『TS解体新書』800万部突破記念
皮モノ入門
最近、「カワモノ」の作品が増えてきた気がします。個人的には嬉しい限りです。
さて、一言で「皮」と言っても大きく分けると二種類に分けられると思います。
1.他人の姿を模写して、着ぐるみをつくる
2.他人の肉体をいろんなアイテムによって着ぐるみにする
の二種類です。
仮に「1」のタイプを、「Copy suit」略して「CS」、「2」のタイプを「Life suit」略して「LS」とします。
さて、「CS」のタイプはいつごろから出来たのでしょう?
これは、マスク変装が頻繁に出てきた(スパイ大作戦とかですね)スパイ物がはやった1960年代から70年代にかけて・・・と言いたいところですが、これもその原型は、かなり昔からあるのです。
私の知る限りですが、17世紀ごろに書かれたらしい、中国の奇書として有名な「聊齋志異」(りょうさいしい)の中の「画皮」というお話の中で、ある商家の旦那を魅惑的な美女が惑わせるのですが、その美女の正体は、美女の姿を布に書いて、それを被った鬼だったのです。これが、私が知る最古の「CS」タイプの皮モノです。
では、「LS」の他人の肉体を着ぐるみにするというタイプはいつごろからあるのでしょう?
「そんなもの、ごく最近だ!」
「いや、以前、○○さんの作品で読んだことがあるぞ。」
「何を言う、××さんのサイトでは、昔から(その関係の作品が)あるぞ。」
と、いろんな意見が飛び交うかと思います。
実は、私もみなさんを納得させるほどの研究も資料もないので正確には言えませんが、それらしいことで言えば、すでに、「昔話」でその原型を見ることはできます。
それは、「カチカチ山」と「瓜子姫とあまのじゃく」です。
みなさんもよくご存知のお話なので、いまさらあらすじをお話する必要もないのでしょうが、少しお付き合いください。
「カチカチ山」では、畑仕事をしているおじいさんを、いたずらタヌキが、邪魔をして、捕まってしまいます。そして、狸汁にされるところを、留守番をしていたおばあさんを騙して、逃げ出してしまいます。
このシーンではいろいろなバージョンがあるのですが、その一つに、おばあさんを殴り殺して、おばあさんの肉で狸汁を作って食べさせるのがあるのですが、この時、タヌキは、着物とほっかむりで、おばあさんに化けるのと、もう一つは、おばあさんの皮を剥いで、それを着込み、おばあさんに化けるバージョンとあるのです。
「瓜子姫とあまのじゃく」も同じように異なったバージョンがあります。
瓜子姫にちょっかいを出したあまのじゃくは、大木に縛り付けられてしまいます。そこに通りかかった瓜子姫を言葉巧みに騙して、縄を解かせ、自由になったあまのじゃくが、瓜子姫の着物を剥いで、瓜子姫に化けるバージョンと、瓜子姫を殺して皮を剥ぎ、それを着て、化けるバージョンです。
他人の皮を剥いで、それを着込んで相手に化ける。
まさに他人の肉体を着込む「カワモノ」の原型と思いませんか?
ご紹介した二つのお話は、偶然にも日本のものですが、探せば海外にも似たようなお話があるのではないでしょうか?
さて、ネットでは、どんな作品が最初だったのでしょう?
これは、大変困難な作業です。今も続くサイトでも、昔の作品は、削除されている可能性もありますし、既に閉鎖されたサイトや、短期間で閉鎖されたサイトやブログなどで、公開された作品まで調べるのは、難しいのでわかりません。
私が知る限りでは、「CS」のタイプも「LS」のタイプもSUMMERさんという方が管理されていた「エンドレス・ストーリー」という参加型サイトの中で見つけることができます。
「CS」のタイプだと、ある朝、洗面所で姉が突然動きを止める。驚いた主人公の少年が、姉を介抱しようとして、姉の異常に気付く。そう、姉はロボットで、姉そっくりの着ぐるみを着ていたのです。彼は好奇心からそれを着てみて・・・という展開です。
どうです。「CS」のタイプでしょう?
「LS」のタイプもあります。簡単にお話をしますと、主人公の少年が、ある朝起きると、大学生の姉に呼ばれていってみると、姉に自分の首筋になにかあるので見てくれと言われる。
見てみると、それはファスナーで、それを開けると・・・
というお話なのです。
手元の資料によると、2000年5月16日にSUMMERさんが「ファスナーが付いていた」という題で、姉の首筋にファスナーが付いていた事を書かれ、それを開けるとその中は・・・という流れを引き継いで、2000年5月29日DarksideMasterさんは、空洞で、それを着込むと着ぐるみ化した姉の意識があって、少年と姉は精神同居してという展開を始め、2000年6月25日、Mさんは、意識もないただの着ぐるみになって・・・という展開をします。
同じく、
今の「カワモノ」のタイプが両方とも既にここで出てきているのは、面白いとは思いませんか?
このサイトでは、いまのTSFのいろんなイベントが出てくるお話がありました。全く惜しいサイトが消えました。
このように、「皮モノ」は最近の発想ではなくて、かなり昔からその原型はあったのですね。
さて、同じ「皮モノ」なのになぜこんなに違うのでしょう?
どう思います?
それは、この二つのタイプのベースが違うからです。
どう違うのかというと・・・
「CS」タイプは、相手の姿を模写する変身系。
「LS」タイプは、相手の肉体を奪う憑依系。
どうです。こういうと二つのタイプの違いが分かりやすいでしょう?
だから。同じ「皮モノ」でも、この二つは全く違うモノなのです。
ですから、このタイプが優れているとか、このタイプはダメだとか比べること自体おかしいのです。だって、同じ「皮モノ」でもベースが全く違うのですから。
どちらのタイプも、それぞれの特徴がありますので、お好みで楽しんでください。
両タイプの作品を読み比べてみるのも面白いかもしれませんね。
と、ここまで、「皮モノ」前期の流れを見てきましたが、この時点では、まだ「皮モノ」は、TSFサイトでも一般的ではなく、「エンドレス・ストーリー」以外では、あまり見かけませんでした。
ただし、TSFサイト内での話です。TS物は、TSFサイトだけのものではなくて、女装サイトでも書かれたりしています。ただ、女装サイトなので「皮モノ」というよりも、変装色の強い作品が多いです。ですから、「LS」タイプではなくて、「CS」タイプのほうが浸透していきました。
最遠寺近緒さんの「国際空港清掃員」、いわきのぞみさんの「WAVE-2」シリーズ、フォスターさんの「エステ・みゆき」シリーズ、そして、女装サイト・DIDサイト・変装サイトで有名な怪人福助さんの「怪人福助シリーズ」などが誕生しました。
では、TSFサイトではどうだったのでしょうか?
TSFサイトでは、異性に変装できるアイテムとして、「CS」タイプの「皮モノ」を広げようとして、キャンキャン騒いでいる奴がいましたが、TSとして周囲に認められることはありませんでした。
ですが、ここで、三人の作家の登場で、「皮モノ」の認知度が急激に上がることになります。その作家とは・・・・(ドロドロドロドロドロ…ジャン!)あさぎりさんと、虎之助さん、Tiraさんです。
「エンドレス・ストーリー」で、すでに「皮モノ」を熟知していたあさぎりさんは、「皮女」を発表し、時を同じくして、虎之助さんが「四次元ファスナー」、そして、Tiraさんの「これもおれの仕事なのか?」を発表します。
この三人の作品によって、「皮モノ」の認知度は、急激に上がり、「皮モノ」が、TSFの一ジャンルとして定着していきます。
ただ、あさぎりさん、虎之助さんの作品が、どちらも、肉体を皮にする作品だったのと、かなり面白い作品だったので、(Tiraさんのお話も面白いですよ。ただ、Tiraさんの作品は、「CS」タイプでした。)「皮モノは、LSタイプ」という認識ができてしまいました。
やがて『外見だけ異性に扮するCSタイプは、TSじゃない!肉体も異性になるLSタイプだけがTSだ。』という考えが主流になり、CSタイプは、亜流のように見られるようになりました。
ですが、なかなか「皮モノ」を書く作家は現れませんでした。
そんな中、サイファーさんや皮えるさんの「皮モノ」専門のサイトが誕生してきますが「CS」タイプの「皮モノ」だったためか一年近くで閉鎖されました。
では、「LS」タイプはどうだったかというと、あさぎりさんや、虎之助さんの後を続く作家さんは、単発的には出てきましたが、なかなか続く人は出てきませんでした。
ここに、それを打破するアイテムが出てきます。それは・・・・「黒のゼリージュース」です。
Toshi9さんの「TS解体新書」で、生まれたシェアワールドの「ゼリージュース」シリーズの一つとして生まれた「黒のゼリージュース」。
飲んだ人を皮状態にしてしまうというこのアイテムは、だれでも手軽に「皮モノ」を書けるという状況を作りました。
このことで、「皮モノ」をさらにTSFサイトに浸透させる結果になりました。そして、「皮モノ」=「LS」タイプが定着したとおもいます。
では、「CS」タイプは、まったく見向きもされなくなったのでしょうか・・・・いえ、そうではありません。
二つのタイプの「皮モノ」は、ある場所で、競合していたのです。それはどこかというと…どこだと思います?
それは、「アダルトTSF支援所」です。ここでは、どちらの「皮モノ」も盛んに書かれ、賛美を受けたのです。
(注・当初からアダルトTSF支援所に行っていたのではないので、エンドレス・ストーリーより後で、「皮モノ」が現れたのかどうかは、わかりません。ごめんなさい。)
アダルトTSF支援所では、数々の「皮モノ」作品が生まれました。そして、ここで育った(?)作家さんが、自分のサイトで、その作品を発表して、「皮モノ」は、TSFサイトでさらに認知されていきました。
そして、「TS解体新書」で行われた「第一回皮モノ祭り」で、「皮モノ」はTSFサイトでの市民権を得たといえるのではないでしょうか。
まあ、ここまで私の私感による大雑把な「皮モノ」の流れをご紹介してきました。
さて、ここまでお付き合いいただいた方々の中には、Macfistさんが抜けてるぞ!八雲祐樹さんはどうした!うさ吉さんにも「皮モノ」はあったなぁ。ガオガイガーさんや、現役のほげちぃさんや搭杢煉瓦さんは?cheerkeyさんや、奈落さんが抜けてる。HIROさん抜かしてどうする!!などと、まだまだいろんな方の名前が出てくると思いますが、申し訳ござません。割愛させていただきました。だって、その方たちの功績まで書いていると、私の寝る時間が無くなってしまうんだもの。
それにこれは、あくまでの私の私観を書かせていただきましたので、正史と呼べるものではありません。「皮モノ」の正史を描くとしたら、膨大な時間と資料が必要になってきますので、ご勘弁ください。
ただ、これが、皆様に「皮モノ」への関心を持ってもらえる切っ掛けになれれば幸いです。
補足ですが、Webサイト以外では、どうなんでしょうか?
先にも言いましたが、スパイ物がはやっていた頃には、「CS」タイプがあったといいましたが、当時は、わたしも小学生から中学生だったので、作品紹介するとしても、それほど知りません。そして、紹介しても雑誌に掲載のみとか、コミックになっても既に絶版で、現在では見ることはできない作品がほとんどです。
「CS」タイプで、現在でも見ることのできるのは、石ノ森章太郎氏の「仮面ライダー 仮面の世界」に出てくる美人秘書に化けた毒蛾男の脱皮シーンか、水木しげる氏の「ゲゲゲの鬼太郎 鬼妖怪」の美女の皮をかぶって化ける鬼、モンキー・パンチ氏の「ルパン三世 ルパンに関する12章、鬼(ここでは次元の珍しい女装シーンが見れます)、斬ラー、上か下か右か左か」で見ることができます。
日本では最近、話題になってきた「皮モノ」ですが、海外ではすでに1ジャンルを確立していて、漫画なども描かれています。もちろん「CS」タイプを着て、エッチするシーンもあります。うらやましい限りです。
ですので、海外の「皮モノ」探索をされてみてはいかがでしょうか?意外な発見が見つかるかもしれませんよ。
さて、最後にtoshi9さんから、「皮モノ」という言葉を最初に使ったのは誰だろうと聞かれたのですが、当時のサイトも消滅したところもあり、当時のBBSもチャットの記録も残っていないので私も分かりません。ただ今回のことで、虎之助さんの「四次元ファスナー」を見直していると、そのあとがきにこのような作品を仮に『皮物』と呼ぼうと書かれていますので、ひょっとすると、虎之助さんのように、「着ぐるみ」では、ちょっと違うし…というところから自然と「皮モノ」と呼び出した方々がいたのかもしれませんね。これも謎のままですが・・・
最後までお付き合いいただきありがとうございました。それでは、またどこかでお会いしましょう。
ぬた!