本日は雨ときどき憑依なり
 作:ぽぜおくん   挿絵:ポゼッション


その話を耳にしたのはいつ頃だっただろうか。最早誰から聞いたのかすらも定かではないが、例えようもない薄ら寒さを子供心に感じたことをよく覚えている。
当時の私はその話を聞いてからというもの雨を極端に怖がるようになり、随分と親の手を焼かせたそうだ。
今でこそそこまで大げさに怖がることこそ無くなったものの、幼い頃に刻み込まれた記憶というのは根深いもので、今日のような空模様の時はふと思い出してしまう。
頭上に迫りつつある一際巨大な入道雲を見上げた私は、胸の内に湧いてくる漠然とした不安を振り払うべく、隣りにいた友人にその話を聞かせてみることにした。
笑われてしまうのならばそれでもいい。とにかくこの馬鹿げた妄想を共有してくれる相手が欲しかった。実際のところ、細かい内容は殆ど覚えていないのだが。
私はそれまでの会話を多少強引に打ち切り、ちょっと考えてから脚色混じりの怪談を紡ぎ始めた。あらましはこうだ。
何百年に一度、現世に影響を及ぼしかねない程の強い怨念が溶け込んだ雨雲が現れることがある。それが降り注いだ街の人間は、怨念にあてられて皆呪われてしまうという――


「――っていう話なんだけどさ」
「なにそれ。オチは?」

友人の春香の反応はそっけないものだった。うだるような暑さの中、延々と聞かされた怪談の余りの陳腐さにうんざりした表情を隠せないようだった。
半ば即興だったにしてはそれなりに上手く話せたつもりだったのにこれだ。ここまで露骨にがっかりされると流石に傷つく。

「オチって言われても……え、怖くなかった?」
「全っ然。小学生でも怖がってくれないと思うけど」
「そ、そっか。うん、なんかごめん」
「謝られても困るんだけど……てかさ、恵。それなら皆呪われちゃいましたーで終わりじゃなくって、もっとこう……」

オチ案を交えながらくどくどとダメ出しをする春香を見て、私は更に落ち込む一方でどことなくほっとした感情も覚えていた。
他の誰かならこうはいかなかっただろう。仮に怪談がもう少し出来の良い物だったとしても、適当な返事を返されるか、あるいは互いに変な空気が流れて終いになるのは目に見えている。
下校途中に怪談を始めるなどといった素っ頓狂な真似に、趣味でもないのになんだかんだ言いながらもここまで乗ってくれるのは春香ぐらいのものだろう。
だからこそ話したというのもあるのだが、要するに彼女はすごく良い奴なのだ。気恥ずかしい言い方をすれば、親友と言ってもいい存在だった。
確かに嫌な顔は一つ二つ見せたものの、しかし尚熱くダメ出しを続けてくれる彼女の姿に思わず笑みがこぼれてしまう。

「後は雨が血の色に変わっていくとか……ってちょっと、聞いてんの?」
「はいはい、聞いてますよ」
「恵が始めた話でしょ」
「だから聞いてるってば。それより――」

血の雨はそれこそ陳腐ではないか。そう軽口を返そうとした時、足元にぽつぽつと染みが滲んでいることに気が付いた。もうっとした独特の臭いがアスファルトから立ち昇り、鼻を突く。
先程までは家屋の向こうに覗く程度であった入道雲が、いつの間にやらすぐ目前まで迫っているではないか。じきにこの辺りも激しい雨に見舞われることだろう。
ずぶ濡れになるのは誰だって嫌なものだ。私は通学バッグを漁り、内ポケットから折りたたみ傘を取り出した。

「おっ、準備いいじゃん」
「にわか雨が降るかもって予報で言ってたでしょ」

嘘ではなかった。とはいえそれは今の季節の決まり文句のようなもので、その為にわざわざ折りたたみ傘を持ち歩く女子高生など少数派だろう。
雨が苦手だからという理由で常に傘を持ち歩いているなどと知れたら笑いものだろうが、実際こういう場面に出くわすことも少なくないので割と役に立つのだ。
春香は特に不審がることもなく、背を屈めると遠慮がちに私の横に身を寄せた。

「ごめん、ちょっと入れてくんない?」
「いいけど、ちょっ……寄り過ぎ、狭いって!」
「へへ、相合傘ってやつですな」
「いやいや止めてよ気持ち悪い。交差点とこのコンビニで傘買ってよ」
「なんだよもー。つれないなー」

思いの外恥ずかしい構図になってしまいつい邪険に扱ってしまうが、雨に濡れさせるのも忍びないので僅かに彼女の方に傘を傾けてやる。
そんなやり取りをしている内に傘を掴む手に水滴の弾ける振動が伝わってきた。そしてものの数秒もしない間に、激しい雨音と共に視界が白い飛沫で埋め尽くされた。
一体いつぶりだろうか。文字通りバケツを引っくり返したような雨だ。足元には既に水たまりがいくつも出来ており、普段は乾いた泥でひび割れている側溝があっという間に川の様になってしまった。
傘の露先から垂れる雨粒が肩にかかり、ひんやりとした感触がブラウス越しに伝わってくる。この分だと靴の中にまで水が染みこんでくるのも時間の問題だろう。

「うわー、ちょっとヤバいねこれ」
「だね。一旦どっかで雨宿りでもする?」
「でもこの辺りで雨宿り出来そうなところって……」

雨音にかき消されまいと少し声を張りながら会話をするも、それを嘲笑うかのようにさらに雨脚は強まるばかりだった。やはり雨は苦手だ。圧迫感に全身を包まれているかのような、そんな錯覚に陥る。
せめてどこかの軒下に辿り着ければ。そう思いながら二人で歩幅を合わせながら歩いていると、ふと春香がその足を止めた。あまりに突然だった為、彼女を少し傘の外に出してしまった。

「ちょ、いきなり止まらないでよっ」
「ねえ恵。あれ……」

彼女はそれどころではないという顔で、正面の方向を指差してみせた。

「もう、一体何が……」

余りに雨が激しいので言われるまで気が付かなかったが、私たちが歩く道の30メートルほど先に一つの人影があった。
それだけなら何もおかしいことはないのだが、恐らくOLであろうそのスーツ姿の女性は傘をさしていなかったのだ。しかも道路のど真ん中でぼうっと突っ立ったまま微動だにせず、ただ上を見上げているようだった。

「……ね?」
「……大丈夫なのかな、アレ」
「どう見ても大丈夫じゃないでしょ」

体調が悪そうだとか、そういった様子にはとても見えなかった。いかにも「ヤバそうな人」だ。近づきたくはないというのが正直なところだったが、あのOLの前を横切らないことには先へ進めない。
この周辺はしばらく一本道が続く為、回り道も出来ない。かといってこの雨の中来た道を引き返すというのも考えものだ。あそこを過ぎれば角の先ですぐ大通りに突き当たり、そこにはコンビニがあるはずだ。

「ど、どうする……?」
「とりあえず行こう。このままここにいたら私たちまでずぶ濡れになっちゃうよ」
「うん……」

春香は少し堅い表情をしながらも、私の半歩前に出て早足で歩き出した。傘を持っているのは私なのにこれでは立つ瀬がない。
雨になると弱気になるのは悪い癖だ。冷静になって考えてみれば、確かに引き返すような話ではないのだ。もしかしたら何か落し物でもしたのかもしれないし、春香と同じく傘を忘れた人などごまんといることだろう。
一歩また一歩と近づくにつれ、OLの姿が鮮明になっていく。依然として全く身動きする気配を見せず、直立不動のままだ。そろりそろりと先程までよりも慎重に歩幅を合わせながら、遂に私たちはOLのすぐ手前まで辿り着いた。
OLはこちらに背中を向けて立っていた。なるべくなら前を横切りたくはないので、端まで少し余裕のあった左側に回り込みながら今度は若干早足で通り過ぎようとした、その時――

「ちょっと、何を……あっ!」
「春香っ!」

突然の出来事だった。OLが不意にこちらに振り返ったかと思うと、春香の腕を掴んで勢い良く引っ張ったのだ。
一応警戒こそしていたものの、まさか手を出してくるとは。OLに引っ張られた春香はバランスを崩し、深い水溜りの中に背中から倒れ込んだ。
悲鳴と共に水しぶきが上がり、私の靴に少しかかった。いや、そんなことはどうでもいい。助けなければ。OLは不自然な動作で顔をがくんと下げ、うずくまる春香を見下ろしにたりと笑っている。

「へ……へへ……いきなり三人……ここは大当たりだな……」

何を言っているのか。それを考えるよりも先に手が動いた。傘を放り出して左手に抱えていたバッグを両手に持ち直し、小さく右に一振り。
腰の辺りで止め、今度は体重を乗せて左に向かって大きく一振り。教科書その他諸々分の質量にかかった遠心力を、そのままOLの脳天目掛けてぶつけてやった。

「がっ……!」
「春香! 立って、逃げるよ!」

茫然自失としている春香の腕を掴み無理やり引き起こすと、ただひたすらに走った。途中後ろを振り向くと、OLは頭を抱えたまま膝を付いており、すぐに追いかけてくる気配は無かった。
傘は勿体無かったが仕方がない。親友を危険にさらすぐらいならあのOLにくれてやった方がマシというものだ。気休め程度にバッグを頭上に構え、雨の中視界を確保する。
あそこの角を曲がればコンビニは目の前だ。直に降り注ぐ雨に息苦しさを覚えながら、這々の体でコンビニに辿り着いた。
ひとまず喫煙スペース近くの軒下に滑り込み、そこでようやく春香の腕を離し深く息を吐いた。春香は憔悴しきった様子で、水も拭わずに地べたに座り込んでしまった。、
あまり長い距離を走った訳ではないのだが、ずいぶんと濡れてしまった。下着にまで水が染み込んだ感覚がある。しかし春香の方はそれどころではなく、頭の先から爪先までずぶ濡れの状態だった。
水溜りに突っ込まされたので無理もないが、下着が完全に透けてしまっている。急ぎ警察を呼ぼうとも思ったが、ひとまずはコンビニでタオルでも買ってくることにした。
距離こそそう遠くないが、ここなら人気のあるしあのOLも無理には襲ってこないだろうと判断したのだ。

「大丈夫? どこか怪我とか無い?」
「う、うん……ちょっと背中を打っただけ」
「よかった……ええと、じゃあ私傘と拭くもの買ってくるから。ちょっと待ってて」
「ん……ありがとう」

春香は俯きながらか細い返事を返すばかりで、顔を起こす気力も無いようだった。あんなことがあったのだから無理もないが、いつもは私を引っ張ってくれている春香の消沈ぶりに心が痛んだ。
心配ではあったが、ひとまず春香を置いてコンビニのドアを開き中に入った。店内には同じく雨に見舞われたらしい客が何人かおり、カウンター近くに掛けられた傘は既に1本しか残っていないようだった。
まあ、傘は最悪買えなくてもいい。ここまで濡れてしまったのなら後はもう同じことだ。と、そこまで考えてふと私は自身の思考に疑問を抱いた。
普段の私なら是が非でも傘の確保を優先したことだろう。とはいえ今は非常事態だ。春香の身体を拭くものを早く買わないといけないし、むしろそう考えるのが自然だと思い、そこで思考を打ち切った。
コンビニにタオルなど置いてあるのかどうかが不安だったのだが、意外にも厚手のタオルがご丁寧に2枚セットで梱包されているのを見つけた。急いでレジに持って行き、財布を取り出す。
そこでふと傘を忘れていたことに気が付いたが、先程まで傘のかかっていたコーナーに目をやると、既に別の客が最後の1本を買ってしまった後のようだった。
まあ、仕方がない。とりあえずは春香にタオルを渡して、それから警察に電話だ。「ありがとーございましたー」という気の抜けた店員の声も聞き終わらない内に、ドアを開いて外に出た。

「ごめん、傘売り切れちゃってて……あれ?」

タオルを袋から取り出しながら右手の喫煙コーナーに向かうも、そこに春香の姿はなかった。どこに行ったというのだろう。周りを見渡してみると、この土砂降りの中コンビニ前の歩道に座り込む人影があった。
春香だった。何が何だか分からなかったが急いで彼女の元に駆け寄る。微動だにせずぺたりと地べたに尻をつけ、見上げるように顔を上に向ける春香。
まるで先程のOLではないか。嫌な予感がした。雨が降った時いつも覚える根拠の無い不安が、今は何故だか現実味を持って感じられた。

「春香、春香っ! ちょっと、何してるのっ!?」

上を見上げていただけではなかった。春香は虚ろな表情でまるで一滴も逃さんとばかりに舌を突き出し、雨をその口で受け入れていたのだ。
彼女の肩を揺すりながら、私は今一度大声で呼びかけた。

「春香っ!!」

そこでようやく初めて私に気が付いたかのように顔をこちらに向けた春香は、涎混じりの雨をごぼっと口からこぼしながら抑揚のない声で呟いた。

「……め、恵……? 恵、ちゃん。うん、恵……どうしたの?」

友人の名前を確かめるかのように何度か繰り返す春香を見て、私は愕然とした。一体どうしてしまったというのか。今や振り切れんばかりに高まった不安を必死に振り払い、彼女の腕を力強く握りしめた。

「しっかりしてっ! あそこ戻ろ、ねえ」
「あ……あめ、雨がね……気持ちいいの……こうやって……身体に、入ってきて……」
「は、春香……?」

彼女は起き上がってくれなかった。地べたに座り込んだまま腰を上げようともせず、それどころか再び雨を呑み込み始めたのだ。身体に滴る雫をかき集め、一滴一滴を嬉しそうに味わっている。
異様な光景だった。先程は大丈夫だと言っていたが、やはりところどころ身体が擦り剥けている。ぐっしょりと濡れた髪は顔中に貼り付いており、異様さに拍車をかけていた。



そんなことはまるで意に介さず、ただ一心不乱に雨を浴びようとする春香の姿に私は心底ぞっとした。ともかく、せめて軒下に連れ戻さなくては。風邪を引くだけでは済まされない。
改めて彼女を起こそうと肩から掴み直す。しかし突然鳴り響いたけたたましい金属音に、またも私の動きは中断された。
はっと顔を上げると、向こう側の歩道で何やら起こったようだった。雨を拭い目を凝らすと、サラリーマンと思しきずぶ濡れの男性と、自転車ごと倒れ込んだ女子中学生の姿が目に入った。

「い、いったぁ……なにする……ひっ!?」
「ははっ!」

男は笑い声を上げながら彼女が握った傘を蹴り飛ばすと、そのまま上に跨がり力任せにブラウスを引き裂いた。そしてスカートも下着も剥ぎ取り、挙句には自分のズボンも引き下ろし……

「いやぁっ! やっ、だれかっ!」

無理やり股を開かされる女子中学生と、その上で腰をふる男。こんなところで堂々とレイプが行われている。そんなことが有り得るのか。
理解が追い着く前に、次なる異常事態が続けざまに起こった。大通りの方から別の叫び声が聞こえてきたのだ。

「ママ! やだ、やめてママ! 」
「おほっ! やっぱロリっ子はそそるねぇ!」

見ると、これもまた雨に濡れた女性が黄色い合羽を着た少女を羽交い締めにして何やら喚いている。
少女の言葉をそのまま受け取るならばあの女性は母親なのだろうが、しかし彼女は下卑た言葉を吐きながら少女の合羽を無理やり脱がそうとしているところだった。
遂には少女を押し倒し合羽も脱がし終わった母親は、あろうことか自らの股間を少女の顔に擦り付け始めたではないか。

「ほらほらぁ。もっと舐めてよ愛梨ちゃん」
「むっ……う、むぐ……」

あれが母親のすることとは到底思えない。いや、今自分の周囲で起きていること全てがとても現実のこととは思えなかった。
ほんの十数秒の間の出来事が、まるで永遠かのように感じられた。何かが起こっているのは間違いない。逃げるべきだ。でも、どこに?

「はっ……あはっ……あ、雨ぇ……」

うわ言のような春香の声で、私は再び現実に引き戻された。そうだ、春香だ。春香はどうなった?
いつの間にか手を離してしまっていた。春香は地べたに座り込んだまま、姿勢を俯き気味に変えていた。自分の身体を覗きこむかのように背中を丸めながら、何やら盛んに手を動かしているようだった。
左手はブラウスの裾に、右手はスカートの中にそれぞれ潜り込み、水に濡れて肌に密着したがる生地をもぞもぞと押し上げている。普通なら信じ難いことだが、最早何をしているのかは明らかだった。
春香はこんなことをする奴じゃない。なんで、一体どうして……

「……は、春香……春香ちゃん……ひ、ひひっ……」

自分の名前を連呼した春香は顔をゆっくりと上に向け、息継ぎでもするかのようにまた雨を舐め取り始めた。
雨だ。私の中の直感がそう告げた。今度ばかりは根拠の無い不安などではない。昔聞いたあの話に近い状況が今まさに起こっているのだ。
今更とも思える気付きだった。私は今この土砂降りの中で傘も持たずに突っ立っているというのに、水に濡れた時特有の体温が奪われる感覚や、嫌な生地の肌触りなどを全く感じないのだ。
それどころか、ともすれば進んで雨に打たれても良いような気さえしてくるのだ。そういえばさっきから喉が酷く渇いて仕方がない。口の中に滑り込んでくる雨粒がいやに甘く感じた。
もう一度周囲を見渡すと、先程まで抵抗する様子を見せていた二人の被害者たちは、既に進んで腰を振る立場に成り果てていた。

「あぁっ、いいよっ、その太いチン○もっと奥に突っ込んでぇ〜」
「うぶっ……ねえママ、気持ちいい? 愛梨はねぇ、すっごく気持ちいいよぉ」

女子中学生は腰を大げさに振りながら男の一物を受け入れ、まだそんな行為を知るはずもない少女は自らを慰めながら同時に母親の秘部を舐め回している。狂気の沙汰だ。
このまま浴び続けていると恐らく私も危ない。今軒下に連れて行けば、春香もまだ間に合うかもしれない。急がなくては。
踵を返し無理矢理にでも春香の腕を引こうとした私の身体を突然の衝撃が襲った。視界がひっくり返り、頭と腰に鈍い痛みが走る。
春香に押し倒されたのだということに気が付いた時には、既に彼女は私の上にのしかかろうとしていた。

「うっ……春香、やめ……」
「恵ちゃん……恵……」

春香はニヤついたような、一方で苦悶に満ちたかのような、歪極まりない顔付きで私を見下ろしていた。
その頬を伝うのは涙だったのか、ただの雨粒だったのか。この雨の中では最早知るすべもない。

「め、恵……やだ……に、逃げ……」
「春香……?」

一瞬、いつもの春香の表情を見た気がした。あるいは私の願望が生み出したある種の幻覚だったのかもしれない。
いずれにしても次の瞬間には春香の顔からその色は消え失せ、これまで見たことも無いほどの満面の笑みを浮かべ私を押さえ付けていた。

「恵ちゃんっ……春香ちゃんと一緒に遊ぼうよ、あははっ」
「あ、ああ……」

手遅れだ。もうどうすることも出来ない。絶望的だが、だからこそはっきりとした確信があった。コンビニの方からガラスが割れる音がした。屋根があるとはいえ、あそこもそう長くは持たないだろう。
春香は濡れた髪を拭うようにかき上げ、興奮した様子で捲し立てた。

「恵ちゃんって意外と元気ハツラツだもんね〜。さっきは思いっきり殴ってくれちゃってさぁ。痛かったんだよ?」

わざとらしい動作で頭を擦る春香。殴った覚えなど勿論ない。

「あのOLさ、上手く動かせなくなったから捨ててきちゃった。死んでたらどーすんの、ははっ」

そうだった。昔聞いたあの怪談話に登場する雨雲は、一人の男によるものだった気がする。そんな場違いな思考が頭をよぎった。
たった一人の底知れぬ欲望に全てが壊されてきたのだ。だが、度し難いその醜悪さも、今なら何となく受け入れられる気がした。
身体に降りしきる雨粒が、地面に届くこと無くそのまま身体の内へと染みこんでくる感覚。水たまりと化した路面がまるでベッドのように心地良い。

「ところでさ、恵って結構胸でかいよね。私ずっと生で見てみたいと思ってたんだ〜」

いつもの調子で語りかけてくる春香の姿に胸の奥がずきりと痛んだ。何故こんな思いを抱くのか、最早それすらも分からなくなってしまったというのに。
ブラウスのボタンを一つ一つ外していく春香の指の動きを私はただ見つめていた。ブラジャーまで外し終わった春香が、我慢しきれないといった勢いで私の胸にしゃぶり付いてくる。

「んむ、ちゅぱ……」
「いや……春香、止めて……」

穏やかな心持ちとは裏腹に、私の口が紡いだのは拒絶の言葉だった。春香にそんなことをさせてはいけないのだという感情が、しぶとく私のどこかに残っているようなのだ。
喉が渇いて堪らない。空から降り注ぐ雨粒をなるべく多く受け止めるべく、私は口を大きく開いた。この雨粒一つ一つの中に私がいるのだ。
そう思うとただの雨粒がやたらと愛しく思えてきた。口の中に一しきり溜まりきった水を飲み込むと、喉の奥からじわりと私が私の中に広がっていく。耐え難い苦痛だったが、甘く柔らかい味わいがした。

「はぁ……恵もこっちの方の準備、出来てる?」
「んっ、うう……」

スカートの中に差し込まれた春香の指がパンツ越しに私の股間を優しく撫でた。背徳感も相まって、それだけで絶頂に達しそうな程の快感だった。
春香の顔がこちらに近づいてくる。嫌だ。そんなこと私も彼女も望んでいない。私がそう考える度、私の思考がどす黒い何かに塗りつぶされ、捻じ曲げられていく感触があった。
支離滅裂な思考の前後は段々とその頻度を落としつつある。恐怖故か快楽故か、自然と溢れ出てきた涙が雨に混ざって滴り落ちた。

「恵? どうかした?」

春香はにっこりと微笑みながらこちらを見つめていた。濡れそぼった服をはだけさせ艶かしさを漂わせるその身体に、腹の底から悶々とした感情が湧き上がってくる。
彼女を犯したい。めちゃくちゃになるまで犯してやりたい。初めて覚えたはずの、しかしどこか懐かしいその感情をゆっくりとなぞるように反芻した。
彼女は親友なのに……いや、親友だからこそ興奮するというものだ。そうだ、「俺」がそう決めたことなのだ。逆らう理由などどこにもない。
深く息を吸い込み、そして吐いた。未だ雨を振り撒くことを止めようとしない灰色の空とは対照的に、俺の頭の中は嘘のように晴れ晴れとしていた。
地面に投げ出していた両手に少し力を込めて何度か握り締めると、柔らかな肉の感触が掌の中に広がった。

「恵、大丈夫? 何かあったの?」

再び問いかけてきた春香の表情は、今度はどことなく嬉しそうな雰囲気を帯びていた。頭を起こすと、綺麗な形をした二つの膨らみの向こうに俺の上に跨る春香の腰が見えた。
咳払いをして喉の調子を整えると、女特有の甲高い空気の振動が喉を伝った。そんな何気ない動作一つ一つが、今や俺にとっては垂涎もののご褒美だった。
彼女の方に向き直り、こちらもとびきりの笑顔を浮かべて答えてやる。

「ううん、なんでもない」
「よかった。じゃあ、しよっか♪」

楽しげな声色で言い放った春香が改めてこちらに顔を近づけてきたので、俺も肘をついて上体を起こしてやった。向こうが何をしたいのかは全て分かっていた。当然だ。俺は春香の中にもいるのだから。
そっと唇と唇を重ね合わせお互いの感触を確かめ合うと、すかさず舌をねじ込んでやった。春香もそれに応え、ひたすらに舌を絡めあう。口の中に春香と雨水の甘い味が広がって行く。
濃厚なキスを一しきり終えると、春香はちょっと身体を持ち上げてのそのそと前へと進んできた。春香が履いたパンツの生地が乳首に擦れ、思わず「あんっ」と声が漏れてしまう。
それでも春香はその動きを止めず、遂には俺の目の前に春香の股間がでかでかと現れた。

「ちょっと春香、自分だけ楽しむつもり?」

俺が敢えていじわるな質問を飛ばしてやると、春香は鼻息を荒くしながら答えるのだった。

「だってさ、さっきあいつらにも同じことやらせてみたんだけど全然なんだもん」

大通りの方を横目で見ると、先ほどまで痴態を繰り広げていた母娘は既にその鳴りを潜めていた。
母親にのしかかられたままの少女は精根尽き果てた様子で、自らの股に突っ込んだままの指を時折ぴくぴくと動かしていた。一方で、母親の方は緩慢な動作で腰を前後に動かすばかりだ。その表情はどことなく不服そうにも見えた。

「やっぱりガキは体力が無くってダメだよねー。だから恵にはもうちょっと頑張って貰おうかなって」
「もう、春香ってば」

全く俺というのは仕方のない奴だ。我ながらおかしくなってしまい笑みがこぼれてしまう。
春香は腰を上げてパンツを両手で掴むと、一気にぐいっと押し下げた。準備万端といった秘部の様子を眼前で見せつけられると、いやが上にも気分が昂ぶってしまう。こちらの股間もキュンと疼いたのを感じた。
スカートで覆い隠された薄暗い空間の中に顔を突っ込んだ形だ。これで興奮するなという方が難しい。

「それじゃ恵、ふぁいとっ」

ずいっとこちら目掛けて突っ込んできた春香の秘部を、舌に力を込めて受け止めてやる。硬くなった舌先が、まずはちょうど会陰のあたりを突いた。
春香の身体全体がぶるっと震えるのが分かったが、すぐに収まった。スカートの中で反響する水音と自分の息遣いに興奮しながら、そのまま舌を上下させつつ小陰唇を遡っていく。

「あっ……あんっ」

時折聞こえてくる春香の可愛らしい喘ぎ声が、上へ上へと向かうにつれてどんどん激しくなっていくのが分かった。そして遂に、舌先がクリトリスを捉えた。
「はひぃっ」という一際大きな喘ぎと共に、またも春香の身体が大きく震えた。春香の中からどんどん溢れ出てくる愛液を擦り付けるように、円を描きながら舐め続ける。

「ああっ、ヤバっ、なにこれっ」
「ん、ぷはっ。ちょっと春香、そんなに動かないでよ」

あまりにも激しく動かれるので、スカート越しに春香を咎めた。これではろくに狙いも定められない。

「だ、だって……恵っ、恵があたしのマン○舐めてっ……あはっ、あはははっ」

今や春香本来の意識は影も形も残っていないはずなのだが、身体が覚えているのだろう。親友に秘部を舐め付けさせるという行為の中で、湧き上がってくる背徳感に身を捩らせているようだった。
かくいう俺も、先ほどから倒錯した感情が自分の中で渦巻いているのを感じていた。「私」がこの状況を見たらどんな顔をするか。きっと発狂ものだろう。それを考えるだけで思わず股間が熱くなってしまう。

「ふふっ、私まで興奮してきたじゃん」
「あっ、ああっ……。ねえ、恵っ、もっと舐めてっ」
「はいはい」

そう言ってもう一度クリトリスに舌をやろうとしたその時、春香の身体が一際大きく震えた。同時に春香の秘部から愛液が勢い良く吹き出し、俺の顔にかかった。どうやら前戯もろくに済まない内にイッてしまったらしい。

「はぁっ……あ、あぁー……」
「ちょ、ちょっと春香……」

俺は口のそばについた春香の愛液をぺろりと舐めとった。次いでスカートの中から顔を出すと、顔に降りつけた雨がせっかくの愛液を流し去ってしまう。
ちょっと勿体無い気もしたが仕方がない。いくらなんでも早すぎると春香に抗議しようと上を見ると、春香は蕩けた顔をしながら肩で息をしていた。

「はぁ……はぁ……」
「ねえ、春香」
「はぁ……わ、わかってる……ごめん……」

春香は申し訳無さそうな顔をしながら腰を持ち上げると、私の上から降りて水溜まりの中にばしゃりと尻を付けた。
そして俯き加減に俺の方を見ながら、今度は引きつった笑いを浮かべて反省の弁を語り始めた。

「めっ、恵がさっ……あたしの……も、もう我慢できなくてっ……」

春香は自分の身体をぎゅっと抱きしめながら、なおも肩を震わせた。

「そ、そんなこと恵にっ、春香ちゃんにさせてると思うとっ……ああっ……」
「ちょっとちょっと、素が出てる」

思わず突っ込みを入れてしまう。気持ちは分かるがあまり雰囲気を壊さないで欲しいものだ。
こちらはお預けを食らった気分のままなのだが、春香の方もまだまだ満足はいかないという様子だった。むしろ先ほどまでよりも目がぎらついているように見える。

「ね、ねぇ……俺、あたしっ……もうだめっ、チンポ欲しいっ」
「ええ、指じゃダメなの?」
「無理、無理だって……あぁ、また濡れてきた……へへっ……」
「しょうがないなぁ……」

焦らすような問答をしてみるが、春香がそういう意味で限界近いのは分かっていたことだ。もう少し仲睦まじい二人の絡みを続けていたかったのだが仕方がない。
とりあえず心当たりを探るべく周りを見渡した。コンビニの中に何人か男がいたはずだが、あちらはまだ忙しそうだ。店内から聞こえてきた女性の悲鳴を尻目に、反対側へ向き直る。

「ああ、あのおじさんとかいいんじゃない?」

歩道の反対側、サラリーマンの男と女子中学生の二人組は依然行為を続けていた。パンパンという音がその激しさを物語っている。
女子中学生は電柱に寄りかかりながら後ろへ尻を突き出し、それを男がひたすらに突く。そんな繰り返しをもう幾度も数えてきた様子だった。

「あっ……あっ……あぁっ」

しかし仮にも女子中学生。既に脚はふらつき、腰の動きも覚束ない段階まで来ているようだ。殆ど全裸に近い状態で、衣服は袖の辺りに雨で貼り付いているブラウスの残骸を残すのみ。
確か髪は後ろ手に纏めていたはずなのだが、いつの間にか解けてしまっている。どれだけ激しい行為をすればそうなるのか。よく今までもったものだ。まあ、俺が無理にでもそうさせているのだが。
男の方はというとだらけた顔を維持したまま元気に腰を振り続けている。あれが丁度良いだろう。

「ね、こっちに来て貰おうよ」
「なんでもいいから……早く……んんっ」

最早待ちきれないと言わんばかりに、春香は自らの指で男の一物を待つその穴をなだめていた。全く、本当に仕方のない奴だ。
敢えてそうせずとも意思は伝わるはずなのだが、口に手を当て大声で向こうに呼びかけてやる。

「おーい、そこのおじさーん! それもういいからこっちおいでよー!」

その言葉を受けた男はぴたりとその動きを止め、身体を下げて一物を引き抜くと、彼女の腰を掴んでいた手も無造作に離してしまった。

「あっ……あ、ぁ……」

支えを失った腰を何度かふらつかせた後、彼女はがくんと膝をついた。電柱に力なくずり下がりながらも、なおもかくかくと小さく腰をひくつかせている。
もう立ち上がることも満足に出来ないだろう。事が済んだら駒として使うつもりだったのだが、ああなってはどうしようもない。十分に元は取ったとも言えるかもしれないが。

「ぁ……き、きもひぃ……あ゛っ……」

小さく呻いたかと思うと、腰の動きが不意に止まり完全に地面に崩れ落ちる。その口からは雨水がごぼごとと溢れ始めていた。お役御免というわけだ。
虚ろな目をした哀れな女子中学生は、最早ぴくりとも動くことはなかった。まさか死んではいないだろうが、あのまま裸で雨に打たれ続ければどうなることやら。
それはさておき男の確保だ。彼に向かって手招きしてやると、パンツも履き直さずにこちらへ歩いて来た。まだまだ元気そうな股間の様子に期待が高まる。

「お疲れ様! ええと……私が恵で、こっちは友達の春香」
「ああ」
「それでさ、おじさんのチン○で春香を犯してやって欲しいんだけど。できればその後私もっ」
「ああ」
「やった、ありがとう!」

茶番も茶番のやり取りを済ませる。男はただ無機質に返事をするばかりだったが、一方でその一物は既に反るように立ち上がっていた。あれで突かれれば春香も満足することだろう。
春香の方はというと、目を離した隙にパンツを脱ぎ捨てこれでもかと言わんばかりに脚を広げていた。両肘を地面につけて上半身をだらりと仰け反らせているが、その目はしっかりとこちらを見据えている。
早く早くと腰を揺らす春香の顔は、まさしく期待に満ち溢れていた。男は相変わらず無造作な動作で春香の脚の間へ侵入すると、彼女の上に軽く身体を預けた。
脇の地面に伸ばされたたくましい両腕を、春香の手がぎゅっと掴んだ。体勢は整った。後はもう受け入れるだけだ。

「ああ……犯されちゃう。あたし今から犯されちゃうよ、恵ぃ」
「うん、そうだね」

俺は春香の傍にそっと腰を下ろし、ただ行く末を見守ることにした。親友が犯されるのを特等席で見ることが出来るのだ。順番待ちぐらいは我慢してやろうではないか。
男の一物が春香の股間にそっと触れ、春香の身体がぴくんと震えた。俺はふと気になったことを口に出して聞いてみた。この身体の記憶を漁ってみても宛がない事柄についての質問だった。

「そういえば春香って処女なんだっけ?」
「え? うん、そうだよ。言ってなかったっけ」
「へえ、意外だな。春香そんなに可愛いのに」
「えへへ、ありがとう」

お世辞でもなんでもなく俺が率直に抱いていた感想だった。それでまあ、その純潔はここで儚く散るわけだ。
いよいよ春香の秘部を正確に捉えた男の一物が、一息ついた後なんの感慨もなく春香の中へとぶち込まれた。ぐちっという感触がここまで伝わってくるようだった。

「いっ……あ、はぁ……」

一瞬痛そうな声を上げた春香だったが、すぐに満たされた表情に切り替わった。痛くないのかと聞こうと思ったが、やめておいた。ここで茶々を入れるのは野暮というものだ。
男の腰が少し浮いたかと思えば、次いで勢い良く春香の股へと打ち下ろされていく。その度に弾けるような水音と、甲高い春香の喘ぎ声がコンビニの駐車場に響き渡った。

「やっ、あっ……あんっ!」

そこから先はひたすらに激しい行為の連続だった。流石に女子中学生を果てさせただけのことある。遠慮の無い腰使いに春香は息も絶え絶えという様子だった。
時折身体を痙攣させながら、快感から逃れるかのように身体を捩らせている。

「あぁっ、あっ……ひ、ひぃっ……」

春香が犯されている。先ほど出会ったばかりの名前も知らない男に、愛の欠片もない性欲の捌け口にされているのだ。

「あ、かはっ……なに、なにこれっ……あはぁっ」

少し無愛想なところがあって、それでいて妙に馴れ馴れしくて、でもすごく良い奴で、いつも笑いかけてくれていたあの春香が。

「あっ……こ、これっ……やばっ」

俺は眺めていた。親友が目の前でめちゃくちゃにされているのを、ただ眺めていた。
またずきりと胸の奥が痛んだ。気を抜けば雨水を全部戻してしまいそうだった。すんでのところでそれを飲み下し、代わりに深く息を吐いた。

「全く仲の良いことだよ、本当に」

狂ったような春香の喘ぎ声に紛れ、俺はぽつりと呟いた。もう一度深呼吸をした後、はだけたブラウスから手を突っ込んで左の胸を掴んで軽く揉んでやる。
柔らかな快感が広がっていくと共に、深い沼の中へと沈み込んでいくように痛みが薄れていく。

「そんなに心配しなくても大丈夫だって、恵ちゃん」

口元に滴ってきた雨水を舌先で掬いながら、もう一度だけ呟いた。春香が済んだら次は俺の番だ。今から楽しみで仕方がない。
私が犯されている間、春香は一体どんな顔をしてくれるのだろうか。あれだけ乱暴に扱かれる中で、それを確認する自信がないことだけが少し気掛かりだった。


未だ止む気配を微塵も見せず降りしきる雨の中、延々と響き続ける喘ぎ声。春香と男の交わりは、いつの間にやら新たな淫女たちを加えた4Pへと発展していた。
騒ぎを受けて駆け付けてきた二人組の婦警がミニパトから降りてきたかと思えば、ものの数十秒もしない内に雨の餌食になって仲間入りしたというのだからお笑いだ。
警棒片手にご高説を垂れていた時の威厳は何処へやら、二人してあんあん鳴きながら涎を垂らしているその姿がまた傑作だった。
俺の順番がまた遠のいてしまったことには少しげんなりしたが、これはこれで中々の眼福にあずかることが出来たので良しとしよう。

「あぁ、あっあっあっ、あうっ、ま、またイクぅっ」
「はっ……はぁっ、うわ、感度すごっ……」
「ふぁっ、先輩っ……あっ、もっとぉ……ひゃんっ」

いっそ写真にでも収めてやりたくなるほどの眺めだった。これをオカズにして一人で楽しむのも一興かもしれない。とはいえ、それを拝めるのは何もここに限った話ではない。
今やこの街のそこら中で、こいつらに負けず劣らずの狂宴が繰り広げられているのだ。俺はそっと目を閉じ、耳を澄ますように周囲へ意識を傾けてみた。
最初に浮かんで来たのは目の前にあるコンビニ店内の様子だった。割れた窓からは雨が吹き込み、散乱した商品の山の中で二人の男女がひたすらに絡み合っていた。
大通りの向こうでは駒達が次なる標的を漁っているらしく、ちょうど若い女性の乗った車の窓ガラスが打ち破られたところだった。数分後どうなっているかが楽しみで仕方がない。
遠く女子大では学生達が思い思いに自慰行為に耽っているようだ。幾人かのグループが各々感度の高さを見せつけ合っているその様は圧巻の一言だ。
駅前の広場などは酷いもので、酒池肉林などという言葉が生易しく感じられるほどの有り様だった。何十組もの営みから織り成される嬌声の大合唱は、恐らくここでしか見られないだろう。

「はぁ、皆楽しそうだねぇ。また濡れてきちゃったよ」

恐らく彼ら、或いは彼女らの大半は互いに顔も知らない間柄なのだろうが、そんなことは知ったことではない。今はただ良質な快楽を提供することだけが駒達の役目だ。
こうしてただ立っているだけで、膣内がめちゃくちゃに掻き回され、一物を無理矢理にねじ込み、肉が擦り切れるまで絡み合うその悦びを享受することが出来る。
そしてまたどこかで、快感を生み出す新たな一組が次々とその輪に加わっていく。堪らなく甘美で、この上ない支配感だった。
だがまだ足りない。ふと目を開くと、目の前には相変わらず呆けた顔で腰を振り続けている春香達の姿があった。

「春香ぁ、股から血出てるけど大丈夫? ふふっ、代わってあげようか?」

雨はまだまだ降り続ける。こいつらにもこの身体にも、もう一働きして貰わなければ。底の知れない欲望の渦が途切れるその時まで精々持ち堪えて欲しいものだ。
記憶を頼りに再現されたはずの「私」の笑顔はどことなく歪で、しかしその引き攣った口元は変わらず雨を湛え続けていた。







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