夢遊病?

作:七葉




 目覚まし時計の音がいつも以上にうるさく鳴り響き、私は目を覚ました。今日もいつものように学校なのだが、いつもよりも体がだるい。別に前日激しい運動していたわけではなく、夜更かししていたわけでもなければ、学校に行きたくない理由があるわけでもない。他に考えられる理由というと…


「熱でもあるのかな?とりあえず測ってみるかー」


 しまってあった体温計を取り出し、体に当てて少し待ってみた。1分ほど待っていると、ピピッという音がした。平熱だった。


「うーん、熱ないのかー、疲れでも溜まってるのかな?ってヤバい!急がなきゃ!」


 自分に言い聞かせるように言って、なんとかだるさを気にしないように、そして時間に間に合うように着替えを済ませた。

 だるさはあったものの、食欲は普通通りあったので朝食や歯磨きも済ませ、学校に向かう。今の時間なら間に合いそうだ。


「おはよー!」


 元気な挨拶とともに、友人が現れる。


「ん?…ああ、おはよう」


 だるさのせいか、挨拶を返すのが遅れてしまった。


「どうしたの?元気ないじゃん!」


 呑気なものだ。こっちが聞きたいレベルで正体不明のだるさに襲われているのに。まあ、あっちはそんなことを知るよしもないので仕方がないのだが。


「うーん、それがよくわからないんだよねー。朝起きたらなぜかだるくてさ、別に寝不足とか病気とかじゃないし…」


とりあえず事情を話してみる。だるさの原因が少しでも分かるかもしれない。


「そうだねー、やっぱストレスとか…いや、でもストレス感じるタイプじゃないだろうし、疲労が溜まってるんじゃない?勉強とかさ、あるでしょ?」


「やっぱりそんな感じかなー?」


 その後、他愛のない話をしながら学校に着いた。

 だるさがあるので、授業に集中できるか不安だった。しかも1時間目は数学ときた。これはまずい。


「…であるため、この式の解は…さん、答えなさい」


「…あっ、えーと…」


 不安は的中した。先生の話が一切頭に入ってこない。


「すみません、わかりません」


 普段ならば頑張って答えようとするのだが、そんな余裕はなく、ひたすら襲い掛かってくる睡魔の猛攻に耐えようとするので精一杯だった。



…チャイムの音で私は目を覚ました。どうやら寝てしまっていたらしい。

 ふと、何か違和感を感じた。


「…え!?なんで私トイレにいるの?」


 目が覚めたら、トイレにいた。それも、スカートや下着は降ろした状態で。わけがわからない。

 いくらひどく寝ぼけていても、さすがに移動した感覚くらいは残っているはずであるが、そんなものは一切ない。さらに、股と手が濡れている。これが何を意味しているかはすでに高校生となる私にはわからないことはなかった。

 しかし、何故授業中に寝ていたと思ったらトイレにいて、「そういうこと」の痕跡があるのか?しかも私自身がやっていたことになる。

 とりあえず、手を洗い、服装を整え、教室に戻ることにする。時計を見ると、もう授業終了間際だった。


 休み時間、私は友人に心配されていた。


「随分トイレ長かったけど、大丈夫?」


 気付いたらトイレにいたなどとは言えなかった。


「うん、大丈夫」


「あ、もしかして便秘?だからだるかったの?」


「あ、うん、そうかもしれない」


 とりあえず誤魔化すしかなかった。


 その日は、ずっとだるさが残ったまま終了した。

 これが何日か続き、その中で私はひとつの結論にたどり着いた。


「もしかして…寝てる間に体が勝手に動いてる?」


 考えてみれば、ここ最近あった謎のだるさや不可解な現象は、すべて寝た後に起こっていたのだ。夢遊病というものかもしれない。

 にわかには信じがたかったが、それを検証するするため、寝ている間のムービーを撮るため、カメラを設置しておいた。


 翌朝、ムービーを再生してみる。休日なので時間はある。じっくり観てみたほうがいいだろう。自分の眠る姿を見るのは少し気恥ずかしい気分だったが、それでも謎を解明したい一心で再生のボタンを押した。


 最初は、普通に寝ているだけで、寝言もいびきもなくすやすやと眠っていたのだが、少しすると映像の中の私が急に動き出し、大きく伸びをした。


「ううーん、最近はだるくなるほどやってるから、早く寝てくれて助かるぜ」


 映像の中の私が喋りだした。それも男口調で。


「…うん?スマホが立たせてあるな、なんでだ?ああ、ムービー撮影か。ついに勘付かれたか、再生を停止するか?」


 どうやら、映像の私がムービーを撮っていることに気づいたらしい。


「いや、折角だ、気づいたご褒美をやろうじゃないか。私のあられもない姿、たっぷり見せてあげるよ、よく見ててね、『私』」


 男口調だった映像の私は、急に普段の口調に戻り、確実に見ている私に向けて言った。


「へへ、どうだ?自分のエッチな姿を見るのはよぉ!いやー本当に幸せだよ、こんなにいい体を使えるようになるなんてな、寝てる間にしか動かせないのが惜しいくらいだぜ!」


 私は映像の再生を止めた。自分の破廉恥な姿などたまったものではない。


「あれは私じゃない、あれは私じゃない、あれは私じゃない、あれは私じゃない

あれは!私じゃ!ない!」



今夜は、眠りたくない。












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