笑の侵略者

作:Zyuka




 異変に気付いたのは、誰だっただろうか――?


 とある学校の生徒達の幾人かが、授業中に立ち上がったのが始まりだった。

「いやな予感がする――」

 教室で、生徒達が立ち上がる。

「これは……!?」

 同時に、他の生徒達もおびえているのを感じる――

「物凄く嫌な予感がする……」

「私が一番その嫌な予感を感じているわ」

 クラスメイトの言葉に女子生徒が反応している――彼女もかなり緊張しているようだ……

「皆さん、落ち着いて着席してください!」

 担任教師がそう言うが、その教師も顔をひきつらせている。


 何か、良くないことが自分たちに起ころうとしている――そんな予感がクラス全体を支配していった……


 何かが起ころうとしているクラス中誰もがそう思い周りを見渡す。


「きゃあ!」

「何だあれは!!」


 突然、教室の外――廊下から叫び声が聞こえてきた。

「なんだ? どうした!?」

 教師が廊下に出、続いて生徒達の何人かが廊下に出る――

 廊下には黒い棘のついた触手のようなものがうごめいていた。

 それは、窓から入ってきていたらしい。

 植物のようでもあり、黒い鉄のようでもあり、正体のわからない棘のついた触手が何本も、何本も窓から侵入し、廊下をうごめき、その不気味な姿を増やしている――

「――黒い茨――」

 誰かが、そうつぶやいた――


「何なの、これ……」

 一人の女子生徒が不用意に黒い茨に近づく……


 ビュン!!


「きゃあ!」

 瞬間、黒い茨はその女子生徒に絡みつく。

「い、いや……」

「―――――!!」

 彼女の周りの生徒達が息をのむ。絡みついた茨が、その女子生徒の服をビリビリに引き裂いたからだ。

「いやあん!!」

 そこに素っ裸の女子生徒が……!! という事態にはならなかった。

 絡みついた触手が服のようになり、女子生徒の体をおおい、まるで真っ黒な服を着ているような状態になる。

「――……?」

 女子生徒はその服をぺたぺたと触る。棘のついた触手が変化した服だが、別に棘が刺さっていたいというわけではないようだ。


 ボゴ!


「ひっ!」

 突然その服の胸元に仮面のようなものが出現する。楕円形の仮面に鋭く笑っているような2つの目と三日月のような口のついた仮面だ――

「な、なんなの?」

 女子生徒が困惑する。それは、周りの人間も同じだ。


『オッパイ、オオキクナラナイカナァ』


「――!!」

 突然、胸元の仮面が、そんな事を言い出す。

「な、な、な、な、な、な……」

 女子生徒は真っ赤になる。

『イツモモンデルノニ、ゼンゼンオオキクナラナイノ』

「ちょ、ちょっと! やめて!!」

 女子生徒が自分の胸元についた仮面を抑えて黙らせようとする。

『アララ……コレハアナタノヨクボウ、ソレヲヒテイシテハイケナイワ……ソレヲヒテイスルアナタヨリ、ワタシノホウガ、コノニクタイノアルジニフサワシイトオモワナイ?』

「何を言っているの!?」

 女子生徒が仮面を抑えようとする手がピタッと止まってしまう。

『ヨクボウヲヒテイスルアナタハコノカラダノアルジニ、フサワシクナイワ』

「えっ!? きゃあああああ!!」

 仮面が発光し女子生徒の顔に何かの光を照射する――そして光がおさまった時――!!


『えっ、えっ、えっ、え……!?』

「クスクス、コレデワタシガコノカラダノアルジヨ……!」

 胸元の仮面は女子生徒の顔に変化し、女子生徒の顔は先ほどまでの仮面と同じように目を細め口を三日月のようにして笑っている――!!

「オッパイ、オオキクナアレ、オオキクナアレ」

 そう言って自分の胸を揉みだす女子生徒――

『や、やめて〜〜!!』

 女子生徒の顔に変化した仮面は叫び声を上げるが、体を動かすことができない――

 女子生徒の本来の意識は胸元の仮面に移され、肉体は仮面の中にあった何者かの意識に支配されてしまった――!!


 周りの生徒達……そして教師達も、どうしていいのかわからなくなっている。

 叫び続けている仮面を無視し、胸を揉み続けている女子生徒――助けなければいけないはずだが、どうやれば助けられるかわからない――!!


「うわあああああああああああああ!!」

「――!!」

 女子生徒に視線が集まっている間も黒い茨は動き続け、別の男子生徒が犠牲になってしまう!!

『ソノムネ、オレガモンデヤリタイ!!』

 同じような黒い服を着たような姿になった男子生徒の胸元に現れた仮面が、そんな声を上げる。

「や、やめろ!! それじゃまるで俺が変態だと思われじゃないか!!」

 男子生徒は仮面を抑えようとするが、仮面は同じように発光し、意識を入れ替えてしまう。

『や、やめてくれ!! 俺は変態じゃない!!』

 胸元の仮面の声を無視し、男子生徒は胸を揉み続けている女子生徒の元へ駆け寄っていく!!

「オレガソノムネヲモムノヲキョウリョクシテヤル!」

「アハハ! アリガト!!」

 そう言ってバンザイをする女子生徒。その脇から腕を伸ばし男子生徒は胸を揉み始める!

『やめて! やめてぇ!!』

『やめろぉ!!』

「ウルサイナァ……」

「コレガオレノヨクボウナンダヨ」

 仮面の叫び声を二人は煩わしいと思ったらしい――仮面に手をかけ、引きはがしてしまう!!

『『――!!』』

 自分の体から離されてしまった二つの仮面――意識をまだそこにあるらしい。

「クスクスクス、ジブンノヨクボウヲヒテイスルオロカナジブンナド、ワタシハイラナイワ……」

『や、やめて……何を、するの……?』

 恐怖に震える仮面――に宿っている女子生徒の意識――

「ソレナラ、オレガモラッテヤル。カワリニ、コレヲヤルヨ……」

『おい、何を考えているんだ!?』

 仮面の声を無視し、女子生徒は男子生徒の胸元に自分の仮面を、男子生徒は女子生徒の胸元に自分の仮面をつける。

『『ウッ――』』

 とたんに二つの仮面は表情をなくし動かなくなってしまう。もう、言葉もしゃべれない――!!

「アハハ、コレハオマエノカラダジャナイカラネ! ジブンノカラダニツケラレタカメンハシャベレルガ、タニンノカラダジャワタシノシハイカニオカレチャウノヨ!」

「ソウダゼ! オレハオマエノヨクボウヲカナエテヤルンダ!! オレノシハイカデオトナシクシテイロ!!」

 動かなくなった仮面に好き勝手なことを言った二人は、再び、向き合う――

「サア、ワタシノオッパイヲオオキクシテ!」

「ノゾムトコロダ!」

 そう言って女子生徒の胸を再び揉み始める男子生徒――!! その周囲で黒い茨が動きを増していく!!


「逃げるんだ!!」


 大声で一人の教師が叫ぶ!


「きゃあああああ!!」

「うわぁ!!」

「急げっ!!」


 その場にいた全員、そして教室にいた生徒達も逃げ出す!!

 だが、運の悪い生徒達が茨に絡みつかれてしまう!!


『ヨクボウニ、スナオニナレヨ!!』


 黒い服の胸元についた仮面がそう言い、次々と生徒達の体を乗っ取っていった――





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