艦隊憑依記 1 吹雪編@
 作:憑依好きの人



ここは鎮守府。提督の指示の下で日夜深海棲艦との戦いに明け暮れる艦娘たちにとっての重要拠点であり、命を懸けて守るべき大切な家でもある。そんな鎮守府の提督室から出てくるひとりの少女の姿があった。

「失礼しました!」

セーラー服に身を包み、髪の毛を後ろに束ねている少女は特型駆逐艦「吹雪」。見た目は幼さが残る可憐な女の子だが、彼女もこの鎮守府、ひいては人類を守るために艤装をまとい海で戦う立派な艦娘なのである。時刻は夕方の17時過ぎ。どうやら昼間の出撃の戦果報告を済ませたところのようだ。提督室の扉を閉め一息つくと、ぱぁっと嬉しそうな顔を浮かべた。

「司令官に褒められた!司令官に褒められたぁ……!」

敵深海棲艦との戦いで彼女は見事旗艦を撃沈することに成功し、勝利に大きく貢献した。その功績が提督に評価され彼女は感謝と労いの言葉をかけられたのである。少なからず提督に好意を抱いている吹雪にとってそれはどんな勲章よりも嬉しいものだった。

「今夜はいい夢が見られそう♪」

自室へ向かうためスキップをしながら廊下を鼻歌交じりに歩いていく。そんな幸せいっぱいな彼女を数十メートル先から見つめる視線があった。その視線の持ち主は吹雪が移動し始めたのを確認すると一気に距離を詰めて背後に立ち、一緒に付いていく。しかし吹雪はそれに気づかない。なぜなら彼女の後ろにいるのは半透明な男性の霊体だからだ。既にこの世の者ではない彼を認識できる者はいない。左目から青白い光を放ちながら吹雪を見つめる表情はひどくいやらしいものだった。
程なくして彼女は自室前に到着した。

「今日のことはちゃんと日記に書かなきゃ!」

そう言いながらドア開けようとした瞬間――

「ひっ!」

背後に悪寒を感じ振り返った。しかし、彼女の視界には誰も映らない。

「気のせいかな?」

そう思った彼女は再びドアノブに手をかけようとしたが、何故かピタリと止まる。よく見ると小刻みに震えているようだ。

「あ……やぁ……うぅ…….」

目は虚ろになり、小さな声を上げる彼女の震えはどんどん大きくなっていき、とうとう胸を抑えながら座り込んでしまった。

「何かが……入って……くぅ……あぁっ!……ぁ……」

身体が大きく跳ねた。そして腕をだらんとおろし顔を俯せてしまった彼女は、座り込んだまま動かなくなってしまった。その目からは光が消えており、辺りには静けさだけが残った。

数十秒後、吹雪の指がぴくっと動いた。そのままゆっくりと立ち上がると顔を上げ、辺りを見回す。その目には意志の光が戻っていた。そして誰もいないことを確認すると彼女は何事もなかったかのように自室へと入っていった。






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