肉体を通り抜けるかのごとく、ぞくぞくっ――!! 刺激する。がく、がくと身体が震え出した。
 静電気は全身を貫くような雷に変わっていく。たまらず身体を捻り、天に助けを求めると、涎が口の端からつぅ、と流れた。

「ぁ、あっ。あぁ、イっ、イくっ、ああああっ、ああっ!!?」

 その瞬間、視界が白く染まった。
 かろうじで見えていた夕焼けの教室は消え去り、口をがばっと開いて天に向かって絶頂を叫んだ。

「ふぁ、イっ、イくぅぁぁぁっ!!?」

 とうとう、股間に角を擦りつけた少女の肉体は限界を迎えた。
 透けたショーツから、液体がびゅびゅぅっと溢れ出し、アソコはまるでホースで放水したかのようにぽたぽたと床に水溜りを作り始める。まるで、蛇口を捻った水道のよう。

「あっぁ、と、まらなっ……ああぁぁ!! あっ、あぁんっ! ひっやっ!? かっ、はんっ!」

 あまりの絶頂の刺激の強さに思わず首を持ち上げ、小さな胸が張って強調された。薄れた制服から、乳首がぴんと立っているのを否応なしに感じる。アソコが快感で噴火している。少女の体中が、気が狂うほどエッチに気持ちよくなり果てていた。
 動けない、気持ちよすぎて。カラダを動かす電気信号は、全て快楽の電気に上書きされて、何も制御できなくなった。"見る"という行為は、目一杯快感を感じるために上書きされたおかげで、真っ白だ。

「あっあ……ぁ……ああ、っ。はっ、はぁっ……く、は、ああぁっ……」

 がく、がくと数度カラダを震わせたあと、がくんと力なく机の上に伏せた。
 じわり、スカートにもアソコから噴出した液体が染みこんでくるのを感じる。床だけ出なく、机の上に作ってしまった水溜りをつけてしまったのだろう。
 しかし身体に残った快楽の余韻が、それは全てどうでもいいとさえ思わせてくれた。俺にとっては、もともと身体から抜け出せばいいので、何も考える必要もない。

「はぁ、はっ……すっ……すげ……」

 机に横たわったままカラダを少し上下させると、まだ僅かに刺激することができて、それもゾクゾクして気持ちがよかった。
 男は一度絶頂を迎えると、連続でいく気にはなれない。
 しかし女子は違った。いまイったばかりだが、疲れさえ無視すれば、このまま続けられそうだ。

「この肉体……っ。女子のカラダすげぇ……ぇ。あ。う、動けない……っ」

 ……といっても、最初で加減も分からないでやってしまったせいで、どうもやりすぎたらしい。
 立ち上がろうにもカラダに力が入らず、情けない姿で机の上に突っ伏したまま、しばらく過ごさなければならないらしかった。
 このまま幽体を抜け出してとっとと逃げてもいいのだが……さすがにそれは可哀想だし、学校内で問題になってしまう。

「やりすぎた……う、身体が持ち上がらない。はぁぁ……息も、あがってる……っ」

 後悔しても遅く、しばらく体力が回復するまで待つしかないようだ。俺はこのカラダのまま、誰もこないこの場所で過ごすことを決めたのであった。

 しかし、このカラダから抜け出す前……名残惜しくなって、今度は指でイったばかりの股間を弄って、もう一度はしたなく喘ぎながら女子の絶頂を迎えてしまったのは、誰にも内緒だ。
 この日から、女子に取り憑いて好き放題する、最高に気持ちのよくなる行為が始まった。







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