teruさん総合
『皮剥丸夢譚』 番外・姫と村人と…… 三年の月日が流れ、季節は初夏。 「姫様、中ジョッキもうひとつ」 「老い先短い年寄りの唯一の楽しみですからな」 「一日のって、まだ昼過ぎだぞ? それにここは道の駅のお食事処であって介護施設じゃねぇよ!」 「あ、姫様。 ワシに鮎の塩焼きを持って来てくださらんか?」 「お前ら、人を姫様呼ばわりする癖に俺への扱いがお姫様じゃねぇな?」 「いやいや、ワシらはちゃんと姫様を敬っておりますぞ?」 ここは村が経営する道の駅。 その中に作られたお食事処「きよたま」が俺の経営する店だ。 数年前に俺が結界を壊したお陰で道の駅にもにも客が立ち寄るようになり、ある程度の利益は上がるようになった。 おかげで俺も村の支援で土地の一角にお食事処を建ててもらった。 建ててもらったのはいいのだが…… 普通の客以外にも村の連中達が気軽に来るまでは歓迎なのだが、平日の昼間ッからジジィ達が酒を飲んだくれてるのは如何なものかと…… まぁ、客は客なのだが。 「はいはい、わかったわかった。 塩焼きにヤッコと枝豆だな」 「こんにちは」 「いらっしゃいませ! って、西村さんか……」 「西村さんかって私じゃなにか?」 「あはは。 言葉のアヤですよ。 誰か車でのお客さんかと思っただけですから。 それで、ご飯ですか?」 「まぁ、ご飯もなんだけど雑誌の取材なんだよ。 ウチの道の駅もそれなりに名が売れてきたし、村の宣伝にもなるからね」 「こんにちわ」 「どうも。 いらっしゃい」 「そういうわけで村の中をアチコチ説明していたらちょっと遅いお昼になったもんでね。 店長のお薦め定食を三ついいかな?」 「酷い、姫様。 ワシらは店の売り上げに貢献しているのに」 「あぁ、はいはい。 私の身体を気遣っていただき、ありがとうございます。 ついでに私の心も気遣って頂けると嬉しいのですが?」 「あん、姫様のいけずぅ」 ぱかぁん、反射的にジジィの後頭部を俺のアルミ製の盆が襲い掛かる。 「あの…… あの人、お客さんの頭をお盆で叩きましたよ?」 「あの三人は常連ですぐに秋奈さんにセクハラをするんですよ。 秋奈さんだって本気で怒ってるわけじゃありませんから手加減してます」 「大丈夫、大丈夫。 これくらいでお盆は変形したりしませんから」 「酷い、姫様。 ここはお盆よりもワシの頭を気遣うところじゃろぉ?」 ぱかん! 「あはは。それでもその人達はウチの村の長老会の一員ですからねぇ。 立場的には私よりも上なんでなんとも……」 「あの…… さっきからあちらの人達が姫様と呼んでますけど、それは渾名ですか?」 「あぁ、秋奈さんはウチの村の神社の巫女姫様なんですよ。 秋の祭りの時に来ていただければ、秋奈さんの神楽舞いが観られますよ」 「はい。 村に昔から伝わる言い伝えによると、平安の昔、都を追われた鬼達にこの村が襲われたんだそうです。 鬼達はこの村を結界で覆って村人達を村から出られなくしてしまったんです。 その時、旅の巫女が現れて破邪の舞を舞って結界も鬼も退治してしまったんだそうですよ」 「その時の舞をこの店の店長さんが継承されているのですか?」 結界を張ったのは鬼じゃなくってアンタらの先祖で、結界を壊したのは平安時代じゃなくって数年前の事だよ! それに破邪の舞とかを舞ったのは旅の巫女じゃなくって俺自身だし…… この村の長老共は勝手な伝説を捏造して俺自身に毎年、神楽舞を舞わせている。 あの日、俺がなんの気無しにサインした紙…… 『いや、私達は別にいいんですよ。 この紙自体に法的な拘束力はありませんし? ただ、姫様も商売人なら、人との約束事を破るのは精神的に心苦しいんじゃないのかな?と』 困った事に俺が舞を舞い始めると神の代わりに本当に姫が降りてくるのだ。 始めの数分は俺が舞うが後は身体が勝手に舞を舞い始めるのだ。 どうも姫は前世で舞を舞うのがよほど好きだったようだ。 「是非、一度見に来て下さい」 「姫様の舞いは一見の価値はありますぞ」 ぱっかぁん 「とか言いながら神主さんに頼まれると断れないクセに」 パコ、パコ、パコッ! 「あの? いくら何でも気軽に叩きすぎでは?」 「大丈夫。 音だけで威力は大してありませんから」 「そうですよ? その証拠にジジィ共はもっと叩いてくれと目で訴えかけてるでしょ?」 「この技はとある居酒屋に代々伝わるセクハラオヤジ撃退の為の一子相伝の技なんですよ。 私がその正統継承者なんですよ。 厳しい修行の末に習得しました」 「秋奈さんも盛りますなぁ? お母さんのを見て覚えただけなのに」 俺が板場で定食を作っている間、西村さん達は雑誌の記者さん達と取材の続きを続ける。 「はい、お待たせしました。 ウチの食材は村の無農薬の物を使ってますから美味しいですよ。この村って不思議と野菜や家畜がよく育つんですよ」 「あら、本当に美味しい。 この肉や野菜いが全部、村の食材なんですか?」 気をよくしていると、新たに戸が開く。 「ママァ〜!」 「おっ?清香。 どうしたんだ?」 「清香がママに会いに行くって聞かないんだよ」 「なんだ?大人しくお留守番してるって約束したでしょ?」 「えへへぇ」 「若。 丁度よかった。 こちら、雑誌社の記者さん」 ちなみに"若"というのは俺の"姫"に対応して付けられた秋奈の通称だ。 「あ、はじめまして。 この先の龍神神社で神主をやらせてもらっている斎藤清彦と申します」 「雑誌"トラベルサーチマガジン ジョイフルジャパン"の加藤と申します」 「旅行雑誌ですか?」 そして、再び秋奈を交えて適当な来歴をでっち上げた龍神神社の成り立ちを説明する西村さん。 俺は清香を抱き上げて膝の上であやす。 いや、客がいないから仕方がない。 「姫様、姫様。 客、客、ここにいますよ、お客様」 やがて雑誌の取材も終わり、西村さんと記者さん達が帰っていく。 「さてと。清香。 ママに会えたから満足しただろ?もう帰るぞ」 「だめだ。 ママはもう少しお仕事があるから先に帰って大人しく待ってるんだ」 「姫様も家族の前では普通の優しい女性に戻るのにな」 「なってねぇっての!」 「そりゃ、もう妻の教育には苦労しましたから」 「き、教育なんかされてねぇし、従順でもねぇよ!」 「あ、ごめんなさい」 俺が清香を産んだのは二年前。 産院で無茶苦茶痛い思いをして清香を産み落とした。 秋奈の皮を着て半月目に俺は"女"になった。 それに秋奈に男を感じて胸がキュンとなる事が心地いいのだから仕方がない。 そして、一ヶ月経って二ヶ月経っても二回目の"女の証"は来なかった。 それを知った旦那様に産婦 人科に引っ張っていかれあの屈辱的な診察台に寝かせられた。 病院のベットで清香に授乳をしていると、俺のオッパイを一生懸命吸う清香がものすごく愛おしく感 じてしまい、あれだけ痛い思いをしたというのに今度は男の子がいいななどと思ってしまった。 「どうだ? 女ってバカだろ? あれだけ痛い経験をしてもすぐに愛する人との赤ちゃんをまた産み たいと思ってしまうだろ?」 「まぁ、確かに……」 「おぉ、姫様がなにか悩んでおられる」 「俺は淫乱女か!昼間ッからそんな事考えてねぇよ! 女は色々と不便なんだよ!」 「はい、ママは清香の前で乱暴な言葉遣いをしたから今夜はたっぷりとお仕置きだからね。 楽しみにしておいで」 「若! それはお仕置きになっておりませんぞ!」 「ち、違う! ご褒美なんかじゃねぇ! こいつは俺を抱きながら、態度と言葉で男としてのプライドをズタズタにするんだよ!」 「はい、お仕置き決定。 今夜は秋奈を徹底的に調教し直してあげる。 昔、自分が清彦だった事なんか忘れるほどね? 楽しみでしょ〜」 いや、冗談だと判っていても秋奈はノってくるとそれに近い状況になるからイヤなんだよ、マジで。 「お前らのせいで秋奈が調子に乗っちゃったじゃねぇか。 どうしてくれんだよ?」 「わしらのせいか?」 「帰れ。 もう充分に飲み食いしただろ。 農作業の続きをしに行けよ」 「はいはい、わかりました。 息子達も待ってる頃だし」 「いらねぇよ。 てか、お前ら、店に来るのに捕った鮎やら農作物を持ってくるから計算が面倒なんだよ。 物々交換で飲み食いすんじゃねぇよ」 「いい鮎でしょ? 今日は河原の草刈りをしておりますからな」 笑いながら年寄り達が帰って行き、店の中は静かになる。 小腹が空いた俺はテーブルに座って、串に刺した焼きたての鮎を手に取るとかぶりつく。 そうつぶやいてカウンターに設置してあるビールサーバーを眺める。 「姫、追加の野菜と肉を持ってきたぞ。 お?美味そうなのを食ってるな?」 「ヒマそうだな?」 「平日はこんなものだよ。 昼時はもう少し客がいるし、時間帯の問題だよ。 あ、鮎食うか?」 「さっきまでエロじじぃズがここでくだ巻いてたんだよ。 鮎はヒデさんの持ち込み。 新鮮だぞ?」 「プロだよ! しかし、この村は作物と言い、魚と言いよく育つよな」 「霊脈ねぇ? 俺はオカルト方面はよくわからないのだが、そんなにいいのか?」 「いいぞ。 実際に作物を作って較べてみれば判る。 俺は農業高校に行ってたんだが、あそことここでは出来が雲泥の差だ。 条件は同じなのに土地の差だな」 「へぇ?そんなに違うのか」 「おかしな事?」 「いや、知らないけど?」 「だから、知らないって? 怪異って怪談みたいなものだろ?」 「はぁ!? 初耳だぞ? お前んち人魂が出るのか?」 「ちょっと待て?あの寺も出るのか?」 「だから、俺は聞いてないって?」 「安倍ってじじぃの家だよな?」 「知りたくなかった……」 「大丈夫だよ。 頻繁に起こる事じゃねぇし? 年に4、5回?」 「いや、一件につき」 「だから、大丈夫だって。 どれも危害を加える怪異じゃないだろ? 音を出したり、現象を見せたりとか無害は物しか……、 あっ」 「ちょっと待て? あ、ってなんだ、あっ、て?」 「いや、これはレア中のレア、激レアってヤツだから大丈夫。 誰も見たヤツはいないんだから」 「見たヤツはいないのに、なんで伝わってるんだよ?」 「それはどんな怪異だよ?」 「そこまで言ったら聞かないワケにはいかねぇだろ?」 「言えよ? でないと鮎の代金、一万円取るぞ?」 「俺は食うかと言ったが、奢ってやるとは言ってない。 話したら奢ってやる」 「ひでぇ。 まぁ、いい。話してやる。 竜神橋の河童。 女の子が一人で橋を通りかかると河童が川から見つめてくる」 「女性限定じゃなくって女児限定だな」 「いや、俺に言われても……」 「さっき、世界一可愛い天使を連れてここから出ていったのをみたぞ?」 「うん。今のお前の旦那様だな。 俺達が小学校に入りたての頃、秋奈が一人で橋の上で遊んでたら川の中から河童が出て来たんだよ。 そして、秋奈が近所の畑からオヤツ代わりの取ってきたキュウリと交換に鮎をくれたんだとさ」 「マジ?」 「…… それって密猟者を秋奈が庇っただけの話じゃないのか?」 「ウチの旦那様ですか?」 「だからなんなんだよ! あ、って言うのは!」 「今度はなんだよ! 雪女か一つ目小僧か、ろくろ首か!」 「ちょっと待てぇ。 俺はカッパと同列か!」 「俺は頭に皿を乗せてねぇ!」 「そんなつまらねぇオチはいらねぇよ、ばか」 「こちらから?」 皆が去った後、俺は洗い物をしながら考える。 それにしても…… 村人は怪異に慣れている、か。 考えてみれば充分に異常な村だよな、ここ。 ま、面白いと言えば面白いが。 お食事処「きよたま」はあくまでも道の駅の一部なので、健全時間営業なのだ。 酒類も出せるウチの店の営業時間をもっと延ばして欲しい、という要望も一部ではある。 主に要望元はエロじじぃとかスケベじじぃとか、クソじじぃとか、後は長老会の一部とか…… 俺も営業時間を伸ばしたいとは思うんだが、要望元が気に食わないというか、オボンがいくつ有っても足りなくなりそうだとか…… そんなワケで今はちょっと思案中…… まぁ、オボンについては一応、店の開店時に開店祝いとして母さんが愛用のアルミのオボンをでっかい段ボールケース一杯に贈ってくれたのだが…… 「もう、半分がベコベコになっちゃってるしなぁ。酔っ払いが増えると消費量が加速しそうだし……」 「いっそ、神社の境内で屋台でも出そうかな?」 それにしても、今はこの階段にも慣れたけど…… 清香を産んだ時は大変だったな。 歴代の龍神神社の奥さん達はこの村の人間ばかりなので、臨月が近づくと実家に帰って産んだらしいが、俺の場合はここが"実家"になるわけだし、まさか"清彦の嫁"が俺の実家に帰るワケにも行かないし…… 結局、階段の上り下りが辛くなった最後は義母さんの実家にお世話になった…… そんなとりとめの無い事を考えていると…… バシャン 音は今来た駐車場の横を流れる川の方から聞こえたようだ。 当然、その川の名前は 「龍神川……」 『竜神橋の河童、女の子が一人で橋を通りかかると河童が川から見つめてくる』 「いやいやいや、誰も見た事が無いって言ってたし、俺はもう女の子って歳でもねぇし?」 「あれ?」 俺は恐る恐るそこに近づく。 ……それはキュウリだった。 川の近くの畑にキュウリがたわわに生っている。 ウチの村の作物は生育がいいとは思っていたがここまで大きいのも珍しい。 永野さんチの農園か。 しかし、なんでこんな所に? 「まさか、カッパが落としていったとか?」 このキュウリどうしよう? 畑に戻すか? しかし、落ちていた物を戻しに行ってもなぁ? 「面倒な物を拾っちゃったな? お〜い、落とし物だぞぉ?」 急に腕が重くなり、気がつくと俺が振っているキュウリの片方に緑色の手が…… 思わず振っていた腕をキュウリごと引き戻す。 キュウリと共に子供くらいの大きさの物体が橋の上に転がる。 その姿は…… 「痛いケロォ。 痛い上に失礼ケロ! オラのどこがカッパに見えるケロ!」 「そこはただのオラの個性だケロ。 オラはありがたい水神様ケロ!」 「嘘じゃないケロ! オラは水神だケロ!」 「龍だケロ? ほら、シッポ、シッポ」 「龍のシッポはそんなに小さくねぇ……」 「いや、見破る以前の問題だろ? で、お前はカッパなんだな?」 「よその土地の水神? なんで余所の水神がここにいるんだ?」 「なんでマブダチだとキュウリをご馳走になるんだ? 話がつながらねぇぞ?」 パシッ。 「冗談ケロ!! シャレのわからないヤツケロ! オラが勝手にキュウリを食べに来ただけケロ! ちょっと待て? 今の雷は本当の龍神様? このジャイアン河童、マジでウチの水神様の知り合いなのか? てかなぁ? 河童ってもっと怖いモノだと思ってたんだが…… 言葉を話してコミュニケーションが取れるって事がこうも恐怖感を失わせるとは…… この夕闇が迫る中で黙って突っ立ってたり、ケタケタと笑うだけだったら腰を抜かすくらい驚いたはずなのに…… 残念河童。 「ちょっと待つケロ。 お前はなんでオラを哀れみのこもった目で見るケロ?」 「いや、まぁ…… お前も地元じゃ苦労してんだろうな。 こうやって余所の水神様の所にキュウリをもらいに来るんだから?」 「初物のキュウリ?」 「……お前、今何歳だ?」 「年齢も忘れるくらい歳を得た妖怪が75日くらい気にするんじゃねぇ!!」 「痛いケロ! 神に手を上げるとは大それた行為ケロォ!」 「オラは地元では篤く信仰されてるケロよ! そのオラがわざわざ余所の川に来てやってるというのにこの扱いは酷いケロ!」 「マジケロ。 オラが縁を取り持ってやった嫁なんかはそれ以来、水神様、水神様とオラをすぐに頼ってくるケロ」 「縁を取り持った? お前、縁結びの神様?」 「その"嫁"とやらがお前を頼ってくる?」 「それって、なんだか便利に使われてるんじゃね?」 「ほぉ? ちなみに供物って?」 「だから、哀れみの目でオラを見るんじゃないケロ!」 「だから、その上から目線を止めるケロ! これだから人間は嫌いケロ」 「あれ? それなのになんで人前に出てきたんだ? お前、この村ではずっと姿を見せなかっただろ?」 「だったらなんで俺の前に出て来たんだよ?」 出てこざるを得ませんか…… 「そう言えば、お前。 さっき、おかしな事を言ったケロね?」 「ここの神社に祀ってあるのは龍神だって親に聞いたとか?」 「親というのはここの神主ケロ? ここの娘は一人っ子だったはずケロ?」 「嘘ケロ! ここの娘は昔、一度会ったケロ! わざわざ鮎を焼いて食わせてやった仲ケロ? それはお前じゃないケロ?」 「違うケロ! 身体は確かにあの娘ケロ! でも中身が別人だケロ! ……さては悪霊が娘の身体を乗っ取ってるケロね? 正体を現すケロ、物の怪!」 って、物の怪にモノノケ呼ばわりされるとは。 「お前、魂が判るのか? 事情があるんだよ、俺はこの村の"姫"なんだよ?」 「俺はそんなモノノケじゃねぇ! てか、お前。 意外な物を知ってるな?」 俺はかいつまんで俺の事情を河童に話す。 「あぁ! それでこの村の結界がなくなってるわけケロ?」 「あの結界は人払いの結界ケロ。 オラは腐っても神様ケロ。 神様には通じないケロ」 「それでもやはり結界が通じないって事は本当に神様なのかな?」 「だから軽いジョークに本気で怒るなケロ! オラじゃなかったら死んでるケロよ! 大体、親友の頭を狙うってどうゆう事ケロォ!」 雷の直撃を受けても皿が割れないんだ?意外と丈夫だな? あれ?そういや…… 「そういえば、お前はこうやって出て来てるのに、なんでウチの水神様は姿を現さないんだ?」 「え?いいケロ?」 「はぁ? いいって、なにが?」 「良いも悪いも…… ちょっと待て? マズいのか?」 「あぁ。 それが何か?」 「へぇ? そうなんだ」 「…… えっと、身体が一つで首が三つの龍?」 「で、この川の上に祀られるのはその龍の首の一つケロ。 当然、現れる時は三首同時ケロ?」 「えっと…… 大きさはお前と同じくらい?」 「いや、ちょっと待て? リアルに怪獣サイズ?」 「おいおい、なにを……」 「出てこい、神龍……」 「痛いケロ〜、軽い冗談だケロ」 「軽い冗談で村を壊滅されてたまるか! 大体、そんな召喚儀式をどこで覚えてきたんだ!」 「どこまでは本当なんだ? ウチの神様がキングギドラってのは……」 「お前も実は巨大だったりするのか?」 パシッ 「だから、なんでオラの上に雷を落とすケロ! ちょっと気軽に落としすぎじゃないケロ!」 「どうもここに居るとオラの命が伸びるどころか、逆に縮むケロ。 もう帰るケロ」 「なぁ?お前が本当に水神様の端くれなら何か証拠を見せてみてくれよ?」 河童は欄干の上から俺を振り返って下腹部を指さす。 「…… はい? え?なんの事だ?」 「だから、今、お前のお腹の中にいる赤ちゃんケロ。 男の子ケロ」 「オラには判るケロ。 来年の春、お前は元気な男の子を授かるケロ」 「……えっと。 マジ?」 『来年の春、お前は元気な男の子を授かるケロ』 清香の弟がここで育っているのか…… 「姫?」 「あ、清彦」 「なんでもありませんよ。 ほぉら、清香。 こっちにおいで」 清香は俺の腕の中で俺を見上げて「えへへ」と可愛く笑う。 くそっ、なんて可愛いんだ。 こんなに可愛い天使を産んだのはどこの、カッコアールワイ。 「で、なにかあったの?」 「ふふふ、夕食の時に話してあげます」 「なんだ?今じゃダメなのか?」 「なんだよ?思わせぶりだな?」 「神託?冗談だろ? 意地悪だな。教えろよ?」 「夕飯の時に教えてあげる。 お義父さんやお義母さんにも教えてあげたいから」 来年の春には家族がもう一人。 俺ももう完全にこの村の住人だな。 それが嬉しい。 俺の中で俺と一体となった姫が微笑んだ気がした。 E N D |