*この作品には、身体の切断等の人によって不快に感じられるシーンが含まれています。そのような表現を好まれない方は下記の「戻る」でお戻りください。 戻る |
空洞の身体 pn、月より 「それでは、始めて下さい」 午前9時、“ガサガサ”と 一斉に紙がめくられる音がすると、“カリカリ”と一斉に何かを書き込む音がする。中学3年生の教室、高校受験前の2学期の期末試験。教室は張り詰めた空気が漂う中、桜あかりは、苦痛に耐えていた。 「痛っ!」 小さな声だったが、空気の張り詰めた教室では、全体にはっきり聞こえる声だった。 「どうした?桜」 「いえ、何でもありません。ごめんなさい」 あかりはテスト用紙に改めて集中した。得意な数学のテスト。息を整えてあらためて書き出した。直後、背中にまた痛みが走る。あかりは我慢して書き続けた。テスト用紙は涙でぼやけてきた。2回、3回、4回・・・背中に衝撃が走った。しかし背中の痛みに耐えられなくなり、とうとう声をあげてしまった。 「い、痛い!!」 「先生、声がうるさくてー、テストに集中できませ~ん」 あかりの後ろに座っている生徒が手を挙げ、わざとらしく先生に告げた。 「桜、どこか痛むのか?体調が悪いのなら保健室に行くか?ただテスト中だから、先生はこの場を離れるわけにいかないが・・・」 「いえ・・・大丈夫です」 「それなら、いいんだが・・・」 あかりにはわかっていた。後ろに座っている高森奈津美が原因だ。シャーペンで何度も背中を突き刺していた。あかりは奈津美にいじめられていた。奈津美は3年生の不良グループでリーダー的存在だった。 「先生」 あかりの右うしろの席から聞こえたのは、1ヶ月前に転校してきた望月ミユキだった。普段はおとなしく、どこかのお嬢様といった清楚な雰囲気を持っていて、休み時間の間でも一人で静かに単行本を読んでいる目立たない生徒だった。 「どうした、望月?」 「高森さんが、桜さんの背中を何度もシャーペンで突き刺すのを見ました」 「なに、言いがかり付けてんだよっ!」 奈津美はその場で立ち上がり、右隣に座っていたミユキの襟元を握りしめ、相手を絞め殺さんとするような剣幕で叫んだ。 「なにしてるんだ!やめんか!今、テスト中だぞ」 先生は二人を引き離すと、奈津美は先生を小ばかにするように言葉を吐き捨てた。 「そんな事するわけ、ないでしょ?証拠でもあるのですか?」 先生は、あかりの背中をじっくり確認したが、紺の冬服用制服なのでよくわからなかった。 「望月は、見たんだな?」 ミユキは、小さくうなづいた。 「桜はどうなんだ。背中が痛かったのか?」 あかりは何も答えられず、うつむいて黙っていた。目から涙が落ちテスト用紙を濡らしていた。 「わかった。どちらが正しいことを言っているかは、ひとまず置いとく。今はテスト中だ。桜と高森、席を替われ。それなら問題ないだろ。」 「なぜ席を替わるんですか~?まるで私が悪者じゃないですか~」 先生は奈津美を無視するように、黒板にチョークで書き込んでいた。 「あと、数学のテスト時間は5分延長する。チャイムが鳴ってもそれから5分あるので、テストの終了時間になったら先生が告げる。次の科目、現国のテストも5分ずらすので、時間は黒板の上にある時計を確認するように。あと桜と高森の席は、次のテストもその席で受けるように」 その後、あかりと奈津美の席が替わってからは、何事もなく数学のテストが終了した。奈津美はクラス内の不良グループと教室の後ろに集まり、あかりとみゆきの方を見ながら何やら話していた。あかりは気が気で仕方なかったが、ミユキは何事も無かった様に、次のテスト教科である現国の予習をしていた。 そして15分後、現国のテストが始まった。暫くするとあかりは、右隣に座っているミユキの異変に気づいた。ミユキの後ろに座っている生徒に、あかりの時と同様にシャーペンで背中を何度も突き刺されているようだった。ところがミユキは、声を出すどころか何事もないようにテストに集中していた。あかりはただただ呆然としていた。 「先生」 テストも終了間際というところで、解答欄を埋め終っているミユキが先生を呼んだ。 「どうした、望月?」 「背中を見てもらえますか?」 「背中?」 先生がミユキの背中へ回ると、椅子の背もたれのすぐ上あたりに、ミユキの制服から黒のシャーペンが突き出ていた。シャーペンは3分の2ほどしか見えていなかった。 「手が届かないので、抜いてもらえますか?」 「ああ・・・」 先生は震える手で、ミユキの背中からシャーペンを引き抜いた。直後、ミユキの後ろに座っていた生徒が叫んだ。 「わ、わたしのせいじゃない。奈津美に、奈津美に脅されて仕方なくやったんだ!数学のテストの時、桜にシャーペン突き刺していたのも奈津美だ!!」 「だれが、ここまでしろって言ったんだよ!!」 教室が騒然とする中、ミユキは帰り支度をして教室を出ようとしていた。 「待て、望月!」 先生が呼び止めて、ミユキはこちらを振り向いた。 「先生、どちらが正しかったか判ったと思います。今日のテストも終わりなので、病院へ行ってきます」 「ま、待って!望月さん!!」 あかりは慌ててカバンに筆記用具を詰め込むと、ミユキを追って教室から駆け出して行った。 「ま、待って、望月さん」 あかりは息を詰まらせながら、校門を出たところでミユキに追いついた。 「望月さん。私のせいでこんな目にあってしまって、本当にごめんなさい」 「別に気にしなくていいのよ。痛くはないから」 ミユキは表情を変えずに歩き続けていた。あかりはミユキに歩調をあわせながら身体を心配した。 「そんな・・・、だって、シャーペン刺さっていたのよ。私のときよりひどかったのに。痛くないわけないでしょ。出血もしているんじゃ・・・」 「大丈夫よ。血なんて私は出ないから。それじゃ私の家ここだから、また明日、学校でね」 ミユキは立ち止まると、古いアパートの2階の一室を指差した。 「えっ?病院行かなきゃだめだよ。ばい菌が入るよ」 「いいのよ。病院行くお金もないし、行く必要もないから」 ミユキはそういうと、左手の階段から2階へあがり2番目の家に入っていった。あかりは、その言葉に何もいえなかった。それから20分後、あかりは徒歩で10分ほどの距離にある、駅前のドラッグストアで消毒液や脱脂綿など購入して、再びミユキのアパートへ舞い戻ってきた。何かミユキの役に立てればと思い、息を切らせながらアパートの階段を駆け上がり、家のドアをノックした。 「桜さん、どうしたの?」 ミユキはドアを開けると、不思議そうな顔をしてあかりを見た。 「あ、あの、こんなのが役に立つのかわからないけど、ドラッグストアで消毒液とか買ってきたんです。使ってください」 お辞儀をしてミユキの胸に薬が入った袋を両手で差し出すと、あかりの瞳から涙がこぼれてきた。 「桜さん、顔を上げて。私なんかにそんな気を使わなくてもいいのよ。何もない家だけど、よかったら上がっていく?その消毒液、使わせてもらうわ」 「はい!」 あかりはミユキに促され家にあがると、和室8畳ほどの部屋の真ん中に大きなテーブルが1つ、端にテレビと書棚、隣に台所とトイレがあるだけだった。 「何もない家でしょ」 「そんな・・・」 「本当のことだから。それじゃ、桜さん。上着脱いでもらえる?」 「えっ!?」 「だって脱がなきゃ、この消毒液、無駄になるでしょう?」 「それは望月さんのために・・・」 「桜さん、背中痛かったんでしょ?終ったら、桜さんに私の方を見てもらうわ」 「わかりました」 あかりは、制服の上着を脱ぐと下着姿になった。ミユキは、あかりの背中から下着を肩辺りまでめくると、脱脂綿に消毒液をしみこませ、赤く腫れている箇所に押し付けた。 「ひゃう!し、しみるぅー!!」 「なんて声だしてるの。桜さん、面白いわね」 初めてみるミユキのかすかな笑顔に、あかりはとても嬉しくなった。その後、治療箇所に大き目のバンドエードを貼ってもらった。 「はい、次は望月さんの番ですよ」 あかりは下着姿のまま、ミユキの制服のボタンをすぐに外し始めた。背中の状態が心配で仕方がなかった。 「私は大丈夫なのよ。本当に」 ミユキの言葉に聞く耳を持たず、あかりはてきぱきと上着を脱がすと、背中に回って下着を肩口までまくった。 「あ、あれ?」 「どう、何もないでしょう」 ミユキの背中はシャーペンの穴どころか、傷跡が何一つ付いていなかった。 「そんな・・・だってシャーペンが突き刺さっていたのよ。もう傷跡が治ったなんて絶対ありえないよ。どんなマジックを使ったの?」 「こういう身体なのよ」 ミユキは下着姿のまま台所へ行くと、右手に割り箸を持って戻ってきた。 「桜さん、私の左手を強く持っていて」 ミユキは注射を打ってもらうような感じで自分の左手を差し出し、あかりに両手で手首を持ってもらった。すると右手で握りしめた割り箸を、注射針を打つような箇所に割り箸の先を直角にあてがった。 「なにをするの?怖いことはやめて!」 「大丈夫よ。それじゃ、見ててね」 ミユキが右手に力を入れると、割り箸は皮膚はややへこんだ後、突き破っていった。さらに下方へ力を入れると、腕の下から皮膚が伸び、伸びきったところで割り箸の先が5cmほど顔をだした。さらに下から引っ張ると、割り箸はずるずるっと伸びて、貫通して完全に突き抜けていった。ミユキの左腕は、割り箸が貫通した箇所は、自然と傷口が塞がり血も出ていなかった。 「桜さん、もう手を離していいわよ。これでわかったかしら」 ミユキは目の前の出来事を見た、あかりの表情を伺っていた。 「す、すっごーい!どうなってるの?望月さん、痛くないの?」 あかりは、ミユキの左腕を何度も触ったり割り箸を確認してみたりして、目の前の出来事に素直に驚き興奮していた。 「桜さん、私が怖くないの?化け物とか、思わない?」 「なんで怖いの?だってだって、すごいじゃない!」 「桜さん、本当に面白い人ね」 あかりとミユキは、自然と声をあげて笑っていた。二人にとって、こんなに楽しいひと時は久しぶりだった。 「あの望月さん、望月さんのことミユキちゃんって呼んでいいかな?」 「桜さんのこと、あかりってて呼ばせてくれるなら、呼ばせてあげていいわ」 「もうミユキちゃん、なんで上から目線なのよー!」 「あかり、やっぱり面白いわね」 暫くして笑いがようやく落ち着くと、あかりは深呼吸してミユキと向き合って話し出した。 「ミユキちゃん、学校でいえなかった事言うね。数学のテストの時、高森さんのいじめの事、先生に話したとき、とても嬉しかった。本当にありがとう」 「そんなことは別にいいのよ。あかりはどうして高森さんにいじめられているの?」 「ミユキちゃんがこの学校に転校してきた、少し前にあった出来事が原因なの。体育の授業でバレーボールのサーブの練習をしていた時ね、ボールがコートから外れて、体調が悪くて見学していた高森さんの顔面にあたって鼻血を出してしまったのよ。そしたら凄い剣幕で怒り出して何回も殴られたの。それで高森さん、1週間の停学処分になったのよ」 あかりは、一呼吸置いて話を続けた。 「担任の先生は、高森さんの停学処分の理由は“暴力を振るった事”“暴力を振るう元気があるのにウソをついて見学した事”“友達と喋っているからボールを避けられずに人のせいにした事”と 言っていたのだけど、高森さんは「お前がサーブミスしなければ、停学処分にならなかったんだよ!」って言って、それを根に持っていじめられているの。私、なんか情けないよね」 そういうと、あかりは自然と涙が溢れてきた。ミユキはしばらく黙っていたが、あかりの頭をなでながら話し出した。 「あかり、私もね小さい頃、いじめられていたのよ」 「えっ、ミユキちゃんが?」 ミユキは下着とスカートを脱ぎ捨て、パンティーだけの姿になった。すると先ほどの割り箸を両手で持ち、自分の胸の中心に突き刺した。 「この身体の事もあったけどね。また別の事なの」 ミユキは、両手で握り締めた割り箸を下方向に力を入れた。割り箸は、胸の中心からおへそを通りパンティーの上辺りまで下ろされた。 ミユキは割り箸を抜くと、胸から下腹部に出来た割れ目に両手の指を差し入れ、左右に引っ張った。 「あかり、お腹のなか覗いてみて。何もないでしょ。」 あかりは、ミユキのお腹を覗き込んでみた。 「ほんとだ。すごいね。なんにもないね。」 「あかり、感想それだけなの?内臓とか骨とか、心臓もないんだよ。さっきも言ったけど、本当に怖くないの?」 「ミユキちゃんはミユキちゃんでしょ。身体がちょっと変わっているだけで、なぜ怖いの?」 「ちょっとどころじゃないと思うけど。あかりの方がよっぽど変わっているわね。あかり、もっと頭を胸の奥まで入れてくれない?」 「ん、こうかな?」 あかりは頭をミユキの割けた胸の奥まで入れると、頭だけが上に向って引き寄せられたような感覚がした。すると真っ暗だった視界が突然開けた。 「ミユキちゃんの胸の中に入ったはずなのに。ミユキちゃんどこいったの?あれ、声がミユキちゃんになってる」 (あかり、聞こえるかな?今、私の頭に入っているのよ。下を見てごらん) 頭の中にミユキの声が響いた。あかりは下を見ると、下腹部に頭を突っ込んでいるあかりの身体が見えていた。 「もしかして、私、ミユキちゃんに入っているの?」 (そう。意識だけ私の身体に入っているのよ。これから私の記憶をあかりに送るわ。説明するよりわかりやすいから、受け取って) そういうとあかりの頭にミユキが今まで生きてきた膨大な記憶が流れてきた。 (終ったよ。一旦、私の身体から抜け出てみて。簡単に抜けるから) 「うん・・・」 あかりはミユキの身体から頭を抜くと、お腹に開いていた切れ目は閉じていった。 「いま、あかりに流れてきた記憶でわかったでしょ。私も物心がついたときにはいじめられていたの。いじめられてたって表現はおかしいかな。両親から虐待されていたの。ギャンブルで負けたり機嫌が悪い時は、御飯がなかったり、腹いせに両手で縛られて押入れに閉じ込められたり、泣くとすぐに殴られた」 あかりはミユキからもらった記憶を辿り、身体を両手で抱えて震えていた。 「小学生の頃になると家は借金だらけになっていたの。“こんな子供産むから借金が増えるんだ”って、毎日のように両親が大喧嘩してたのね。あの日の夜も喧嘩していて、私は隣の部屋で寝ていたのだけど、両足を持たれて引きずりだされて、気がついたら振り回されてて窓から放り出されていたの。あの頃住んでいた市営住宅の3階からね」 「ミユキちゃん・・・」 「その時、たまたま下に通りかかったのが今の両親なの。私の身体は骨も内臓もぐちゃぐちゃだったけど、両親の一族の能力で、今の私「空洞の身体」にしてくれたの」 「今の両親もミユキちゃんと同じ身体なんだね」 あかりは、ミユキの記憶を辿り答えた。 「そう。両親の一族は何百年も前から続くそうで、戦乱の時代には重宝されていたそうなの。真偽はわからないけど、何でもあの“本能寺の変”は、明智光秀が織田信長の身体が空洞になっているのを知った為に、衝動的に火を放ったものだと、一族に伝えられているそうよ。でも戦乱の時代が終ると一族は衰退して殆ど残っていないみたい。この身体になるには、お互い信頼する心がないと成功しないそうなの。失敗すると“空洞の身体”でなく、お互いが皮だけになっちゃうそうよ。私の場合成功したのは“助けたい気持ち”と“生きたい気持ち”が重なったからじゃないかって、お母さんが言ってたわ」 「そうなんだね」 「その後、私は今の両親と養子になったの。見ての通り、生活は質素で苦しいけど何も不満はないのよ。両親は、自分の身体を利用すれば、犯罪にも利用できることは分かっているけど、普通の生活を送るため共働きで頑張っているわ。私も高校に入ったらバイトをするつもり」 「ミユキちゃんの記憶を見たら、私のいじめなんて、なんだか恥ずかしくなっちゃうね」 ガチャ、ガチャ 「ただいまー」 「お母さん、おかえり」 「あ、おじゃましています」 「あら。ミユキがお友達連れてくるなんて。しかも下着姿で♪」 「きゃっ。あ、あの、これは、そのー・・・」 あかりは、脱いだ上着で胸を隠しながらオロオロしていた。ミユキはお母さんに、今日学校で起きた出来事から家での出来事まで、順に説明した。 「どうだった?ミユキになった感想は」 「すごいです!だってミユキちゃんの中に頭を入れたら、ミユキちゃんの視界になっていて、ミユキちゃんの記憶が、ぱぁ~って入ってくるんだもん」 「ね、お母さん、あかりは面白いでしょ。ふつうは怖がるのにこんな反応するの」 「あかりちゃん、そんなにミユキに興味があるなら、本当にミユキになってみる?」 「えっ、本当のミユキちゃんになるって?ミユキちゃん、私より綺麗だし頭いいし憧れちゃうけど・・・」 「ミユキ、あかりちゃんは親友と思っているの?」 「あ、あかりはミユキちゃんの事、親友と思っているよ!ミユキちゃんもそうだよね」 あかりは、ミユキをうるうるした瞳で見つめていた。 「わかったわ、お母さん。私をあかりにあげる」 「そうと決まれば・・・」 お母さんは両手を合わせて目をつぶると小さな声で呪文のような言葉をしゃべり始めた。それとともにお母さんの両手がぼーっと光ってくる。 「ミユキ、両腕を広げて」 ミユキが言われるまま両腕を広げると、お母さんはその左手首を持ち、左肘を目がけて光る右手を振り落とした。光った右手は、ミユキの左肘をスパッと切り離してしまう。肘の断面はパイプのように空洞になっていた。外れた左手のほうはペチャンコになり、皮だけになっていた。右腕も同じように行うと、ミユキの両腕は肘から先が無い状態になってしまった。 「うわっ、これがミユキちゃんの腕なの?長い手袋みたい、すごーい!」 「あかり、はしゃいでないでそれを自分の手にはめるのよ」 「は、はい、わかりました」 あかりはミユキの“手袋”をはめていった。指の先まで入れようと強く引っ張っても、伸びるだけで破れなかった。お母さんはミユキを寝かせ、太ももの付け根の下にも同じように右手を振り落として、両脚を切り離してしまった。脚も腕と同様にペチャンコになり皮になった。次にミユキが付けているパンティーの上あたりを右手で横撫でにする。今度はパンティーの付いたお尻の部分は切り離されてしまった。切り離したお尻はペチャンコになり、パンティーが2枚重なっているように見えた。 「脚の部分は、ストッキングのように縮めてからだと履きやすいから。お尻はパンティーのようにね。その前に自分のスカートとパンティーは脱ぐのよ」 「ミユキちゃん、わかりました」 あかりはふざけて敬礼のポーズをとると、ミユキの脚とお尻だった皮を言われたとおりに履いた。ミユキの身体は頭と胴だけになっていた。お母さんはミユキの首に手を当てて、やさしく話しかけた 「ミユキ、それじゃおやすみなさい」 「うん、おやすみ。お母さん」 ミユキは目を瞑るとお母さんは右手をサッと左から右に動かす。音もなくミユキの頭は切り離されてしまった。ミユキの胴だった部分は、その場でペチャンコになりTシャツのようになっていた。 「あかりちゃん、あとはわかるかな」 「はい。ミユキちゃんの記憶があるので大丈夫です」 あかりはミユキの胴だったTシャツを着ると、ミユキの転がっていた頭を両手で拾い上げた。 「ミユキちゃん・・・」 ミユキは目を瞑ったまま何も答えなかった。あかりはお母さんにの方へ振り向くと、お母さんは黙って頷いていた。 「それじゃ、ミユキちゃんの身体もらうね」 あかりはミユキに軽く口付けをすると、手の中でミユキの頭はペチャンコになり皮のマスクになった。あかりは少し緊張しながらマスクを被ると、切れていた部分がそれぞれつながり切れ目がなくなった。ミユキの皮があかりの肌へピッタリくっついていくと、体内で身長や体重など様々な変化が起きている事をあかりは実感していた。 「あかりちゃん、今、完全にミユキになったの。感想はあるかな」 「うん。あの・・・今、ミユキちゃんは眠っているのですね」 「そうよ。ミユキがあかりちゃんに全てを委ねているからなの。あかりちゃんにミユキの記憶を全て知ってもらい、身体を切断して皮だけになる。“身も心も捧げている”からこそできる事なの。もし、あかりちゃんがミユキにずっとなりたい気持ちがあればずっとなれるのよ。このままの状態で1日過ごせば、ミユキの意識は完全に消えてなくなるから」 「ミユキちゃんになりたかったけど、そんな気持ちはないです。でも嬉しい・・・。私、本当の親友が出来たんだって、実感できる」 あかりはミユキになった身体を両腕で抱きしめてから、ミユキの皮を衣服のように脱いでいった。ミユキの衣服のような皮を人型にきれいに並べると、身体は膨らみ元の人間の姿に戻った。あかりは、身体が戻ったミユキに抱きつき泣いていた。 「どうしたの?あかり、泣いちゃって。私が皮になってからそんなに経ってないのね。私の身体になりたかったんじゃないの?」 あかりは首を左右に振った。 「私、わかったんだ。ミユキちゃんになりたかったんじゃなくて、何でも分かり合える親友になりたかったんだって」 「私もうれしいわ。あかりみたいな面白い子と親友になれるなんてね」 「もう、面白い子って何度も言わないでよー!」 あかりとミユキは裸のまま、笑いあった。あかりは涙を指で拭うと一呼吸置いて話した。 「あの、ミユキちゃんのお母さん。私もミユキちゃんの身体のようにしてもらうことは、出来ないですか?」 するとミユキが驚いて、あかりに話した。 「あかり、私の記憶見たでしょ。この身体が原因で何度も引越したりして苦労してきたのよ。いじめで痛みを感じない身体になりたいという理由なら、私があかりを守るから」 「ミユキちゃん、ありがとう。でも違うの。だって私、ミユキちゃんの思い出したくない過去の出来事まで全てを知ったの。だから、あかりの全てをミユキちゃんに知ってもらいたい!」 「あかり、それは私が勝手にしたことだから」 「でもでも」 「まあまあ、ミユキもあかりちゃんも落ち着いて」 お母さんはにっこり笑うと、あかりの頭を優しく撫でた。 「あかりちゃん、私達の一族と同じ身体になるということはどういう事かわかっているの?」 「はい、ミユキちゃんの記憶で、わかっているつもりです」 「それじゃ、私達の一族と同じ身体になってみよっか」 「何を言ってるの、お母さん!あかり、この身体になるという事は生易しいものじゃないの。子供も産めなくなるし、ほら、学校の健康診断のとき困ることになるわ。それでもいいの?」 ミユキは必死に説得したが、あかりは「わかっている」という表情でお母さんを見ていた。 「ミユキ、落ち着いて。ミユキは知らないと思うけど、“お試し”に空洞の身体になる方法があるのよ」 「「お試し?」」 「そうよ。あかりちゃんの身体の中身を一時的に預かって“空洞の身体”にする方法よ。ミユキの時は、中身はぐちゃぐちゃだったから、やむを得ず一族の仲間にしてしまったけど、あかりちゃんが元に戻りたければ人間に戻すことができるわ。ただし、お試しだから一度きりだけどね」 「そんな方法があるなら、あかり、やりましょう」 「うん!」 「ただしこれだけは言っておくわね。お試しでも、お互い信頼する心がなければ失敗して、二人とも皮だけになって二度と戻れなくなるの。あと、あかりちゃん。この事を誰かにばれたら、強制的に私達一族の仲間になってもらうわ。一緒に引っ越してもらうからそのつもりで」 「は、はい、わかりました」 「本当にいいのね?あかり。・・・そう、わかったわ。お母さん、その“お試しの方法”を教えて」 ミユキはお母さんに、お試しの方法を聞きだすと、あかりと向かい合った。 「あかり、それじゃ、両手を広げて前に伸ばして」 あかりは言われたとおり両手を前に伸ばすと、ミユキも同様に両手を前に伸ばして、指がお互い絡まるように手をつないだ。 「あかり、深呼吸して目を瞑って。私に身を委ねるのよ」 あかりは大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐いた。そして目を瞑ると気持ちを落ち着かせた。ミユキは目を瞑ったあかりに静かに語りかけた。 「あかり・・・私達、親友だよね」 あかりは、口角を僅かに上げ頷いた。 「あかり、それじゃ、始めるわよ」 ミユキは、前に突き出していた両手をまっすぐ左右に開いて身体を前へやると、手をつないでいたあかりも両手が左右に広がり、お互いの鼻先がくっつくぐらい近寄った。 「あかり、両手の力を抜いて、口を開けてもう一度深呼吸するのよ」 あかりは言われたとおり、両手の力を抜いて、口を開けて息を深く吸い込んだ。そして肺に溜まった空気を吐き出すとき、ミユキは自分の口であかりの口を塞いだ。 (あかり、あなたの身体、預かるわよ) ミユキは横に伸ばした両手を、楽器の“シンバル”を打つような感覚で、あかりの背中の後ろを目がけて力を入れた。 ゴキ、ゴキッ あかりの両肩の関節が外れる音が聞こえた。あかりの両手は真後ろにまっすぐ曲がり、背中で手の甲と甲がくっついていたが、痛みは感じていなかった。 (あっ、わかる。舌の先から順番に骨も内臓も何もかも、ミユキちゃんに吸われていってる) (あぁ、流れ込んでくる。私の空洞の身体の隅々まで、あかりの中身が埋まっていくのがわかる) 「はぁ、はぁ・・・あかり、終ったわよ」 二人は両手をつないだまま、その場でへたり込んだ。その間、わずか5秒ほどの出来事だったが、とても長く感じる時間だった。 「どうやら上手くいったようね。ミユキ、わかっていると思うけど、今は人間の身体と一緒だから気をつけるのよ」 ミユキは、息を整えながら頷いた。 「あかりちゃん。今、あなたは“空洞の身体”になったのよ。中身はミユキが預かっているから、元に戻る時は、もう一度“お試しの方法”を立場を入れ替えてすればいいわ。それじゃ早速“空洞の身体”を試して見るかい?」 「は、はい!」 お母さんはは光った右手をあかりの胸の中心にあてがった。 「それじゃ、始めるわよ。大丈夫、痛くないから」 「うん」 お母さんが右手を胸の中心からおへその下まで動かすと、その動きにつれてあかりのお腹に切れ込みができる。血は全く出てこなかった。 「どお、あかりちゃん」 「あ・・・おなかがなんかスースーする、何だか変な感じ・・・」 あかりは胸から下腹部に出来た割れ目に両手の指を差し入れ、左右に引っ張った。中を覗くと、真っ暗でなにもなく空っぽだった。 「ちっとも痛くない・・・ミユキちゃんと同じになったんだ。ミユキちゃん、本当に私もミユキちゃんと同じ身体になったんだね。私達、ずっとずっと、親友だからね!」 ミユキは笑顔で頷くと、あかりが広げた“空洞の身体”に、頭を入れていった。 (おわり) |