『着込まれた彼女』
 作:nekome


 ちょっと近道をしよう。
 彼女と一緒の時に、それも既に日の落ちた時間に、そんなことを考えたのがいけなかった。
 ビルとビルの隙間、薄暗い路地裏を通っている時に、彼女と繋いでいた手が「きゃっ!?」という悲鳴とともにぐいっと引っ張られ――引き離された。
「な、何?! やだ、離して!」
「千紗!?」
 振り向くと彼女――千紗を後ろから羽交い絞めにしている男がいる。男、なのだろう。レンズに色のついた眼鏡とマスクをしているので顔はわからないが、体格から見ても男に間違いない。
 いや、そんなことはどうでもいい。もっと恐ろしいのは、男の袖口から、銀色に光るなにかが姿を覗かせていることだ。
 もしかして、刃物か何かを持っているのか?

「いや、た、助けて!」
「お、おいお前! 千紗を離せ!」
 内心震えながらも声を張り上げると、今まで黙っていた男の口から、くぐもった声が漏れた。
「……大声を出すなよ。まあそう焦るな。今から面白いモンを見せてやるからよぉ」
 ガタイから想像した通り、男の腕力は相当強いみたいだ。片腕で千紗を拘束したまま、袖口から銀色に光るなにかを引っ張り出した。ずるずると、やけに長細い……ん? あれは、え?
「見てのとおり、ファスナーだよ。ただし、ただのファスナーじゃないぜ。よく見ておけよ」
 言いながら、男はファスナーの片方の先端を千紗の後頭部へと近づけていく。



 なんだ、何をする気なんだ。
 ファスナーなんかで人を傷つけることはできないはず。だけど、なんだかやけに嫌な予感がする……!
「おいやめろ! 何をする気なんだ!?」
 無駄だと思いつつも声をかけるが、やはり男が手を止める様子はない。やがてファスナーの上端が千紗の頭へぴたり、と貼り付いた。
 その瞬間、千紗の全身がびくんと震える。
 これから起こる「何か」を見せつけたいのか、男はわざわざ体の向きを変えて、千紗の後頭部に、首筋に、背中にファスナーが貼り付いていくさまが俺から見えるようにする。
 そう、ファスナーが貼り付いていく。
 セミロングの髪の上だろうが制服の上に羽織ったカーディガンの上だろうが関係なく、ファスナーはぴったりと千紗に密着していくのだ。
「あ、あ……」
 そして、ファスナーが貼り付くのにしたがって、千紗の身体からは力が抜けていく。その表情は、自分の身に起こっていることがわからないという恐怖に震えている。多分俺だって、同じような顔をしているに違いない。
 やがて腰のあたりまで完全にファスナーが貼り付くと、千紗の全身から完全に力が抜けた。さっきまで男の腕を引き剥がそうとしていた両腕もだらりと垂れ下がっている。
 いや――それどころじゃない。

 男はもはや千紗を拘束なんかしていない。片手で千紗の頭を掴み、軽々と持ち上げているんだ。千紗の爪先は、完全に地面から浮いている。
 いくらこの男の腕力が強くても、こんな風に人間を持ち上げられるのか?
 しかも、そんな風に乱暴に扱われているのに、千紗の表情に苦痛を感じている様子はない。ただ、恐怖に引き攣っているだけだ。
 身体に力が入らなくても顔だけは動かせるのか、声を震わせながら千紗が呟く。その内容は、俺の思いと同じだ。
「な、何? なん、なの、これ……? どうなってるの……?」
「なぁにすぐわかるさ。おいお前、しっかり目に焼き付けるんだな」
 男は俺の方を顎で示すと、千紗の身体の向きをぐるりと変え、背中側をこちらに見せる。

 やつの手がファスナーの上端を掴み――一気に引き下ろした。

「ほぅらどうだよ! 人間着ぐるみが一着完成だ!」
 ファスナーが、千紗の背中が、「開いた」。
 男は両手をその隙間に差し込むと、ガバッと千紗を「開く」。
「何してるんだお前! やめろ!」
「や、やだ、何? 何やってるの?」
 思わず目を覆いそうになる、が、千紗の身から血が溢れだすことも、それ以上の悲鳴も、苦痛による悲鳴も響き渡ることはなかった。
「え? 何? なんなの? どうなってるの?」
 千紗の声に含まれているのは、純粋な疑問と困惑だけ。千紗は……苦痛を感じていない?
 だってあんな、あんな……背中が……大きく広げられているのに?
「ははっ、言ったろ? 『人間着ぐるみ』だって。死にゃあしないし、この娘には今、触覚はあるけど痛覚はないんだよ。まあ俺にもこの道具の原理はよくわかんねえんだけどな、いちいち痛がられてたら面倒ってことじゃねえの?」
 ファスナーによって開けられ、男の手が広げる千紗の身体の「中」には何も、筋肉も、骨も、内臓も、血も……本当に何も見えなかった。
 周囲の暗闇よりも黒々とした空間、そうとしか言いようのないものだけが、千紗の身体の隙間から覗いていた。

 俺が唖然としている間にも、男は言葉を続けた。
「何が起こってるかわからねえだろうが、異常なことになってるのはわかるだろ? そしてこの異常な現象をコントロールしているのは俺――つまり、この娘の生殺与奪の権利を握ってるのは俺ってわけだ。妙な真似はすんなよ?」
 言われてはっとする。そうだ! 呑まれてる場合じゃなかった! こんなことなら、最初から無茶をしてでも千紗を奪い返していれば……。
 いや……無理か。
 相手の体格は明らかに自分よりも大きい。ただでさえ腕っぷしには自信がないのに、そう簡単にどうにかできそうな相手には見えない。あんな風に脅されなくても、俺にできることなんてないじゃないか。
 それに、今言われた通りだ。これから運良く千紗を奪い返せたとしても、その後どうすればいいんだ? 千紗は元に戻せるのか? あの不可思議なファスナーは外せるのか?
 まったくわからない。そして多分、ヤツはちゃんとわかっているんだ、
くそ。

 俺が思案している間に、男は片手で千紗を持ち上げたまま、もう片方の手でごそごそとズボンを下ろし始めた。ズボンを下ろし……え?
「お、おいお前! 何してんだ?!」
 思わず怒鳴りつけるも男は意に介さず、ズボンどころか靴に靴下、パンツまで脱いでしまった。
「ああ、別に俺がこいつを犯すわけじゃねえからよ。いいからちょっと待ってな」
 ニヤリ、と顔も見えないのに男が笑った気がした。上機嫌そうなのに、妙に高揚した……嫌な感じの声だ。
 だらりと力の抜けた千紗を前に、俺の正面に掲げると一旦地面まで下ろす。黒ストッキングに包まれた両脚がくにゃりと曲がったが、千紗の顔に苦痛の色はない。あるのはただ信じられないものを見ているという恐怖だ。その背中の「隙間」をさらに広げた男は、裸の右脚を中へと突っ込んだ。
 ヤツの脚によって内側から振られているかのように、くにゃくにゃな千紗の右脚がぶんぶんと揺れる。揺れながら、徐々にしっかりと、芯が入ったような状態になっていく。まるで、ズボンを穿く時みたいな……。
 
 穿く時、みたいな?

「……え、嘘……。なに? これ……着ぐるみって、まさか……」
 千紗が辿り着いた答えも、俺と同じだったらしい。あまりにも異様な事態、信じたくない現実に俺たちが目を疑っている間に、千紗の右脚が地面を踏みしめ、次いで男は左脚を通して、千紗の脚を「穿いていく」。
 男の脚は、考えるまでもなく千紗より太い。実際、男の足先が入っていく時には、千紗の脚は内側から押されるかのように膨らむ。けど、ヤツの脚が完全に千紗の中に収まってしまうと、それまで不格好に膨らんでいた千紗の脚がみるみる縮まり、元のすらりとした脚に戻っていく。
 そして、千紗が両脚で立った。
 立っている、なのに上半身はだらりと弛緩したままで、男の両腕に支えられている。千紗の腰から上には男の上半身も生えていて、男の下半身は……見えない。
 信じられない。信じられないけど、これは。
「ほらもう半分着ちまったぜえ。う〜ん、なかなか良い履き心地だな。美脚美脚。こんな娘が彼女なんて、おじさん羨ましいね」
 男の言葉とともに、千紗の脚が動き具合を確かめるみたいに、くいっくいっと左右交互に持ち上げられる。
「ちょっ、や、やだっ! なんで脚っ、勝手に動いてっ……?!」
「そらそら次は右手を入れるぜ〜」
 上衣も脱ぎ捨て上半身も裸になった男が、その太い腕を千紗の背中から潜り込ませていく。
 服の上からでも、千紗の腕が内側から、五指の形に押し広げられているのがわかる。その歪な膨らみは肘を越え、徐々に手首の方へと進んでゆき……ついに指先へと到達した。
「い、いやあ……」
 男の指先が千紗の指先まで「収まった」直後、脚の時と同じように、膨らんでいた腕がすうっと引き締まり、千紗本来のほっそりとした腕に戻る。右腕に続いて左腕でも同じことが繰り返され、どういう原理なのか、四肢のみならず男の肩まで――つまり上半身までもが、千紗の小さな身体にすっぽりと収まってしまった。
 いまや、俺の目の前に立っているのは怯えた顔の千紗自身で、その首の後ろから男の頭だけが生え、首を傾げて前を覗きこんでいる状態だ。
「うんうん、やっぱ女の子の手はいいねえ。すべすべだよ」
 わきわきと動いていた千紗の両手が、そのほっそりとした指を絡め、感触を確かめるように自分自身の手を撫で回す。
「や、やだ……腕まで……。か、勝手に動かさないで――あんっ!?」
 急に両手が胸の膨らみを鷲掴みにし、千紗から高い声が漏れる。
 千紗の顔は明らかに嫌がっているのに、その両手はなんの躊躇も遠慮もなくふにふにと胸を揉み、持ち上げ、その柔らかさを堪能するかのように弄ぶ。
「いいおっぱいだねえ、この触り心地、たまらないよ」
「いやっ! やめっ、やめてくださいっ!」
「千紗っ! くそっ、やめろっ!」
「はっ? 一体俺は何をやめればいいんだい? 君が自分の手で、自分のおっぱいを揉んでいるだけじゃないか。彼氏も観てるってのに、いやらしい娘だねえ」
「そ、そんな……こんなこと、好きでやってるわけっ……んっ!」
 千紗が、俺の彼女が目の前で身体を好き勝手に操られているというのに、出来ることは何もないのか……!

「はははっ、今のは一度言ってみたかっただけさ。……なあおい、チサちゃんを着た俺が、こうやって身体を自由に動かせるとして……もし頭まで着込んだら、どうなると思う?」
「なっ……!?」
「ひ、い、いやっ……やめてっ! やめてぇっ!!」
 男が千紗の後ろに頭を引っ込める、そして千紗の手が男の顔から眼鏡とマスクを外し、地面に捨てた。これで男は素顔を晒しているのだろうけど、千紗の影になって、その顔を見ることはできない。
 千紗の両手が彼女の頭を掴む。その表情は恐怖に引き攣っている。
「お、おい、やめろ……やめてくれ……」
「いや、いや、離してっ、お願い、やだ、入らないで、いやっ、いやあっ! あ……ああ……」
 眼をいっぱいに見開き、唇をわななかせていた千紗の顔から、ふっと力が抜けた。
 瞼を閉じ、無表情で立ち尽くす。
「ち、千紗……?」
 数秒の後、頷く仕草を見せた千紗は右手を腰の後ろあたりに回し、背中の中ほどまで引き上げた。続いて左手を首の後ろに回し、頭頂部まで引き上げる。

 まるで、ファスナーを閉めるかのように。

 千紗は俺を見つめると、にっこりと笑いかけた。
「それじゃ、行こっか! ヨウ君!」
「ち、千紗……?」
 「ヨウ君」というのは、いつもの千紗の呼び方だ。
「千紗……? なのか……? な、なあおい、なんともないのか? あの男は……」
「どうしたのヨウ君、わたしはわたしに決まってるじゃない。ほらっ!」
 言いながら、笑顔で俺の腕に抱きついてくる千紗。服越しにでも彼女の柔らかさと体温が伝わってくる。さらりと流れるセミロングの黒髪の中にも、背中にも、金属のファスナーは見当たらない。
「いや、だって、さっき千紗の中に男が入って、千紗のことを『着ぐるみにする』って言って、それで……」
 あれが幻覚なわけがない。いくら現実離れしているったって、あの戦慄が、恐怖が、ただの白昼夢であるはずがない。
 じゃあ、この千紗の振る舞いは……?
「もう、まだ確信できないの? まあそんなヨウ君も可愛いし面白いけど……ねえ、わたしってこんなことする娘だった?」
「なっ、お、おい千紗っ!?」
 あの千紗が、ズボンの上から俺の股間をまさぐっている。腕にも抱きつくだけでなく、ぐいぐいと胸の膨らみを押し付けてくる。
 吐息の温度を感じるほど耳に唇を寄せ、その愛らしい声で囁いた。
「ちょっと演技したぐらいで戸惑うなよ。ファスナーは俺の意志で消せるんだけどよ、あんだけ強烈なもん見せられといて迷うか? フツーさあ」
「お前っ、やっぱりさっきのっ!」
 視線を合わせた千紗は、今まで彼女が絶対に見せたことのない、禍々しい笑みを浮かべていた。
「『頭まで着込んだらどうなるか』、正解は……頭ん中まで自由に使えるようになる、に決まってんじゃねーか。だから……ごめんねヨウ君、今のわたしは、指の一本から大切な思い出まで、ぜーんぶ見ず知らずのおじさんのモノなの。ヨウ君との初体験のことも知られちゃった♪ わたしが凄く痛がったから、あれ以外セックスしてないってこともねっ」
 笑顔のまま、信じられないことを口走る千紗。けど、言っていることは確かに本当だ……。くそ、あの野郎、そんなことまでっ。
「まあまあそう睨むなよ。おとなしく言うことをきいてくれれば、お前にとっても悪いようにはしないぜ?」
 パッと俺から離れた千紗は、近くの物陰へ走っていくとバッグを手に戻ってきた。最初から隠してあったであろうその中に、さっきアイツが脱ぎ捨てた服をしまっていく。
「いやでも処女じゃなくて良かったぜ。処女なんて痛いだけでイイことないからな。清純そうな顔してるからそこだけが不安だったんだよな」
「……何が狙いなんだよ、お前」
「今話したことからわからねえかなあ。つまりさ――」
 アイツのバッグと、元々自分が持っていたバッグ、両方を身体の前に抱え、可愛らしく小首をかしげながら「千紗」は言った。
「これからホテル行ってエッチしよ、ヨウ君♪」



 数十分後、俺たちはラブホテルの一室にいた。
 アイツの要求を断ることはできなかった。
 いや、実際には遠まわしに拒絶しようとしたんだけれど……あんなことを言われたら無理だ。
「ふぅん……嫌だって言うんなら……んしょ。ほら、わたし――ていうか「オレ」だけど、ナイフも持ってきてたんだよねー。コレでわたしの顔ざっくり切っちゃったら大変だよねえ。ん? ああ、五感は自在に遮断できるんだよ。しかもどんだけメッタ刺しにしたところで、中のオレには傷ひとつ付かないんだ。考えてみろよ、そもそも体のサイズから違うのにすっぽり着込めてるんだぜ? それにマ○コもあんのに、中のオレまで穴が空いたら大変だろっての。ぷふっ」
 千紗の身体が人質に取られてるようなもんだし、常識も通用しないってことだ。くそ、冗談のつもりなんだか知らないけど、千紗の口で下品なことまで言って得意気になりやがって。

 「お前から脱げ」というアイツの命令にも、勿論従うしかなかった。
 全裸になった俺を眺めながら、千紗がせせら笑うように言う。
「あはっ、貧相な身体よねえ。けど記憶のとおり、チ○ポだけは悪くないかな。じゃ、オレは一方的にヤられる趣味はないから……お前下になれよ」
 容赦なく突き飛ばされ、ベッドの上へ仰向けに倒れる。
 ニヤニヤと俺を見下ろす千紗が脚を上げ、俺の股間を軽く踏みつけた。
「ぐっ……うぅっ?」
「へへ、どうだよ愛しの彼女に足蹴にされる気分は。ホンモノの千紗ちゃんはこんなことしてくれないだろ?」
「して……ほしいなんて……思って……ねぇよっ」
「へぇ? そのわりにはすぐに大きくなってきたじゃねえか」
 だって、仕方ないじゃないか。態度は威圧的なくせに、こいつ、足の力加減が絶妙なんだ。柔らかな足裏でサオをぐりぐりと踏まれ、足指で挟み込むようにカリの部分を擦られると、思わず変な声を上げそうになる。ストッキングのすべすべした感触も、正直、気持ち良い。
 それに、いつも控えめな千紗が、こんな風にいやらしいことをしてくると思うと……。
 いや! 何を考えているんだ!
 千紗は男なんかに身体を使われて、変態みたいなことをさせられてるんだぞ! それなのに俺は……!
「ねえヨウ君、気持ちイイの? どんどん固くなってるよ? わたしの足でチ○ポ踏まれるのがそんなにイイの? ……へえ、ヨウ君って、こんな風に虐められるのが好きな変態だったんだあ」
「ち、違う……。そんなんじゃ……ぅくっ」
「ふふっ、格好つけなくったって良いんだよ。わたし、ヨウ君が変態でも構わないよ。喜んでつきあってあげちゃう。ほらほら、興奮してるんでしょ? 足で弄ってるだけなのに、もう先っちょからお汁が漏れてきたよ?」
 くうぅっ、やめてくれっ……! 千紗の顔と声で愉しそうに喋りながら……うあっ、我慢汁を引き延ばして、そんな、足指で亀頭全体を擦られたりしたら……!
「イイ顔してるよおヨウ君。おかげでわたしも興奮してきちゃった。……んっ」
 プリーツスカートを捲りあげた千紗が、下着の中に手を差し込む。パンストとパンツの下で、千紗の手が蠢いているのがわかる。
「んっ……ふぁ……あんっ。んふっ、もう濡れてる……んんっ……はぁっ」
 千紗の声にもだんだん艶が混じり、頬が赤くなっていく。
 今まで見たことのない彼女の痴態に、悪いとは思いつつも目が離せず、股間に血液が集まってしまう。
「んあぅっ! ここ……凄い……あっ、やっ、あンっ! ああっ、んん〜っっ!」
 ぎゅっと目を閉じ、ぴくぴくと震える千紗。その震えが、足裏を通しても伝わってくる。思わずこみ上げてくる欲求を、必死に堪えた。

「……はぁぅ……軽くイっちまったぜ。そっちはなんとか我慢したみたいだなあ。偉いぜ〜。ご褒美に……わたしの膣内に生で出させてあげるね、ヨウ君♪」
「な、生でっ?! 待ってくれよ、もしものことがあったら……!」
「構わないよぉ。もしわたしが孕んじゃったとしても……オレにはなんの不都合もないから、なあ?」
「た、頼むから、せめてゴムを……」
「イ・ヤ。だって、生の方が気持ちイイじゃない。わたしも、ヨウ君もね♪」
 千紗は笑顔を浮かべているが、その瞳の奥には剣呑な光が見える。さっき見たナイフが脳裏にちらつき、抵抗したくともできない。俺にできるのは懇願だけだが、当然のごとく、アイツは耳を貸そうとしない。
 身に纏った黒ストッキングをその手でビリビリと破き、千紗が白い下着を、素肌を晒す。
「ふふっ、なんだかこういうのってAVみたいだよね。それじゃあ、ヨウ君のチ○ポ、いただいちゃう……ねっ」
 俺の股間の上に跨った千紗がパンツをずらして秘部を晒し、ゆっくりと腰を下ろしていく。
 彼女を止めないといけない。けれど、止めることができない。
 今の千紗の肉体はもしかすると普段どおり、俺でも組み敷けるほどに非力なままなのかもしれない。けれども、その後のことを、アイツの機嫌を損ねた時のことを考えると、怖くて動くことすらできない。
「んっ……ああっ……入ってくる、よ……。ヨウ君のぶっといチ○ポ……わたしのナカ、内側から拡げて……ふぁっ。……でも、ほら、どんどん呑み込まれてく、よっ。わたしのカラダも準備できてたから……ふふっ、ヨウ君ったら、前戯下手なんだもんね。あれじゃあ初めてじゃなくっても痛いんだよ?」
 苦い思い出を指摘され、かあっと血が昇る。恥ずかしい一方で、熱いぬめりに覆われたチ○コからは快感が伝わってきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「う、うるさいっ。よりによって、千紗の口で言わないでくれよっ」
「ごめんごめん。あの時は童貞だったんだもん、仕方ないよね。それに、わたしは安全日だって言ったんだけど、ヨウ君はちゃんとゴムも使ってくれたから、凄くホッとしたんだよ」
 そんなことを今言われても嬉しいわけがない。千紗本人ならともかく……ちくしょう、思い出まで弄ぶのか、コイツは。
「ははっ、そんな顔するなって。あの時は千紗ちゃんと違ってお前はそれなりにイイ思いができたみたいだけど……今から改めて、わたしのオマ○コの……女のカラダの本当の良さを、教えてあげるから♪ ほら、根元までっ……ぅんっ!」
「うっ、くっ……!」
 チ○コの全体が、熱くて柔らかい肉にみっちりと絡みつかれている。ゴム越しの感覚とは全然違う。このままじっとしていても射精してしまいそうだ。
 そんな状態で、千紗はすぐに腰を振り始めた。
「あっ、あンっ、ああっ、イイよおっ。ヨウ君のが、わたしのナカ擦ってる。エラが引っ掻いてくるのっ!」
 俺のモノに密着した肉襞が、ぐにゅりぐにゅりと蠢き、強烈な刺激を与えてくる。
 その腰使いは巧みで、あんな初体験を経験したっきりの千紗の肉体とはとても思えない。
 締め付け、捻り、カリ首が抜けそうなぐらいまで上げたと思ったら、一気に腰を落として奥まで咥え込む。
「ぐっ……うぅっ……うはぁっ!」
「あンっ……そんな苦しそうな顔しなくても、ぅうんっ、素直に楽しめばいいじゃない。ほらほら、出しちゃいなよっ。わたしの子宮にっ、せーしいっぱい出しちゃいなよっ」
「く、そ……勝手な……ことっ」

 本当は男のくせに、こんな腰使いしやがって……。だいたい、コイツの身体は今、どうなってるんだ? 俺は千紗の膣内に挿入れてるのに、千紗の中にはあの男が入ってるわけで……。コイツは一体、どこで俺のモノを受け入れているっていうんだ?
 ……考えても仕方ない、か。コイツ自身が言ってたように、あのゴツイ身体が千紗の中に収まってる時点で異常なんだ。
 それに、異常なのは――
「お前っ、ホントに変態だよなっ……こんな……女の子の身体使って、男とセックスしたがるとかさあっ……! 気持ち、悪いんだよっ……!」
「そうだよ、オレは変態さ。もうずっと前からな。お前は知らないだろうけど、女のカラダってのは凄えんだぜ。男の何倍も気持ちイイんだ。本気でイった時なんかよ、ふわっと浮き上がって、頭ん中真っ白になるんだ。一度知ったらやみつきだぜ……。変態? いいさ、オレは気持ちイイんだからなっ」
 詰ったところで、まったく動じる様子はなかった。それどころか、俺の言葉を聞いて、千紗の唇が吊り上った。
「で、その変態とセックスしてるお前はどうなんだ? 今男とヤってんだぜお前? それも、大切な彼女の肉体を操るような最低野郎に、ガチガチにしたチ○ポぶち込んでんだぜ? さっきから射精しそうなんだろ? あ〜あ、こんな変態が彼氏なんて、千紗ちゃんも可哀想になあ」
「なっ……?! く、くそっ、だってそれは、お前がっ……!」
「お前が……んんっ……なに? こんなにいやらしい腰使いだからいけない? 千紗本人とするより気持ちイイから困っちゃう? あんっ。わたしを淫乱に変えてくれたから興奮しちゃう?」
 や、やばい。動きが一層激しくなりやがった。ただでさえ気持ち良いのに、こんなに責め立てられたら……!
 し、仕方ないじゃないか。見た目も声も千紗そのものなんだし、これは千紗の身体なんだし、俺は千紗のナカに挿入れてるわけで、イクのを我慢することなんて、できるわけないじゃないか。
「んあァっ、はァっ、あっ、あぁンっ、そこっ、イイよぉっ、もっと突いてっ、ぐちゃぐちゃにしてっ、オマ○コも、頭の中もっ! ヨウ君のチ○ポでいっぱいにしてぇっ! あのいやらしい男と一緒に、わたしのカラダを汚してぇっ! 子宮の中、精液でいっぱいにしてぇっ!」
 脳内に千紗の甘い嬌声が響き渡り、何も考えられなくなっていく。千紗の中に男が入ってるとか、千紗の意志を無視してセックスしてるとか、そんなことを考える余裕はなくなっていく。
 ただただ、吐き出したい。
 このカラダに、欲望をぶちまけたい……!
「ううっ、も、もうっ、出るっ……! 出すよっ、千紗っ! ううっ、くふうぅっ!」
「いいよっ、全部っ、搾り取ってあげるからっ! ああっ、わ、わたしもイっちゃうっ! ヨウ君に膣出しされながらイっちゃうっ、ぅあっ、ふあああっ!!」



 余韻から先に抜け出したのは「千紗」――アイツの方だった。
 罪悪感から動く気力もない俺を尻目に身支度を整え、部屋を出て行こうとする。
「お、おい……どこに行くつもりなんだ?」
 不安に思って尋ねると、なんでもなさそうな顔で千紗が振り返る。その表情から、特に何かを企んでいる様子は読み取れない。
「充分愉しめたからな。この娘の身体を解放してやるだけさ。なに、心配するなよ。顔を見られたくないから、ここでは脱がないってだけだ。妙なことはしないさ。ただし、もし後をつけてきたりしたら……」
「わ、わかってるよ。とにかく早く、千紗の中から出て行ってくれ。千紗は……大丈夫なんだな?」
「ああ、着ぐるみはおしまいだ。ちゃんと普通の人間に戻してやるよ。ただ――」


 ここで再び、千紗の顔がニヤリと歪んだ。


「さっきまでの全部、千紗ちゃんにも見えてたし、感じてたからな。変な趣味に目覚めないといいな。なあ?」





★あとがき★
 このお話は、どうせ妄想に決まっています。
 実際の人物・事件・プレイ感想とは、一切関係あるはずがございません。

 初めての皮モノです。ただし自分が書くものなので、展開はいつもの憑依モノと大差なかったりします。
 それでも一度、「人間を着込む」シーンを書いてみたかったんですよねー。
 自分にとって、この手の皮モノTSの初体験は『ピグマリオ』21巻。
 キメラ三姉弟の一人、ネイアスが女兵士の背中を切り裂いて潜り込むシーンですねー。
 「少しの間…お前の体を借りるぞ」とか言っちゃって、大変興奮させられたのを覚えております。借りるとか言っておきながら、この女兵士は(妖魔だけど)死んじゃったと思うんですけどね。
 
 それはともかく、果たして「着込む」シーンを文章でどれだけ伝えられているのかは心配なところです。
 あと、途中でかなり日を空けて書いてるので、細かい矛盾記述とかがあったら見逃していただけると助かります(^^;




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