SKIN SISTERS
    第2章 トモニウタウ
    作:嵐山GO

 (1)

 その日の午後、三崎は大学の講義を終え校門を
出た所で携帯の着信を確認した。
「おっと、マナーモードのままだったか。ん、誰だ?
ユキ? 誰だっけ?…あー、思い出した。友紀
(とものり)さんか懐かしいな。はい、もしもし、
三崎です」
「三崎くん、久しぶりだね。元気だったかい?」
 二ヶ月ぶりに聞く声だった…
「え、ええ…おかげ様で何とかやってます」
「例のストリートパフォーマンスは今もやっている
のかい?」
 それは路上での演技の事を言っている。
「やっています、時々ですが」
「なら女の演技にも、更に磨きがかかっただろうね」
 初めて演技を見られた時は女装して演技をしている
場面だったのだ。
「いえ…そんな事は…ないですけど」
 三崎は話の内容を気にしながら、自然と小声になった。

「急で悪いんだけど、またコンビの仕事の依頼が来たんだ。
手伝ってくれるかい?」
 『仕事』それは二人だけの秘密のバイト。特殊な女の
皮を被り女の姿で男の相手をする。
 もちろん肉体的な奉仕のことだ。
 三崎にとっては、まだ一度きりの経験だが、その高額な
報酬と甘美な体験には目もくらむ程だった。
 この二ヶ月の間、何度も思い出しては自慰をし、夢想を
繰り返していた。
「え? 今回も僕でいいんでしょうか」
 そうは言ったものの断られでもしたら、後悔どころでは
すまない。
「君がいいんだよ。携帯で話すのもなんだから、すぐに
自宅に来てくれるかい?」
「え? あ、あの、今からですか?」
「出来れば早いほうがいい。行く日程も決めなければならない
しね。今、時間は空いてるかな?」
「分かりました。大丈夫です」
 本当は帰り道の途中で見たかった映画をレンタルしようかと
予定していたが、それよりも遥かに大きな楽しみが転がり
込んで来た。
「では待っているよ」
 電話は切れた。三崎は、すぐさま足の向きを変え、男の住む
マンションへと急いだ。


 一時間後、三崎はマンションの一室に到着し、ソファに座って
男の言葉を待った。
 ガラステーブルの上には紅茶が二つ並んでいる。
「悪いかったね、急に呼び出して」
「平気です…暇ですから…いつも」
「三崎君は彼女とかいないの? モテそうだけど」
「いません。僕なんか…ナヨナヨしてるし口下手だし、男っ
ぽいところなんかまるでありませんし」
「そうか。女性らしいところは私の望むところだが、彼女を
作るとなれば、そうもいかないものなぁ」
 男は紅茶を一口すすり、仕事の内容について話し始めた。
「仕事の話をしようか。今回は、といっても君は二度目だが
…ちょっと行為の内容が変わっててね」
「はぁ…」
(いよいよだ)
 心臓の鼓動が早くなる。

「相手の男が極度なM(マゾ)なんだ」
「それって…」
「ああ、私は一度相手をしたんだが次の希望は3Pなんだ。
客…まぁ、あえて客と呼ぶが、その相手は受け専門なんだよ」
「僕ら二人で攻めるって事ですね」
「そうなんだ。ちょっと難しいかもしれないね。こっちが受身
だと相手の攻めによって適当にアエギ声さえ漏らしていれば
いいが、責めとなると、必然的に口数も多くなる」
「そうなんですか?」
「ああ。例えば…そうだな。女王様が奴隷に命令するような
感じと言えばいいかな? わかるかい?」
「それは分かりますけど、性行為における主従関係というのが
ちょっと僕には…経験が」
「君の言いたいことは分かる。だが申し訳ないがそれは君が
ビデオなどで調べてみてはどうだい。私が細かい指示を
出すより、これもバイトの内だと思ってな。出来るだろう?」
「努力します。時間はあるんですね?」
「ああ、今すぐという訳じゃない。今日は君の都合のいい
日を聞いて後日、相手と打ち合わせる。今日のところは
大まかな流れだけ説明するよ」
「お願いします」

 仕事の詳細は、その後も十数分続いた。
「…という訳だ。つまるところ失礼の無い程度に、それで
いて高圧的な態度で接すればいい。言葉遣いも同様にな」
「その言葉遣いこそが最大の課題です」
「頑張って勉強しときたまえ。ははは」
 大きく口を開けて笑うこの男が、ひとたび少女の皮を身に
つけると驚く程に豹変する。
 前回、始めて皮を被った姿を見たときの驚きは今でも、
忘れられない。
 ただの中年オヤジが、一瞬にして純真無垢な少女に変わる
のだ。信じられないことだが。
(自分では確認できなかったが、僕も外見を含め動きも、
ちゃんと女に成りきれていたのだろうか…?)
 あらためて不安が脳裏をよぎる。だが男の次の言葉で
それも打ち消された。

「とにかく君が最適なんだ。別にほかの男を雇ったわけでは
ないが私の目に狂いはないと思う。今回も頼むよ」
「分かりました」
 バイトについては願ってもないことだ。高額な報酬が得ら
れる上に、男性では得られない快感も味わえる。出来ること
なら、もっと回数を増やして貰いたいくらいだ。
「そうそう、報酬だが…ちょっと相手の頼みもあるんだが。
一応、聞いてもらおうか」
「…はい」
「基本的には二人に10万づつ払うという。ちょっと少ない
気もするが実は、これには続きがあってビデオに撮りたいと
言うんだが、どうかな? 50万づつ支払うそうだ」
「50万円!! でも録画…ですか。うーーん、それは
ちょっとなぁ」
「うむ、分かるよ。前回、君は顔が撮られネットなどで
公開されるのは困ると言っていたからね。だが顔自体は
君と別人なんだから問題無くはないか? 声も別人だ」

「でも顔が知られたら、もう仕事が来なくなるんじゃ
ないですか?」
 顔がネットなどで公開されてしまうと依頼が来なくなる
可能性は極めて高い。
 せっかく得た美味しいバイトを手放すのも嫌だった。

「そうだな。その時はまた別人の顔を作るか…」
「でも又、莫大なコストがかかるんでしょう?」
「それについては問題ない。もう前の分は何とかペイ
出来たし、私一人で仕事している事もあって金には不自由
していない。それに…」
 男は腕組をしてニヤニヤと笑みを浮かべながら、次の
セリフを吐いた。
「そろそろ今の顔にも飽きてきたんで、別の子に変身したい
と思っているところなんだよ」
「はぁ」
「今回の仕事を終えたらあの皮は君にあげようか? 今回の
特別ボーナスとして」
「本当ですか!?」
 三崎は思わず身を乗り出し、聞き返した。
「約束しよう。君が一度使用した皮は君にしか使えないし、
私が持っていても仕方がないんだ。君に進呈するよ。
君の言うようにビデオ撮りされたら、仕事は来ないだろう」
「あわわっ、ぜひやらせて下さい!」
「では、これで話しは終わりだ。日にちは極力、君の都合の
いい日に合わせるとしよう。まずは次の連絡を待ってくれ」
「了解しました」
 胸の中に熱く大きな喜びが膨れ上げるのが分かる。


 三崎は帰り道、レンタルビデオ屋に寄り『SM系』のDVDを
数枚、借りた。
(これだけ観れば大丈夫だろ…コツさえ掴めば、あとは
友紀さんに合わせるさ)
 DVDを手に家路を急ぐ。だが、先程から股間の昂まりが
収まらない。
 それは当然、DVDを観る楽しみではない。
(また女の子になれる。また、あの強烈な快感を得られ
るんだ。それに、もしかしたら今回は皮を貰えるかも。
そしたら服を買おう。あの皮に、いや、あの子に似合う
可愛い服を買うんだ)
 
 路上パフォーマンスで女装を始めた時から、三崎は
自分の性癖について考えるようになった。
(変態になったってことかな…?)
 女の服を着て演技をし、喋り方まで変えて、役とは
いえ一時的に男を捨てる。
 最初は恥ずかしさでいっぱいだったが、周りに
勧められて女の役ばかり演じた。
 それはやがて、快感へと変わったのだ。
 短いスカートを履き、可愛いブラウスを着る。傍から
は見えないだろうが胸を強調するためにブラジャーも
着ける。

(さすがにパンツだけは男物を履かないと、それこそ
見つかったら変態呼ばわりされてしまう)
 それでもブラの締めつけや、スカートの裾が太股に
纏わりつく感触は一度知ったら止められない。
 それは何とも表現しがたい感触なのだ。
(あー、一日中女の子の格好が出来たら最高なのに。
出来れば家の中じゃなく外に出て、思いっきり女の
子を満喫したい) 
 女装することが三崎の煩悩の全てではない。女に
化け女として時間を共有する、それこそが今の究極の
願望だ。
 皮を着れば男を受け入れることにも抵抗はない。
 あの感覚は言葉では、とても言い表せるものではない。
(男の自分が男のモノを受け入れるなんて、ゾッと
するけど、いざ女になってソレを見ると欲しくなる
んだよなー。不思議だけど…)
 ペニスに触れる、ペニスをしゃぶる、そして
最後には膣内に受け入れる。
(あー、考えただけで身震いする。あの入ってくる
感覚は男では、とても得られるものではない…) 
 自ら膣を開き、右手で男のモノを握り締めて
誘い入れる。
 膣内の無数のヒダが逆立つように、抵抗しながらも
愛液を溢れさせ奥へ奥へと導く。
 肛門を閉じるようにしてキュウキュウに締め上げる
と、女の身体は一気に頂上へと突き進む。
(ああ、今夜は眠れそうにないな)

 先程から勃起が一向に収まらない。歩くのが困難な
ほどに…。





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