二転三転憑依劇
 作:嵐山GO


第二章

「桃ーーっ、起きなさいよー」
 遠くで女の人が叫んでいるようだ。
「桃ーーっ、いつまで寝てんの。遅刻するわよ」
 今度は声が近いな。なんか怒ってるみたいだ…桃?
 桃ってなんだよ?
「今日で試験終わりでしょ? 早く起きなさい!」
 バタンとドアが開けられ、僕は驚いて跳ね起きた。
「あ…あわわ…だ、誰でしょう?」
 桃も分からない。入ってきた女性の顔も分からない。

「なに、寝惚けてんの。ゆうべは何時まで勉強してたの?」
 布団を捲りあげられた。
 水色地に動物がプリントされた可愛い女物のパジャマを
僕が着ている?
「あ…えーと、僕は…」
 何を言っていいのか分からず戸惑う。
「だから早く起きて顔洗ってきなさい。遅刻したら
勉強したのが無駄になるわよ」
 まだ若いであろうこの女性が懸命に僕を煽り立てる。
 背中を押され、部屋を出た。

 二、三歩歩いてやっと頭がはっきりした。
(ああ…そうだ。僕はこの家の娘に憑依したんだった)
 目を大きく開いて昨夜の記憶を辿ると、急ぎ洗面所に
駆け込んだ。
 記憶を呼び出しながら、洗顔を終える。
(そうとも僕は今日から、この子に代わって高校へ行くんだ)
「ママー、もう時間ないから食べないで行くー」
 どうやら母親のことを「ママ」と呼んでいるらしい事は
分かった。
「ミルクくらい飲んでいきなさい」
「いいよー、今日は帰りが早いから友だちと寄り道して
食べてく」
 言いながら自室に戻り、パジャマを脱ぎ制服に着替える。

(そうか…自慰の後、目覚ましを掛けずに寝たんだった。
時間は、と…お、急げば次のバスに間に合うな)
 壁の時計をチラリと見、胸のリボンを結んだ。
(よし、行こう)
 鞄を持ち部屋を出、先ほど脱いだパジャマと下着を
洗濯機に放り込むとまっすぐに玄関へ向かい靴を履いた。
「ママ、行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃい。車に気をつけるのよ。この前
みたいに慌てて転ばないのよ」
(どうやらこの子は、相当おっちょこちょいみたいだな)
「はーい」 

(女の格好でバス停に立っちゃったよ…それにしても昨夜の
オナニーは良かったなぁ)
 それからバスを待つ数分の間に学校のことや友人のことに
ついて記憶を取り出してみた。
(…こんなとこでいいか。あまり読むと楽しみが無くなる)
 相変わらず今日も、自分が女に変わっていく長い過程を
楽しみ続けている。

 何事も無く教室に入り、テストも無事終わった。
(高校生のテストくらいなら何とかなる。さてと次は…と)
 筆記道具を片付けながら、辺りを見回していると
一人の女子が近づいてきた。
「桃、どうだった? 今日のテストは」
 じっと顔を見ると昨夜の記憶が蘇った。
(あー、この子が大塚美矢か…やはりスタイル抜群だな)
「え…うん、まあまあかな」
「桃がまあまあなんて…さては徹夜で頑張ったな」
 美矢が首を締めながら言う。
「痛いよ、美矢ぁー」
「ねえ、桃。この後マック行くでしょ?」
 いつもの事なので、気軽にファーストフードに誘ってくる。
「うん、いいよ。お腹、空いちゃった」
(ラッキー! 向こうから舞い込んで来やがった)

     ☆         ☆

「あのさ…ちょっと聞きたいんだけど…」
 美矢が席につき辺りを伺うと、急に小声で聞いてきた。
「なーに?」
「あんた男でしょ?」
「ええっ! な、なんで私は…」
「桃香に憑依してるんでしょ? 違う?」
(バ、バレた?)
「あの…それは…えーと」 
 動揺を隠せない。急にセーラー服を着てる自分が
恥ずかしく感じた。
「大丈夫よ。私も同じだから。黙っててあげる」
「え? 同じって?」
「私も美矢に憑依してる男だよ。でも、なんでだろ?」
 不思議そうに見つめてくる。
「?」

「そっか。あんた、桃香の記憶を完全に吸いだして
ないんだ。だからスグに気づかなかったのかも」
「どういう意味ですか?」
 自然と話し方が変わる。
「普通さ、あの憑依薬使うと相手に乗り移って、
スグに記憶を盗むわけ。だって、その方が早く相手に
なれるわけだもん。違う?」
「そう…ですね」

「あんたはさ、なんで記憶を盗まないの? ていうか
なんで男を保ってるの? 桃香になりたかったんじゃ
ないの?」
「ぼ、僕は桃香ちゃんが好きで…独占したかったんです。
だから、なりたかったっていうのとちょっと違うかも」
「でも桃香の身体は欲しかったんだ」
「そうですね…誰にも渡したくないっていうか…」
「ふうん…男の記憶を優先してるのは、それなんだね」
「そんなとこです」

「でも日が経てば私みたく、憑依した相手を探せるかもよ」
「分かるんですか?」
「一応、同類だからね。同じ薬を使って憑依した人間は
遠くからでも分かるよ。ま、滅多にいないんだけどさ」 
「へぇー、そうなんですか」
 ネット上で流れている薬は一回売れる毎に閉鎖を
繰り返している。
 効能も怪しいが、法的には完全に違法なのだ。
 だから仲間と言っても、そう簡単には見つからない
だろう。
(別に同類の仲間が欲しい訳じゃないし…)

「あんたも少しづつ桃香になっていけば分かると思うよ」
「はい、分かりました」
「あ、別にタメ口でいいよ。桃の中に何歳の男が入って
るのか知らないけど、今は私たち同級生なんだからさ」
「そうですね、あ…そうだよね」
 あえて、こんな言い方をするのは彼女の中身は相当、
年齢のいった男なのかもしれない。

「私は憑依して、もう半年になるけどスグに記憶全部
読んじゃった。えへ」
 舌を可愛く出す仕草など、たしかに年頃の女の子に
成りきっている。
(僕はどうしよう…)
「あ、さっきの話だけど、この前さ…隣町だったかな。
横断歩道渡ってたらOL風の憑依された女の人が前から
歩いてきたんだよ」
 コロコロと話題が飛ぶのも年頃の女の子の特徴かも
しれない。
「うん、うん」

「最初、向こうは気づいてないみたいだった。あんたと
一緒で憑依して間もないんじゃないかな。でもすれ違う時、
ちらっと私を見たから、もしかしたら気づいてたのかも。
そんだけ」
「声は掛けなかったんですか?」
「どうしようかなって思ったけど、ちょっとケバいって
いうか、イケイケ風だったからやめたの。好みじゃないし、
あんまりお友達にはなりたくない感じだった。もっとも
見た目じゃなく、オーラみたいなもんだったかもね」
「へぇー」

「話し変わるけど、私に彼がいるのは知ってるよね?」
「あ、うん。記憶を読んだから」
「ふうん、そこら辺は読んだんだ」
「沢山ではないけど、学校の事とか友達の事くらいは
知っておいた方がいいと思って」

「うん。でもこれは、さすがに知らないと思うけど…」
 さらに声を細め耳元で言った。
「私たち、セックスしたんだ」
「そ、そうなの?」
 桃香ちゃんが知らないことは、もちろん僕が知り得る
事実などない。

「美矢って子は貞操観念が強いみたいだったけど、乗り
移ってスグにしちゃった。てへっ」
「…いいのかな」
 我ながら妙な質問だとは思う。
「いいじゃん、別に。ま、彼の方はビックリしてたけどね。
私から誘ったから」
「バレなかった?」
 これも実に論外の質問だ。
「バレるわけ無いじゃん。喋り方も動作も全部、読んで
るんだよ。小さな癖もね」
「あ…そっか」

「改めて聞くけど、憑依したのは昨日の夜でしょ。だって
昼間は気づかなかったもの」
「そうです。ちょうど試験勉強を始めるところでした」
「オナニーとかした?」
「ええっ! ちょ、ちょっと」
「スルでしょ、普通。で、どうなの? 桃香の身体は
気持ち良かった?」
「う…うん、でも…最後は、かなり痛くて止めました」
 正直に話した。

「間違いなく処女だからね。血が出たんでしょ?」
「うん…」
 俯くと昨夜の辛い記憶が蘇る。
「あのさ、唐突だと思うけど…あんたもしなよ。セックス」
 今度は美矢が言葉を探っている。
「スルって言っても…相手が」
「私の彼を貸すよ」
「え、な…何を言ってるの。それは駄目でしょ」
「アイツなら大丈夫。桃の事、いっつも可愛いって言って
るし、それより最近マンネリ気味。若いから下手なんだ…」
 ちょっと視線をずらして言った。

「そうなんだ…でも、ちょっとそういうのはヤバイよ」
「ヤバいとかはないよ。避妊はさせるし…そうだ!
なんなら3Pしよっか? どう?」
「ええ!? い、いきなり初体験で3P?!」
「ちょっと声、大きいって。馬鹿」
「ご、ごめん」

「私たちが先に絡んでさ、それを見てればいいじゃん。
興奮してきたら交じるって事で。ね? グッドアイデア」
 人差し指で天を指して、微笑む。
「う〜〜〜ん…でもぉ」
「いいじゃん、いいじゃん。やろうよ。絶対刺激的だって」
 嬉しそうに計画を立てる美矢の顔を見た。
(やはり中身は相当、年のいったオッサンなんだろうな。
女子校生に、こんな変態的な行為をさせたいなんて)

「どうしよう…そんな、いきなり困るぅ」
 両手を口に当て、昨日鏡に映した恥じらいを演じる。
「女のセックス凄いよ。男なんて出して終わりじゃん。
女の快感はずっと続くし、感度だって比較にならない
んだから。知ってるでしょ?」
 満面の笑顔を作って言う。
「う…ん、でも…やっぱ」
「お願い。友人を助けると思って。ね?」
 いつの間にか桃香の処女喪失から、美矢のマンネリ脱却に
話しがスリ変わっていた。

「うーーん、もう、仕方ないなぁ」
 セックス願望は確かにある。それにいつか体験するなら
早い方がいいとも思うし、誰かがきっかけを提供して
くれるというなら、願ってもない提案だ。
「やったー! サンキュッ。桃、大好きっ。愛してるよ」
 頬にキスしてきた。
「あん」
(最初は美矢とレズる計画だったのになぁ…)
 淑女を演じても所詮、この身体の中は男なのだ。
 
「じゃさ、今度の日曜日ね。いい? 空いてる? 細かい
事はメールするから」
「日曜日? え? え? 三日後だよ」
 一気に不安が増してきた。
「彼ね、ミニスカートとかキャミとかタンクトップとか、
とにかく露出の多い服が好きなの? 確か持ってたよね」
 話しが勝手に進んでゆく。
「うー、探してみる…けど」
 記憶を辿ればいいのだが、帰って探すのも楽しみだ。
 それよりも…

「あ、そうそう。この三日間の間に女を磨いときなよ。
意味分かる? ちゃんと指入れて、感じるようにして
おくんだぞ」
 肩をポンと叩かれた。
 その後は、食べながら他の話しをして別れたが
一体何の話しをしたのか、まるで覚えていない。
 それ程までに日曜日の件は強烈にのしかかっている。 
 
 帰宅してジャージに着替えてから、すぐに
オナニーを始めた。
「女の身体は感度も快感も凄いんだからね…」 
 美矢の言葉を思い返すと、クリだけでスグに絶頂に
達した。
 
 その後、夕食を終えシャワーを浴びパジャマに
着替えてから二回戦に挑む。
 この夜、指は一本しか入れられなかったが、
日が変わるまでに何度も何度も絶頂を繰り返す。
 身体中から大量の汗が吹き出したが、心地良い疲れだ。
(確かに女は凄い…)

 初めてのセックスまで残すとこ、あと二日…


  続く



  三章:冒頭部分


 先日、購入したシフォン地の薄く短いスカートで街に出た。
 下着も同じ日に自分で買った布地の少ないもの。
(やっぱ夏は女の格好に限るな。涼しいー)
 そこへ急な風が吹き込んできた。
「あん、やだ。見えちゃう!」
 慌ててスカートを抑える。
(僕も少しづつ女になってるのかな…)
 そんなことを考えていると視界にタイプの女の子が
入った。
(いいねぇ、あんな子とレズエッチしてぇー)

 同い年位であろう女の子がミニのワンピースで
歩いている。
(あれ? なんか股間のあたりがムズムズするけど?)
 みるみるパンツの締め付けが窮屈になる。
(う、嘘だろっ! 勃起? チン○が生えてきた? 嘘だろ、
ちょっとマズイよ。なんで?)
薄紙のように軽い生地がどんどん持ち上がっていく。 
 慌ててスカートを抑えるが、かえって大きくなったペニスが
目立ってきた。
 女装した変態男だと思われても仕方ない状況だ。




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