teruさん総合






               『皮剥丸異譚』


               3・復讐者


          ターゲットその1・ユカリ


私はその日、ホテルのバーのカウンターで男を物色していた。

先日、田舎から出てきたマヌケな男から金を搾り取り終わり、私は新たな獲物を求めていた。

「しかし、あの男も私の気の毒な身の上話を素直に信じていれば、もう少し夢を見ていられたのに渡した金を返せなんて言うからヒロシにボコられるのよねぇ。 最後は私にまで蹴り倒されてんだから……」
あの時の俊秋の情けなさそうな顔といったら。 その顔を思いだしてクスリと笑う。

「まぁ、あの男からは結構な金を搾り取れたけど…… その金ももうそろそろ底を突きかけているし。
渡す金が無くなるとヒロシのヤツ、他の女の所に行っちゃうからなぁ」
とにかく、一時的でもいいから金を持っていそうな男……

「すいません。オレンジジュースを」
ふと、気がつけば近くのカウンターでオヤジがジュースを注文していた。
バーに来てジュースだぁ? どこのバカだ?

チラリと横目でその男を観察してみると、カジュアルな服装の歳の頃なら私の親と変わらない位のオヤジだった。
持ち物はセカンドバッグが一つ。 
そこらを歩いているくたびれたおっさんか?このバーにはちょっと不慣れっぽくて場違いな感じだ。

そのセカンドバッグから音楽が流れる。
男は慌ててバッグの中からスマホを取り出そうとして床にバッグを落としてしまう。 
はん、ドジなオヤジ……

しかし、その口を開けたバッグから分厚い財布が顔を覗かせているのに気づく。 よくよく見ればバッグの中にも札束らしきものが見える。 そういえば、あのバッグもブランド品じゃないの? このオヤジ、何者?

「あ、うん。私だ。大丈夫。 ちゃんと集金は終わったから。 仕方がないだろ。向こうが振り込みじゃダメだって言うんだから。 取引の跡を残したくないってんだから。 うん、明日の新幹線で帰るから。
浮気? あはは、浮気なんかしないよ。 するはずないだろ。 これから寝るだけだから。 うん、私を信用しなさいって。 女で失敗した事なんか数えるほどしかないだろ? うん、うん、大丈夫」
そう言ってスマホを切るオヤジ。

会話の内容からするに、公に出来ないような取引をしてその集金にどこかの田舎から出てきた経営者のようだ。 しかも過去に何度か女でしくじっているスケベオヤジ。 ……ふふふ、これはもう鴨が葱を背負ってってヤツじゃない? 幸いにも私のバッグの中には不眠症対策に医者から貰った睡眠薬が……

私は立ち上がって男の隣に行く。
「隣、よろしいですか?」

「え? あ、あぁ、こんな美人さんが隣に来てくれるなら大歓迎だよ」
私の顔を見た男の相好が崩れる。 睨んだとおり、女に目が無さそうなスケベそうな顔だ。

「この街の方ですか?私、田舎から出て来たばかりでこの街の事をよく知らないんですよ」
そう言って男が笑いかけてくる。

「いえ、私もこの街は初めてなんですよ。私も友人を頼って出てきたばかりで」
「あぁ、そうなんですか?友達というのはボーイフレンド?」
オヤジが探りを入れてくる。

「あはは。男友達が居れば一人でこんな所に飲みに来てませんよ。女ですよ。 おじさんは?」
そう言って明るく微笑んでみせる。

「うん?おじさん? おじさんは独り者だよぉ?」
嘘を吐け。 たった今、奥さんと話していたじゃないの。 でも、これで私がちょっと誘えばホイホイとついて来そうな事は判った。 後は上手く雰囲気を作ってさえやれば飛んで火に入る夏の虫。

その後、私はオヤジを上手く煽て上げ、かなりうち解ける事が出来た。

「そう言えば、バーに来てジュースしか飲まないんですか?」
「あぁ、ちょっと最近、お酒で大失敗をしたもんでね。 大事な時は飲まないようにしてるんだよ」
そう言って自嘲気味に笑う。

「大事な時?」
「あぁ、まぁ、誰も聞いてないだろうから言うけど。 私は古物商でね。ちょっと前に大きな取引をして今日はその集金でこの街に着たんだよ。 さっさと銀行に入れてしまえばよかったんだけど、遅くなって銀行が閉まってしまってね」
そう言って脇に置いていたセカンドバッグをポンと叩く。 誰も聞いてないって?ふふ、私が聞いているわよ。 私は心の中でほくそ笑む。

「まぁ、それじゃ大きな取引が成功したお祝いをしなくっちゃ? 少しくらいなら飲めるんでしょ?」
私はそう言って笑顔で身体を密着寸前まで近づけて酒を勧める。

「え?うん、まぁそうかな?」
オヤジの顔がやにさがる。 ふん、男なんて私に掛かればチョロいものよね。

「バーテンさん、おじさんにブランデーの水割りを」
「おいおい、私は酒に弱いんだぞ?」
と、いいながらも私の注文を取り消せない所が男の悲しさよね。

オヤジは本当に酒が弱いらしく、私が注文した水割りを一杯飲んだだけで顔が真っ赤になってしまった。

「あらら、本当にお酒に弱かったの?」
「いや、もう身体は出来上がってるから耐性は出来てるはずなんだけど…… …… うん、大丈夫」
オヤジがそう一人言を漏らして赤い顔で苦笑する。

その後もオヤジとの会話は進んだ。

「おや?もう、こんな時間だ」
オヤジが腕時計を見てつぶやく。

「もう帰っちゃうんですか?」
名残惜しそうにオヤジを上目遣いで色っぽく見る。

「ん?どうかしたのかい?」
「いえ…… 実は同居している友人が男友達の所に泊まりに行ってて帰っても一人なんですよ」
寂しそうにつぶやく。

「それは今日はウチに帰りたくないってこと?」
オヤジが面白そうに期待を込めた視線で尋ねてくる。

「まぁ、人恋しいというか、誰かにそばにいて欲しいというか……」
甘えた視線をオヤジに送る。

「それは…… 私でもいいのかい?」
「おじさん、気さくでよさそうな人だから……」

「でも、私も男だから……」
「おじさんとなら一晩くらい…… いいですよ?」
オヤジの瞳に期待の光がともる。

「そうかい? まぁ、君がいいのなら私の部屋に来るかい?寂しい思いはさせないよ?」
ニヤケ顔で私を誘うオヤジ。

してやったり。 私は立ち上がったオヤジの腕に手を回してついていく。


ホテルに着き、部屋に入るとオヤジはさっそく私にシャワーを勧めてきた。

「それじゃ、先に入らせてもらいますね。 後からオジさんも入って来ていいよ」
そう言うと私はバスルームへと足を運ぶ。

「まぁ、男の油断を誘うためにもここは私の方から先に入っておくか」
私は服を脱いでシャワールームへと入る。

身体を洗っていると外で人の気配がする。 どうやら私が声をかけたので、オヤジの方も一緒に入る気になったらしい。スケベおやじめ。 

まぁ、胸くらいは揉ませてやってもいいか。 外に出たら喉が渇いたとでも言って睡眠薬入りの飲み物を飲ませて寝てしまってから金と一緒にトンズラしましょうかね。 

私はほくそ笑む。

カチャ。

ドアが開く音に私は笑顔で振り向く。
「あら?おじさんも一緒に入り………えっ?」

トンッ
次の瞬間、私の胸の間に刃が突き立てられていた。 そして全身に激痛が走り、身体が倒れ落ちる。
なに?私、刺されたの?

「よいしょ、っと」
倒れる瞬間、オヤジが私の身体を受け止めて担ぎ上げる。

オヤジに担ぎ上げられた私はバスルームを出てベッドの上に投げ出される。
「私に何を……」

「大丈夫、死にはしないわよ。 この短刀は皮しか切れないからね。 お陰で服も刃を通さないから肌を露出してもらう必要があるのだけど」
オヤジが急に女言葉で話し出す。

「な、なに? どういうこと?」
私は激痛で痺れ動けない身体でかろうじて口だけを動かす。

「まぁ、処刑ね。 斎藤俊秋という名前に心当たりがあるでしょ?」
「えっ?」
それは私とヒロシが先日まで食い物にしていた田舎出の青年の名前だった。

「思い当たったようね。 私達の調べであなた達が弟を殺した事はわかってるわ」
弟?俊秋がこのオヤジの弟? それよりも……

「殺した? 私は俊秋を殺してなんかいないわよ!痛めつけはしたけど」
「あなた達にお金を巻き上げられてご飯もロクに食べてなかった弟は栄養失調寸前で体力も無く、あなた達に乱暴された時にどこかに頭を打ちつけていて、帰ってきてから昏睡状態におちいったのよ。 私が気づいた時にはすでに手遅れで病院で息を引き取ったわ」
……私が蹴り倒した時、路肩の石に頭をぶつけてたけど、まさか……

「そ、それなら事件になってるでしょ! 私はそんな話を聞いてないわよ!」
「私達が事故死で済ませたからね。 私達は私達の掟によって相手を罰するのが決まりだから警察に介入してもらいたくなかったからね」
そう言ってニヤリと笑うオヤジ。 

それよりも"私達の掟"? それは私刑って事? だから私は刺されたの?
「ちょっ、ちょっと待ってよ。 あなたの弟の事は悪かったわ。 でも、本当に事故なのよ。私達は別に本気で俊秋を殺そうと思って乱暴したわけじゃ……」
「そうね。 だから今回はアナタから女の武器を取り上げる事で赦してあげる」
そう言うとオヤジは私の胸の間にもう一度短刀を突き立てると、一気に下腹まで引き下ろす。

「きゃぁぁぁ」
「大丈夫。死にはしないって言ったでしょ?」
そう言って私を切った短刀の刃を私の目の前にかざす。 斬られたというのに刃には血が一滴も付いてはいなかった。

「なに?どういう事?」
「この短刀は皮剥丸と言ってウチの神社に伝わる呪具の一つ」

「じゅぐ? なに、それ?」
「呪われた道具よ。 これで傷つけられた皮は呪いによって生きたまま、皮と肉に分断されて皮を剥ぎ取られるの」
そういうとオヤジは私の身体をうつ伏せにして私の髪を持ち引っ張る。 ツルンという感覚で首から上が覆面でも外すように剥がれる。

「え?」
そして今度は私の両腕を捕まえるとエビ反らせるように背中から引っ張りあげる。胸につけられた裂け目から私の"身体"がベッドの上に滑り落ちる。

「ど、どういうこと? や、やめてよ!」
足の方に向かったオヤジが私の足を掴む。

「これで最後ね。 ほら」
そう言うと私の足を引っ張る。 私の身体から何かがすべり抜けていく。 まるで全身タイツでも引き抜かれるように……

「はい、完成。 どう?これがアナタの抜け殻よ?」
そう言って私の視界に入るように広げて見せたのはまさしく全身タイツのようになった私の皮だった。

「そんなバカな…… 人の皮が生きたまま剥ぎ取れるなんて…… じゃ、今の私は……」
「鏡を見せてあげてもいいけど、かなりグロテスクになってるわよ? それよりも今度は実際に脱ぐ様子を見せてあげる」
オヤジはそう言って笑うと私の皮をベッドに置いて、自分の胸に短刀を突き立てた。

「きゃぁ!」
「大丈夫だって言ったでしょ?それよりもよく見てなさいよ。 滅多に見られるものじゃないんだから」
そう言ってオヤジは今私にしたように突き立てた短刀を下まで引き下ろした。

身体の中央に赤い線が走る。 しかし、血は一滴も吹き出す事はなかった。
しかもそのオヤジは、その傷口に指を掛けるとまるでウェットスーツでも脱ぐように皮を両側に開いたのだった。

「ひぃっ!」
私はその光景を目を見開いて凝視しつづけた。

その皮の中からはまるでピンク色のマネキンのような姿が出て来る。

「どう?」
自分の脱いだばかりの皮を見せる元オヤジ。

「あなたは一体、何者なの?」
「あなた達が殺した斎藤俊秋の姉よ。そして、ある神社の巫女。 と、言っても今となっては過去の話だけどね」

「過去の話?」
「今は私が斎藤俊秋よ」

こいつの言っている意味がわからない。
「あなたが俊秋? どういう事よ?」

「私達の田舎では独特の戒律と法があって、それを執行する役目を担っているのがウチの神社なのよ。
そしてその次の宮司が弟の俊秋だったのよ。 でも、俊秋が死んだ事によって神社は指導者を失うはめになった」
「だから、あなたが俊秋の代わりに宮司になったってワケ?」

「事はそう単純じゃないんだけど、まぁ、そういう事ね」
そう言うと彼女(?)は自分の皮を置き、ベッドの上の私の皮を手に取るとその皮を広げ自分の足をそこに通す。

「なにを……」
「こういう事よ」
そう言って手を広げて私に見せたその姿は私そのものだった。

「どういうこと?」
「この皮剥丸で剥ぎ取られた皮は着る事が出来るのよ。 しかも一度着れば皮と肉体が融合して脱げなくなり、本人と寸分変わらなくなるの。 つまり、今からは私がアナタ」

「つまり、私の存在を乗っ取るって言う事?」
「まぁ、これからアナタの男にもお礼をしに会いに行かなくっちゃいけないからね。 この姿なら相手も油断するでしょ?」
そう言って笑う女。

「ちょっと!ヒロシになにをする気よ! ヒロシに何かしたら赦さないわよ!」
「あらあら、彼氏の心配? いいの?自分の方の心配をしないで」

「自分の方?」
「自分がこれから何をされるか心配しなくていいの?って言ってるのよ?」
そう言って自分から引きはがした皮を手に取る。 まさか、それを私に……

「ちょ、ちょっと、冗談よね? あ、あれは不幸な事故だったのよ。 聞き分けのない弟さんをちょっと諫めただけで……」
「じゃ、俊秋がウチの実家から持ち出した一千万を返してくれるの?」
そう言って私を睨みつける。

殆ど私とヒロシで使ってしまった。 残りは後、数万程度しか残っていない。 それも今朝、全てヒロシに渡してしまった。

「無理なようね?それにあなた達の被害者は俊秋だけじゃないでしょ? 結婚詐欺に美人局、強請に昏睡強盗なんてのもやってるでしょ?」
「そ、それはヒロシにそそのかされて……」

「でも、ターゲットを積極的に選んでいたのはアナタよね?」
そう言いながらその皮の手足に切れ込みを入れて、まるで開きのようになった皮を広げて私に近づく。

「やめて!やめてよ! 私はそんなの着させないからね!」
痺れた身体で必死で身体を動かそうとするが思うように動かせない。 

でも、自分から皮を着るならともかく、人に着させようとするのはかなりの労力と時間が必要となるはず、その間になんとかチャンスを作って……

「言っておくけど、抵抗は無駄よ? 皮剥丸で皮を引き離してもあなたが生きているように、この皮も生きているんだからね?」
「なに?どういう意味?」

「本体と違って知性や意識は持ってないけど、生存本能だけはあるのよ」
「生存本能?」

「皮は皮だけでは生きていけない。 中身があって初めて動き回る事が出来て栄養摂取も出来る事を本能で知ってるのよ。 だからこうやって、生身の身体に被せてあげると……」
そう言ってうつ伏せになっている私の背中に広げた皮を被せる。

ゾワッ、嫌な予感が全身を駆け巡る。
「え?なに? ちょっと、いやぁ! この皮、動いてる。少しずつ軟体動物みたいに……」
「生きるために必要な物を捕食してるのよ」

「ほ、捕食ってなによ」
「皮があなたの身体を取り入れようとしてるのよ。 大丈夫、皮はあなたの身体と同化したらただの皮に戻るから」
そう言っている間にも皮はゆっくりと私の全身を覆うように広がる。

「いやぁ、それってこのオヤジになってしまうって事でしょ!やめてぇ!」
「最初に言ったでしょ? あなたから女の武器を取り上げる、と?」
皮がゆっくりと私の手足を覆い始める。

「いやぁ!赦して! お金ならいくらでも払うから!」
ナメクジが背中を這い回るような感覚が更に広がっていく。

「でも、もう皮はあなたに癒着し始めているわよ。 ほら?手足と背中は完全に融合した」
そう言って私の背中の皮を引っ張ると引っ張られたという感覚が身体に伝わる。
冗談じゃない、このままじゃ私は本当にオヤジになってしまう。

「それじゃ背中も引っ付いたようだし、次は前よね?」
そう言ってうつ伏せになっていた私の身体を仰向かせる。
皮がウニョウニョと時間を掛けて両脇から這い上がってくる。

「ちょっと、やめてよ!本当にマジで!」
やがて両脇から上がってきた皮は身体の中央で合わさり始める。 必死に首をわずかに持ち上げて見ると下半身はすでにオヤジの皮で覆われて股間にはなにかの突起物が備わっているのが見える。

「あらあら?初めて男性になるのにアレが立ってるのね? 実は男性化願望があったのかな?」
私の身体を見て愉快そうに女が笑う。

「おねがい、おねがいだから……」
そんな私の懇願を無視して皮は密着しながら腰から胸へと上がってくる。 豊かな胸があった場所に平坦な胸が出来上がり、急に首の後ろがムズムズし出す。

「え?ちょっと?」
一瞬視界が塞がれたと思うとすぐに開ける。

「どうやら全身が皮に包まれたようね?」
そう言ってどこからか手鏡を持って来て私の目の前にかざす。

そこには…… さっきまで目の前にいたオヤジの姿が写っていた。
「いやぁ!なによ、これ!冗談でしょ?冗談よね? ね?これってどうやって脱ぐの!?」
私は目の前の現実を受け入れられずに絶叫する。その声はすでに男……

「脱げないわよ? アナタはもう一生その姿で過ごすの。 命があるだけありがたいと思いなさい」
「この男は一体誰なの? 本当のアナタじゃないんでしょ!」

「さぁ?どこの誰かしらね。 私がこっちに来て弟の死に悩んでいる時、初めての酒で寝込んでしまった私を犯して身ぐるみを剥がれたバカな男よ。 そんなヤツがどこの誰かなんてまったく興味も無いわ」
吐き捨てるようにそういう女。

つまり、このオヤジもこの女に手を出して皮を剥がれたと言う事か……

「さてと、これで処刑も終わり。と、言いたいところだけど半時間もすれば身体が自由になるんだよね。
でも、これからの事を考えるともう少しの間、大人しくして欲しいのよね」

そう言うとコップに水を注いで私に近寄ってくる。
「これ以上なにを?」

「あなたのハンドバッグを調べたら面白い物が出てきたのよね」
そう言って錠剤の入った袋を見せる。

「それは……」
「睡眠薬。 さしずめ、私にこれを盛って眠っている隙にお金を持ち逃げしようとでも思っていたのでしょうね」

「それは……」
私に近づくと私の鼻を摘む。 息が出来ずに思わず開けた口に錠剤が放り込まれる。 続いて口の中に水が流し込まれる。

ゴクリ。
全てが喉を通って胃に落ちていく。

「あっ、あぁ……」
の、飲んでしまった。 睡眠薬…… 吐き出そうとするがすでに遅かった。

「まぁ、これであなたは眠りに落ちて明け方くらいまでは目覚めないでしょうね?」
「な、なにをす…る…気……」

「最後の罪人に罰を与えに行くのよ。 それじゃ、おやすみなさい」

そう言うと女は私が着ていた服を身に付けるとドアの向こうに消えて行った。
私は必死に覆うとしたが迫り来る眠気に勝てず、意識を落としていってしまった。

               *

目覚めたのは明け方近くだった
オヤジの姿で目覚めた私は全ての持ち物をあの女に持ち去られてしまった事に気づき、ホテルの非常階段からの脱出を試みた。

「この姿で金も無しにフロントを通れないし…… くそぉ、あの女、見てなさいよ。 絶対に見つけ出して私の姿を取り戻してやるからね。 あの女は私は一生この姿だと言ってたけどあの変な刀を使えばまた皮を取り替える事が出来るに決まってるに違いないわよね」

ヒロシの事も狙ってる様子だったから今から駆けつければ捕まえられるかも知れない。

「捕まえたらヒロシと一緒にボコボコにしてやる。それくらいじゃ気が済まないわよね。 そうだ、皮を剥いでそのままの姿で叩き出してやるのも面白いわね」

復讐心に燃えて非常階段を駆け下りる。 しかし……

「あっ」

駆け下りている時になにか違和感を感じていたが最後の瞬間に私は気づく。

いつものと歩幅が違っていた事に…… 短足オヤジの足が興奮状態の私が思っている場所に足を下ろし損なったのだ。  あと、一階。その油断から地上を前にして着地点を誤った私の身体が前につんのめる。

ガクンッ
ガタン、ガタン、ガタン、ドサッ…… ガツンッ!

私の身体は階下まで一気に転げ落ち、コンクリに頭を打ちつける。


     そこで私の意識は途切れた。



          ターゲットその2・ヒロシ


ソファに寝そべったまま、握りつぶしたタバコの空き箱を投げつけると壁に当たった空き箱はそのまま、下の屑籠の中へと落ちる。

「あぁ〜あ、ヒマだなぁ」
今朝、ユカリから巻き上げた金は競馬で見事にスってしまった。

「ユカリにも金が無くなった事だし、次はアイコの所に移るかなぁ?」
何人か居る俺の女の中ではユカリが一番稼いでくるから、ここに居る方が楽な事は楽なんだが……
しかし、肝心の金が無い。 とりあえずは今夜一晩様子をみて、ユカリが金を持ってこないようなら明日はアイコのウチに行くかな?

「それにしても腹が減ったな? ユカリの野郎、早く帰って来ねぇかな?」
立ち上がって冷蔵庫の中を覗き込むが大したものは入っていなかった。


ガチャ

「ただいまぁ」
タイミングよくドアを開けてユカリが帰ってくる。
手にはいつものハンドバッグに加え、ブティックのショッピングバッグのような物を持っている。

「おっ、帰ってきたか? どうだった収穫は?」

「ふふふ、じゃ〜ん」
ユカリが笑いながらショッピングバッグを床に置き、ハンドバッグから札束を取り出す。

「おぉ!どうしたんだよ、それ?」
俺は目を丸くして札束を見つめる。

「いつも行くバーに田舎から出て来たらしいスケベ親父の社長が来てね。 ちょっと、お近づきになってホテルにしけ込んで、いつものように眠り薬をもってやったのよ」
そう言って得意気に札束をバサバサと振ってみせるユカリ。

ふふ、早めに出ていかなくて正解だったようだ。 この女は本当に悪女だな。そこがいいんだが。

「やったな、ユカリ。 この前のバカと言い、俺達のために金を運んでくる田舎者が後を絶たないな」
そう言ってユカリを抱きしめる。

「そうね。 あ、この前のバカって俊秋の事?」
俺に抱きしめられながらハンドバッグの中に手を入れるユカリ。

「あぁ、そんな名前のマヌケだったか。 わざわざ、田舎に帰ってまでお前に貢ぐ金を持ってきたバカだったよな」
そう言って、俺に殴られた時のキョトンとしたあのマヌケなツラを思いだして笑う。

サクッ
うなじの辺りになにかが突き刺さり、激痛が全身に走る。 なに?ユカリに刺されたのか?

俺の身体がユカリに抱きついたままズルズルと崩れ落ちる。
「な、なにを……」

「ごめんねぇ。 本当は色仕掛けであなたを裸にしてから刺すつもりだったけど、ムカついたからつい、
刺しちゃった」
そう言って愉快そうに舌を出すユカリ。

「お前…… まさか、俺を裏切るのか……?」
「ユカリちゃんは今頃、ホテルのベッドで睡眠薬を飲んでグッスリと寝てるんじゃないかしらぁ?」
そう言って俺の首の周りをなにかで切っていくユカリ…… じゃないのか?

「お前…… 誰だ?ユカリじゃないのか?」
「ふふ、誰でしょう?」
そう言うとユカリは自分の服を脱ぎだし、全裸になると喉元にナイフのようなモノを突き立て、一気に下へと引き下ろす。

「うっ、なにを!」
目の前で起きた事が信じられず思わず声が出る。 身体の中央に一直線に赤い線が入っているが血は一滴も出ていない。

「ショーはここからよ?」
ユカリはそう言うと自分の傷口に指を掛けて左右に広げる。 
すると、まるで服でも脱ぐように生皮が剥がれていく。

「うわぁ!な、なんだ、なんなんだ、お前は!」
そこからは全身ピンクの化け物が出て来る。 化け物は自分が持って来たショッピングバッグに手を伸ばすとそこから肌色のなにかを取りだして足を通す。 

それは新たな皮だった。
足を通し、腕を入れ、マスクのようになっている顔を被ると、そこに居たのは……

「と、俊秋!? お前だったのか!」
そこには前に俺とユカリがボコボコにした斎藤俊秋がニヤニヤ笑いで立っていた。

「正確には二代目の斎藤俊秋よ。 初代はあなた達に殺されてしまったからね」
「殺された? 何を言ってるんだ?」

「弟はあなた達の暴行を受けた後、昏睡状態になってそのままこの世を去ったわ。 今は私が"斎藤俊秋"を継いだのよ」
「俊秋を…… 継いだ?」

「あなた達には判らないでしょうけど、私達の田舎には私達自身の世界観と技術が有り、その一つがこの皮剥丸と、ウチの神社の宮司は代々男が継ぐと決められている事」
そう言って手に握られている短刀を俺に見せる俊秋。 意味がわからない。どういう事だ?

「つまり、あなた達が弟の俊秋を殺したせいで、私がウチの神社を継がなければならなくなったのよ。 
その為に女を捨てて、この俊秋の皮を着る事でね」
そう言いながらバッグから男物の衣服を取り出し、身に付けていく。

「だったら、大人しくそのまま田舎に帰って神社を守ってろよ」
「言われるまでもなく帰るわよ。 でも、その前にやっておく事があるのよ」
そう言って今度は動けない俺を奥のベッドに投げ下ろすと俺の服を脱がせていく。

「な、なにをする気だ」
「ユカリさんからは弟を誑かせた女の武器を奪ってあげたわ。アナタからは女を操る男の武器と暴力性を奪ってあげようかしらね」
そう言うと自分にしたのと同じように、俺の首に短刀を突き立てて下まで切り裂き、俺の生皮を剥がしていく。 なんとか首を上げて見えた俺の身体はピンクのマネキンのようになっていた。

身体は痺れて動けないが、生皮を剥がされたという痛みは感じない。

「さてと、それじゃ、ヒロシくんには新しい皮を進呈しましょうか?」
そう言って俊秋は今まで自分の皮だったユカリの皮を床から持ち上げる。

「ちょっと待て! まさか、それを俺に着せようなんてしないよな? それを着ると俺がユカリになってしまうなんて事は……」
冗談ではない。俺がユカリの皮を着る?

「ふふふ、半分アタリで半分ハ・ズ・レ」
そう言って笑う俊秋。

「半分ハズレ?」
「アナタから引き離した皮は首から下だけ。 さっき、首の周りに切れ目を入れておいたから首から上はまだ付いてるでしょ?」
確認は出来ないが、確かに生皮を剥がされた時に首から上をどうにかされた記憶はない。

「待てって、まさか首から下をユカリの身体にするってのか?」
俺は驚いて尋ねる。

「ぴんぽ〜ん。 アナタは男の武器と暴力性を奪われてこれからは女性としての人生を歩んでいくのよ。
まぁ、女たらしだけあって顔は整ってるからちゃんとお化粧をすれば見られる顔になりますよ」
そう言って細工でもするように切れ目を入れたユカリの皮を広げ、俺の身体の上に着せるように乗せる。

「待て、俺はそんなの着ないぞ! 着せても脱ぐからな!」
「ダメですよ。 この皮は一度着てしまうと癒着して脱げないの。 無理に剥がそうとするとそれこそ、血だらけになって七転八倒の痛みに襲われて失血死は間違いないわよ? それに着ないぞと言っても皮の方で着てもらいたがっているようよ?」

「え?」
「ほら、わかる? アナタの上に乗ってる皮がジワジワと動いているのが?」
ニヤニヤと俊秋が動けない俺の身体を見下ろす。

神経を集中してみると俊秋の言うとおり、皮がナメクジのように少しづつ動いて俺の身体を覆うように広がっていく。 その意味を知った時、頭からサァッと血の気が引いていく。

「やめろ!この皮を俺の上から退けろ!」
「何を言ってるの? それはあなたの愛するユカリさんの皮よ? 文字通り愛する人と一体になる幸せを噛みしめればどうなの?」

「巫山戯るな、俺は女なんかになりたくねぇぞ!」

「…… 私はずっと女のままでいたかったわよ? でも、あなた達のせいで女を捨てなくっちゃいけなくなったのよ? まぁ、最後の背中を押したのはどこかのバカだけどね。 神聖な巫女としての処女を奪ってくれたバカのせいで巫女をやれなくなった。 結婚して愛する人の赤ちゃんは産めないけど、龍神神社の巫女として生きるというのは私のプライドだったのに……」
今までと違って冷ややかな目で俺を見下ろす俊秋。 視線で人が殺せるなら今がその時かも知れない。

「古いしきたりに生きるのはナンセンスかもしれないけど、自分で選んだのならともかく、他人に人生を狂わされて歩むのは業腹よね? だから、これは竜神神社の次期宮司を殺した事への罰じゃなく、私の私的な八つ当たりの部分が大きいのかも知れないわね。 だから、私の事を恨んでもいいわよ?」

「恨まないから、これを剥がしてくれ! その短刀を使えばもう一度、剥がせるんだろ? な、頼む。 
反省してるから!」
俺は必死に俊秋に懇願する。

「ダメよ。それに、ほら? もう皮は手足を飲み込んだわよ?」
言われて、手足に手袋と靴下を履いたような感覚がある事に気づく。

「ふふふ、気持ちいいの? ほら、お腹の方もジワジワと皮が閉じられていくわよ?」
言われて気づけば背中に廻った皮が両側から這い上がってきて下腹から上の方へと閉じられていく。

「や、やめろ、剥がしてくれ……」
「ふふふ、ほら?もう股間からは凶悪な男の武器がその武器を受け入れる鞘へと変わっちゃったわよ?」
そう言って俺の下半身へと手を伸ばす俊秋。

「くぁっ」
股間の男にはあり得ないところに指が入っていくのが判る。
「あらあら、さっそく感じちゃったのかな? でも皮を着たばかりだからそんなに奥までは出来上がってないのよねぇ?」
股間の奥で指が動く。

「ひゃ、な、なに?」
「皮を着たばかりだから、中身が出来てないのよね。 大丈夫、もう少ししたら身体の中身も女性化して子宮もちゃんと出来上がるから」
そう言って意地悪く笑う俊秋。

「じょ、冗談じゃねぇ!」
「そう、冗談じゃないのよ。 さてとそろそろ首の方まで癒着が完了するようね。 立派な胸が出来たわよ? 首まで閉まったら声も女の子っぽく変わるから楽しみでしょ?」

「巫山戯るな!」
叫んだ俺の声が甲高く聞こえる。

「ほら、言ってるそばから女声になった」
俊秋がそう言って笑う。 くそっ、誰か来ないか?ユカリの野郎、こんな大変な時に何をしてやがる。

コンコン。 

その時、ドアがノックされる。 しめた。ユカリか?それとも誰か他の女か、男のダチでもいい。 この
状況を何とかしてくれるヤツなら……

俊秋が玄関まで行って覗き穴から外を見るとドアのロックを外す。

「俊秋様、ご希望の品が届きました」
外から声が聞こえる。 クソッ、俊秋の知り合いか?

「ご苦労様でした。 父には明日には帰るとお伝え下さい」
「承知しました」
訪ねてきた男は俊秋になにかを渡すとさっさと帰ってしまったようだ。 クソ、俺の知り合いが来ていれ
ば……

「いやぁ、もう少し待って間に合わなかったら素直に帰ろうと思ってたんだけど、ぎりぎり間に合ったようね?」
そう言って、手に持った小さな袋を開けながら近づいてくる。 ゾクッ、なにか嫌な予感が脳裏をかすめる。

「な、なんだそれは!」
「え?ヒロシさんのお・ク・ス・リ」
そう言って小箱から小さな蒼い粒を取り出す。

「薬?」
「ヒロシさんから男の武器は取り上げたけど、今度は女の武器で勝負されたりしたら困るでしょ? だから女の武器を思うように振るえなくする薬ですよ」

「思うように振るえなくする薬?」

「端的にいうと恒久的な効き目がある媚薬ですよ。 これを飲むと男性のアレが欲しくて欲しくてたまらなくなる薬です。 自分から男を求めるから、男を焦らせたりお預けを食わせる余裕がなくなります。
つまり、女の手練手管が使えなくなるんです。 あぁ、媚薬と言ってもそれしか考えられなくなるほどの淫乱性はありません。 せいぜい、男のペニスの事が頭の中から離れなくなる程度の微弱な物ですから」
にっこりと笑って丸薬を俺に近づけてくる俊秋。

冗談ではない。 俺の頭の中から男のペニスの事が離れなくなる?しかもこいつ、効き目は恒久的と言わなかったか?
俺は麻痺からなんとか逃れている口を真一文字に引き結ぶ。 そんな物を飲まされてたまるか!

「おやおや? 抵抗は無駄ですよ?」
そう言って俺の鼻を息が出来ないように摘む。

「う、ううぅ……」
「ふふふ、いつまで抵抗できるかしらね?」
俺と俊秋の我慢較べは勝負にならなかった。

「ぷはっ、うぐっ!」
息が続かずに口を開けた瞬間、口の中に数錠が投げ込まれ今度は吐き出せないように口を押さえられる。

「ゴクリ……」
丸薬が喉を通って腹の中へと落ちていく。

「はい、処刑完了」
にっこりと笑う俊秋。

俺は仰向いたままゲェゲェと喉を鳴らすが、薬が胃から上がってくる気配はない。
「あはは、無駄よ。 完全に飲み込んじゃったもの。 大丈夫よ、薬はすぐには効いてこないから」

「効いてたまるかぁ! なぁ?媚薬ってのは冗談なんだろ?」
「時間が経てば判りますよ。 楽しみでしょ? もう少ししたら身体の痺れも取れて動けるようになるからね」
そう言ってショッピングバッグの中に俺の身体の皮とユカリの頭の皮を放り込む。

「ちょっと、俺の皮をどうする気だ?」
「え?あぁ、田舎に帰って俊秋の墓前に供えた後、丁重に荼毘にふして上げますよ」

「焼くってのか!俺の皮を?」
「別に使い道もないんだから、いいでしょ?」
そう言って笑う俊秋。

「つ、使い道がないなら返してくれないか」
ちょっと下手に出て頼む。

「ダメよ。 それに媚薬を飲んじゃったから皮を返しても男好きは変わらないわよ。 男の身体で男好きというのも面白いかも知れないわね?」
「ちょっと待て。 たとえ媚薬と言っても男の身体になったら女好きになるんじゃないのか?」

「男が飲めば、ね。 でも、女の身体で効果が出れば男の身体に溺れる快感が忘れられなくなるから性同一性障害になって自分から進んで女性化の性転換手術を受けちゃうんじゃない?」
とんでもねぇ事を口走りやがる。

「だから戻らない方が手術費用を出さないですむでしょ? 大丈夫、ちゃんと供養はしてあげるから」
そう言うと俊秋はさっさと出て行ってしまった。 

俺は一人で部屋に残される。
……くそぉ、あのガキ。 巫山戯やがって。 

俺はユカリの身体にされてしまったのか……

あいつが出て行ってから10分ほどでなんとか腕が上がるようになり、少しばかり痺れが取れてきたので腕をついて上半身をなんとか起こす。

その体勢から見えるのは白い肌にできた二つの見事な双丘と、その下にある股間から覘く繁み…… 
痺れが残る腕を上げて双丘のうちの一つを鷲づかみにして引っ張る。

「痛い……」
脂肪の塊が俺の胸から剥がれる気配は微塵もない。
股間にも手を伸ばして調べる。 そこに男の象徴はなく、クレバスのようなモノがあるだけだ。
指をゆっくりとそのワレメに這わせる。

「くっ」
ある箇所で指が中にめり込む。 湿り気を帯びた孔が…… 女特有の孔…… しかもちょっと濡れ始めている……

「じょ、冗談じゃねぇ!女なんかになってたまるか」
俺は必死に身体を起こし、自分の服を身につける。

ケツがでかくなったせいか臀部が窮屈でいて腰の辺りがダブダブだが仕方がない。
ユカリのヤツはスカートばかりでパンツスーツなんて一つも持ってないからな。
さすがに女の皮を着せられたからと言ってスカートを穿く趣味はねぇ。

開襟のシャツは胸が邪魔してボタンが閉まらないのでTシャツを頭から被る。 でかい胸がシャツを押し上げているのが気に掛かるが今は気にしていられない。

奴を追うべく、ヨロヨロとドアを目指す。
一刻も早く俊秋の野郎を見つけ出して俺の皮を取り戻す。 俺の身体を焼かれてたまるか!

アパートの階段を下りて往来に出ると左右を見渡す。
ヤツが出て行ってから半時間ほどが経っているだろうか? 見まわしたところでヤツがノコノコと歩いているわけがない。

住宅街と駅や繁華街のある方向…… ヤツが出て行ってから車が出て行った音を聞いた覚えがない。
行くとすれば繁華街方面か? 明解な根拠があるわけではないが、俺は繁華街の方に向かってヨロヨロと歩を進めた。

道行く男達を必死に確認しながら繁華街を歩き回る。
しかし、俊秋らしき男はどこにもいない。 せめて写真でもあれば人に聞いて歩く事も可能だがそんな物はなに一つない。 自分の目だけが頼りだ。

ドンッ

身体が通行人の一人にぶつかる。
「気を付けろ、ボケッ! って、ヒロシじゃないか? どうしたんだ、こんなところで?」

振り返った先にいたのはアキラだった。 俺と同じで女を食い物にしてる男だが、俺よりも節操がなく、女なら誰でもいいという態度が露骨でそれで女に逃げられてはいつも新しい女を探している。 

実家が資産家なので広いマンションで気ままに一人暮らしをしてるのが気に食わない上に、あまり好きに慣れないのは人の女でも平気で手を出す事だ。 
俺が知らないと思っているだろうが、こいつはユカリにも本気で声を掛けているのだ。
まぁ、同族嫌悪ってヤツかも知れない。

互いに相手の事を良くは思ってないが、表面上のつき合いは悪くない。


しかし、今はそんな事をかまっていられない。
「アキラ! お前、俊秋の顔を知ってるよな?」

「俊秋? お前とユカリが食い物にしていた田舎者だろ?」
「見なかったか?」

「見なかったかって、あいつはお前らにしゃぶり尽くされて田舎に帰ったんじゃないのか?」
「戻って来た……のとは違うか? とにかく、あの野郎がこの辺りにいる筈なんだ!見なかったか?」
俺はアキラに必死に尋ねる。

「どうしたんだよ? てか、お前。 よろよろじゃないか?どこか身体でも悪い…… のか?」
俺の身体を気遣うように見ていたアキラの目が俺の胸の上で停まる。

俺は慌てて胸の上で腕を組む。
「な、なんでもねぇよ」

「いや、なんでもなくはないだろ? どうしたんだ、その胸は?」
そう言って俺の両腕を掴むとガバッと広げ、俺の胸がはっきりと晒される。

「何でもねぇって言ってんだろ!」
「いや、なんでもなくはねぇだろ? 腫れてんのか?」
そう言って俺の胸を掴む。

「ひゃぁん」
俺の口から思ってもみない悲鳴が漏れる。

「え?え? なにを女みたいな悲鳴を上げてんだよ? てか、え?」
そう言ってアキラは俺の身体をマジマジと見たかと思うと尻に手を回す。

「ケツもでっかくなってねぇか」
「あはぁん」
飲まされた媚薬のせいか、俺の口から女っぽい声が意思に関係なく漏れる。

「…………」
「…………」

「ちょっと来い、ヒロシ」
そう言うとアキラは俺を路地の陰に引っ張っていく。

「なにをする……」
俺の言葉が終わらない内にアキラがTシャツを捲りあげ引っこ抜く。

露わになる俺の上半身。 慌てて腕を組んで隠した下からは隠しきれないほどのオッパイが……

「ヒロシ…… お前、いつの間に豊胸手術なんかしたんだ? てか、そういう趣味が合ったのか?」
目を丸くして俺の胸を見つめるアキラ。

「ちがう! これは俊秋のせいだ!」
「どういうことだ? 話せよ?」
俺はアキラに奪われたTシャツを取り戻して着ながら、渋々経緯を話す。

               *

「はぁ?皮を剥ぎ取られた? 正気で言ってんのか?」
「俺だって自分の身に起きなかったら信じられねぇよ。 お前だってたった今、見ただろ。 この胸を」

「つまり、お前の身体はユカリなのか?」
「俊秋の言葉を信じるならな」

「だったら、ユカリは今どうしてるんだ?」
「さぁ?」

「さぁって薄情なヤツだな? お前の女だろ?」
そう言って懐から携帯を取り出すとユカリを呼び出す。 こいつ、いつの間にユカリの番号を……

「………… 出ないな? と言うか、お前がユカリの皮を着てるって事はユカリは今は生皮を剥がされた状態か? つまり今はお前がユカリ……」
携帯をポケットに閉まって、改めて俺を見まわすアキラ。

「……な、なんだよ?」
「本当の本当に今の話は本当なのか?」
アキラが疑わしそうに俺を見る。

「こんなくだらねぇ嘘を吐く理由がねぇだろ?」
「いや、お前が嘘を吐いていなくても俊秋が吐いてるかもしれねぇだろ? 何かのトリックでユカリの皮を着せられたと思わされてるだけとかよ?」

「トリック?」
「実は催眠術を掛けられたりしてたり、皮だと思ってたのは精巧に出来たスキンスーツってヤツかも知れねぇし? 生皮を剥がされて着せ替えられたって話よりこっちの方がリアリティがないか?」
なるほど、確かにアキラの言葉の方がなんとなく真実味があるな。

「よし、ちょっと調べて見ようぜ。 俺のマンションに来いよ。 案外、簡単に脱げるかも知れないぞ。
脱いだ下からちゃんとお前の身体が出て来るって」
そう明るく笑って俺の肩に手を回すアキラ。

そして俺は身体を調べてもらう為にアキラの部屋へと向かった。

               *

「騙したな!」
「騙してないだろ? ちゃんとお前の身体を隅から隅まで調べてやったじゃないか?」
アキラが心外そうに俺を見下ろす。

俺はアキラのマンションのベッドの上に素っ裸で後ろ手に手錠を掛けられて転がされている。
「これが調べるって言うのか!」

「調べてやっただろう?お前がユカリの皮を着てるというのは太腿のホクロとアソコの形がほぼ一致してる事で本当らしいと判ったし、皮がお前の身体の女性化を促進してるってのもアソコの孔が徐々に深くなってる事で理解しただろ?」
そう言ってペットボトルのミネラルウォーターを飲んで笑う。

そう。俺はこいつの部屋に入った途端、服を剥ぎ取られて犯されたのだ。 必死に抵抗する俺の腕を後ろ手に手錠を掛けられて……

「お前、なんでユカリの身体の事を知ってるんだ?」
「そりゃ、お前。 ユカリと寝たのは一度じゃないからな」

「どういう事だ!」
俺はベッドの上からアキラを睨む。

「こうなったからには言っちまうけど、ユカリは時々俺と浮気してたんだよ。お前と喧嘩した時とかな。
まぁ、お前に対する当てつけなんだろうけど、贅沢は言わずに美味しくいただかせてもらったぜ?」
ユカリの野郎、よりによってアキラなんかと寝てやがったのか……

「そう言えば、アソコの孔がってなんだよ」
「最初にお前のアソコにペニスをぶち込んだ時はペニスが完全に入らないほど、浅かったのに最後はズッポリと俺のを飲み込んでたじゃないか? お前の身体の中で子宮ももうすぐ出来上がるんじゃないか?
だから、身体の中身が女性化してるってのは嘘じゃないみたいだぞ?」

「ふ、巫山戯るな! 子宮なんか出来てたまるか!」
「たまるかって、俺に言われてもなぁ? 事実は事実として受け入れろよ?」
そう言ってニヤニヤと笑うアキラ。

「とにかく、この手錠を外せ。 俊秋の野郎を見つけ出して俺の皮を取り戻す!」
「まぁ、待てって。 どうせ、俊秋の野郎はもうこの辺りに居るわけがないだろ? 今頃はどことも知れない田舎への帰路だよ。 お前、俊秋の田舎を知らないだろ?」

「そりゃ、まぁ……」
「だったら、現実的な話をしようぜ?」
そう言ってニヤリと笑って俺の胸に手を当てる。

「ハァン…… なにを……」
「お前、これからどうするんだ? こんな身体になっちまったら女達もお前に貢いでくれなくなるだろ?
生活手段はあるのか?」
そう言われてしまうと言葉に詰まる。 俺は今までヒモのように女達から貢がせた金で暮らしてきた。
身体が女になってしまったという事はそれが不可能になったって事で……、住む所さえ失ってしまう。

「それでものは相談なんだがな。 お前、俺に飼われないか?」
「はぁ?飼われるぅ? 巫山戯んな!」

「巫山戯てなんかいないぞ? お前と寝てみて判ったが、お前、かなり淫乱じゃないか?」
そう言って俺の胸を揉み上げるアキラ。

「あはぁん、あぁぁ!あひぃ、あぁぁ!」
俺の口から意図せず、喘ぎ声が漏れる。 身体が敏感に感じすぎるのだ。 男に胸を揉まれて気持ち良いはずがないのに身体が勝手に反応する。

「ホント、お前って男のくせにいい声で鳴くよな? その声だけで俺のアソコがビンビンに勃起するぜ」
そう言いながら俺の股間をまさぐる。

「ヒャぁン、やめろぉ、アァン、あひ、あひぃ、アァン、指を、指を……」
手錠で拘束され、動かせない身体を捩る。

「くふふ、この指をどうして欲しいんだ?」
「……入れてぇ。  はっ……、ち、違う、抜け、抜いて…… あはぁん、あぁん……」
心と裏腹に身体が男を求めてしまう…… 俊秋に飲まされた媚薬が効いているというのか。

「本当に淫乱な女になったな、お前。 ほら股間がこんなに洪水状態だぞ?」
俺の愛液でテラテラと光る指先を目の前に見せつける。

「あァン、あふぅぅ、ア、ア、アァァ……」
「お前、身体はユカリだもんな。 どうだ、自分で性感を開発してやった女になった気分は? まぁ、言わなくてもその声でわかるがな。 ここは防音がしっかりしてるから好きなだけ鳴き叫んでいいぞ?」
得意そうな顔で俺の身体を弄ぶアキラ。 口から勝手に男を立たせるような喘ぎ声が上がり、身体が意思に拘わらず男を求める。 あの媚薬さえ飲まされなければもっと抵抗が出来たはずなのに……


気がつけば俺は膝立ちになってアキラのペニスにしゃぶりついていた。
「うほぉ、お前、テクニックも相当なもんじゃないか? 実は最初っから女になって男と寝てみたかったんだろ?」
そんなワケが……

「どうだ? そろそろコレを入れて欲しいんだろ?」
俺の目の前で猛り狂ったペニスを見せつける。 誰がそんな事を望んで……

「挿入れて!お願い、欲しいのぉ!」
だが、俺の口からは勝手に淫乱な女のような言葉が漏れる。
そして、自分の声に自分自身が興奮している事に気づく。

そこに気づいてしまえばあとは一直線だった。
さっき、アキラに犯された時と同じだ。 心よりも身体の欲求が勝ってしまったのだ。
いくら心が拒否しても身体がソレを求めてしまう。

手錠を外され、自由になった手で俺はアキラのペニスを自らの股間に導き入れる。
「あぁぁ、い、イイ! 突いて、もっと、もっとぉ!」

アキラの体の、上で、後ろから、前から、抱きかかえられながら、いろんな体位で犯され、よがり狂う。
俺の声の反応してアキラのモノがさらに大きく固くなっていく。

俺は自分からアキラのペニスを締め上げながら、腰を激しく振って狂う。 あの薬のせいで心が拒否しようと身体が女の快感を貪欲に求めるのだ。

「あははは、お前。最高の女だよ。 いいか、お前は今日から俺のペットだ。 ちゃんと調教して一人前の女に仕込んでやるから安心しろ。 そうだな、お前もただメシを食うのは気が引けるだろうから、仕事もちゃんと世話してやるから頑張って働くんだぞ?」
笑いながらアキラがなにかを言っているが、もはや女の快感を求めるのに夢中な俺の耳にはなにも入ってこなかった。

「イ、イク!イクイクイク!イッちゃうぅ! ちょうだい、お願い、熱いのを私の中にぶちまけてぇ!」
「くははは。 あのヒロシがこんなに淫乱女になるとはな。 どうだ、女を食い物にしていた自分が今度は食い物にされる気分は?」
俺は犬のように背後からペニスを突き入れられ、両手を拘束されて背中を仰け反らせて叫ぶ。

「いい、いいのぉ!お願い、もっと、もっと激しく動いてイカせてぇ!ちょうだい、ちょうだいよぉ」
「あはは、俺の言葉がまったく耳に入ってないか? いいぞ、イケよ。 俺の熱いモノをその胎内にぶちまけてイッてしまえ、この淫乱女」
そう言うとアキラは俺の中に熱い精の塊を勢いよくぶちまけた。

「ひゃぁぁぁぁん! ……い、いい」
絶頂に達した俺はそのまま失神し、意識を手放してしまった。

「いやぁ、俺。 本当はお前のことが大ッ嫌いだったんだが、こうなってみると別だよな? それじゃ、お前はもう俺のペットだから逃げたりしないようにしておこうな。 ちゃんと調教が終わるまでお前には自由はないから、一日も早く心から従順な性奴隷として生まれ変われよ?」
暫くして気がつくと、そう言って笑うとアキラは俺の首に鎖付きの首輪をつけ、再び、後ろ手に手錠をはめた……

     そして俺はその日からアキラの性奴隷にされてしまった。



               E N D









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